第5話 入学式
大乱闘を制し、一息ついたエリアスは街へ繰り出す。
聖フィアラル魔法学院、院長室。
そこでは、今回の騒動の当事者達の処分について話し合いが行われていた。
「いや〜、毎年小競り合いは起こるけど、今年は度が過ぎてるね〜」
「凡そ、50対2……これは、集団暴行の域を超え、最早、虐殺されてもおかしくない戦力差ですわ」
「つまり、何が言いたいのかな?デイジー先生?」
「こと戦闘に関しては、有望な人材であると言えるでしょう。寛大なる処置を希望しますわ」
「うんうん。分かったよ~// 先生はどう思う?」
「その50対2の2人に関しては、軽~い説教でエェんちゃいます? 50人を引き連れてた貴族のお坊ちゃま君は退学が妥当やと思いますが……」
「うんうん// まだ入学式してないから入学拒否だけどね// 」
「院長! その貴族の息子は、チェスター家の次男だと聞いております! 彼等にも寛大なる処置をお願い致します!」
その言葉を聞いた院長の表情は曇り、豹変する。
「エドガー先生。君は、昨年着任したばかりで知らないかも知れないが、我が学院は貴族にも平民にも平等で開かれた学び舎なのだよ」
「……は、はい」
「この学院の運営資金は、税収で賄われている。
つまり、その大部分は平民の収める血税なのだ。
我が学院に、貴族を優遇する制度など無い。
肝に銘じたまえ」
「も、申し訳ありませんでした……」
「それに、入学拒否したところで学院に文句を言ってくる事は無い」
「……?」
「50対2の2人の内、1人は平民だが、1人はマグナス大公の長男だ。地方の男爵は黙る事しか出来ないよね//」
「!!?」
「し♡ か♡ も♡ その2人の内、平民の可愛い男の子……彼はフィアラルへの道中、ヘーゼル伯爵の娘を魔物の群れから救出したらしいよ?
その彼に直接礼を言いたいと、伯爵から連絡が有った」
「!!!?」
「我が学院は、優秀な人材には寛大だ。
チェスター家の息子さんには、人として成長してから来てもらったらいい」
「ほぉ…… 魔物の群れからねぇ」
「そうだよ// そんな活きのいい生徒達を更に伸ばす為に、君達ハンターランクAの教員が居るんだ// 頼むよ?//」
………………………………………………
荷物を置き、一息ついたエリアス。
メアリや、その友達と待ち合わせし街の飲食店で昼食を済ませた。
夜には、今回、入学する生徒達の親睦を深める為の立食パーティーが催されるらしく、それまでは自由だ。
街にはハンターと思しき人達や、騎士の姿が目に付く。
その中でも、一際目を引くのは”魔導装輪兵器” を駆る騎士達だ。
(夢で俺が乗ってたのに比べると何かショボイな……)
エリアスが予知夢で乗っていた”魔導装輪兵器” は、各種兵装にオリジナルカスタムが施された特注品である。
兵装と言っても、見た目的に変わるのは、動力源である水晶や精霊を守る頑強な装甲の追加、タイヤサイズ、強力な術式を発動する為の突起物の有無で、銃身等は一切無い。
(どんな魔改造をしてやろうか…… クククッ)
「エリアス、また後でね//」
「あぁ、後でな」
部屋に戻ると、扉の前に箱が置いてあった。中には制服が入っていて、明日からは、これを着て生活する事になる。
ブレザーの様な制服だが、丈夫な生地が使われている。
(これを着たまま戦闘訓練みたいな事するのか……)
色々気になるが、立食パーティーの準備だ。
部屋には、風呂は無くシャワールームのみだ。
シャワーを浴び、小綺麗な服で会場へ向かう。
既製品にしか見えないが、手作りの服だ。
何とも器用な母である。
シャンパンの様な飲み物を片手に、会場の隅を陣取るエリアス。
壁に撓垂れ掛かり、考え事をしている様だ。
(もし、転生した妻に出会うとすれば、この学院で出会う可能性が高いが…… 妻に記憶が僅かでも有ればいいのだが、全く無いとなると厄介だな)
「エリアス」
「セシル、体調はどうだ?」
「問題無い、打撲ぐらいは即完治だ。
刺されてたら出席出来なかったかも知れないが、お前のお陰で参加出来てる。ありがとな」
2人は、たわいも無い話を楽しんだ様だ。
変わり者呼ばわりされ、友達と呼べる者が殆ど居なかったエリアスと、王の身内という高位の貴族の家に生まれ、本音で接してくれる者など親以外に居なかったセシルである。
その、たわいも無い話を楽しんだ時間は、今後の学院生活を更に期待させる。
「エリアス~、探しちゃった//」
メアリである。
いつもと少し違う化粧をし、ドレス姿のメアリは、ベタベタして来る訳でもなく、何時もの様に絶妙な良い距離感で語り掛けて来る。
セシルにメアリを紹介し、3人で楽しんでいると、エレノアが、一人の女性を連れてやって来た。
金髪にツインテール、そして縦ロール…… かなり気が強そうだ。
そして、エレノアどころでは無い貴族臭だ。
「エリアス君、昨日はありがとう。
こちらは、姉のスカーレットです//」
「お楽しみのところ、申し訳ない。
姉のスカーレットだ。妹の命を救ってくれた恩人に、どうしても一言礼を言いたくて案内させたのだ」
「姫……でいいのかな?
礼には及ばない。当然の事をしたまでだしな」
「畏まらず、スカーレットと呼んでくれ。
確かに私は貴族の娘だが、そんな肩書など無意味だ」
「じゃあ、そうさせてもらうよ。
俺の事も、エリアスと呼んだらいい」
「君は…… ヘーゼル伯爵の娘ではないか?」
「ん? セシル、知り合いなのか?」
「セシル!? マグナス大公の息子のセシルなのか!?」
青褪めるスカーレットとエレノアをよそに、王の家臣的なポジションだろ? どうでもいいよ。と言わんばかりに話を変えようとするエリアス。
国王だけでなく、魔界全土を支配していた事もあるのだ。どうでもいいと思うのは仕方無いのかも知れない。
「な、なぁエリアス。大公とは何か知っているか?」
「知ってるよ。でも、ここでは肩書は意味無いんだろ?」
スカーレットの言葉に、笑いながら返すエリアス。
「エリアスの言う通りだ。気遣いなんて最低限でいい。
学院で、共に生活する仲間として普通に接して欲しい」
(切実だな。スカーレットもセシルも、友達とか仲間と呼べる者は殆ど居ないのだろう。まぁ、俺もだが)
その後、クラス分けの話や、今後行われる予定の学校対抗戦の話で盛り上がり、夜は更けていった。
………………………………………………………
翌朝。
支給された制服に袖を通すエリアスは、初々しい気分を存分に味わっていた。
(入学式なんて何十年ぶりだ?……なんか緊張してきた)
式が始まると、案の定、長々とお偉いさんの話を聞かないといけない訳で……
少し草臥れてしまったエリアスだったが、院長の登場で復活する。
「では、院長お願いします」
「オッホン! 聖フィアラル魔法学院の院長、ソフィーと申します」
現れたのは、車椅子に乗った美少女。
どう見ても二十歳前後にしか見えない容姿に、会場は沸き立った。
(か、かわいいっ!!なんて可愛い院長なんだっ!!)
しかし、可愛いだけで無い。
ソフィーのハンターランクはAAA……
早い話、元勇者である。
「聖フィアラル魔法学院の門を潜り、本日、正式に我が学院の生徒となった諸君。
フィアラル在住の者も、希望と夢に胸をときめかせ地方から遥々やって来た者……」
中略
「我が校は、実力主義だと言う事を肝に銘じて、日々精進してくれたまえ! 以上だ」
「……院長、粗方眠ってしまってます」
「ちょっと長かったね// では、クラス分け表を見て各自教室へ向かってくれ!
エリアス君!エリアス君!! 君は、教室へ行く前に院長室に出頭せよ!// 逃げるなよ〜♡//」
早速、捕まってしまったエリアス。
大乱闘の件が頭を過ぎるも、覚悟を決めて院長室へ向かうのであった。
院長室へ出頭したエリアスを待っていたのは、可愛い院長だけであった。
大乱闘の件で少しお叱りを受けるが、どうやら別件がある様だ。