#143:罰ゲームと勇気
「で、皆には何をしてもらう予定だったの?」
「実は特に何も考えていなかったんですよね」
美姫が困った表情を浮かべていた。
「そもそもの目的が、皆に慣れてもらうってことでしたから」
「あれ?それって私と梨沙ちゃんは着る必要ないんじゃないですか!?」
美姫の言葉を聞いて、香音が言った。確かに香音と梨沙は、メイドの立場になることは基本的にないだろうからな。
「そんなことないと思うよ、香音ちゃん」
「梨沙ちゃん?」
「だって、正妻は美姫お姉さん。私はメイド服を着てお兄さんをもてなすのも、また未来の仕事の一つだよ?」
「えぇ。梨沙ちゃんは関係なかったみたい。……とにかく、私が着る必要はないから着替えてきます」
そう言うと香音は俺の部屋から出て行ってしまった。
「梨沙も別に、将来的に着るかどうかも分からないんだし……」
「絶対に着ます。普段は西条家をまとめながら、暇があればお兄さんの元でメイドをする予定です」
「お、おう。そうか」
まぁ、やっぱり梨沙ならそう言うか。というか俺と付き合う、付き合わない関係なく家に通うつもりなんだろうなぁ。うーん、これほどまでの好意を向けられているのに俺は彼女に対して何もしてあげられていないな。
「優君。どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
考え事をしていた俺に、天音が言った。
「あ、そうだ。優君肩凝ってないかな?」
「肩……どうだろ?というか姉さんの方が普段大変そうだから、肩凝ってるんじゃないのか?」
「どうだろう。まぁ、私のことはいいんだよ。今日は優君に頑張って奉仕するからね」
姉さんはそう言うと、俺の背中へと移動した。
「じゃあ、力入れるよ?」
「ああ」
俺がそう言うと、姉さんは俺の肩をもみ始めた。おー……凄い気持ちいいな。
「それじゃあ天音ちゃんは私の肩をもんでいただけませんか?」
「うん、分かった」
美姫の要望に応えるようにして、天音は美姫の肩をもみ始めた。
「それじゃあ私はどうしたらいいですか、お兄さん?」
「え?あー」
梨沙は俺にどうすれば良いかと聞いてきた。うーん、困ったなぁ。特に何かを考えてなかったな。俺が困っていると、梨沙が何かをひらめいた表情を浮かべた。そして、笑顔で俺に真っすぐ近づくとそのまま抱きついてきた。
「り、梨沙?」
「特にできることが思いつかなかったので、お兄さんはこうしたら癒されるかなって思ったんですけど……駄目でしたか?」
「い、いや駄目じゃないけど」
「じゃあしばらくこのままぎゅっとしてますね?」
梨沙はそう言うと、俺に頭を預けてきた。
「やっぱりメイド服は恥ずかしいよ」
「それまだ着てる私たちの前で言っちゃうの……」
香音は戻ってきて、千春を見て言った。千春はそんな彼女に対して呆れながら言った。
「いや、千春ちゃんは恥ずかしくないの?」
「うーん……お兄ちゃんに見せる分には構わないかな」
「むしろ兄弟に見せる方が恥ずかしいような気もするんだけどなぁ」
これに関してはどちらの言い分も何となく分かるような気がする。兄弟に見せるのが恥ずかしいというのはよく分かる。ただ、それは普通の兄弟の場合だからだとも思う。千春は恐らく俺が恋人であるから構わないということなんだろう。とはいえ、天音の様子からわかるように、普通はメイド服を恋人の前で着るというのは中々に恥ずかしいんだと思う。
皆ある程度勇気を出して、こうしてメイド服を見せてくれているんだろう。俺も見習って勇気を出して一歩を踏み出してみるとするか。
「梨沙、明日空いてるかな?」
「明日ですか?勿論空いてますけど」
「じゃあ二人でデートに行かない?」
俺は梨沙にそんな提案をした。




