表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/71

第4話 いざ魔法学院へ

村の前には、数台の大きな馬車。

遂に、大都市フィアラルへ旅立つ日が来たのだ。

いよいよ、村を旅立つ日だ。


同世代で村に残るのは極僅か。

殆どの者は、都会での暮らしに憧れて村を出る。

観光資源に乏しく、娯楽施設の1つも無い過疎化しつつある村なら、避けられない流れだろう。

若者が出ていってしまうのは悲しい事だが、前日の夜に宴を行い、朝には笑顔で見送る村人達。

エリアスの両親も、そんな村人の1人だ。


「エリアス、いいか? お前がこれから向かう大都市フィアラルは、人生の交差点だ。

奈落の底まで転げ落ちる者も居れば、金と栄光を手にする者も居る。

息子よ、道を間違うなよ?

それと、この辺り一帯を治める領主の娘も魔法学院に行くらしい。

だが、気を遣う必要は無いぞ?魔法学院は実力主義だ」

「う、うん……」

(人生の交差点?)

「エリアスちゃん、月に8回は帰って来るのよ? 分かった!?」

「帰れそうにない時は、連絡するよ……」

(週末は帰って来いって事か? まぁ、付いて来ないのは有り難い)


別れを惜しむ両親だが、最愛の息子が選んだ道なのだ。

無事に学院を卒業し、英雄となる未来を信じて止まない。


「エリアス、餞別だ。受け取れ」

「こ、これは……」


嘗て、父が予約していた”神界鉱石(セレスティアル)”を配合して造られた刀剣である。

見た目は扱いやすい長さの太刀だが、刀身はシルバーではなく、黒く鈍い光を放っている。

(ミスリル? と謎物質の合金……配合量は僅かだが、産出量と製錬の難しさを考えれば素晴らしい出来栄えだな)


どうでもいい話だが、この剣は高価だ。

そこそこの家を買ってもお釣りが来るだろう。恐らく、退職金を注ぎ込んだに違いない。

因みに、現魔王として魔界を支配している創造神の実の娘は、この謎物質99.999%で創られた王冠を被っている。


「父さん、ありがとう! 俺、絶対勇者に成る!」

「エリアス! 期待してるぞ? この村から勇者が誕生したら、パパも鼻高々だ」

「エリアスちゃん! 頑張ってね//」


笑顔の両親だが、心の中は複雑だ。

それは、勇者は人類の希望であり、皆から讃えられる存在であるが、同時に、人類の矛でもあるからだ。

勇者へと至る未来を信じて止まないが、その身を案じて止まないのである。


村が用意した馬車が到着し、いよいよ出発の時間だ。


「じゃ行くよ」

「色々あると思うが頑張れ」

「エリアスちゃん! お手紙待ってるからね」


こうして、村の若者は大都市フィアラルを目指し旅立って行った。



…………………………………………………



馬車に揺られる事2時間。

良く考えれば、これ程、村から遠くに行くのは初めてだったエリアスは、車窓から見える景色を興味深く眺めていた。


自分が創った世界は、命に溢れている。


創造神として、外から眺めている時は、ゲームの世界の様に作り物のイメージが強かったが、転生し、その世界で生活してみると、そのイメージは消え失せたのだ。

人々は自我を持ち、世界は躍動感溢れる命で満ちていた。

それを、改めて実感していたのだ。

感無量である。


村を出たのは、9時頃。

道中の町で休憩を取りながら進み、明日の午前中にはフィアラルに着くそうだ。


「エリアス// おにぎり作って来たよ? 食べる?」

「お! いいのか!?」


野鹿の肉を濃い目の味付けで炒めたものが、中に入っている。

少し癖が有るが、病みつきになる味だ。


「エリアス……//」

「ん?」


エリアスの頬っぺに付いた米粒を取ってあげたいが、恥ずかしくて行動に移せないメアリ。


「エリアスの旦那〜、頬っぺに米粒付いてるっスよ〜」

「あ? あ、ホントだ」


それを、躊躇無く指摘する女友達。

米粒を取りたかったメアリは絶句し、動かなくなってしまった。

(自分、余計な事しちゃったっスか?)

(した。あの悲しそうなメアリの顔よ……見てみ)


察しない友達と察する友達であった。


その後、順調に進んでいた一行は、少し背の高い木が疎らに生えている林に差し掛かった。

そこで、突然、馬車が止まってしまう。


「どうしたんだ?」


エリアスの問い掛けに、行者は魔物の出現を告げる。


「多分、フィアラルに向かう馬車だと思うが、魔物の群れに囲まれてる」


見ると、少し豪華な馬車がゴブリンの群れに襲撃されていたのだ。

エリアス達が乗っている馬車もそうだが、通常、結界の外に出る商人や旅人は、ギルドに護衛の依頼を出しハンターを雇う。


勿論、襲撃されている馬車にも護衛が付いているのだが、20匹程の群れに対し、護衛1名という手薄さだ。


「なぁ、助けないのか?」

「我々は、このままフィアラルへ向かう。

あの馬車を何とかしたい想いは有るが、我々の任務は、君達をフィアラルまで安全に送り届ける事なのだ。

無用なリスクを取ることはない」


エリアスの言葉に、行者とハンター達は、きっぱりと言った。

だが、エリアスの本体は創造神であり、その目に映る全ての者を救って来た、元”魔王という名の神”である。

その性だろうか、エリアスは馬車を飛び出した。


「おい! 戻るんだ!!」

「心配無い。ちょっと試し斬りするだけだ」


強制探知(テメェらこっち向け)


馬に群がっていたゴブリンの意識は、強制的にエリアスに向けられる。

飛び掛るゴブリンの懐に入り込み、引き斬り。


仲間の四肢が吹き飛ぶ様子に、他のゴブリンの血の気は増していく。

更に勢いを増し襲いくるゴブリンに対し、後退し距離を取るエリアスは、下がりながらも強烈な突きで、喉や頭部を貫き、1匹づつ確実に仕留めていくのだ。


「くっ…… 仕方無い! 俺達も行くぞ!」


少し遅れて、エリアス達の乗った馬車の護衛をしていたハンターも加わり、無事に制圧する事が出来た。


「エリアスかっこいい!//」

「エリアスの旦那強すぎっスよ!! 変わり者だけどカッケーっス!!」

「お、俺達だって、あのぐらい楽勝だよ……」


馬車から、黄色い声と僻みが聞こえてくる中、襲われていた馬車から1人の女の子が降りて来る。

肩に掛かる白金色(プラチナブロンド)の髪、透き通る白い肌、ピンク色の瑞々しい小さな唇。高価な服装からは貴族臭が漂っている。


「旅のお方。見ず知らずの私達を助けてくださり、ありがとうございました」


深々と一礼する少女。

貴族臭は漂っているが、決して嫌な感じは無い。

一切の濁りの無い澄んだ瞳で見つめられたエリアスは、思わず視線を外してしまう。


「俺はエリアス。魔法学院に入学する為にフィアラルに向かっている。

君は?」

「私はエレノア。私も魔法学院に入学するんです!」


中略


という訳で、エレノアの馬車も車列に加え、フィアラルに向かう事になった一行。

馬車の外で仲良く会話するエリアスとエレノアを、遠目から眺めていたメアリが絶句している事など言うまでもない。


「…………」

「メアリ、言いたい事は分かるけどね……その心配そうな顔よ……ププッ最高」


良い友達達である。



…………………………………………………




翌日の正午前、一行は無事にフィアラルに到着した。


父 エスカーの話では、ハンターとなる者はギルドではなく不動産屋へ、魔法学院に入学する者は学院へ直行する。


ハンターとなる者は、生活の拠点となる安物件を押さえるのに必死なのだ。

それに比べ、進学する者は優雅だ。

学費は税収で賄われ、強制的に入寮させられるが寮費は無料。

一人一部屋でプライバシーも守られ、食事も3食付いている。


そして、気になる入学試験だが……

魔法学院に関しては、無試験で五体満足なら全員が入学出来る。

将来、魔族の脅威から人類を護る者達を育成する為の準軍事施設の様なものなのだ。


聖フィアラル魔法学院に到着したエリアス。


各地から集まった新入生と思しき少年少女に混ざり、敷地内を散策する。

広大な敷地には、これから住む事になる学生寮や学舎、様々な訓練施設が点在している。

敷地を出て、5分も歩けば大勢の人が行き交う賑やかな街だ。

立地もいい。


散策していると、突如、怒鳴り声が聞こえてきた。

見ると、1人の少年が大勢に取り囲まれ、一触即発な雰囲気だ。


「エリアス……喧嘩かな?」


怯えるメアリ。

地方から、大勢が集まるのだ。

当然、田舎ヤンキーあるあるは発生する。


「正直、あまり関わりたくないな。どうせ大した理由じゃないだろうし」

(まぁしかし、1人に対して何人で突っかかってんだか……)


囲まれた少年は、金髪に整った顔立ちで、良い衣服を纏っている。

どこかの貴族だろう、1歩も引く気配が無い。

(あっ、始まっちゃった……)


始まってしまった殴り合いを遠目に眺めていたエリアスは、少し驚いた。

襲い掛かる20人以上の素行不良共を、金髪の少年は次々と殴り倒し始めたのだ。

しかも、その殆どは急所を的確に捉えた1発ないし2発の重い一撃だ。

(……腰の入った良いパンチだ。このまま勝っちまうんじゃないか?)


囲まれない様に距離を取り、常に1体1に近い状況を作り出す金髪の少年は、明らかに対多数戦の訓練を積んでいる。

最早、手助けする必要も無いと思ったエリアスが、その場を立ち去ろうとした時、金髪の貴族らしき少年は背後からの不意打ちで崩れ落ちた。


「ぐはっ! ……テメェ……!!」


闘志は衰えていないが、間髪入れずに襲い来る頭に血が昇った集団に対して為す術はない。

暴行を加えられ、数人掛かりで吊し上げられてしまった。


「ハァ……ハァ……」

「ったく。ボンボンが調子コキやがって。

学院は俺が仕切ってやるから、お家に帰ってママのオッパイでもしゃぶってな!」


不良少年達のボスと思しき悪そうな少年の手には、小ぶりなハンティングナイフが握られていた。

殺すつもりは無い様だが、非常に危険だ。


太腿目掛けて動き出す、無慈悲なナイフ。

捕らえられた金髪の少年は、諦め目を閉じたが、切先が少年に届く事は無かった。

それを、気配も無く現れ寸前で止める者……エリアスである。


「こんちわー! お取り込み中申し訳ないんだが、便所どこか知ってる? 今日、フュルトから出て来たばっかなんだ」

「あ!? 何だ!? テメェは!!怪我したくなかったらすっこんでろっ!! 田舎者がっ!!」

「刃物使おうとしてるのは見逃せないな〜」


炸裂するエリアスの右ストレートは、ナイフを持つ少年の前歯を根こそぎ圧し折り吹き飛ばした。

金髪の少年は、好機とばかりに攻勢に転じ殴り始める。

(あんだけボコボコにされてて、まだ動けるのか。なかなかやるな……)


「よーしっ!! 金髪! コイツらに分からせてやろうぜっ!!」

「すまないっ! お前の名は!?」

「俺はエリアス! お前は!?」

「セシルだ!」


殴り倒した不良少年の友達だろうか、約30名が新たに参戦し、凡そ40対2の大乱闘へと発展してしまった。

まぁ、程なく衛兵が駆け付け、少年達はチリジリに逃げて行き事態は収束するのだが。


たった2人で、50人中33人KOという戦果は、魔法学院で語り継がれる伝説となる。


息を切らしながら、人気のない場所まで逃げたエリアスとセシル。何故か満足気だ。


「いい運動になったな! ハハハ」

「だな! なぁ、何で助太刀してくれたんだ?」

「あの人数だけでも反則だろ? そこに刃物だ。ほっとけねぇよ」


雲一つ無い空。


「う〜ん、風が気持ちいいな!」

「フュルトから来たって言ってたな。フィアラルの気候は最高だろ?」


これが、大都市フィアラルを含む広大な領地を治める、マグナス大公の息子 セシルとの出会いだった。


波乱に満ちた学院生活は、入学式を終えてからが本番なのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ