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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第1章
72/460

第五十六話 なぜ見てるんです!

4日連続投稿、1日目です。

先週のあとがきにライダー語録を使わない方向で行くと言いましたが気が変わりました。オンドゥル語ではないので多分大丈夫です(適当)

──────最初の人──────

最初の人とは神がこの世界に召喚した500人の人間の事である。最初の人は元の世界からの技術や知恵を記した書を残している。ただ、この世界と最初の人の居た世界とは物理法則が異なっているため、再現出来ていない技術も多い。ただ、娯楽に関しては発達が凄まじいため、他の技術よりも地球の影響が濃く出ている。────────Maoupediaより抜粋



☆  ☆  ☆  ☆ 


 



「ママ、ただいま」

「おかえりなさい。お義父さんどうだった?」

「いつも通り跡を継げって言われた」

「相変わらずね」



 帰ってきた僕たちをタードさんは暖かく迎えてくれました。



「お昼食べていく?すぐに出来るわよ」

「今からエンゼおじいちゃんの家に行くからいらない」

「じゃあドレスに着替えないとね」



 タードさんはそう言うと、ミエルさんと一緒に2階に上がっていきました。



「わしらも着替えるか。ダメルで買ったドレスでよいじゃろう」

「それよりも、こいつを何とかしないとな」



 ロワさんは床へ倒れこんでいる僕へ視線を向けます。まさか往復するだけで、体力がなくなるとは思いませんでした。正直疲れすぎて一歩も動けません。



「僕の屍を超えていってください」

「死ぬな」

「皆さんが止まらない限りその先に僕はいます。だから……止まらないで下さい……」

「そのセリフは本当に死ぬからやめとけ」



 ホウリさんはため息を吐くと僕の顔の前に水筒を置きました。僕は何とか起き上がって水筒を手に取ります。



「これは?」

「俺特性の疲労回復ドリンクだ。少しでいいから飲んどけ」



 言われた通り水筒の蓋を取り疲労回復ドリンクを飲んでみます。



「あ、おいしい」



 さわやかな酸味の後に果物の優しい甘みが口の中に広がります。香りも優しい花の香りがして気分が落ち着きます。

 僕が夢中になってドリンクを飲んでいると、ノエルちゃんが物欲しそうな目で水筒を見ている事に気が付きます。

 



(じぃー)

「ノエルちゃんも飲む?」

「うん!」



 ノエルちゃんに水筒を渡すと笑顔でドリンクを勢いよく飲み始めました。



「んぐっんぐっ、ぷはーおいしー」

「ロワ、飲み終わったんだったら仰向けで寝っ転がれ。マッサージしてやる」

「はい」



 ホウリさんに言われた通り、僕は床に寝っ転がります。

 ホウリさんは僕にまたがるとゆっくりと足を揉み始めました。



「ああぁぁぁ、きもちいぃぃ」

「声抑えろ」

「気持ち良すぎて無理ですぅぅぅ」



 溜まっていた足の疲れが溶けていくようです。気持ち良すぎて思わず眠ってしまいそうです。



「ふわぁぁぁ」

「寝るなよ。寝たら起きられなくなるぞ」

「……ぐぅ」

「寝るな!」(パシーン!)

「は!」



 寝てしまっていたのかお尻を叩かれて思わず目を覚まします。



「ったく、寝るなって言っただろ」

「すみません」



 呆れたホウリさんの声に思わず苦笑いすると、またノエルちゃんがこちらを見ているのに気が付きます。



(じぃー)

「ノエルもやるか?」

「うん!」



 そう言うとノエルちゃんはウキウキでうつ伏せで寝っ転がります。ホウリさんは流石にノエルちゃんにはまたがらず、横から足をマッサージし始めます。



「言っておくが寝るなよ?」

「……ぐぅ」

「早ぇよ!」(ピシッ)

「ぴぎゃ!」



 秒で寝たノエルちゃんをホウリさんはデコピンで起こします。流石に女の子のお尻は叩きませんよね。

 数分のマッサージの後、ホウリさんは立ち上がって伸びをしながら話します。



「終わったぞ。さっさと着替えてこい」

「はーい」

(じぃー)

「フラン、なぜ見ている」



 フランさんがなぜか物陰から伸びをしているホウリさんを見ています。質問にも答えずに無言で見てくるフランさんにホウリさんはため息を吐きます。



「……マッサージしてやるからうつ伏せで寝ろ」

「そこまで言うなら仕方がないのう」 



 ノエルちゃん以上にウッキウキでフランさんが床に寝っ転がります。そんなフランさんを見たホウリさんは諦めたようにフランさんの足を揉み始めます。



「あ゛あ゛あ゛あ゛、そこじゃそこじゃ」

「ここか?」

「ああ、よいのう」



 マッサージされて気持ちよさそうなフランさんですが僕たちとは違い、眠りそうな気配はありません。流石はフランさんです。

 数分のマッサージが終わるとフランさんは立ち上がりました。



「ふぅ、気持ちよかったのう。定期的にやってもらいたいのう」

「気が向いたらな。満足したらお前らも着替えてこい」

「分かっておる。行くぞノエル」

「はーい」



 そう言うとフランさんとノエルちゃんは2階へと上がっていきました。



「俺達も着替えるぞ」

「そうですね……って僕はタキシード等は持っていませんよ?」

「大丈夫だ、用意してある」



 そう言うと、ホウリさんは立派なタキシードを取り出しました。見た所、僕の体形にぴったりです。



「良いタキシードですね。高かったんじゃないですか?」

「貰いものだから気にするな。それよりも早く着替えるぞ。俺が着付けしてやるから部屋に行くぞ」

「はい」



 ホウリさんと一緒に僕が借りている2階の部屋に入ります。それから、ホウリさんにタキシードを着つけてもらいました。



「どうだ?」

「うーん、動きにくいですね」

「今はそれしかないから我慢してくれ。それよりも、そいつもなんとかしないとな」



 ホウリさんは僕の顔を指さして言います。それ?……ああ、顔につけている布の事ですか。



「ですがこの布は取らないほうがいいのでは?」

「本来はそうなんだが、流石に金持ちの家に行くのにそれは怪しすぎる」

「どうするんですか?」

「メイクで格好良さを抑える」

「白粉は嫌ですよ?」

「余計に怪しくしてどうする。普通のメイクだ」



 前に言ってた白粉かと思いましたが違うようです。良かったです。



「椅子に座れ。すぐに終わらせる」

「はい」



 僕はホウリさんに言われるがまま椅子に座ってメイクをして貰うのでした。



☆  ☆  ☆  ☆ 



「どうでしょう?変じゃないですか?」

「大丈夫だ、自信を持て」



 準備が終わった僕達は他の人達を待ちます。その間に手鏡でメイクされた自分の顔を見てみますが、どうにもしっくりきません。本当にこれでいいのでしょうか?

 不安になりながら自分の顔を眺めていると階段から皆さんが降りてきました。



「待たせた……」

「お待たせ……」

「すまない、時間が……」

「皆さん揃いましたね。ってどうかしましたか?」



 僕の顔を見るなり皆さんから言葉が消えました。



「やっぱり変でしょうか?」

「いや、変ではないぞ。むしろ普通のイケメンになって驚いておるんじゃ」

「格好良くはあるが、自然な顔つきになっているな」

「……あ、ロワお兄ちゃんだ」



 皆さんの反応を見るに変ではないみたいですが、素直に喜べない気がします。ノエルちゃんに至っては僕と認識できていなかったみたいですし。

 皆さんの反応に妙な気持になっていると、皆さんの後ろからタードさんが現れました。



「みんなー準備は出来たかしら……あらロワ君、付けていた布を取ったのね?格好いいじゃない」

「ありがとうございます」



 タードさんの反応は普通に見えます。初めて素顔を見せる人には自然に見えるみたいですね。安心しました。



「しかし、よくここまでメイクでごまかせたのう。ロワ自身にも教えてはどうじゃ?」

「一応その予定ではあるが、かなり難しいからな。この街にいる間にマスターするのは無理だろう。下手したら余計にイケメンになる」

「メイクは自分を良く見せる為にある筈なんじゃがな」



 よくわかりませんがホウリさんが凄い事は分かりました。



「ロワ、そんな事よりミエルに何か言う事があるんじゃないか?」

「言う事?」

「そうだ、ミエルをよく見てみろ」



 言われた通りにミエルさんをよく見てみます。



「白色のドレスにミエルさんの綺麗な金髪が良く映えていますね。腰についている赤色の花もアクセントになっています。いつものミエルさんも素敵ですがドレス姿のミエルさんも高貴な雰囲気でとてもきれいですね。特別に言う事なんてないと思いますが?」

「もういい、もうやめてくれ……」



 僕の言葉にミエルさんが顔を背けます。何か変な事言いましたでしょうか?



「ロワ、やりすぎだ」

「へ?僕なにかしました?」

「あー、なんでもない。そんな事よりもさっさと出かけよう」



 そういえばエンゼさんの家へ行くんでしたね。すっかり忘れてました。



「ミエル、そろそろ出た方がいいんだよな?」

「ああ、もうそろそろ迎えが来るはずだ」

「迎え?」



 迎えの人がいっぱい来るんでしょうか?それはかなり恥ずかしいですね。

 僕が色々と考えていると、外からギュルギュルという魔道具が起動している音が近付いてくる音が聞こえてきました。



「なんですかこの音?」

「迎えが来たようだ。出よう」



 僕らが家から出ると門の前に黒い円形の上に扉がついた大きな箱が乗ったような形の魔道具がありました。魔道具の前には執事服を着てモノクルを付けた男性が立っていました。



「あれなーに?」

「あれは自動車だ。私がクラン家に行くときはこれで送迎してもらう」

「これが自動車ですか。初めて見ました」



 確かMPを使った乗り物でしたか。安定性を得るのが難しいため世界で数台しかない高価な乗り物だったと思います。そんな乗り物を所有しているとはかなりのお金持ちみたいです。



「ちなみに、あれは俺の世界の発明だったりする」

「という事は始まりの人達が残した発明品ですか?」

「そうだ。だが、俺が居た世界とこの世界は物理法則が若干違っているから、逆に開発が遅くなっているみたいだがな」



 物理法則が違うというのはいまいちピンと来ませんが色々と大変みたいですね。

 僕たちが自動車に近付くと執事の方が恭しく礼をしました。



「ミエル様、お迎えに上がりました」

「グレプさん、いつもありがとうございます」

「仕事ですので」



 グレプさんは表情一つ変えずに自動車に乗り込みます。



「ノエルがいっちばーん」

「あ、ずるいですよ!」



 駆けだしたノエルちゃんの後を追って僕は自動車に乗り込みます。



「これ!走るでない!」



 後ろからフランさんが怒った声が聞こえますが、僕達は構わず自動車に突撃します。

 ノエルちゃんが自動車の扉を開けて中に入ると歓声を上げました。



「すごーい、ひろーい!」

「僕にも見せてください!」



 自動車に入ると外から見たよりも広く僕達全員が入りそうです。ソファーと同じくらいふかふかの椅子が取り付けられて座り心地も最高です。



「この椅子気持ちー」

「窓もついているから外の景色もみられますね」

「お前らな、珍しいのは分かるが少し落ち着け」



 僕たちが自動車の中でわいわいしているとホウリさん達も乗り込んできました。



「走るでないと言ったであろう」

「ご、ごめんなさい。つい……」

「クラン家では勝手な行動はとるなよ。追い出されるぞ」

「わ、わかりました」

「ごめんなさい……」



 クラン家はかなりのお金持ちでしたし、余計な事をすると追い出されるかもしれません。言動には十分に気を付けましょう。

 しかし、ホウリさんは疑っているのか、僕とノエルちゃんを見る視線が鋭くなります。



「本当か?お前らの事だから珍しいものを見たら突撃するんじゃないか?」

「そんなことないですよ。ねえ、ノエルちゃん?」

「そうだよ。もっとノエル達を信じてよ」

「そうか。だったらテストをしよう」

「テスト?」



 そう言うと、ホウリさんは咳ばらいをします。



「あなたの目の前にボタンがいっぱいついている魔道具があります。その魔道具は押すボタンによっては時間を超えたり別の世界に行けたりしますが、危険なことも起こります。あなたならどうしますか?」

「「適当にボタンを押す」」

「やっぱり置いていくか」



 ホウリさんの僕達を見る視線が冷たくなります。今の答えの何が悪いのでしょうか?



「出発します。揺れにご注意ください」



 僕たちが話していると、グレプさんが運転席から話してきました。すると、再び自動車から起動音が鳴り始め、ゆっくりと動き始めました。



「すごいですよ!動き始めました!」

「どんどん早くなっていってる!」

「少し落ち着け。窓から放り投げるぞ」



 目が本気でした。僕たちは深呼吸をして気持ちを落ち着けます。すると、ミエルさんがしたり顔で口を開きました。



「これぐらいで驚いてはいけない。エンゼおじいちゃんの家には珍しい道具がたくさんあるぞ」

「本当!?」

「これ以上こいつらを刺激しないでくれ……」

「これは苦労しそうじゃな」



 頭を抱えているホウリさんを見たフランさんが苦笑いします。とりあえず話を反らした方が良さそうです。



「そういえば、ミエルさんはエンゼさんの家には頻繁に行くんですか?」

「頻繁には行かないな。かれこれ4年ぶりか?」

「かなり久しぶりなんじゃな」

「騎士団に入ったりしたら頻繁には行けないだろ」



 ホウリさんの言葉に僕は納得します。騎士団は結構規則が厳しいらしいですし、お時間が無いのも頷けます。しかし、ミエルさんは首を降ってホウリさんの言葉を否定します。



「騎士団の事もあるが、そうでなくてもエンゼおじいちゃんの屋敷にはあまり行かないな」

「なぜじゃ?」

「気疲れがひどいからだ」

「なるほど」



 確かにお金持ちの家はしきたりが多くて疲れそうです。もしかしたら、ミエルさんにとってはバーリングさんの家へ行くよりも疲れるのかもしれませんね。

 僕らが話していると運転席からグレプさんが話しかけてきました。



「ミエルお嬢様、エンゼ様は気を張る必要は無いとおっしゃっていました」

「言われただけで気が軽くなる訳無いだろう。屋敷にはエンゼおじいちゃん以外にも人がいるのだぞ?」



 グレプさんの言葉にミエルさんがいら立ったように答えます。



「そうでございましたか。大変失礼いたしました」



 あまり申し訳ないと思っていない口調で淡々と謝罪するグレプさん。ミエルさんも慣れているのかそれ以降何も言う様子はないです。そうこうしている間にも自動車は結構な速さで走っています。皆さんも話すことなく窓の外を眺めています。

 自動車の中を沈黙が支配している中、意外にも話し始めたのはグレプさんでした。



「そういえばミエルお嬢様、お連れの方はどなたでしょうか」

「そうだな……」



 ミエルさんは何故か即答しません。何か話しづらい事でもあるんでしょうか?まさか、僕達の事を言ったら勘当なんて事があるんでしょうか?急に不安になってきました。

 緊張しながらミエルさんの言葉を待っていると数分の間を置いて話し始めました。



「こいつらは私のパーティーメンバーだ。だが……」

「ですが?」

「……ロワは私の恋人だ」



 成程、今回はそういう設定という訳ですね。意図は分からないですがここは乗っておきましょう。



「そうですね。僕とミエルさんは結婚しています」

「ロワ!?」


 

 ミエルさんは目をひん剥いて僕を見てきます。ホウリさんはバーリングさんにフランさんと結婚していると言っていたので僕もそれにならったんですが何か間違ってましたでしょうか?



「……そうですか」

「そうなんですよ。挙式の場所を決めようと思ってまして」

「嘘つけ、まだ結婚はしてないだろうが」

「そうじゃ、付き合い経てで調子になるでない」



 あ、どうやら不味かったみたいです。ホウリさんとフランさんが必死に軌道を修正しようとしています。



「あ、あははは……少し調子に乗りすぎましたね」

「そうでしたか」



 グレプさんはそう言うとまた黙ってしまいます。そうして、自動車の中に再度沈黙が流れます。心なしかさっきよりも空気が重い気がします。

 重い空気の中、僕らは自動車に揺られながらお屋敷に向かうのでした。

ちなみに、前回からホウリとミエル、フランは裏で念話で話しています。ロワと話していないのはホウリの企みによるものです。性格が悪いと思いますか?私もそう思います


次回はクラン家に着きます。多分1話で終わると思います。


見たい映画がいくつかありましたが、コロナの影響を考えている内に大半は終わってしまいました。銀魂は見に行きたいです。

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