第2話 5 言葉とは裏腹な気持ち
「「・・・。」」
オスカーの後姿をレイフと2人で見送っていると、ふいにレイフが指輪をはめている私の右手を握りしめて来た。
「え?レイフ?」
「・・・。」
驚いて顔を見上げると、レイフは無言のまま校舎の中へ入って行くオスカーの後姿を見つめている。レイフ・・・一体何を考えているの・・?するとその時、レイフの心の声が頭の中で聞こえてきた。
<一体、何なんだ・・・オスカー王子の奴・・・。今迄一度もアイリスに会いに来た事すら無いくせに、突然入学式の日に現れるなんて・・・。やはりあの噂は本当だったのか・・・?だが・・あの男は危険だ・・アイリスを渡すわけには・・。>
え・・・・?噂・・・?一体何の事だろう。けれど、その噂が何かが分かれば、これから私はどのような行動を取れば前回のような失敗を回避する事が出来るか分かるかもしれない・・・。
「ねえ、レイフ。」
私は手を繋がれたまま再度レイフに呼びかけた。
「あ、ああ。何だ?アイリス。」
レイフは笑みを浮かべて私を見た。
「オスカー様は何故突然私の前に現れたのかしらね?」
「さあな?俺に分るはず無いだろう?」
<ひょっとすると・・アイリスとの仮の婚約継続期間が残り2年で切れるって噂はやはり事実だったのか?もし公爵家のアイリスとの婚約関係が破綻すればオスカー王子は王族を追放されるって話も浮上しているし・・。アイリスに婚約継続の意思を持たせる為に近付いてきたのかもしれない。>
「!」
私はレイフの思考を読んで愕然とした。そ、そんな・・・少なくとも70年前はそんな話は聞いた事が無かった。つまり、私は2年以内に婚約破棄をしたいと申し出れば、受け入れて貰えることが出来る・・と言う事なのだろうか?
「レイフ・・・貴女はオスカー王子の事をどう思う?」
私はレイフのつなぐ手を握りしめると尋ねた。
「あ、ああ・・なかなか破天荒な方だな?巷ではあまり良くない噂もあるようだが・・・アカデミーに入学すれば、王族としての自覚も芽生えて来るんじゃないのか?」
レイフは当たり障りのない台詞を言うが、私にはレイフの心の声がばっちり聞こえて来る。
<あんなに血なまぐさい噂が絶えない王子をこの国の王位継承者に選ぶなど、とんでもない。あの男は王位を剥奪されて、何処へなりとも好きな場所へ行ってしまえばいいんだ・・・とにかくアイリスは絶対に守ってやらなければ・・・。>
私はレイフの心の声を聞き、愕然となった。そんな風に思ってくれていたのなら、何故70年前・・・私を助けてくれなかったの?
「・・・。」
私は無言でレイフの手を振りほどくと、怪訝そうな顔で私を見つめてきた。
「どうしたんだ?アイリス。」
レイフは私が突然不機嫌な態度を取った事が不思議に思えたのだろう。だから敢えて私は言った。
「私は一応オスカー様の婚約者なのよ。それを・・・違う男性と手を繋いでいるのを見られ、誰かに言いふらされてオスカー様の耳にでも入ったら、きっと私は只では済まされないでしょう?」
するとレイフは頭を掻きながら言った。
「あ、ああ。そう言えばそうだったな。このアカデミーにはオスカー王子がいる事だし・・変に噂になれば困るのはアイリスの方だったな。ごめん、配慮に欠けていたよ。」
「ええ・・・お願いね。話をする位なら構わないけれど・・・これからはあまり不用意に親し気な真似をするのは・・・遠慮してくれる?オスカー様や・・周りの目があるから・・。」
「ああ。分かったよ。」
素直に返事をするレイフ。
「それじゃ私達も教室へ行きましょうか?同じクラスですものね?」
「ああ。そうだな、行こう。」
そして私とレイフは自分達のクラスへ2人並んで向かった。
70年前とは違う、新しい生活・・・
そこでは私に新たな出会いが待っていた―。




