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第3話 進路について

15匹のゴブリンを相手取るエリアス。

低ランクのハンターなら、”撤退”の2文字が脳裏を過ぎる状況だが、元魔王時代に1人で数万の敵を相手取っていたエリアスの眼は、それを”餌”と捉えていた。のかも知れない。

魔物の出没する森の中、1人の少年がゴブリンの群れと対峙していた。


口元を引き締め、鋭い眼光で群れを見つめる少年……14歳になったエリアスである。


握り締めた木刀で、襲い掛かるゴブリンの喉を貫き、足首を圧し折り、肋を粉砕する。

放たれる目にも留まらぬ圧巻の斬撃は、最早、それが素振り用の重たい木刀だとは思えない程の鋭さであった。


「15匹程度じゃ話にならないな。この間出てきたグリーンイエティ居ないかなー」


希に出現する強敵を求め、森を徘徊する日々は続いていた。

そんな日々の中、エリアスは”あるルール”を自分に課していたのだ。

それは、回復以外の魔法を使わず敵を撃破する。であった。

攻撃魔法は勿論、防御結界も身体強化系も使わず、唯々、物理攻撃のみで倒す……

より合理的に効率良く……余計な動作を省き、最速で最小限の動きで敵を仕留める。

魔物に対しては、その様に戦っているが魔法の修行も怠らない。


偶然見付けた洞窟の中で、人知れず魔法を操る。

焼き払い、凍てつかせ、水没させ……家に戻れるだけの魔力と体力を残し、修行を終えるのだ。


そんなある日。


「ねぇ、エリアス?」

「メアリ、どうした?」

「エリアスは魔法得意?」


少し赤い頬、絶妙な距離感……

メアリは、勇気を出してエリアスに話し掛けた。


「うーん、得意っちゃ得意かな。何で?」

「教えて欲しいの! 時間ある時で良いから教えて欲しいの……」


俯きながら、お願いするメアリの顔は、”言っちゃった〜!”という心の声が漏れて聞こえて来そうなオドオドした表情になっている。

確かに、彼女は魔法が下手だ。

魔力量も、同世代の平均値をやや下回っている。

鍛える価値も無い小娘だと、私は思った。


「いいよ。教えてやるよ」

「えっ? ホントに!?//」


優しい創造神……もといエリアスの言葉に、一気に表情は明るくなる。


「その代わり、お昼ゴハンにお弁当作って来て欲しいな」

「うん! 作って来る//」

「じゃあ、早速明日から始めるぞ」

「はい!//師匠(ちちょう)//」


まぁ何ともお優しい事である。

そして、エリアスは家に帰るのだが、悲劇が待ち受けているなど知る由もない。



………………………………………………………



家に帰り、明日からメアリも修行に参加する事を父と母に報告するエリアス。


「そうか!エリアスも遂に弟子を取れるぐらい強くなったか!!流石は俺の息子だ!!」


涙する父。


「強くなったかどうかは分からないけど、一緒に頑張ろうと思うよ」


そんな父とは対照的に、少し不機嫌な母。


「エリアスちゃん? メアリちゃんと修行始めるのは分かったわ。でも、だからって、お昼ご飯要らないってのはおかしいと思うの!」

「授業料として、お弁当作って来てって言ってあるんだ」

「!!?……お弁当はママが準備してあげる! ママが配達してあげるっ!!」

(しまった……ムスコンなの忘れてた)

「もう言っちゃったし、お弁当はいいよ!配達も!」

「ダメよーダメダメ!!息子の成長を見届けるのも母の役目!良い機会だわ!」

「!? か、陰ながら応援してよ! 見られてたら修行に集中出来ないしさ!」

「エリアスちゃん!見られたら不味い事でもするつもりなの!?」

「何でそうなるんだよ!」

「まぁまぁ、落ち着いて」

「パパは黙ってて!!!」


エスカーの胸ぐらを掴んで威圧する母。

椅子に腰掛け、目を閉じ、思春期の息子の気持ちと母の愛を天秤に掛ける母。

暫しの沈黙の後、突然、万遍の笑みを浮かべ、母は妥協案を言い放った。


「お弁当の配達はしません。

お弁当はメアリちゃんに任せます……

その代わりに」

「…ゴクリ……その代わりに?」

「家を出る前と、帰宅した直後。

大好きなママに、ハグとチューをしなさい!」

「!!?」

「ママを安心させて欲しいの……」


黙り込むエリアス。

(いや、無理だろ。しかし、この案を蹴ったら出口の無いトンネルに突入してしまう……

だが、今回、弁当を母さんに任せれば、今後、事ある毎に付いてくる可能性がでてくる……)


そして、覚悟を決めたエリアスは言った。


”悪しき流れは……此処で断つ!!”


「分かったよ、家を出る前と帰った時にハグとチューするよ。

母さんを心配させたくないから」

「ホントに!!?////」

「うん……」


その後、何故か朝一番のハグが追加された。


「朝食の前にハグ!」

「え!?」

「一日の始まりはハグから! さぁ!」

「…………」


…………………………………………………



「ん!? 美味しい! 女子力高いな!」

「エヘヘッ//」


村には、ボランティアで読み書きや計算を教えてくれる施設がある。

エリアスは、元々サボりにサボりまくっている訳だが、今日からは、メアリも不良少女となった。

早速、修行を始めたエリアスとメアリ。

メインは、魔力量を増やすメニューだが、回復系と状態異常系も覚えてもらう事にした様だ。

2人でコソコソ修行しているという情報は、同世代の女の子達の耳に入っていた。


「エリアスは私の事どう思ってるんだろ……」

「恋話っスか、熱いね〜」

「意外とイケるんじゃない?好きでもないのに毎日付き合わないっしょ」

「……そうなのかな?//」

「あの変わり者のどこがいいンスか〜? まぁ、顔がいいのは認めるっスけど」

「何か素っ気ないけど……実は優しいところ?……//」

「「…………」」


そんな話をしながらも、想いを伝えられずに1年が過ぎた。

お互い、16歳になる年。

進学するか、働くかを決めなくてはならない時期が迫っていた。


「エリアスは魔法学院に行くの? それとも、働くの?」

「うーん……分かんない。どっちでもいいと思ってる」


メアリは、魔法学院に行く事が決まっていた。

どちらでもいいと言うエリアスに、少しイライラしてしまったのだろうか、メアリの口から想いが溢れた。


”私達、離れ離れになっちゃうかも知れないんだよ?”


「私、エリアスの事が好き」

「……ごめん。そういうのじゃないから」

「…………ッ!!?」


泣きながら走り出してしまったメアリ。

メアリと一緒に居たいから修行に付き合ってた訳では無いのだ。

ただ、普通に接してくれた幼なじみとして、真摯に向き合っていただけなのだ。

それを勘違いして、告白するなど愚かな小娘である。


「私、勘違いしてたみたい……」

「撃沈っスか……ヨシヨシ」


友達の膝枕で慰めてもらうメアリ。

楽しかった修行の日々は終わった。今後は違う道を歩む事になるのだ、最後に言えて良かった。

彼女は、そう思っていた。


翌朝、何時もの様に早起きして弁当を準備してしまったメアリ。

(はぁ……何してんだろ。勿体ないから朝ごはんとお昼ごはんに……)


「おーい、行くぞー」

「え?」


何時もの様に迎えに来るエリアス。

まるで、昨日のやり取りなど無かったかのように。


その後も、何時もと変わらず修行に付き合うエリアス。

(もう、エリアスが何考えてるのか分からないよ……)

そんなある日の帰り道。

メアリは、もう修行は止めると伝えようとしていた。

日増しに強くなる胸の痛み、エリアスの何事も無かったかの様な態度は、メアリを苦しめ続けていたのだ。


2人は隣近所である。

いつもサヨナラする場所に着いた時、”じゃ! また明日な!” と言うはずのエリアスは、違う言葉を口にした。


「俺も魔法学院なんだ。引き続きよろしく!」


そう言って微笑んだのだ。

共に学院生活を送れる事を喜ぶメアリだが、何故、エリアスが魔法学院に行く事にしたのかなど知る由もない。

その理由は、転生した妻を探す為なのだ。

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