第1話 転生成功!
本編スタートです。
魔族と人間が覇権を争う世界だが、転生した村は平和だった。
目を覚ました元魔王は、見知らぬ天井を眺めていた。
と言うより、眺める以外の動作が出来ないだけだが。
「ったく、何時になったら動けるようになるんだ
まぁ、初めて転生した時の姿は二十歳位だったからな。
これはこれで新鮮だと思おう。
何より、無事に転生出来て良かった」
転生したのは、フュルトという村。
魔族の支配圏からは、かなり離れていて比較的平和な村だ。
自我が目覚めてから2日目、赤ん坊からのスタートを望んだが、愚痴がこぼれる。
本人はしっかり喋っているつもりだが、聞いている側からすれば擬音語でしかない。
素性を知らない者が見れば、可愛らしい赤ん坊。
それが、元魔王にして創造神の今の姿だ。
「しかし、激しい予知夢だったな……
あれって死んじゃったんじゃないのか?」
鮮明に思い出される予知夢は、何時か訪れる未来の映像を見せるのみ。
転生し、力を制限している状態では決して変えることのできない未来だ。
因みに、今喋っている私は、創造神に創り出されたメイド長 イザベラ。
創造神本体の命令以外は無視する様に設定されているので、この世界に転生した仮染めの創造神が何と命令を出そうが従う事は無いだろう。
「エリアスちゃん?」
転生した元魔王にして創造神の名前を呼ぶ声……
部屋の扉が開き、1人の女性が入って来た。
この世界の母 マリヤである。
そっとベッドを覗き込み、固唾を呑むマリヤ。
次の瞬間、寝たフリをするエリアスを抱き上げ、目覚めのキスをした。
それはもう、とてもとても激しく熱いキスだった。
エリアスは窒息しそうになり大泣きする。
「う、うぎゃゃっ!!うわぁーん!!」
「良かった……エリアスちゃん今日も生きてる……。
創造神グルナ様、今日も息子は生きてます。今後も懲りずに見守って下さい」
(何すんだよっ!今のキスで死にかけたんだが!)
安否を確認し安心したマリヤは、エリアスを抱きしめ、神に感謝する。
その神は、今、自分が抱いている赤子の本体であるとは夢にも思うまい。
「大丈夫か!?今、悲鳴が聞こえたぞ!?」
入って来たのは、父のエスカー。
天職は”騎士”、男前だ。
昨年まで、王国騎士団に所属していたようだが、結婚を機に退役した。
この世界では、必ずしも天職を職業にしなくてはならない訳でない。
一部を除き、殆どの者は幅広く選択する権利を有している。
なので、今は狩りと農業をしながら生活しているらしい。
「何だ、またチューしてたのか?嫌がってるじゃないか……」
「嫌がってないわ!嬉し過ぎて叫んだだけよ!将来は、私と結婚したいとも言ってたわっ!私は将来、この子のお嫁さんになるっ!!」
(……ムスコン?)
「待て!じゃあ俺はどうなる!?」
「執事としてなら同居を許可するわ」
「くっ……」
人が良く、妻に逆らえない父と、少し痛い美人な母。
創造神の愛すべき両親だ。
「エリアス、パパもチューしていいか?」
「……!?うぎゃゃゃっ!」
(俺は、元魔王で記憶も持ってんだよ!!男とチューなんてしたくねぇよ!!)
「エリアスは、パパとチューしたくないわよね(笑)
チューはやめて、ゴハンにしましょうね〜//」
そう、授乳である。
初日もそうだが、2日目も妙に緊張するエリアス。
しかし、何故だろうか。緊張するのは一瞬だ。
中身は大人だが、母の胸は温かく何とも良い匂いで心地良く感じるのだ。
赤ん坊の身体だからなのかは分からないが、その時間が病みつきになってしまうエリアスであった。
更に数日が経ち、手足を動かせる様になったエリアスは魔力のコントロールを行っていた。
この世界でも、転生輪廻は存在している。
そこで、創造神が手を加えたのは、生まれ変わる魂に”優遇”と”罰”を与えるシステムである。
良い行いをした者が転生する際には、平均より優れたステータスを、逆にとんでもない大罪を犯した者には、平均以下の哀れなステータスを授けるものだ。
この様に、先天的な要素に左右されるスタート地点だが、最終的な到達点は、産まれてからの過ごし方も大いに関係する。
二足歩行にも進化していないエリアスに出来る事は、魔力量の限界突破とコントロールを身に付ける事なのだ。
昼寝の前に限界まで消耗し、死んだように昼寝。
夜、寝る前も同じだ。
環境制御術式で室内を快適な状態にしてみたり、隠匿魔法を組み込んだ魔力時計を常に表示していたりと、赤ん坊の状態で少ない魔力だが両親にバレないよう、細心の注意を払い酷使し続けたのだ。
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それから6年の歳月が過ぎた。
妹が生まれ、更に賑やかになっていた。
まだヨチヨチな妹が可愛くて仕方無いエリアス。
妹の面倒を見るのも楽しいが、エリアスには勇者となり魔王を倒すという目標が有る。
同年代の子供達が隠れんぼや勇者ごっこをして遊ぶ中、エリアスは朝早くから筋トレやランニングを始め、昼食を済ますと森へと入って行くのだ。
「おい!お前、頭おかしいんじゃないか!?森に入って何してんだ!言え!」
「お前、魔族なんじゃないのか!討伐するぞ!オウ!コラ!」
「やーい!魔族!魔族!」
「…………」
(寄って集って……子供って残酷だな)
近所の子供達には揶揄われ、大人達からは白い目で見られた。
勿論、それは両親の耳にも入っていた。
村では、エリアスの奇行が度々話題になっていたのだから仕方無い。
そんなある日。
「エリアス、少し話がある」
父エスカーは、夕食を済ませ部屋に戻ろうとするエリアスを呼び止めた。
食器を片付けたマリヤも、父の横に座っている。
「父さん、何?」
「聞きたい事があるんだ。
森に行ってるらしいな?魔物の出没する森に」
村には、魔物除けの結界が張られている。
それを抜ければ、魔物に遭遇するリスクがある訳だが、エリアスが行っている森には極小規模な”スポット”の存在が幾つか確認されていた。
スポットとは、局地的に魔力濃度が高い場所の事だが、厄介な事にスポットからは魔物が生まれてくるのだ。
幸いにも、森に有るのは強力な魔物を発生させる程のスポットではない。
だが、深刻な表情の両親。
そんな両親に、エリアスは直球を投げた。
「……うん」
「森に入る理由を聞かせてくれないか?」
「僕は、強くなって勇者になりたい!
だから、森で修行してるんだ……ダメ?」
「エリアス……父さんはな、王国の騎士として魔物の討伐もしていた。
それだけじゃ無い。魔族の領域で、様々な危険な任務にも参加してきた……
だから、これだけは言える……
弱いより強い方が絶対いいぞ!」
「そうよ!ママは強くなりたいエリアスちゃんを応援するわ!ね?パパ!」
「当たり前だ!パパとママは何言われても平気だ!頑張れ!」
止めないのか……と一瞬思ったエリアスだったが、自由にさせてくれる両親に感謝し、決して心配させないと心に誓うのであった。
部屋に戻り、ベッドで横になるエリアス。
目線の先には、小さな火球が浮かんでいる。
まるで吊り下げられた電球の様に微動だにしない火球、エリアスは火球を完全に制御しているのだ。
(威力を高めたら、次は圧縮して範囲を限定して……)
[エリアス〜、起きてる?]
窓の外から声が聞こえた。
見ると、居たのは幼なじみのメアリであった。
村で、エリアスに普通に接する唯一の同世代にして、エリアスの目標を知る女の子だ。
白くシミひとつ無い綺麗な肌、おっとりした性格は、ふわふわしたイメージを創り出す……
可愛いのか可愛くないのか気になる所だ。
はっきり言おう。
味のあるブスだ。
もう一度言う、メアリは”味のあるブスだ”
大事な事なので2回言ったが、味のあるブスとは何かと言うと、何処かがおかしいという事だ。
事実、可愛くはない。
だが、決して完全なるブサイクでも無い。どこかのパーツを少し何とかすれば可愛くなる可能性を秘めているが、今の時点では普通の人よりやや劣る感じで、見てても飽きない……憎めない……だが、何故か気になる女の子なのである。
「どうした?」
玄関先で会話を交わす2人。
「エリアスのパパとママ、声が大きいから聞こえちゃって」
「勇者の話?なぁ、メアリは正直どう思う?俺、勇者に成れると思うか?」
まぁ、転生する際に”天職 勇者”を設定したので、確実に勇者になるのだが。
「成れるよ!勇者様かっこいいし、エリアスは勇者似合うと思う!かっこいいし!」
「おい、ちょっ……」
真っ赤な顔で走り去ったメアリ。
その後も、メアリは事ある毎にエリアスに接近するのだ。
ヒロインには程遠い容姿の幼なじみ。
今後、2人の関係に進展はあるのだろうか……