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#9:茜

後輩ちゃんのターンです。

「ふぅ、今日は楽しかったです先輩」

「そうか、なら良かったよ」

「私も楽しかったですよ」

「うんうん。またこのメンバーで一緒に行こうねっ」


 天音の意見に全員が頷いた。皆が皆楽しいと思えたなら良かったんだろう。


「そうだ、先輩」

「ん、どうかしたか?」


 ショッピングモールの駐車場に戻り、美姫の家のリムジンカーに乗った後、小泉が何かを思い出したかのように言った。


「先輩っていつまで私のこと名字で呼ぶんですか?」

「は?いや、別に普通じゃないか?」

「いやいや、美姫先輩も天音先輩も名前で呼んでるのに不公平じゃないですか!?」


 小泉は訴えかけるようにそう言ってきた。そんなことを言われてもだな。


「美姫と天音は幼馴染だからな。昔からそう呼んでいるうちに慣れちゃってるから」

「むむむ、でも先輩別に私のこと何とも思ってませんよね?」

「え?あ、ああ」


 いや、確かにむかつくことは多いけど、こいつも一応美少女なんだよな。美姫と天音は幼いころからずっと名前呼びだったので抵抗はないけど、そうじゃない彼女に名前呼びはちょっとハードルが高すぎるといいますか。


 そんな俺の様子を見てか、小泉はニヤニヤとしながら俺のことを見てきた。


「あっれーおかしいですね、先輩?何とも思ってないなら、私のこと茜って呼べますよね?」

「い、いやあのだな」

「先輩?」


 俺にそう迫ってくる小泉の見えない角度にいる、美姫が微笑ましいものを見るかのような視線を俺たちに向けていた。目の前にいる彼女はダメだ。声には出してないけど、完全に小泉の味方だ。美姫は天音と千春のことを認めさせようとしてるのなら、ここは止めに動くはずなんじゃ。


「優君、呼んであげたら?」

「天音先輩もこう言ってますし良いじゃないですか?恥ずかしがり屋な、先輩」


 こんにゃろう。そこまで言うなら、いいじゃねえか。呼んでやるよ。


「茜、これでいいか?」

「は、はぅ。も、もう一回お願いします」

「いや、そう言われて言うほうが照れくさいんだからな」

「あー先輩照れてる」

 そう言うと小泉は俺の頬を指でつんつんと突いてきた。彼女は余裕そうな表情で俺にそう言ってきた。ぐぬぬ、このままやられっぱなしなのもな。そう考えている間にも小泉は「先輩先輩」とボディタッチをしながら俺を揶揄い続けてきた。ん、先輩?これだ。


「なぁ、小泉」

「茜ですよ?先輩」

「くっ、茜」

「はい、何でしょうか?」

「茜は俺のこと先輩って呼ぶけど、俺に名前で呼ばせるなら俺のことも名前で呼んでみてよ」

「ふえっ!?そ、それは恥ずかしいですよ」


 しめた。普段から俺のことを揶揄ってくる彼女だが、実は揶揄われることに弱い。もしかしたらと思って言ってみたんだが、ビンゴだったな。彼女は恥ずかしそうに俺から視線を外す。ふふふ、どうだこれが名前呼びの恐怖だ。


「えっと……うん、大丈夫私なら言える」

「言えないのか。じゃあ俺の名前呼びもなしってことで」

「優也先輩」


 小泉は少し恥じらいながらも俺の名前を呼んだ。


「ふふふ、私だってやるときはやるんですよ?」

「むむむ」

「それで先輩言いましたよね。私のことを一生名前で呼び続けると」

「いや、一生とは言ってねえよ?」

「あれ、そうでしたっけ。私覚えてないなー」

「いやいや、絶対覚えてるだろ!?」

「ということでこれからは茜って呼んでくださいね、先輩。もし呼ばないと、今度体が触れたときに本当に叫んじゃいますよ?」

「いや、やめてくれよ!?」


 こうして、俺は小泉に茜と呼ぶように強制されたのだった。しかし数日後に恥ずかしくなったからと元の名前に呼ぶようにお願いされたのはまた別の話だ。


――

「滅茶苦茶悔しそうな顔してるね、優君」

「あはは。おそらく、揶揄われてると思っているんじゃないですかね」


 優也君は本当に鈍感です。まぁ私たちの想いについこないだまで気づかなかったので大体察しはつきますが。仕方ありませんね、私の目標のためにも愛する彼のためにも、可愛い後輩のためにも私が一肌脱ぐことにしましょう。


 どのようにして、彼女を仮彼女として認めさせるか。目の前で繰り広げられている微笑ましいラブコメを見ながらそれを一人、考えていました。


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