第2話 俺は女の子だった!
俺が生まれ変わってから一ヶ月が経過した。
まあ、一ヶ月経つと身の回りのこととかが色々と分かってくるわけで。
しかし、まだ俺の置かれている状況を理解していない人もいるだろうから、最初は簡単に俺の置かれている状況をおさらいしておこう。
まとめるとこうだ。邪神との闘いで死んだ俺は、その後目を覚ますと何処か分からない空間で寝ていて、そこで俺は女神フローラと出会うが、少し話したところで訳の分からない状態で空間に吸い込まれ、気付けば赤子に生まれ変わっていたと。そして運命の悪戯か、俺が生まれ変わった子は自分とヨメナの間に生まれた子だったというわけだ。
まあ、元からそうだろうとは思っていたが、この一ヶ月間でそれは確信に変わった。
というわけで、以上がツッコミ満載な俺が実際に体験した出来事なのだが……俺は自分で自分にツッコミたい。「自分の子に生まれ変わるのはいかがなものだろうか?」って。いや、またヨメナと居られることは嬉しいことなのだが、自分が自分の子に生まれ変わるって少し、いや、結構複雑過ぎではなかろうか。
いや本当に。うーん……なんだかなぁ。
蜜の濃い時間過ぎて、逆にこれ以上思い浮かばない。まあ、これ以上深く考えてもこの状況は変わらないだろうから、この事はこれでお終いにしておこう。
では気を取り直して次に行こう。と言いたいところだが、残念な事にそろそろ時間のようだ。それを分からせるように、俺の部屋の前が慌ただしくなった。
そしてついにはドアを勢いよく開ける音がした。
「シトレア様大丈夫ですか?!」
それと同時に、慌ただしいが女の子だからだろう。可愛らしい声が部屋に響いた。
そして無事な俺を見つけると、安心したように胸を撫で息を吐いた。
そしてゆっくりと俺を抱き上げる。そこでやっと彼女の顔が視界に入った。
艶の良いオレンジ色の髪の毛。その一部からは、可愛らしい狐耳がひょっこりと顔を出している。
そして今は見えないが、お尻にとてもチャーミングな狐の尻尾が生えているのも特徴的だ。
良い機会だから紹介しておこう。彼女の名はオシエ。
色々と察しはつくだろうが、彼女は亜人族の一種である狐人だ。そして俺の家のメイドだ。
メイドであるオシエの仕事は家事はもちろん、忙しいヨメナに代わって俺のお世話をするのも仕事の一つだ。但し、授乳だけは母乳が出ないオシエには出来ないため、それはヨメナの仕事である。
だが、稀にヨメナが忙しくて授乳できない時がある。胸が大きいせいか、ヨメナは母乳が出ないといった事には困らない。しかし、そういった時にはオシエがミルクを作って俺に飲ますのだ。
そして今日は丁度その日らしく、俺はオシエが作ったであろうミルクを、哺乳瓶を通して少しずつ飲み干していく。
そんな俺を、オシエは笑顔で見つめている。そんなにも直視されながら飲むのは恥ずかしいが、まだマシな方だ。ヨメナの時なんてもっと酷い。
生のおっぱいを吸うところをじっと見られるのだ。
しかも笑顔で。逆にこっちが申し訳なくなる。
そして俺は、この生活を一ヶ月している。そうしていると、だんだん分かってくるのだ。
ヨメナに自分がアキレアということがバレてしまえばややこしいことになることを。
だって自分の子が夫でしたとか、はい終わりとなるわけがないだろ!?絶対気まずくなる!!
そして俺は心に決めた。絶対にヨメナに俺がアキレアだとバレないようにしようと。
★
それから何日か経った夜の日のことだった。
「起きてください、シトレアさん」
寝ていると、頭上から不意に俺の名前が呼ばれた。
こんな真夜中に何事かと思いながらも重い瞼をゆっくりと開いた。
すると、そこには意外な人物が笑顔で小さく手を振って立っていた。美しい美貌を持っていることはもちろん、隠し着れない神々しいオーラを放っている。
さすがにここまで言うと分かるとは思うが、その人物とは女神フローラだった。
『こんばんは、アキレアさん。いえ、今はシトレアさんでしょうか。そこで寝ている二人に起きられては困るので、直接脳内に話しかけさせてもらっています』
『どうも』
俺もそれに合わせて心の中で返事を返した。今更驚いてはいられない。
『そろそろ今の生活に慣れた頃合いじゃないでしょうか?』
『あー、お陰様でな』
女神フローラは微笑した。
『反応を見るに私がわざとこう仕向けた事をご存知でしたか』
『当たり前だろ。俺が生まれ変わる前にあんな分かりやすい付箋貼られると流石の俺でも分かる。で、今日は何をしに来たんだ?この話をしに来たわけではなさそうだが?』
『シトレアさんのお察しの通りです。本日は貴方のギフトのことについてお話しに来ました』
『えっ?でもそれは三歳前後じゃ?俺はまだ生まれたばかりだぞ?』
『ええ、それは存じています。しかし、貴方には今伝えた方がいいかと思いまして』
『それは何故だ?』
そう俺が問うと、女神フローラは、微笑しながら『まだ内緒です』と答えた。しかし何故だろうか。嫌な予感がするのだが……
『では、私の用は済ませたので、そろそろおいとまさせていただきます。シトレアさんのギフトは私が消えた後に分かるようになっているので心配しないでください』
『わ、わかった』
『では失礼します。また何年かしたらお会いしましょう!』
そう言って女神はスッと行方をくらませたのだった。
女神が居なくなると、俺の脳内には、自分ギフト情報が送られてきた。ついでに俺の名前、性別年齢も脳内に送られてきた。
名前、シトレア・シルフォニウム。
年齢一ヶ月。
性別女。
って、えっ、女!?俺は女の子だったのか!?
突然のことに、俺は驚き過ぎてこれ以上何も言えなかった。その代わりといってはなんだが、ただ涙が自然に出てきている。
「うぅうう〜」
その泣き声が聞こえたのか、ヨメナはベッドから起き上がり、俺を抱っこしてくれた。
「大丈夫よ、シア。お母さんはここにいるからねー。よしよーし」
いつもはただ恥ずかしいだけだが、今の俺にとってはとても有り難い。
結局俺は、ヨメナの腕の中で慰められながら眠りについた。
次回の投稿は明日の今頃です。
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