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鬼が居る明日  作者: 月曜放課後炭酸ジュース
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第三話


 次の日。


 僕と結乃はいつもと違い、時間ギリギリに学校に着いた。

 なんていうか重い足取りになっていたからな……仕方がないと言えよう。


 そして重い足取りで、重い手つきで教室の扉を開けたら、なんとそこには赤倉がいた。

 僕達を待ち構えていた様な様子で。


 そしてその赤倉は結乃に抱き着いた。


「おはよー! 結乃ちゃーん、今日も可愛いねぇ〜!」


「うあ……赤倉……さん?」


「そうだよ〜、あ。そしておはよう竜二!」


 赤倉は僕にも抱き着いてくる。

 結乃と僕に同時に抱き着いてくる。

 もう一生レベルで会えないかと思っていた赤倉が普通に学校にいて、僕達に抱き着いてきてるのだから、頭は「??」で埋まる。


 慌てふためいている僕達を見た赤倉は満足したのかニコッと微笑んできた。

 そして僕達に小声で言ってくる。

 抱き着きながら、言ってくる。


「あのね、私──反国家組織の一員になりました〜!」


「は??」


 他の皆には内緒だよ──と赤倉は笑ってくる。

 いや言えるわけないだろ。言える奴いたら怖いわ。


「いやぁ、二人にはあれやこれやと重大な秘密があったんだね。はっはっはー。私、師匠に全部聞いたんだからね──ってな訳で、これからよろしくね。二人共!」


 片手ずつ僕達に差し出してきた赤倉の手を僕達は素直に握り、苦笑いなってしまってたけど笑ってみせた。


 ──赤倉と任務をこなす物語はまた別の物語だ。


 *──*


 赤倉が普通に平然と学校に来た日の放課後。


「鬼ってのはなぁ、元々悪い怪物ではないんだ。鬼を神だって、強いものだって崇めている地域だってある。これは少し言い過ぎ感もあるが『鬼は内、副も内』という思想の人だって、少なからずいるんだからな。悪いイメージが定着したのは、能楽のせいだ。能楽が鬼という存在を人の悪霊とか地獄の者としてやったからだ。扱ったからだ。扱われると人々は鬼をそう思ってしまう。勘違いをしてしまう」


 まあつまりは正義の者の鬼もいるって訳だ。

 逆にそっちの方が多いのかもな──と重重しい声で師匠。


 因みに鬼は化け物の部類には含まれていない。

 あいつらは怪物だ。

 何故なら人間の成分がどこにも含まれていないからだ。

 理由はそれだけだ。

 結乃みたいに少しでも人間の成分が入っていれば、それは化け物となる。


 まあここではあまり重要な定義付けではないから、忘れてしまっても構わない。


「えっと、じゃあ赤倉は正義を願ったから、鬼がやって来て赤倉の事を酒みたいに呑み込んだと? ──つまりはそういうことですか?」


 室温十四度の師匠のマンションで僕と結乃は正座をしながら、師匠から今回何故こんなことになったのかを詳しく聞いていた。

 師匠は僕の言葉を聞くと五十点だな、と言ってくる。


「赤倉がそう願ったからってのもあるし、鬼が赤倉の正義感を感じ取ったってのもあるが──それより赤倉 めぐの『赤倉』って部分が鬼を必要以上に引き付けてしまったのだ。名前の力と言うべきだろう。これは」


 んん? 僕は訳も分からず、頭を横に傾けてしまった。


「頭が悪い竜二は放っておいて、結乃は意味が分かったんじゃないか? 師匠である私の話を理解出来たんじゃないか?」


 その言葉に結乃は静かに頷く。そしてボソッと呟く。


「鬼神伝説──恐らくそうですよね」


「あぁ、そうだ。それだよ──流石結乃だ」


 ──やっぱり読書をしている奴の方が多種多様な知識を持っているなぁ、と師匠は嗤ってくる。


「鬼神伝説。その伝説をざっくり言うと、とある男が鬼と出会って、すぐに枯れる水田を救ってもらうって話なんだ。その助け方は堰きを作り、水を引いて水田を潤すという方法なんだ。まあここまでは本当にどうでもいい部分だ──重要なのは、その男が鬼と出会った場所なんだ。その鬼が元々居た場所なんだ。その場所の名は岩木山中の『赤倉』だ。鬼は赤倉という懐かしの名前に惹かれて赤倉 めぐの所に向かった。向かってしまった──出向いてしまった」


 だから彼女は出会ったんだ。

 『鬼』とな──と師匠は鼻で笑った。

 それから師匠はああそうだ、と急に話を変えた。


「昨夜、彼女を保護した後。赤倉に『お前の中に残っている、封印した鬼を消すか、それとも共存するか』と聞いたんだ、問うたんだ。まあ私はどうせ消したいって言うと思ったんだ。普通の人間はそう言うからな。だが彼女は違かった──『生きたいです……明日を鬼と共に……』って言ってきたんだ。お前らも面白いけど、お前らの周りもやーっぱり面白いことになってるな。本当に強い子だよ、あの子は」


 その後、僕と結乃は感謝を言ってから、師匠の家から出て行った。

 師匠の家から帰る途中で僕は結乃に問う。


「なぁ、結乃。僕はお前の──取り留めのない明日を守れたか? 弱い僕でも結乃の手伝いが出来たか?」


 今の僕は本当に心が傷んでいるのだろう。

 こんなことを結乃に直接目の前で聞いてしまうのだから──恥ずかしいというより、男として自分が情けない。こんな風にめそめそしているのも。

 自分の心が傷んでいると勝手に決め付けて言い訳しているのも。


 その唐突な問いに、結乃は笑ってくれた。少女らしくふふっと。


「今回もありがとうございました。守ってくれて……椴松さん」


 予想の二百倍素直な結乃に僕は驚いて、ときめいてしまった。これがギャップパワー……ギャップ萌えというやつか!!


「あ……あぁ! 僕は結乃の相棒だからな。そう言ってもらえると嬉しい!」


 ちょろいな──って思われてるな。

 これは。


 いやしかし本当に彼女の笑顔を見るためなら、僕は明日も僕の命をかけられる。

 易々とぽんぽんと──けどまだ死ねない。

 僕が死んでしまったら、僕の中では結乃が泣いてくれる予定だからな。そしたら見られるのは笑顔じゃなくなっちまう。

 見たいのは笑顔だ。

 よし明日も頑張ろう、椴松!


 明日を生きていく道理なんて存在しない世界だが、明日への期待と結乃の笑顔で前を向こう。

 明日も生きよう。


 *──*


 あの結乃と椴松の馬鹿コンビが前に来たのは三日前ぐらいだ。

 赤倉の事件を解決したら、すぐに来ると思っていたが、予想外に早くて驚いた。


 私はソファーに寝転びながら明日の世界のことを、真理のことを考えては可笑しくなり、怖くなり、大笑いをしてしまった。


 ──この様子じゃあ……私がメインの事件が起きてしまうかもしれない。

 そろそろ私の物語も始まってしまうかもなぁ。


 と思っていた時、私の家に誰かが入ってきた。

 今日は結乃に食料の購入を命じていたから、きっとそのお届けだろう。

「師匠、結乃です。頼まれていた物、しっかりと届けに来ました」


 と言って結乃は私のソファー近くに食料を置く。きっとコンビニのご飯とかだろ……ん?

 なんだこのとてつもなく漂ってくる良い匂いは。


「今日は椴松さんが師匠のためにご飯を作ってくれたんで、一応それを持ってきましたが、これも食料としての判断で良いですよね?」


「……あぁ。その判断で大丈夫だ。椴松の料理は美味いから逆に有難いな。……じゃあお前に渡しておいた食料代を返してくれないか?」


 私はソファーから起き上がらずに、結乃に手をひらひらとさせた。

 お金の返還を要求した。

 しかし私の手の上にはお金が乗ってこない。びた一文も乗ってこない。

「いやあのお金は椴松さんが食事を作った料として貰ってしまいましたよ」


 私はそれを聞くと、上司のお金を迷いもなく貰う竜二の面白さに腹を抱えて笑った。笑い尽くした。


「あぁ、やっぱり面白い」


 よし。

 ここで結乃を弄り、もっと面白くなってやろう。


「なぁ、唐突の問いで悪いんだが、結乃は竜二のことが大好きなのか? 異性として」


 私は嘲笑う様に、竜二に聞いた質問と同じ様に結乃に問うた。

 まあどうせ好きじゃないんだろうけどな──結乃だしな。

 人を好きになるなんて有り得ないだろ。

 こいつが。


 私の言葉を聞いて、結乃は笑った。

 少女らしくふふっと。


「はい、好きですよ。友達としてじゃなく異性として。いつかは付き合いたいですし」


 それ程には大好きですよ──と結乃は言ってくる。


「それでは私は帰りますね」


 と言って、結乃は私の部屋から消えてしまった。

 はは、ははは、はははは。


「──やっぱり……面白いな」


 結乃の恋の始まりに私は拍手を捧げた。

終わりです!読んでいただきありがとうございましたー!

次の物語もお楽しみに!

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