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記憶の欠片 〜ゼロ〜

 


 何も見えない暗闇。

 光は差さず、辺りにものの気配はない。


 私は目の前の重い二つの扉を開いた。

 ……すると見えたのは、なぜか天井。

 私に差す横日が妙に眩しく、目を細めた。



「気が付きましたか?」



 声はすぐ左隣から聞こえた。

 ベットで仰向けになっていた私は重たい体を起こした。

 開けられていた窓から吹く爽やかな風が、声の主である女性の黒髪を靡かせる。

 彼女は微笑んでいた。



「ここはどこで、あなたは?それに私は……」


「記憶操作をしても、状況の理解がつかないのは無理もないですね……。何せ、幾千年の時を超えてきたのですから」


「一体、貴方は何を言っているのですか?」


「ようこそおいでくださいました、私の御先祖様。お逢い出来て光栄です」



 その女性は、本当に嬉しそうにそう告げた。




 ※ ※ ※




 4853年、日本。

 約3000年前、太平洋戦争に負け戦敗国となったこの国に日本は、時の経過と共に次第に発展し、今では戦勝国に劣らないほど豊かな国を形成した。

 しかし、人々は時が経つにつれてこれまでの国の政策に不満を持ち始めた。

 さらに、近頃経済は伸び悩み大きな経済成長が終わりを迎えようとしていた。


 そこで国は、国の制度の方向転換を提示。

 今までの日本の主であった、『年功序列制度』の廃止。同時に新たな制度を定め巻き返しを図ることにした。


 その制度の名は『実力至上主義制度』。

 力の持つものは上に立ち、ないものは下に立つ。

 そして、上の者には良き報酬、下の者には悪しき報酬が与えられ、身分によって生活が大きく変わる。


 一見、日本が江戸時代まで行ってきた階級制度と同様に見えるが、これは似て非なるもの。

 江戸時代、百姓や穢多、非人の地位にいたものたちは、武士や将軍に対して歯向かうことは出来ない、絶対制度をとっていた。

 しかし、この制度はその点を改良。

 どの身分のものも、戦いは公平に執り行えるものとした。

 また、親族の関係で継がれていた身分の継承を排除。

 親と子が必ず、同じ階級にいるということはなく、あくまで実力で決めるものとした。



 この制度は、国が精査した後に承認され、施行されるものと思われていた。

 が、国民の不満の声が多く、制度の全面的施行を延期した。

 今、この国で行われている『実力至上主義制度』はあくまでも試験的導入で、本格的に施行されるのは六月一日とされている。

 つまり、丁度二ヶ月後に施行されるということだ。



「と、長々と語りましたがここまではよろしいですか?」


「『よろしいですか?』じゃないわよ!何が『実力至上主義制度』よ。いきなり今の状況話されても理解不能なんだけど」



 私がそう言うと、女性の方はクスッと笑う。



「それもそうですね」


「それよりも、一体どういうこと?私があなたの先祖だって……」


「あなたは今から約二千八百年前から来たお方で、私の……、何百代も前のご先祖にあたります」


「あのね……、そんなこと淡々と言われてもこっちは何のことかさっぱりなんだけど……。私は約二千八百年前の人間なの?」


「はい、間違いなく」


「でも何で、私はそこにいたって言う記憶が無いの?」


「諸事情がありまして、消させてもらいました」


「え、どういうこと?」



 私は間抜けな面をする。

 突然のタイムリープ、記憶の意図的消去。

 誰だって、突然そう言われると理解が追いつかないだろうし、言われたことの整理がつかずに……って、記憶消されてすっからかんの脳なのにね。



「この時代、あなたが生きていた世界の記憶があってもあまりに常識が違いすぎて、寧ろ混乱してしまいます。それに上からの命令があり……ってそのことを聞きたいんじゃないですよね」



 なんか、この人自分でツッコミいれちゃったよ……。

 そういうのは本来、私がすべきなのでは?




「この時代は、科学技術が目覚しい発展を遂げています。その成果の一つがこれなわけですよ」



 そう言って、見せたのは右手の甲。

 見ると一辺一センチの正方形型の、メモリカードのようなものが付いていた。



欠片(チップ)と言います。今まで空想の中でしかなかった、いわゆる魔法や魔術を実現可能としたものです。先程、話した通り『実力至上主義制度』が行われている今、この能力使用を可能とする欠片を一定の階級の人に配布しています」


「ということは、あなたはそれなりの階級なの?」


「えぇ。ですが、欠片(チップ)を持てる階級の中では最低に位置しますが」



 と彼女は少し声を暗くする。

 あまり、この話題には触れない方が良さそうだ。



「という話は置いておいて、私が所持しているのは改竄(かいざん)欠片(チップ)。改竄と言ってもできるのは、記憶の改竄、消去、植え付けのみ。物理的攻撃ができないこの欠片(チップ)は、今の制度では役に立つことは少ないです」


「あなた、私の記憶を元に戻すことは出来ないの?」


「復元も可能ですよ。ですけど今、戻したところで混乱するだけです。なので今はこのままで」


「分かったわ。でも記憶改竄できる欠片(チップ)ってことは、タイムリープは別の欠片でということでしょ?それもあなたが?」


「いいえ。残念ながら欠片は一枚の所持しか出来ません。ですので知り合いに頼みました。その人は今、用事があって出掛けています」


「そう」


「本題に入ります。あなたをタイムリープしたのには訳があります。それを今から説明します」


「うん」


「今行われている『実力至上主義制度』を廃止に追い込むためです」


「な、なぜ?」


「今まで作り上げた、友達などの人間関係はこの制度により無くなったも同然。自分より上の階級の人とはどうしても関わりづらくなってしまいます。ですから、この制度には反対なんです」


「その制度を廃止にするために、なぜ私が必要なの?」


「今まで生きてきた方のステータス等を検索中に、とても強い力を持った方がおられまして……。それが貴方様なのです」


「強い力……?」



 記憶を消されている以上、私が何をしていたのか、どういう人間だったのかというのは分からない。

 だから、強い力を持っていると言っても思い当たる節はない。



「あ、そろそろ時間ですね」


「時間?」



 彼女は、右腕の腕時計を見てそう言った。



「はい。突然ですが、あなたが目覚めてから今までの記憶は消させていただきます」


「え?なぜ……」


「理由は残念ながら機密事項でして……。しかしながら安心してください。再び記憶改竄して、この世界の一通りの常識などを書き込んでおきます。恐らく役立つことでしょう」


「ちょ、ちょっと……」



 私は、慌ててそれを止めようとしたが遅かった。

 彼女は私の頭に手を置き、唱える。



「『このお方に、良き幸あれ』」



 その言葉を最後に、再び二つの重い扉が閉められた。



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