壱
時々、話が噛み合わないとは思っていた。
何も知らない君のことを不思議に思っていたのだ。
「どうして地面に棒を突き刺しているの?」
「畑を耕しているだけだよ」
「お野菜って地球が生まれて来るのね」
「おらが育ててるんだぞ」
育てるの意味さえ、彼女は知らないようなのであった。
恐ろしいほどに何も知らない彼女に、普通であれば知っているはずである彼女に、違和感は覚えていたのだ。
そうは思っていたのに、気付けなかった。
僕の畑に天から舞い降りてきたのだろう。
いつの間にか、消えてしまっていた。
「さようなら。もう帰るわ」
寂しい顔で、寂しい言葉を残して。
わからなかった。
そうきっと、何もどれもわかっていなかったのだ。
あまりに美しかったものだから、夢なのだろうと考えた。
夢の中で、天女が僕にお言葉をくれたのだ。
届けられた素敵な時間を楽しんだのだ。
終わってしまったからこそ、傍で見ているときよりも、もっと冷静になっていて……夢だった、その言葉が大きく僕に浮かび上がる。
夢だったそうに違いないのだ。
夢だったそうに違いないのだ。
それからしばらく。
僕の家で見つかったのは、香しい手紙、君の香りのする手紙なのだった。
文字は読めないけれど、君が存在していたことの証明とはなる。
何を伝えようとしてくれていたのかはわからないけれど、この香りは君の香りであるのだ。
初めて、文字が読めるようになりたいと思った。
しかし彼女はやはり賢い人であって、僕とは生きている世界が違っているのだということも、痛いほどに思い知らされる。
天ではなくて、都からやって来た人なのだろう。
存在しているのに届かないだけに辛いのだ。
存在していないよりも反対に辛いのだ。
僕がもっとみやびになって彼女を迎えに行けたなら………………