勇者「ええっ!?ヒノキの棒と布の服だけで魔王を!?」
冒頭部分がやりたかっただけです。
読み進めても1000文字くらいで気力が無くなったのが分かるだけです。
なお、筆者は某漫画を読んだことも、ヒノキの棒と布の服で戦地へ送り出されるゲームをやったこともありません。
「できらぁ!」
広い広い謁見の間に、大声が木霊する。とても俺が出したとは思えない大声だったが、怒りからか、全く気にはしなかった。
「今、なんと言った?」
先程から分かりやすく挑発してくる文官が、これまた分かりやすい笑みを浮かべて聞き返してきた。
「よすのじゃ、勇者よ」
「いいんだよ、師匠」
15年間寝食を共にした師匠が止めに入るが、俺は止まらない。此奴は俺と、師匠の武術を馬鹿にしたのだ。
「ヒノキの棒と布の服で魔王を討伐出来ると言ったんだ!」
再度声を張る。うるさいぐらいに木霊した声に、文官はおろか、王や師匠までもが驚いたような顔になる。
「ふっふっふっ」
額に玉のような汗を浮かべ、若干青くなった文官はそれでも不敵に笑ってみせた。
「面白いことを言う勇者ですね」
「こいつは武術のことになるとすぐムキになるんだ。すまん、こいつに変わってあやまる!」
師匠が慌てたように叫ぶ。既に白髪も抜け始めている御老体だ。
「そうはいきませんよ、武術家のおじいさん」
文官は続ける。
「私は王の目の前で恥をかかされたのです。これは何としても、ヒノキの棒と布の服で魔王を討伐して貰わねば」
「ええっ!?ヒノキの棒と布の服だけで魔王を」
◆◇◆◇◆
というわけで、王様からヒノキの棒と布の服を下寵され、魔王討伐の旅へと出発した。王様が勇者にヒノキの棒を渡す時に、その場にいた全員の肩が震えていたことは、言うまでもない。
はっきり言ってしまえば、ここから魔王の城までかなり距離があり、一度故郷に戻って装備を整え、魔王を討伐してからまた布の服に着替えて王様に報告するという方法もある。
だが、武術家としての誇りと、あの文官に一泡吹かせるために、意地でもヒノキの棒と布の服で魔王を倒してやろうという気になった。
まず城下町に入ると、教会へと足を運んだ。何事にも神頼みは重要だ。俺の信仰する女神様は、勝利の女神でもある。魔王を討伐に行くのであれば、挨拶くらいはしておかないとバチが当たる。
賭博場へ行く前と同じ要領で女神像の前に跪き、祈りを捧げる。ふと目を開け、女神像を見上げると、ニッコリと笑ったような気がした。次の瞬間、
ゴウンッ!
何もない天井から、爆音と共に光の柱が現れ、俺に直撃する。周囲にいた修道士達が、ギョッとした顔で硬直する。そして、バリバリバリッ!と雷のような音を立てて柱が消滅する。
「だ、大丈夫ですか?」
修道士の一人が、慌てて駆け寄ってくる。
「これは一体......?」
身体の底から力が湧き出てくる感覚に、目を見開く。
「これは女神様のご加護です」
「加護......?」
普段祈りを捧げた時には、このような事態に遭遇した試しはない。しかし、勝利の女神様のご加護であると言うならば、その御利益は疑う余地は無いだろう。
「ちょっと賭場に行ってくる」
「待ってください」
結局修道士数人がかりに抑え込まれ、修道女という見張り役まで付けられた上で教会から追い出された。碌でもない奴だと思われたのかもしれない。
「さあ勇者様、女神様のご加護があれば魔王の100人や200人くらい楽勝です。どんどん行きましょう!」
ちょっと頭のネジが飛んでそうなこの修道女は、聞けばちょっとした回復術が使えるらしい。道中怪我をすることもあるだろうから、この能力は非常にありがたい。
賭場に行くことを諦め、俺は酒場を目指す。人と情報が集まる場所と言えば、酒場だ。西部劇に出てきそうな木の扉をくぐり、酒場に入る。朝っぱらから酒を飲んでる碌でなしどもの視線が集まるのを感じる。
「酒を一杯」
「私はホットミルクを」
バーテンに注文し、ざっと店内を見渡す。もう少し夜になってから来るべきだったか?俺がそう思っていた時だ。
「よう姉ちゃん、そんなブ男より俺と遊ばねえか?」
唐突に現れた大男は、修道女の横に座りながらそういった。
「最近俺の店潰れちまってよ〜、慰めてくんーかな?」
しつこい絡みに、修道女の拳が唸る。
木の扉から、ほぼ水平に大男が飛び出し、向かいの店の壁にぶち当たってずり落ちる。続いて修道女が扉から出てきて、こう宣言する。
「おととい来やがれ!」
結局酒場では大した情報を得ることが出来ずに終わった。強いて言えば修道女の剛腕が発覚した程度である。あの拳を見れば、師匠もすぐさま免許皆伝を言い渡すであろう。修道女恐るべし。
そんなこんなで街を出る日が来た。特に見送られることも無く、ひっそりと街を出発した。俺の横には修道女と、修道女が殴り飛ばした大男が当たり前のような顔でついて来てたる。
「何でお前がいるんだよ」
聞けば本当に店が潰れたらしいそいつは、元々家具屋だったらしいのだが、働き口が中々見つからないので魔王討伐に参加することにしたらしい。肩には丸太より太いハンマーを担いでいる。中々頼もしい。
魔王軍の四天王の一人がいるという砦の近くまで来たときのこと。一人の商人が、3体の魔物に追いかけられているのを見つけた。
「誰か助けて!」
「フンッ!」
俺の鍛えられた回し蹴りによって、魔物が一体弾け飛ぶ。
「ギエーッ!」
「ハァッ!」
修道女渾身の正拳突きによって、魔物が一体弾け飛ぶ。
「グエーッ!」
「おりゃ!」
家具屋のフルスイングによって、魔物が一体弾け飛ぶ。
「アバーッ!」
一瞬のうちに魔物を片付けると、商人は礼を言って来た。
「ありがとうございます。お陰で助かりました!」
その後、勇者御一行のマネージャーをやらせてくれと言うので、彼も同行することになった。
商人が同行するようになり、旅の経済事情は劇的に良くなった。晩のおかずが一品増えたり、風呂付の宿に泊まれるようになったり。
そうこうしているうちに、四天王の一人と戦うことになった。
「よく来たな、勇者よ。そしてさらばだ!」
四天王は魔法で大爆発を起こし、先制攻撃を仕掛けて来た。実に卑怯だ。お返しとばかりに、俺の拳が唸る。修道女の拳が唸る。家具屋のハンマーが唸る。商人の拳が唸る。
「よ、四人掛かりとは卑怯な!」
四天王が魔法を発動させようとする。俺が殴る。四天王が剣を抜こうとする。修道女が殴る。四天王が仲間を呼ぼうとする。家具屋が殴る。四天王が降参しようとする。商人が殴る。
逃げようとする四天王を、これでもかとタコ殴りにする商人をなだめ、魔王の居場所を聞き出す。
「い、言う!言うから!やめて!」
魔王は魔王城にいるらしかった。
「俺は四天王の中でも最弱......」
ボロ雑巾のようになった四天王から財宝を巻き上げ、魔王城を目指し旅へ戻る。財宝のお陰で、昼に一品追加され、夜にはデザートが付くようになった。
魔王城へと至る道中のとある町の宿屋にて。
「ムシャムシャ何か怪し人がモグモグいますよゴックン勇者様」
「飯を食いながら喋るなよ」
修道女の指し示す方向には、フード付のローブで全身を隠した長身の男が座っていました。
勇者御一行の視線が注がれているのに気付くと、男は席を立ち、勇者の隣までやってきました。
「失礼ですが、勇者様とその御一行様ですね?」
「如何にも」
と家具屋が答えると、男はフードを外して顔を見せた。メガネを掛けた理知的な二枚目がそこにいた。
「どうも、わたくしこういうものです」
「魔法使い?」
名刺に書かれたその職業に、商人が反応する。
「はい。どんな魔法でも無効化できる魔法が使えます」
魔法使いが仲間になったのは、言うまでもない。
いよいよ魔王城に到達したとき、その城門の前には3体の魔物がいた。
「我は四天王の一......」
「我は四天王の二......」
「我は四天王の三......」
「くらえ、我が拳ッ!」
四天王が勇者に殴りかかる。
「その程度、ヌルいッ!」
勇者はかわし、あいた胴体に鋭い蹴りが刺さる。
「ギヤーッ!」
「くらえ、我が拳ッ!」
四天王が修道女に殴りかかる。
「ハァッ!」
修道女が四天王に殴りかかる。
「グワーッ!」
「くらえ、我が拳ッ!」
四天王が家具屋に殴りかかる。
「遅いッ!」
家具屋のハンマーが、その影を捉える。
「ウワーッ!」
「城門に掛けられた封印は解けました」
魔法使いがそう告げる。城門の前には四天王の残骸が積み上げられていた。
「魔王は目の前だ、行こう」
魔王城の謁見の間で、魔王と対峙する。
「よくぞここまで来たな、勇者よ」
魔王は不遜な態度でそう言い放った。
「世界の半分をくれてやる。我と手を組まぬか?」
勇者は考えました。
世界の半分をくれるなら、魔王を討伐しなくても良いんじゃないか?そう思ったのです。
しかし、ここまですっかり忘れていた感情が急速に思い出されます。あの文官に一泡吹かさねば。
そうです。勇者には、ヒノキの棒と布の服で魔王を倒すという使命があるのです。
「その条件には乗れないな、魔王。お前を倒す」
魔王は笑いました。
「何と愚かな!ろくに装備も持たぬ癖に!」
魔王はいきなり魔法で大爆発を起こしました。四天王とは比べ物にならない威力です。卑怯!
「グワーッ!」
「キャーッ!」
「ウオーッ!」
「グハーッ!」
「ギヤーッ!」
勇者御一行も負けてはいません。勇者の蹴りが、魔王の脇腹に。修道女の正拳突きが、魔王の鳩尾に。家具屋のスイングが、魔王のスネに。商人のフックが、魔王のアゴにを魔法使いのドロップキックが、魔王の顔面に。それぞれ命中します。
「ギヤーッ!」
「おのれ、五人掛かりとは卑怯な!」
魔王が魔法を使おうとする。勇者が殴る。魔王が剣を抜こうとする。修道女が殴る。魔王が仲間を呼ぼうとする。家具屋が殴る。魔王が逃げようとする。商人が殴る。魔王が降参しようとする。魔法使いが殴る。
命乞いをする魔王を殴り続ける魔法使いをどうにかなだめ、財宝を巻き上げて帰る事にしました。
「俺は魔王を倒したぞ!」
その話は、勇者より早く王様の下に届けられる事になりました。
ようやく城下町に辿り着くと、出発の時とは違って、大勢の人が出迎えてくれました。出迎えパレードを抜けてお城に入り、謁見の間へと入ります。
「勇者よ、この度はよくやった!」
「しかし、よくぞヒノキの棒と布の服だけで魔王を......」
「お待ちください王様。この者は魔王を倒す際にヒノキの棒も布の服も使っておりません!」
例の文官が口を挟みます。
「何と!それは本当か?」
王様はまんまと乗せられてしまいます。
「はい、その通りです、王様」
魔法使いが言います。
「しかし文官様、貴方は何故それをご存知なのですか?」
文官の顔が、俄かに青くなります。
「そ、それは魔法で知ったのだ!」
「ではその魔法を、わたくしの『全ての魔法を無効化する魔法』で解いて差し上げましょう」
魔法使いが魔法の杖を振りました。
するとどうでしょう。文官は苦しみながら身体を変質させ、その本性を表しました。
「お前は......魔王!」
勇者が叫びます。
「グウッ!卑怯な魔法を使いおって!」
魔王は自分を棚に上げ、叫びます。文官の正体は、魔王だったのです。
「くらえ、大爆発!」
「させません!」
魔王の攻撃を、魔法使いが阻止します。魔王の大爆発は無効化されてしまいました。
「おのれ人間め!」
「今度はこっちの番だ!」
勇者が叫びます。
勇者が渾身の回し蹴りを放ちます。
「グワーッ!」
修道女が渾身の正拳突きを放ちます。
「ギヤーッ!」
家具屋が渾身のフルスイングを放ちます。
「グエーッ!」
商人が渾身のボディーブローを放ちます。
「グホーッ!」
魔法使いが渾身のバックドロップを放ちます。
「ウワーッ!」
王様が渾身のドロップキックを放ちます。
「グゲーッ!」
「6人掛かりとは卑怯な!」
魔王は涙目になりながら叫びます。もう恥も外聞もありません。
「トドメは俺が刺す」
勇者が一歩前に出ます。
「ひっ!お助け!」
魔王は這いつくばって逃げようとします。
「逃がさんぞ!」
勇者は布の服を脱ぎます。
「な、何をする!」
勇者は布の服を魔王の顔に巻きつけて、きつく縛りました。
「ギヤーッ!臭い!何だこの臭いは!目にしみる!」
「一年間洗わずに毎日着続けた布の服だ!」
続いてヒノキの棒を取り出しました。魔王は目をやられたのか、床をのたうち回っています。
「これで終わりだ!」
「ギャッ!痛い!何これ!?ヒノキの棒?!」
勇者は魔王が動かなくなるまでヒノキの棒で打ち続けました。
こうして勇者はヒノキの棒と布の服だけで魔王を倒し、人間の国に平和が訪れました。
魔王との戦いの後、魔法使いは元の街へ帰って行きました。商人は街に商店を開き、儲けました。家具屋は新しく家具屋をオープンしました。修道女は教会に戻って聖女になりました。
勇者は王様から貰った大量の褒美と、魔王から奪った財宝を全て競馬に突っ込み、あっという間にスッてしまいましたとさ。
おしまい。