第6章 20 逃走の果て
「おいっ!オスカーは見つかったか?!」
「いえ、まだですっ!」
「早く探せっ!奴は女連れだっ!しかも大怪我を負っている!そう簡単には逃げられないはずだっ!」
バタバタと走る音が大通りから聞こえてきた。そんな・・・もうここまで追いつかれてしまったのだろうか―?
「チッ!奴らめ・・。仮にも王子である俺を呼び捨てにするとは・・。」
オスカーは舌打すると私を見た。
「いいか、アイリス。俺が囮となってあいつらの前に姿を現すから・・お前はその間に逃げるんだ。もし何かあって誰かに問い詰められたとしても、俺の人質になっていたと答えるんだ。」
「駄目ですっ!そんな事・・・何とか2人で逃げないと・・!」
いつの間にか・・情けないことに私はボロボロ泣いていた。70年前に捕まって流刑島へ流されてしまった時だって、こんなに泣いたことが無かったのに。
「アイリス・・・お前・・・俺の為に泣いて・・くれるのか・・?」
オスカーが泣いてる私の頬に靄がかかった右手でそっと触れた。すると不思議な事にその手から靄が消え去ったのだ。しかし、その事に気づいたのは私だけだった。
「オスカー様・・右手が・・。」
「ん?右手がどうかしたのか?」
その時・・・。
「おい!お前たち、全員で手分けして路地裏を探すんだっ!分かったかっ!」
大通りで兵士の声が響き渡った。
「チッ・・・まずいな・・・路地裏にやってきたら見つかってしまうかもしれない。しかも狭いから逃げ場がない・・。」
「オスカー様・・。」
すると、オスカーがいきなり私の頭の後ろに手を置くとグイッと引き寄せ、気が付けば私は口付けされていた。
「!」
それはほんの一瞬の出来事だった。オスカーは私から顔を離すと言った。
「アイリス・・・無事でいろよ。俺が表通りに出たら、お前は反対側の通りに逃げるんだっ!」
言うや否や、オスカーは駆け出し、大通りへと飛び出した。
「いたぞっ!」
「オスカーだっ!」
そしてバタバタと大勢の走る音が聞こえてきた。
「オスカー様・・どうぞご無事でっ!」
私は祈ると、反対側の通りへ向かって駆けだした―。
なるべく人目につかない路地を歩きながら、ようやくイリヤ家へ続く門が見えてきた。太陽はとっくに沈み、外はすっかり暗くなり星が夜空に瞬いていた。
オスカーは・・・無事に逃げられたのだろうか・・・。
私は重い足を引きずりながらイリヤ家を目指し・・足を止めた。
何と正門にはイリヤ家の門番とウィンザード家の兵士が向かい合わせに立ち、何やら口論しているように見えた。
慌てて近くの木立に隠れると、私はそっと様子を伺い・・目を見開いた。月明りに照らされた敷地の中にはウィンザード家の兵士たちが立っていたのだ。その数はざっと20人以上は待機しているように見えた。
「そ、そんな・・・。ウィンザード家の兵士がここに来ていたなんて・・・。」
私は声を震わせた。
70年前は言われぬ罪で処罰されて流刑島へ流された私のせいで処罰されてしまったけれども、まさか今回はオスカーを匿い、逃がした罪状で処罰されてしまうのだろうか・・・。
なすすべも無く木立に隠れていると、突然背後から羽交い絞めにされて口を塞がれた。
「!」
あまりの驚きで、必死でもがいた。そんな・・・私はここで捕まってしまうのだろか?
すると・・・。
「落ち着いてください、イリヤ様。」
誰かが耳元でそっと囁いて来た―。




