#113:優也の茜へのキス
「はぁ、お腹いっぱいです。美味しかったです、美姫先輩」
「ふふふ、ありがとうございます。後で料理人にもそのように伝えておきますね」
夕ご飯を食べ終えた後、満足げな茜に対して、美姫は嬉しそうにそう言った。
「それではそろそろお風呂に……あっ」
「どうかしたのか?」
美姫はふと何かを思い出した様子を見せた。そして、俺たちのことを交互に見た。
「お風呂一緒に入りますか?」
「いや、入らないよ!?」
何を言っているんだこのお嬢様は。
「いや、入らないよ?」
「……何で二回言ったんですか先輩?」
「いや、この前美姫たちに無理やり一緒にお風呂入らされた時に、気絶しちゃったから……」
「ど、どういうことですか先輩!」
茜が少し怒気を含ませた声で言った。あ、やば。ついうっかりポロっと口から出てきてしまった。結局どういうことかを茜に説明することになった。しかも説明の途中でワザと美姫が大げさに言うもんだから、ついには茜が一緒にお風呂に入ると言って駄々をこね始めてしまったほどだ。
とはいえ、美姫たちと一緒にお風呂に入るのにも耐えられなかったから、もう少し時間が欲しい。それとまだ仮彼女である茜と一緒にお風呂に入るというのはさすがに気が引ける。それをしっかりと説明して。今日は諦めてもらった。
「せーんぱい」
「うわっ!?茜!?」
結局お風呂は別々に入った。そして、部屋に先に戻って一人でのんびりしていると、部屋の扉が開かれた。そして、パジャマ姿の茜と美姫が入ってきた。茜は部屋に入ってすぐ、俺の方に小走りで走ってきて、そのまま俺の胸に飛び込んできた。
俺が彼女のことを抱きとめると、今度は顔を俺の顔に近づけて頬ずりをしてきた。お風呂上りということもあって、普段の可愛さに加えて、色気も混じっている彼女が意識してか、はたまた無意識かそんなことをしているので俺の心臓はいつもの何倍もドキドキしていた。
「ちょっ……小泉離れろって!?」
「えっ……先輩は私のこと嫌いなんですか!?」
小泉はそう言いながら俺から離れた。よく見ると彼女の瞳には涙が浮かんでいて、表情も少し寂しげなものだった。
「い、嫌ではないから。だけどその……もう少し自重してくれると……」
「嫌じゃないんですね!?」
小泉はそう言うと、先ほどまでの表情が嘘だったかのように、明るい表情を浮かべて俺に抱き着いてきた。こいつ、殺気の表情は作りものだったのか。
「先輩。キスしてください」
彼女はそう言うと、そっと目をつぶった。どうするべきなんだろうか。俺は彼女に対して自分からキスをしたことはない。自分からキスをするということは少なからず――いや、かなり好感を抱いているということだ。
俺が中々キスをしないからか、彼女の表情に少し焦りの感情が浮かんできたような気がする。ああ、もう茜はそんなに不安そうにしているキャラじゃないだろ。人のことをからかってくるけど、元気に明るいのが茜だろう。
……ったく、しゃーねぇなぁ。
俺はそっと彼女を抱きしめて、彼女の唇にキスをした。
「先輩……えへへ、ありがとうございます」
「お、おう」
「ふふふ優也君照れてますね」
キスをし終えた後、茜ははにかむようにそう言った。俺は恥ずかしさから、顔を背けた。すると美姫はニヤニヤして、俺の顔を覗き込むようにしてきた。
「本当ですか!?私でドキドキしてくれてるんだ……良かった」
「ドキドキしないわけないだろ……だってお前可愛いし」
俺は少し嫌味ったらしくそう言った。すると茜は顔を真っ赤にそめて倒れた。
「あ、茜―!?」
「今のは流石に反則だと思いますよ優也君」
美姫は少し呆れた目で俺のことを見ると、茜をそっと抱きかかえた。




