第8話 問題の生徒達
生徒達が適性検査をしている頃、デイジーは院長室で頭痛と戦っていた。
自己紹介も終わり、生徒達は適性検査を受ける為、ユビツメと共に別室へ移動した。
デイジーは、院長の元へ行き報告する。
「おや、早速問題発生かね?」
「はい、早くも」
問題視されたのは、メアリの”闇に包む者” と、スカーレットの”気高き者”、エリアスの”無能者” 。
そして、パステト族の件である。
「おやおや、驚いたね//」
「えぇ、卒業する時にはどうなっているか検討も付かないわ……」
頭を抱えるデイジー、一方、ソフィーは何やら嬉しそうだ。
「メアリちゃんは、ダークプリーストになる可能性が高いね//」
「はい、性格的に戦闘には不向きに見えるのですが」
「スカーレットちゃんは、聖女になっちゃうかもね♡ 聖女を輩出するなんて何年ぶりだろうか!//」
「楽しみではありますが、金髪縦ロールの戦闘型聖女など聞いた事もありませんよ」
「頼もしいね!// エリアス君は”無能者”か〜//」
「私は初めて聞く称号です。院長はご存知なのですか?」
「うん、実は私も授かった事がある。厳密には”優秀なる無能者” だよ」
「獲得条件は何なのです?」
「魔法や特殊なスキルを使わず、”素手” 若しくは”鈍器” のみで、魔物を10000体討伐だよ」
「はぁ!!?」
「エリアス君は、幼少期から結界を抜けて山に入っていたらしいよ?
1年365日、毎日5体程討伐すれば数年でクリア出来る数だね。何歳から山に入っていたのか知らないが、十分に達成可能だと思う」
「……数年って」
笑うソフィーを見たデイジーは、原因不明の頭痛を感じ、それを誤魔化す様に顬を指で解した。
「パステト族のクルミちゃんが自己紹介した時、周りの反応はどうだったかね?」
「彼女が自己紹介を終えた時、一部の生徒の視線が少し冷めた様な…… 疎外感を感じさせる視線になったように感じました…… 」
「そうか。デイジー先生はパステト族について何か知っているかね?」
デイジーは、言われるがままに持っているパステト族の情報を話した。
その内容とは、嘗て魔族と人族が手を取り合い繁栄していた時代まで遡る。
魔族と人族のハーフとして生まれたパステト族を含む”亜人” 。その中でも、突出した戦闘能力を持っていたパステト族は”魔人” と呼ばれ恐れられた。
当時、魔族と人族の関係は良好だったそうだが、人族同士は争いの絶えない暗黒期であった。
人族のとある国を治めていた王は、パステト族の戦闘力に目を付け、重用し地位を与えた。
その後、パステト族の活躍により、その王は人族の支配領域の統一を成し遂げたのだ。
統一後も、パステト族は王家の懐刀として仕えていたが、彼の一族の隆盛な時代は突然終わりを告げる。
魔族の侵攻である。
ある日、魔王が人族は下等な種族だと言い放ち、1人残らず駆逐すると宣言した。
魔王率いる魔族の勢いは凄まじく、一時は、人族の支配領域の55%を制圧されたと記された文献もある程だ。
人族は徹底抗戦に出たが、その矛先は、勿論パステト族を含む全ての亜人にも向けられたのだ。
当時、人族でも魔族でもない彼等は、双方から迫害を受ける事となるが何とか未開の地へ逃げ延び、ひっそりと暮らしていたのである。
「その後は?」
「近年、亜人は魔族と人族の混血ではなく、獣が独自の進化を遂げ誕生した、完全に別の種族である事が判明しました。
百数十年前、各地で仮説や、それを証明する論文が相次ぎ発表されたのです。同時多発的に…… そう、まるでシンクロニシティの様に」
「流石はデイジー先生! 模範解答だね//
だが、その事実が判明しても偏見の目は無くなることはない。だね?」
「はい」
「他の亜人は兎も角、パステト族の者が開戦後に人族の学校に入学したという情報は無い。
動機は何でもいい。彼女の勇気は、今後の人族と亜人の未来を変えるだろう。
守ってあげてね。デイジー先生♡」
「勿論です」
「あ、エリアス君の監視も怠らないようにね」
「……はい」
頭痛の種が増えたデイジーであった。
………………………………………………
その頃、エリアス達は適性検査の真っ最中だ。
何の適性かと言うと、自分の属性である。
空、水、火、土に光と闇を含めた6属性の中で、自分の波長と合うものを知る為の検査だ。
「お! 俺火だ!」
「私は水!//」
よく分からないが大喜びする生徒達。
エリアスは闇属性を期待し、順番を待っていた。
「次! エリアスや!」
検査は簡単である。
部屋に設置された巨大な水晶の柱に触れると、火なら赤、光なら眩く発光するといった具合に、触れた者の属性が分かるのだ。
エリアスが柱に触れると、色が変化し……やがて灰色になってしまった。
「灰色? 無属性?」
「いや、これは全属性に適性があるっちゅうこっちゃ。
よし次!! クルミの出番やぞ!」
「…………」
全属性に適性があった訳だが、特別珍しい訳でもない様だ。
適性検査も終わり、寮に帰ったエリアスはエレノアのパパと食事に行く準備をしていた。
正直、堅苦しい店は嫌なのだが、相手は貴族なので止むを得ない。
正門でエレノアと合流し、街に出る。
着いた店は、個室のある居酒屋の様な店だった。
予想が外れた訳だが、エリアスは胸を撫で下ろす。
「来てくれてありがとう。私は父のヘーゼル。
娘の命を救ってくれた事、心より感謝するぞ! エリアス君」
こうして夕食が始まったのだが、エリアスには気になる事があった。
スカーレットとエレノアは、姉妹なのに何故同じ学年なのか? 何故同じ馬車に乗っていなかったのか? である。
気になるエリアスだったが、何かを察し、その話には触れない様にしていたがエレノアが席を立った時、ヘーゼルは2人の話を始めた。
「スカーレットは、私の本妻の子なのだ。
なので、入学するまで一緒に住んでいた訳だが……エレノアは妾の子で、離れた場所に屋敷を建て、そこで母と数名の使用人と暮らしていた。
勿論、認知しているし妾と言えど公認の女性だ。
しかし、良く思わない本妻は同居を拒んだのだ。
馬車の護衛が少なかったのも、本妻が費用をケチったのが原因なのだ」
(それ以上の悪意を感じるな……)
「なるほど、それで誕生月も近いのですね」
「そうだ。スカーレットはエレノアを大切に思っている。
勿論、私もエレノアを愛しているが、寂しい思いをさせていたのも事実だ。
昨日のパーティーの後、エレノアとスカーレットで話をしたのだが、君と仲良くなれそうだと嬉しそうに話していた。
私は貴族として高い地位を与えられているが、残念ながら家では何の権限も無く自由が効かない……
クラスには、その辺の事情を知る貴族の子供も居るので、心無い言葉に傷付けられる事もあるだろう。
だが、君の様な素晴らしいクラスメイトが居てくれるなら、私は安心だ。
どうか、娘達と仲良くしてやって欲しい」
「言われるまでもありません。寧ろ光栄ですよ」
「ただいまー// 何の話してたの?」
「就職先の根回しだ。パパの権力を乱用してもらう約束だよ フフフッ」
「何それ!」
一夫多妻制の別バージョンを知ってしまったエリアスであった。
穏やかに学院生活を過ごす事は出来ない…… エリアスも教師陣も波乱を予感した初日であった。
徐々に強くなる風は、やがて嵐となりクラスを掻き回すのだ。