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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第1章
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第七十四話 ホウリ第二回戦 ナムサン!

ホウリ戦が短くなり過ぎたので、反省会とくっつけました。それでも短いです。つまりはそういう事です。

───空手───

この世界の空手は日本の空手と同じく格闘技の一つである。ただし、魔物とも戦えるように元の空手とは少し異なっており、2足歩行の相手以外を想定した技も多数ある。空手の一番の使い手はプディ・ブルタであり、ダメージ軽減と軽減したダメージを自身の拳に乗せるという強力なスキルの使い手である。──────Maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆




 闘技大会が終わった日の夜、わしらは屋敷で作戦会議も兼ねて夕食を取る事にした。のじゃが……



「すまない、本当にすまない……」

「大丈夫ですよ。元気出してください」

「元気だして、ミエルお姉ちゃん」



 ホウリが料理を作っている間、頭を抱えながら落ち込んでいるミエルをロワとノエルが励ましている。

 試合が終わってからあの調子じゃ。敗北したのが相当応えているんじゃろう。



「私は生きている価値のない人間だ……」

「そんなことないですよ!よく頑張っていたじゃないですか!」

「そうだよ!ミエルお姉ちゃんかっこ良かったよ!」

「……はぁ」



 ロワとノエルの言葉を聞いても元気が出ん様子じゃな。どうしたものか。

 わしが何をしていいか分からず迷っておるとワゴンに料理を乗せたホウリが部屋に入ってきた。



「料理出来たぞー」

「おお、今日の夕飯は豪華じゃな」

「今日のお疲れ様と明日も頑張ろうの気持ちを込めてな。とりあえず、配膳してくれ」

「はーい」



 料理を皆でテーブルへ運びそれぞれの席へと着く。テーブルの上にはハンバーグやポテトサラダと言ったわしらの好物が並んでおる。

 配膳が終わるとホウリが座って手を合わせる。



「いただきます」

「「「いただきまーす」」」



 皆が一斉に料理に手を伸ばす中、ミエルはというと料理に手をつけようとしない。そんなミエルにホウリがチキン片手に話しかける。



「どうした?負けた事を気にしているのか?」

「……貴様には関係ないだろう?」



 ホウリを睨みつけながらグラタンを皿に取り分けるミエル。ホウリは視線をミエルからサラダに移し話を続ける。



「今回は対戦相手が悪かったんだ。落ち込むなとは言わないが落ち込みすぎるなよ?」

「そうじゃ、ミエルはよくやった。後は2人に任せるがよい」

「確かに負けたことは悔しいのだが……その……」



 煮え切らぬな。まだ何かあるのか?



「どうした?何か言いたい事があるのか?」

「そういう訳じゃないが、私のせいで全てを台無しにしてしまったらと思うとな……」

「あー、成程のう」



 ミエルは負けた事に落ち込んでいる訳ではなく、自分が負けた事により作戦が失敗するかもしれぬのか。



「お主のう、そういうのは終わってから後悔するんじゃな」

「まだ終わっていない事は分かっている。だが、どうしても私のせいで台無しになってしまう不安が沸き上がってしまってな」

「ミエルお姉ちゃん……」



 スプーンを置いて俯くミエル。なんとか励ましてやりたいが何と声をかけて良いか分からぬ。

 困ったわしはホウリの方へと視線を向ける。いつも通り食事を楽しんでいるホウリはミエルの話を一通り聞いた後、口を開いた。



「ミエル、この大会はある意味では団体戦だ。それは分かるな?」

「ああ」

「あの戦いは俺達の目に焼き付いている。この生きた『情報』は俺が集めた紙の情報よりもはるかに価値がある」

「………………」

「ミエルはこの大会の強敵の奥の手を引き出した。これは他の奴に勝つよりもある意味では重要な事だ」

「………………」

「この大会で優勝出来たら、それはミエルのおかげでもある。それは覚えておいてくれ」

「……ありがとう」



 ミエルはそれだけ言うと取り分けたグラタンを食べ始めた。良かった、元気が出たみたいじゃ。



「んじゃ、今日の反省と明日の対策を始めるぞ。まずはロワ」

「はーい」

「最後まで気を抜かなかったのは良かったな。だが、矢の選び方が────」



 こうして闘技大会の1日目は終了したのじゃった。




☆  ☆  ☆  ☆ 




『さて、闘技大会2日目だ。今日は雑談少な目で真面目に行くぞ』

『あら?いきなりどうしましたの?』

『思ったんだよ、昨日はお前と漫才しすぎて解説が少なかったって』

『ああ、昨日ママに怒られたから真面目になろうとしているのね』

『そんなことねえよ』

『真面目なのは良い事ですわ。早速始めましょう』

『おう』



 闘技大会2日目、ここからは観客も出場者が分かっている中での観戦となる。盛り上がりも一際大きくなるじゃろう。



「すみませーん、お弁当くださーい」

「何にしますか?」

「シュウマイ弁当と唐揚げ弁当とカレー弁当を頼む」

「2000Gになります」



 わしは弁当を3つ買って横に積み上げる。まずは唐揚げ弁当からいただくとしよう。



「むぐむぐ」

「あの、フランさん」

「なんじゃ?食いたいのか?」

「いえ、そうでは無く。そんなに食べてお腹壊しませんか?」

「わしがこの程度で腹を壊す訳あるまい」

「でも、お弁当10個目ですよね?食べ過ぎではないですか?」

「問題ない」



 昨日、昼飯を食べながら観戦をすると物凄く美味く感じることが出来た。じゃから今日は弁当を食いながら観戦することにしておる。



「緊張感が皆無だな。今日で私たちの未来が決まるかもしれないのだぞ?」

「この先が暗闇じゃとしたら、むしろ今を楽しんだ方が良いじゃろう。後で後悔したくないのう」

「良い訳みたいに聞こえるな」

「フランお姉ちゃん、唐揚げ1個ちょうだい?」

「よいぞ、あーん」

「あーん」



 ノエルに唐揚げをあーんしながらミエルとロワの言葉を聞き流す。そんな事よりもホウリとロワの対戦の事じゃ。



『さて、対戦前に選手紹介を軽くしておくか』

『まずはプディ・ブルタ選手ですわね。拳で戦う戦士で、特徴は受けたダメージを9割減少させて自身にチャージできるスキルですわ』

『防御と攻撃が一体となった強力なスキルだ。チャージしたダメージは自身の攻撃に上乗せ出来るから、攻撃を受けまくった後は要注意だな。ちなみにその恰好のせいで勘違いされやすいが、女みたいだぜ?』

『女性の格闘家は珍しいですわね』

『だが女だと甘くみると痛い目にあう。何せ、有名な格闘術である空手の使い手でもあるからな』



 プディは昨日の試合でも、相手の攻撃を一方的に受けて最後に強烈な一撃を繰り出していた。その一撃は相手の鎧ごと砕く程の威力じゃったし、強力なスキルの一つじゃな。それにプスキルを差し引いたとしてもプティ自身の攻撃力が高いから、攻撃をしないとジリ貧になる。今大会の強敵の一人じゃ。



『もう一人はパイナ選手ですけど……何か解説します?』

『無理だろ。1回戦が終わってスキルどころか戦闘スタイルすら不明なんだぜ?』

『それもそうですわね』



 トレットとチフールの話を聞きながら昨日の夕食のやり取りを思い出す。

 プディはダメージをチャージするスキル以外には敏捷性と攻撃力を上げるスキルのみのようじゃ。典型的な間合いを詰めて拳を叩きこむタイプじゃ。



「ホウ……パイナさんはどうやって戦うんでしょうか?」



 ホウリの名前を口にしようとしたロワが慌てて言い直す。ホウリから事前にホウリの名前で呼ばないようにきつく言われておったりする。



「そもそも、あのスキルの攻略方法はあるのか?」

「一番簡単な方法は軽減されても耐えられぬ一撃を喰らわせることじゃな」

「簡単ってなんでしたっけ?」

「二番目に簡単な方法は、チャージできるダメージに上限がある事を利用して、反撃させずに遠距離からダメージを与える方法じゃな」



 一番目も二番目もロワでも実行できる方法じゃな。もし、ロワとプディが戦う事になったとしたらロワが有利じゃろう。



「じゃが、問題はパイナじゃな」

「確かにパイナさんは強力な一撃も遠距離攻撃もありませんから厳しいでしょう」

「では、どうやって戦うのだ?」

「そんなのわしが知る訳ないじゃろう?」



 どうせ碌な策ではないじゃろう。ホウリの戦いは戦いとして見るのではなく、一種の劇として見た方が脳にとって優しい気さえする。



『お待たせしました!2日目第一試合を開始します!』

(わあああああ!)



 そうこうしている内に、試合開始のブザーと共にアナウンスが闘技場に響く。昨日よりも更に熱くなっている観客席から歓声が巻き起こる。



『まずはこいつだ!その正体は謎に包まれている!誰かこいつを説明してくれ!パイナ!』

(わあああああ?)




 鉄仮面を被ったパイナが入場するが観客がいまいち盛り上がり切れておらん。昨日の戦いを見ていたら無理もないじゃろう。


「今、父さんの本音が出てませんでした?」

「気のせいじゃろう」

『次はこいつだ!耐えれば耐える程私は強くなる!私の拳がお前を貫く!プディ・ブルタ!』

(うおおおおお!)



 パイナとは逆の所からプディは入場してきた。柔道着を着ており手にはバンテージを巻いており一目で格闘家であることが分かる。黒い髪を揺らしながら所定の位置へと歩き、目を閉じて大きく深呼吸をする。

 対するは全身ローブの鉄仮面の不審者。事情を抜きにしたらプディを応援したくなってしまう。



『両者構え!』



 プディが右手を引き、左手を前に突き出して構える。対するパイナは構える事も無く棒立ちしている。



『それでは、試合開始ぃぃぃぃ!』

「はああああ!」



 試合開始の宣言と同時にプディがパイナに向かって物凄い速度で駆けていく。それを見てもパイナは全く動く気配がない。



「せいや!」



 動かないパイナの胸元に向かってプディが正拳突きを繰り出す。すると、パイナはプディの拳を受け止めて捻り上げるように横にいなす。



「きゃあ!?」



 可愛らしい声を上げながらプディは仰向けに倒れる。

 パイナはすかさず倒れたプディに乗りかかると、足で手を押さえつけながらプディの首に手を回した。そして、そのまま腕に力を入れるとプディの細い首を締めあげ始めた。プディは抜け出そうと必死にもがくが、パイナの抑え方が上手いのか抜けだせそうには見えない。

 その光景が数十秒続いた後、プディが動かなくなったのを確認したパイナは腕を外し入場口へと歩いて行ったのじゃった。



『け、決着!勝者、パイナ!』



 決着から数秒後、スピーカーからパイナの勝利を継げるアナウンスが会場に響く。しかし、昨日と同じように会場には勝者をたたえる歓声はまったく起こっていない。



『えーっと、今の試合は?』

『まずはプディ選手の突きをパイナ選手が受け止めてその力を利用して体制を崩す。その後、プディ選手が抜け出せないようにパイナ選手が組み伏せながな締め落として試合終了。こんなところだな』

『それは分かっていますわ。私が聞きたいのは、なぜあんな簡単にプディ選手が負けたのかですわ』

『俺も格闘技は詳しくねえから細かく解説は出来ないが、単純にパイナ選手が格闘家として技量が上だったってだけじゃねえか?』

『そんなことがあり得ますの?プディ選手は世界一の空手の使い手ですのよ?』

『上には上がいるものだ。俺が見た所、パイナ選手が使っていた技は合気道の一種、組み伏せた時の技は捕縛術の一種なんだろうよ』

『ということは、パイナ選手の正体は格闘家?』

『それもしっくりこねえんだよな。格闘技は使いこなせるがそれが主軸って訳ではない気がする』

『つまり?』

『よく分からん』

『だと思いましたわ』

本当あればもっと長く戦う予定ではあったのですが、ホウリが効率を求めやがったので、かなり短くなりました。準決勝はもっと長く戦います。少なくとも今までのようにあっさりは終わりません。


次回はロワの2回戦です。ホウリよりはまともに戦ってくれる筈です。


最近になってサンシャインの映画を見ました。物語の締めとしては良かったと思います。

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