#134:美姫の両親
パーティ開始までおよそ二時間。俺たちは着替えをすました後、美姫の家へと訪れていた。
「やあ、いらっしゃい」
「こんにちは優也君、天音ちゃん。お久しぶりですね」
広い庭を抜けて家の中へと入ると、いつも通りたくさんの執事さんやメイドさんが出迎えてくれた。そして、真正面には美姫の両親が立っていた。
「あ、ご無沙汰しております」
「こんにちはー!」
「話は聞いている。これからも娘のことをよろしく頼むよ?」
美姫の父親は開口一番にそう言った。何のことかは勿論わかっている。俺が美姫や天音たち複数と付き合っていることだろう。
「あら、貴方。理解している父親を装っていますけど、聞いた当初はムッとしていらっしゃったではありませんか?」
「当然だろう?大事な娘が何人もの女の子と付き合っている、男と付き合うんだから。ま、相手が優也君なら構うまい。僕は君のことをよく知っている。特にその優しい性格と、娘たちを想う気持ちの深さとかだね」
「あ、ありがとうございます」
美姫のお父さんにそう言われて、少し恥ずかしくなってきた。今の関係を彼女の両親が認めてくれるのは信頼してくれているからだろう。
「私としても、小さい頃から息子同然に思ってきた子が、たくましく成長して、たくさんの女の子に好かれていることは誇らしいことです」
「お母様?色目を使わないでいただけますか?」
「ふふふ。一先ずこの話はおいておきましょうか。お久しぶりですね、梨沙ちゃん、香音ちゃん」
美姫のお母さんはそう言うと、香音と梨沙の方へと視線を向けた。
「お、お久しぶりです」
「お久しぶりです」
やや緊張した様子で言葉を返す香音に対して、梨沙は動じることなく言葉を返した。
「二人のご両親はもう少しで到着できますか?」
「はい。父はまもなく来ると思います」
「私も同じくです」
「そう。久しぶりに会えるのは楽しみですね、貴方?」
「ああ、そうだね。パーティ中は中々会話を楽しめないだろうから、その前後はとても楽しみにしている」
「旦那様。東条様と西条様がご到着なされます」
「うん、分かった。ありがとうセバス。ドアを開けておいてくれ」
「かしこまりました」
セバスさんはそう言うと、家の扉を近くにいた二人の執事さんに開けさせた。
「うぉーひっさしぶりだなーこの家も」
「みっともないですよ?」
「相変わらずですね。とはいえパーティを始めるまでは構わないでしょう」
「お久しぶりですわ、皆さま」
順番に最初に発言した、活発そうな見た目をしていて口調もどこか荒っぽさが混じる男性が香音のお父さん。それを注意する清楚な女性が香音のお母さん。香音のお父さんに呆れる様子を見せていたのが梨沙のお父さん。最後に、いかにもお嬢様な話し方をしているのが梨沙のお母さんだ。
「お?久しぶりだなー」
「相変わらずその熱血さは変わっていないんだね……」
「おうよ?俺から熱血さを抜いたら何が残るってんだ。ワッハッハー」
香音のお父さんは美姫のお父さんと楽しそうに話していた。しかし香音は恥ずかしそうにしていた。
「お父さん。少しは落ち着いて」
「おう。そうだな。お、天音ちゃんじゃねえか?久しぶりだなぁ」
「あ、香音ちゃんのお父さん。こんばんわ」
天音は恐る恐ると言った感じで挨拶をする。
「おう。香音から聞いてるかもしれないけど、お母さんと一緒に家に来たくなったらいつでも言ってくれ。君たちは家族なんだからな」
「あ、ありがとうございます。でも、今は……」
「気にするな。事情は大体察している。強制ではないし、自由に生きてくれたほうが俺としてもうれしいからな」
香音のお父さんも良い人なんだよなぁ。そんなことを思っていると梨沙のお父さんが俺の前に立った。
「久しぶりだね、優也君」
「お久しぶりです。……どうかしましたか?」
「一つ私から頼みごとをしたくてね」
「頼み事ですか?」
一体何だろう。そう思っていると、梨沙のお父さんから出た言葉は衝撃的なものだった。
「今の君たちの現状を知っているうえで言わせてもらいます。梨沙を彼女として迎えてくれないでしょうか?」




