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 何を信仰するでもなしに、救ってくださりそうなものなら、誰彼構わず願った。

 寺へ行って、神社へ行って、神様仏様に願った。


 本当に夢の中の人に比べたらば、奈良の都に存在している君は、よっぽど近い人であるのだ。

 全く住む世界が違うとは言ったけれど、生きている世界は同じなのだし、立っている地面も照らしている太陽も、同じものであるのだ。

 煩悩があり、欲望があり、悟りを開こうと修行をし、けれどその中で恋に落ちてまた遠ざかる。


 愚かなる人間らしさというものを、いくら君であるとも、持っているはずであるのだ。

 彼女が恋した相手が僕であるとは限らなくとも、彼女とて恋はしているはずであるのだ。

 僕と君とは、見ているものが違っていても、根本は同じ、人間であるのだ。


 お願い。たった一度だけ、夢から醒めたその場所で、君と話をしたいんだ。


 奈良へ走って行ってしまおうか。

 強引にでも、その後すぐに罰せられてしまうとしても、叶えられさえすれば……達成されさえすれば関係ない。

 それくらいに思って、衝動的に動けたなら。


 しないことが正しくて、そうなってしまうことは悪で。

「今すぐ鳥のように羽搏いて、君に会いに行けたなら」

 目に見える場所にいるのに、手を伸ばしたところで、届いてくれることはない。


 近い。だけど遠い。

 矛盾した距離感の中で、僕は狂い出してしまいそうだった。

 仕事なんて手に付かなくて、発狂して、今すぐどこかへ駆け出してしまいそうだった。

 それを抑えたのは、これまた君を想う気持ちであるのだから、矛盾は果てない。


 禁欲はしていたのだが、それだのに、今更になって欲望が溢れ出してしまっていた。

 もしかしたら、反動で溢れてしまったということもあるかもしれない。


 意外なほどに欲張りだった僕に、苦笑が零れてしまった。

 こうも願いが増えてしまっていくとは思わなかった。


 貪欲になってしまうことは、愛の力なのだろうか。

 愛の力と纏めてしまえば、ロマンティックにも思えるようだけれど、そのセンスは残念なものだと自分ですらわかってしまうものであったから、苦笑が更に重ねて零れた。


 都の人とはセンスのある人で、即興で上手い歌を、とびきり知的で文学や文法、技法も踏まえた最高の歌を、作れるような人であるのだ。

 生まれつきの英才教育を受けているから、都人というのはそういう人であるのだ。

 もし仮に僕が都へ行くことが許されて、万が一に運良く彼女の屋敷に就職をしたとして、それが可能だったとして、どのように彼女と接触するだろうか。


 どこまで運が最高潮だったところで、僕に才能がないのだから、どのようにもならないことだろう。

 やっぱりこんな僕では、君と会うなど無理な話だったのだ。



 それならいっそ醒めない眠りに……

 だって夢の中でなら、もっと自由に君と会えるから。


 君と、会えるから。



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