#144:梨沙と香音との出会い
もしかしたら後編も書く可能性があります。
一応優君と美姫ちゃん天音ちゃんとの出会いも機会があれば書く予定です。
「おっ兄っさんとデェーット」
「随分上機嫌だな……梨沙」
「はい。勿論です!だってお兄さんとデートできるんですよ!?」
梨沙は俺に顔を近づけて力説するようにそう言った。ま、まぁ喜んでくれているのならいいのかな?
「……それで今日はどこに行くつもりなんだ?」
デートプランはいくつか考えてはいたんだけど、彼女に任せてほしいと言われたので、今回は決めていない。そして、今は梨沙が手配した車に乗っていた。
「ふふん。それは勿論私の家……は遠いので、別荘です」
「別荘?そういや近くにあるんだっけか?」
「そうですね。私がこっちに来るときは、お兄さんや美姫お姉さんの家にお泊りさせていただいているので余り顔は出してはいないんですけどね。でも折角ならお兄さんにも来てほしくて」
「なるほどなぁ」
「後は使用人に彼氏と説明するのも大事かと」
「いや、ちょっと待て」
俺が梨沙の発言に対して言うと、彼女はどうかしたのかと俺のことを見て首を傾げた。
「俺たちまだ付き合ってないよな?」
「はい、それはそうですけど」
「早くない?」
「デートしている時点で今更だと思いますよ。それに使用人もお兄さんのこと私の彼氏だと思っている人の方が多いですから」
梨沙はそう言うと、ニッコリと笑って見せた。どうやら既に根回しされていたらしい。まぁ、梨沙らしいと言えば梨沙らしいんだけど。
梨沙の家に到着して、彼女は俺の手を取ると案内をしてくれた。歩いている途中でメイドさんや執事さんが俺たちのことを見かけては、あいさつした後微笑ましい視線を送ってくる。おそらく本当に恋人同士だと思っている。俺も別に梨沙の事が嫌いなわけではないし、むしろ好きだとは思う。愛しているかどうかまでは分からないにしても、大事な人であることに変わりはない。
梨沙に案内されてから五分程経った。彼女がある部屋の扉の前で止まって、俺の方を見てきた。
「ここが私の部屋です。遠慮なく入ってください」
「し、失礼します」
そして梨沙に手を引かれたまま、俺は部屋へと入った。中は女の子らしいというか、可愛らしいものがあった。
「これは?」
「あ、それは私とお兄さんが初めてあった時の写真ですよ」
「へぇ、そういやこんなのあったなぁ」
俺はその写真を見てそう言った。
「……もう、本当に覚えてますか?」
「覚えてるよ」
「私もばっちり覚えています。だってお兄さんに初めて会って好きになった日ですから」
確かこれは五歳の時だっただろうか。この時、実は俺もパーティの参加は初めてだった。美姫に確か初めてパーティに参加するように言われたんだっけ。そして俺はまぁ当然のごとく迷子になった。パーティが退屈で、気づけば美姫と一緒に抜け出して、しまいには迷子になってしまった。
「ここ……どこ何だろう」
最初は庭で夢中になって遊んでいたんだけど、気づけば美姫とも」はぐれてしまい、この広い庭で迷子になってしまっていた。そして、どうやって屋敷に戻るか考えていたところ、鳴き声が聞こえてきた。
「ぐすっぐすっ……」
「大丈夫だよ、香音ちゃん。私が絶対にお屋敷まで戻る方法を探すからね」
鳴き声の方に向かうと、そこには泣いている少女とその彼女は励ましている少女がいた。しかしながら励ましている少女の方も、何処か悲しそうな声に聞こえた。
「こんなところで何してるんだよ?」
「ひっ……」
「大丈夫だよ、香音ちゃん。貴方は確か、美姫お姉ちゃんと一緒にいた人だったっけ?」
「うん。泣き声がしたから、こっちの方に来たんだけど、迷子になってたんだね」
「……これで帰れるの?」
先ほどまで励ましていた少女がそう言った。勿論俺も迷子になっていた。しかし、俺は見栄を張った。
「うん、大丈夫。方角は分かってるから屋敷に着けるはずだよ」
「本当に!?」
少女は嬉しそうな表情を浮かべた。先ほどまで泣いていた少女も気づけば泣き止んでいた。




