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幕間

 結局のところ、真琴には音羽が何を考えているのか、完全に理解できているわけではなかった。副官とはいえ経験が浅く、幼馴染みとはいえ新参である彼女には、どうも業務内外のことを全て伝えられているわけではない気がしていた。確かに当然であろう。特に、先だって音羽がいっていたような、強い総長を目指す、言い換えれば伝統的な陸軍を破壊する、というような荒事に本気で取り組むのであれば、その機密を知る人は少ない方がいい。


 しかし、副官という立場であればその少ない人間に入っていてもおかしくはないのだが。

 結局信用されていないのか、と思うし、それは当然だ、とも思う。


 しかし、とまれかくまれ、現時点において伏見宮音羽とつながりのある研究会に参加することになったのは一歩前進といったところであろう。要するに、単なる幼馴染み枠としてから、使えるかもしれない部下枠くらいには移れたと考えても良いのだと思う。


 真琴は能力を買われて音羽の側近になったわけではない。そのことは彼女が一番熟知している。確かに彼女は壊滅した連隊本部を懸命に支え、どうにか敵の攻勢を防ぎきった経験を持っている。それ自体は非凡なことであり、だからこそ帝国陸軍最年少の大尉という今の地位があると言っても良い。


 だが、変事に突発的に対応をするということと、今後彼女が総長副官として求められるであろうことというのは全く違う。前者が五十メートル走であれば後者はマラソンである。そして、求められることもより複雑になる。


 それでも頑張らなければ、と思う。実際に参謀本部に配属されて思ったが、音羽には敵が多い。陸軍の将官級で彼女の味方をする者は皆無なのではないか、とも思う。

 無理もない。音羽は既に伝統的な陸軍との訣別を宣言しているようなものだ。音羽と共に仕事をして分かったが、彼女が重視しているものは戦場と、そして若手将校であった。せいぜいで四十前後の中佐まで中堅将校くらいまでの意見を尊重し、役職者である大佐以上の将校の意見をあまり容れない傾向にあった。というよりも、彼らの考えと音羽の考えが基本的に合わないのであって、真琴から見る限り、属人的に判断しているわけではない。


 とはいえ、彼女はあくまでもお飾りであり、前任の参謀総長よりは意思決定権を握っているようではあるが、実務や事実上の意思決定の多くを次長である真崎中将が握っている。彼に対して、音羽ができることはせいぜいで差し戻しと再考を求める、ということだけである。


 そういえば、とはたと真琴は気づく。着任の時に真崎が要求した漸号作戦の決裁について、いったん音羽は差し戻したが、それ以降一向に改訂されたものが上がってこない。


 既に、真琴は、参謀本部内で正規の手続きを踏んで上げられる文書の全てと、非正規のルートで上げられる文書のほぼ全てを把握していた。持ち前の速読と記憶力を生かして、それを可能にしていたのである。

 真琴は漸号作戦の内容を全く知らないが、しかしそれにしても奇妙なことであった。既に差し戻しから二週間たち、普通の文書や案件であればとっくに改訂されたものが上げられているはずだ。そして、これに対し、音羽は無条件で決裁するという暗黙のルールがあったから、真崎次長からすればほんの少し言葉尻を変えて出し直せばそれで通る話である。


 一体なぜなのだろう、と真琴は頭を悩まさざるを得なかった。


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