#117:家庭環境
いつも通り、サブタイトルいいの思いつきませんでした。
「そう、それは良かったわね。おめでとうと伝えておいてくれるかしら?」
「ああ、そうする」
翌日学校に登校した俺は、渡会に千春と付き合った報告をした。わざわざ言う必要はないんじゃないかとも思ったんだけど、千春と渡会は面識があるし、渡会も千春のことを可愛がってくれていたからな。
何より棘はあったが、最初は俺たちのことを心配して別れるように言ったり、俺たちの覚悟を知ってからは応援してくれてもいるし、良い友人を持ったのかもしれない。
「羨ましいわね、家族仲が良くて」
「え?」
渡会が窓の外を見つめながら、ボソッとそんなことを言った。
「瑠璃ちゃん?」
天音が不思議そうに渡会の名前を呼んだ。今の渡会の言葉が天音にも聞こえていたのだろう。
「幼い頃から、立派な人間になるためと称して……様々習い事をさせられてきたわ。美姫さんもそういうのあったんじゃないかしら?」
「ええ、まぁ確かにありましたけど。本当に幼い頃だけですね。後は自分のしたいことを優先するようにと言われたものでして」
美姫は昔を懐かしむようにそう言った。
「けど優也君や天音ちゃんがいなかったら、そのまま習い事を無心で続けていた可能性はありますけど」
美姫は苦笑いを浮かべた。
「そうね。羨ましいわ。私は今でこそ自由だけれど、ゲーム欲しいなんて言っても買ってもらえなかったわね。美姫さんの所はどうだったのかしら?」
「私は優君と一緒のものが欲しいって駄々をこねたら、勉強を頑張ることを条件に何とか買ってもらえましたね」
「私は独りぼっちだったから、友達は選びなさいとか……低俗な趣味は辞めなさいとか言われてきたわ。だから読書を趣味にするわけだったのだけれど」
「そっか、辛かったんだね。瑠璃ちゃん」
天音はそう言うと、渡会に抱き着いた。渡会は少しビックリした表情を浮かべた後、恥ずかしそうにしていた。
「でもまだ解決は出来ていないんですよね?」
「ええ……まぁ。そうね。将来良いところに就けるように勉強しなさいとはよく言われるわね。まぁそれが悪いとは思わないけれど、もう少し高校生らしく過ごしてみたいとも考えたことはあるわ……最も学生の身分で将来の仕事を見つけるなんてこともできないのだけれど」
渡会は自嘲するようにそう言った。
「そう言えば……皆は何か将来のこととか考えていたりするのかしら?」
「私は優君のお嫁さんだよ」
「まぁそれは私もそうですけど……多分聞きたいのは仕事のことじゃないですか?天音ちゃん」
「あっ、そっか……えへへ」
美姫に指摘されて初めて、天音は自分が勘違いをしていたことに気づいたらしい。
「仕事は。そうだねー美姫ちゃんとも相談したんだけど、神無月家のメイドさんに就職しようかなって。そこなら自宅からの距離ゼロだし、仕事中に優君とイチャイチャ出来るからね」
「私が持っている会社の経営と、私の両親から会社を受け継ぐ優也君の補佐ですかね?」
「大変じゃないかしら?」
「そんなことないですよ。両親が大きくした会社を私たちが継ぐというプレッシャーはありますけど、それ以上に楽しみです。それと仕事でも優也君と一緒にいられるのは私にとってメリットです」
「ふふふ、なんだか楽しそうね」
渡会はそう言うと、クスっと笑った。
「ある程度皆考えているのね」
「瑠璃ちゃんも、一緒に働こうよー」
「まぁ確かに、神無月家は大きいところだから、両親も否定はしないだろうけど……」
「瑠璃さんは優也君の秘書とかどうでしょうか?」
「秘書?」
美姫の言葉に渡会が驚いたような表情を浮かべた。
「時間の管理とか優也君のお仕事の補佐をすることのことで……」
「そうではなくて、月田君の支えは美姫さんがやるんじゃなくて?」
「勿論私も全力で支えますけど、二人いるに越したことはないですからね。私も仕事で忙しいときとかも出てくるでしょうから」
「そ、そっか秘書……ね。結構前向きに考えてみるわ」
「ふふふ、お待ちしてますよ」
俺の目の前で、クラスメイトが将来の秘書になろうとしていた。




