2日目 姫岡衛
遅れましたが、ひっそりと更新です
「何処へ……行ってみようか」
母さんと一旦別れた俺は、島を……村を探索する事にした、のだが……。
この島の事を何にも知らないから……いや、正確には覚えてないから、何処をどう見て回ればいいのかが分からない。
ひとまず、母さんの言ってた《骸村》ってのがキーワードだな。そこから探索してみよう。
俺の事を知ってる人物に会えば、何か思い出すかもしれないし。
そんな事を考えながら、トボトボと歩いていると目の前に小さな家……いや、交番?のような建物が1軒、あった。
さらにその奥には普通に村がある。
あれが《骸村》か……。
俺はその交番(?)に誰か人がいないか、近づいて中を覗き込んでみた。
すると―――
「おわっ! びびび、びっくりしたであります! だ、誰でありますか!」
「ごっ、ごめんなさい! 驚かすつもりは無かったんです!」
突然、目の前に男の顔が現れて、その男が驚いて大声を上げた。
俺も咄嗟に謝り、頭を下げる。
少し息を整えて、その男の姿をしっかりと確認する。
……アロハシャツに短パン、頭にはサングラス。顔立ちは割と普通で身長は高め。半袖から除く腕は結構盛り上がっていて、なかなかの筋肉量だと窺える。色白な肌の青年だ。
「それにしても……貴方は誰でありますか? 初めてお見かけしたと思うのですが。あー、でも……いや、待てよ……? 何処かで会ったことありましたかね……?」
怪訝そうな顔をしてこちらを見つめながら、「うーん」と唸るお兄さん。
そんな様子の彼に、俺は答える。
「えっと……すいません。僕の方から言える事は、覚えていないという事だけで、もしかしたら以前お会いしたことがあるかもしれませんね」
「覚えていない? ……あの、お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「あ、ああ。すいません、自己紹介が遅れました。僕は“青海 海斗”。以前この島に住んでたらしい者です」
俺は簡潔に、そう答えた。
すると、お兄さんの顔つきが一気に強張った物となり、一瞬だけ場の空気が凍りついた。
「―――青海……」
一言。
そう零したと思いきや、すぐさまその表情を笑顔に変えて、お返しの返事をしてくる。
「……ワタクシ、この島で唯一の警官をしております、名を“姫岡 衛”と言います! 昔からよく苗字が女みたいだと馬鹿にされてきましたが、こう見えてもワタクシかなりの筋肉を持っていまして!」
姫岡と名乗った警官は、筋肉の引き締まったその腕をパンパンと軽快に叩きながら見せつけてきた。
「あ、ちなみにしっかりと島外にて公務員試験の方を受けてきましたので、しっかりと……ほら、この通り! 国家直属の特別警官なのでありますよ!」
そう言いながら姫岡さんは、短パンのポケットから一枚のカードを取り出した。
そこには、『姫岡 衛/22歳/男/―――/勅命により、骸島の警備を任命する。』と。
色々書いてあったのだが、ピックアップして分かりやすくしたのがこんな感じだった。
勅命……って、天皇直々の命令ってことだよな……?それって、相当すごいんじゃないか?
「あれ……でも」
俺は一つだけ疑問に思い、それについてを聞こうと、そう切り出した。
「?」
「確かさっき、“この島で唯一の”って言ってましたよね?」
「はい! ワタクシ一人が、この島の警備を担当しております!」
「でも……こんな広い島を、一人で?」
「あー、いや、違うのですよ。実は人がいる領域が、あそこに見える《骸村》だけでして。そこの警備と、問題解決に取り組んでいるという事なのですよ」
そう言いながら姫岡さんは、眼前に見える村を指差していた。
「それより、海斗さんはどうしてこの島へ?」
「……それは……」
一瞬だけ、言い淀んでしまった。
が、すぐに答える。
「―――俺の記憶。記憶が目当てだ」
「記憶……」
俺の言葉を繰り返すように姫岡さんはそう呟いた。
いつしか敬語を使おうとしていた思考もキレイさっぱり消え去っていた。
「《祟様》とかいう神様に喰われちまったらしい俺の記憶を、取り戻したくてな」
「何でですか?」
「―――ある少女の声が、時々頭に響くんだ。それが誰の声なのか、どうしても知りたくて……」
「それは何故……?」
「純粋に何故俺が生贄として差し出されたのか、祟様とやらは何故子供の“記憶”を喰うのか、そしていつまでも脳内に響くあの子の言葉の意味は何なのか……失った空白の記憶を全て取り戻したくてな……」
俺は今の思いを、ありったけ言葉にして姫岡さんに伝えた。
姫岡さんは、とても神妙な面持ちで俺の話を聞いてくれていたが、やがて口を開いた。
「―――この島には、少女と呼べる存在はとても少ないです。島外からやって来た方で、女性の方なら何人かいらっしゃいましたが、島民の女性……それも少女となると、10人……いや5人前後だった気がします」
5人前後……?
母さんが言っていた“廻星 向日葵”とかいう子を除けば大体4人前後ってことか。
それに他にも気になる事を言っていたな。
俺達の他にも、島外から人が演ってきているのか。
「その子たちの名前は分かる……りますか?」
俺は突然思い出したように敬語に戻す。
が、姫岡さんはそれに気づかず、ツッコまず……。俺の質問に答えようと、指を折って数えていた。
「あぁ、はい! 分かりますよ!」
ッ!これはかなりデカイぞ……まずは一つの目標が達成出来るかもしれないんだから!
「一人目は、“神焔 紫苑”。確か年齢は15歳で、高校一年生くらいだったかと。黒髪ツインテールで、胸は控えめ。身長もちっちゃい、昔からかわいい女の子ですよ!」
“カムラ シオン”……。
俺は心のメモ帳にしっかりとその名をメモしておく。
そしてさらに続く姫岡さんの言葉に耳を傾けた。
「二人目は、“天咲 椿”。年齢18歳で、かなりスタイルの良い和風美人さんですね。この島では巫女さんをしていて、かなり胸が大きいのでこの島のエロ爺さん達からかなり卑猥な目線を送られていて困っているとかなんとか……」
“アマサキ ツバキ”。
18歳ってことは、一つ年上か。
って言っても、俺も今月末で18歳になるから実質同い年だな。
ってか、エロ爺さんって……。なんか話を聞いただけで守ってあげたくなってしまったな。
……巨乳が目当てな訳じゃないぞ!
「三人目は、“廻星 向日葵”ちゃん。多分、君とは一番関わりが深いんじゃないかな? お母さんから聞いていると思うけど、青海家と廻星家はお隣さん同士だったからね。あんまり深く話しちゃいけないって、村長の“骸刃”さんから言われてるから、ワタクシからはあんまり言えませんがッ!」
出た、向日葵……。
しかも、俺との関わりが深いだって……?
やっぱり、この人も俺の事を知っている。
しかし、今出た言葉……“村長の骸刃が口止めをしている”。と、いうことはやはり知られたくない事があるという事、だ。
やはり俺は、この子に会うべきなのだろう。
俺の直感がそう告げている。
「えっと、四人目は、“光火 撫子”さん。ワタクシと同年代なのですが、かなり頭のキレる方で、スタイルも良く、クール系といった方ですね。胸の方は椿ちゃんほど大きくはないですが、大人の女性としての魅力を放つ分には申し分ないくらいのサイズはあると思いますよ」
……この人は変態なのか?
胸の事を必ず言っているぞ。
“ヒカリビ ナデシコ”、だな。
これもしっかり覚えておこう。
「五人目は、“聖光院 凛”様。この御方は、15歳なのに女王様のような御方で、かなりのSですね。こういう喋り方で話さないと殺されそうになるんですよ。……まああとはお胸様が非常に大きくてですね、椿ちゃんとタメを張るか、それ以上の物は確実にお持ちですね」
……“セイコウイン リン”か。
なるほどな……ドS、と。
「多分これが最後になります! 六人目は、“神崎 白音”ちゃん! 18歳で、椿ちゃんと中のいい聖女様みたいな女の子です! まるで天使……そう言うしか表現できないワタクシの語彙力……情けない……であります」
“カンザキ シロネ”だな。
天使……か。
これは是非一度お目にかかりたいモノだ。
「あとはまぁ、“不月 暗夜”ちゃんっていう、9歳の女の子が居ますけど、まあ少女……なんですかね? どっちかって言うと幼女……? まあ、そんな感じであります!」
“フヅキ アンナ”……まあ姫岡さんの言う通り、その子は違いそうだけど、一応忘れないように覚えておこう。
「多分、この時間帯なら皆村に居ると思いますから、是非行ってみては如何でしょう!」
「ええ、もとよりそのつもりでしたから。それでは僕はこれで―――」
俺は姫岡さんにお礼をして、この場を立ち去ろうとした、その時だった。
「―――待って! 待ってよ! “カイトくん”!!!」
そう、彼女に呼び止められたのが、彼女……“廻星 向日葵”との最初の出会いだった。