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0日目 プロローグ

新作投稿開始。

是非拡散のほど、宜しくお願い致します!





 『昔々、この島には《祟様たたりさま》という、それはそれは恐ろしい神様が住んでいました。』



 『祟様は善人には天佑てんゆうを、悪人には天罰てんばつをそれぞれ与えました。』



 『ある日祟様は、島に住む一人の少年を捕まえてこう言いました。「お前は我の贄となるのだ。まずは貴様を食ってやる。」と。』



 『それを見ていた島の大人は言いました。「その子は何も悪い事をしていないと思います!どうか、どうかご慈悲を!」と。』



 『祟様はそれを受けて、仕方ないと交換条件を出してきました。それは毎年、島の人間から一人、それも子供の、《記憶の欠片》を差し出すこと。今年はこの少年の欠片を頂くこと。島の大人は祟様を恐れ、それを了承してしまいました。』



 『以後、島の人々はこの行為を「生贄の儀」、贄とされる子供のことを「供物」と呼びました。』









「それが今から100年以上も昔の話。こうして今もなお、このお話は語り継がれているんだ。今じゃ“まじない”なんて呼ばれてるけどね」


「……なんでそれを今、俺に話すの?」


海斗かいと、それはね……。今年は、オマエだからだよ―――」


「今年は俺?」



 純真無垢な少年は、自らの父親にそう聞くが、父親はその瞳に涙の膜を張りながら、ただ無言で頷き、そして―――




 ―――祟様への生贄として、自分の息子を差し出すのだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 俺の名前は青海あおうみ 海斗かいと。東京都内の高校に通う、ごく普通の男子高校生だ。



「海斗〜、起きなさ〜い! そろそろ学校へ行く時間よー!」


「はーい、母さん今行く〜」



 寝起きの俺は、母さんの呼びかけに気怠そうに返事をし、身支度を始める。


 高校3年生になって、約4ヶ月。今日は7月23日、月曜日だ。俺の通う学校の終業式がある日。


 ようやく幕を開ける初めて(・・・)の夏休みに胸を躍らせながら、制服へと着替える。



「早くご飯食べなさーい!」



 母さんの呼ぶ声がさっきより大きくなってる。早く行かないと。


 俺は手早く学校へ行く支度を済ませた後、急いで階段を駆け下りた。



「あっ、来たわね海斗。ほら、サクッと食べられるパンにしたから、早く学校行きなさい。遅刻するわよ」



 時計を見ると、針はちょうど8時20分を指していた。

 家から学校までかかる時間は、俺の全力疾走でも大体20分くらい。学校の校門が閉められる時間は8時45分だから……



「ヤベッ! 5分しかねぇじゃん!」



 急いで、目の前の朝食を平らげる。

 フードファイターもびっくりのスピードで食べきり、急いでカバンを持った俺は玄関へと走る。



「母さん行ってくる!」


「はいよ。あー、海斗。帰ってきたら話があるから、予定開けときなさいよ」


「了解! 行ってきま〜す!」



 バタン!とうるさくドアを閉め、学校へ向かって全力疾走をする。

 向かう途中、何個も『信号』という難敵に遭遇するも、何とか学校へと辿り着く。



「急げぇぇぇぇ!」



 先生が校門を閉めようとしている。

 しかもその先生、体育科の鬼島先生じゃねぇか!遅れたら、放課後説教コース確定だ……。


 その焦りがパワーとなって、俺の走る脚はさらにそのスピードを上げる。



「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」



 ギリギリ―――セーフだっ!

 何とか校門に入ることが出来た!


 これで説教回避……。

 っしゃ!と俺は喜びを隠しきれず、ついガッツポーズを決めてしまう。


 が、そこに鬼島がやってきて、



「おい、青海。今回は許すが、お前次やったら居残りで補習受けさせるぞ」



 なんて言ってきた。だが、俺は気分が高揚していたので、



「センセ、今日で夏休み前最後なんで、そのはしばらく来ませんよ〜!」



 とか調子乗ったことを言いながら教室へと走って行ってしまった。

 走りながら、地雷を踏んだことに気づいた時は汗が滝の様に流れてきて、焦ったな。


 まあ、ともかくだ。俺はギリギリ遅刻せず、終業式に間に合ったわけだ。




 そこからは特に語ることも無く、平和な時間がただ過ぎていくだけだった。



 しかし、俺はその静けさが逆に、怖かった。

 こういう時、人は『嵐の前の静けさ』と言うのだろうか。とにかく何かが起こる気がしてならなかった。普段感じたことの無いような妙な静けさが、全てを物語っていたから。それは今朝、家を出る前に母さんに言われた『話』の内容のような気もして。


 まあ、それが今の俺に分かるはずも無いのだが。



「えー、それでは皆。高校生活最後の夏休みを楽しむように! 解散!」



 元気よく、先生は俺たちを帰した。

 俺は、人生で最初で最後の夏休みを楽しむべく、急いで家路につく。


 とっとと母さんとの話を終わらせて、友達と遊ぶ為だ。


 朝来た時と同じように、超スピードで走り抜ける。そしてあっという間に、自宅へ到着する。


 バタンと勢い良くドアを開け、大きな声で「ただいま」と叫ぶ。

 すると、タイミング良く母さんが玄関に居た。



「あら、もう帰ってきたの? じゃあ、手を洗ったらこっちへ来てね」



 そう言って母さんはリビングへと消えていった。

 俺は言われた通り、カバンを肩にかけたまま手を洗い、ついでにうがいもし、母さんに続いてリビングに入る。


 と、そこにはソファーに座ってこちらを見つめる母さんが居た。



「それで、話って?」



 俺は反対側の床に座りながらそう聞いた。

 空気が、重い。一体何の話なのだろうか。



「―――父さんが、死んだわ」


「え……?」



 父さんが、死んだ?

 俺は母さんから、唐突に放たれた言葉を繰り返す様に、頭の中でその言葉をリピートした。





 俺と母さんは、今から大体一年前にとある島から都会へと引っ越して来た。その時の両親は、酷い喧嘩状態で、とてもじゃないが一緒に暮らすなんて事は難しかった。


 父さんはその島に残り、母さんは島を出ることに決めた。残るは俺のみ。悩んだ末に、母さんに着いていく事を決めた俺は、今こうして都会で平和に暮らしていた。


 何で母さんを選んだか。理由はたった一つだけ。

 あの島……《骸島むくろじま》には《祟様たたりさま》という、誰も見たことの無い神様の様な存在が居て、毎年その祟様に、島民から一人、18歳以下の子供を生贄として捧げるのだ。

 そして、祟様は生贄として捧げられた子供の《記憶の欠片》を喰い、その年の島の安寧を保証する……こうして骸島は約100年もの間、歪んだ平和に包まれていた。


 去年の夏、俺は島の長からの命令で、祟様の生贄となることが決まった。母さんはもちろん反対したが、父さんは祟様の呪いを恐れ、俺を生贄として差し出したのだ。


 それがきっかけで母さんたちは大喧嘩。生贄にされる儀式が終わった後、俺と母さんは逃げるように島を出た。


 島を出てすぐ、俺は意識を失い倒れてしまったようで、気づいた時には新しい家……今住んでるこの家に居た。


 そして意識が回復した後、記憶の無くなった俺に母さんは全てを話した。

 正直、記憶が何も無いのだ。目の前に座るこの女性が、本物の母さんなのかも、俺が昔、骸島に住んでいたのかも、何もかも分からない。


 だが、信じるしか無かった。

 記憶を無くした直後の俺が選んだ、この女性かあさんと、そして何よりも俺自身を。



 そして今、母さんが言った。「父さんが死んだ」と。

 別にどうでもよかった。誰が死のうが。でも、その話を聞いてから、無性にあの島に帰りたくてしょうがない。


 それは記憶を取り戻したいから、という理由が大半を占めていた。それに……




『―――約束だから……記憶が無くなっても―――』




 うっ……まただ。いつも、骸島の話が出ると、この言葉が頭の中に響く。



 ―――少女の声。



 これは、俺の記憶なのか……?もし、そうなのだとしたら、何故この言葉だけが俺の記憶に残っている……?



「それで、ちょうどアンタも夏休みになるし、一ヶ月だけ、あの島に帰ろうと思うんだけど。アンタも行く?」



 島に、帰る?……もし、これがチャンスなのだとしたら。俺の記憶を取り戻せるのだとしたら、あの言葉の真実を確かめたい。ずっとこのまま、モヤモヤした気持ちのままは嫌だ。


 そう思った俺の頭の中からは、友達と遊ぶだとか、最初で最後の夏休みだとか、そういう考えはキレイさっぱり消え去っていた。



「分かった。俺も行く」



 俺は母さんの問いに、すぐ答えた。

 もう、今すぐにでも行きたくてしょうがなかった。まるで、何かに取り憑かれたように。



「了解よ。じゃあ7月31日……今から大体1週間後に出発するから、それまでに準備を済ませといてね」



 こうして、俺の実家帰省……改め父の墓参り……改め俺の記憶の真相を確かめるべく、骸島へ一ヶ月の滞在が確定したのだった。

ブクマや評価等も是非宜しくお願い致します!


今作は週1更新になります。

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