#121:渡会の決意
瑠璃ちゃんの決意の話になっています。
次回かその次辺りに新キャラを出せればと考えてます。
答案返却日の翌日、俺と渡会は駅前に集合する予定が立てられた。理由はもちろん、渡会が同率ではあったものの、学年一位を取ることができたからだ。
待ち合わせの時間より少しだけ早く着いてしまったので、しばらく待っていると俺の方に近づいてくる人影があった。
「あら、待たせてしまったかしら?」
「いや、俺は五分前に来ただけだから大して待ってないよ」
「そこは……今着たところだよって言ってみてほしかったのだけれど?」
「ただの買い物だから別によくないか?」
俺がそう言うと、何故か渡会は拗ねたような表情を浮かべた。
「別に恋人って関係でもないだろ?」
「映画館でカップルジュースを一緒に飲んだ仲……だけれどね」
「あ、あれは……茜が」
「ふふふ、分かってるわよ……バカ」
渡会は冗談っぽく笑ってそう言った。小声で最後何かを言ったような気もしたけど、気のせいかな?
「さてと、それじゃあ行くわよ」
渡会はそう言うと、俺の手を取ってきた?
「え?」
「手を離すと貴方が逃げちゃうかもしれないじゃない。だから、今日はずっと手を繋いでおくわ」
「いや、それだとそんなに荷物持てないけど」
「持ちきれない量になったら、美姫さんが手配してくれた人たちに運んでもらうわ。……最もそんなに買い物をするかどうかと言われれば疑問だけれど」
渡会はため息を吐くと、そう言った。何処か不満そうな表情をしているような気がするけど、何か気に障ったのだろうか。荷物持ちではあるが、彼女が満点を取ったこともあって、今日はそのご褒美として全力で楽しんでほしいから、今日は出来ることは全部やるつもりだ。
「さてと、まず最初に行くのはここよ」
「ここは……猫カフェ?」
「ええ。動物を飼おうとは思わないのだけれど、一度こういった場所にも来てみたいと思ったのよ」
渡会はそう言うと、俺の手を引くようにして猫カフェへと足を運んだ。
中に入ると、店員さんに席に案内された。
「凄い……たくさん猫がいるわね」
「そりゃあ猫カフェだから猫はいるだろうけど」
「それとお店が落ち着ける雰囲気というのも……また素晴らしいわね」
「猫に触りに行かなくていいのか?」
「この距離で眺める方が良いわ。……猫好きなんだけれど、猫からはあまり好かれないのよね」
渡会はそう言うと少し困ったような表情を浮かべた。
「でもここに来たのは正解だったわ……家のことを忘れられるのだから」
「渡会……?」
「早く自立したいわ。親に縛られず、独立して生きていきたいと……親に言ったのよ。そしたら、立派な収入を得たら、認めるって言われたのよ」
「渡会の両親が大切に思ってくれてるって証拠じゃないのか?」
俺がそう言うと、渡会は首を横に振った。
「前にも少し話したけれど、あの二人に至ってはそれはないわね」
「そ、そうか」
「あーあ。誰かが私のことを養ってくれれば、現実逃避できるのだけれどね」
渡会はそう言うと俺のことをジッと見てきた。
「何か?」
「いえ、別に。目の前にたくさん彼女がいる人がいるなぁと思ってみてただけよ」
「はいはい、そうですか。でも渡会は可愛いし、もっと良い人見つけられるんじゃないか?」
俺がそう言うと、彼女は表情をむすっとさせた。
「何言ってるのよ。私があなたのことを大好きだから言ってるんじゃない」
「え?」
「そうじゃなきゃこんなこと言えないわ。返事は今じゃなくていいわ。もう少し自分のことを自分のことと親のことを美姫さんたちと相談してから決めるわ。悩んだまま貴方と付き合うことは……したくないのよ」
「……渡会」
彼女は決意のこもったような表情で俺を見てそう言った。すると彼女の足元に猫が寄ってきた。
「あ、猫が私の所に来たわ」
「渡会の決意を応援してくれてるんじゃないか?」
「非現実的な思考ね。ふふふ、でも悪くないわ」
渡会はしばらくの間、猫と戯れ続けていた。




