第五十五話 ラノベ主人公みたいな感じ
ちなみに、ホウリは主人公らしさを極力削っているのに対してロワは主人公らしさを極限まで加えています。この話の冒頭みたいな感じの展開はそういうことです。これ以降でもこういう描写が増えるかは……分かんないや。
──────闘技大会の歴史──────
闘技大会は一説によると1000年前から行われており、願いが叶うという商品も初めの頃からあるとされている。歴代優勝者は全員例外なく強者であったため王の警護や国の防衛の最前線など、重要な職務に就くことが多い。しかし、不正をして優勝した者もおり、その者は処刑されている。──────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
王都に着いて2日目の朝、起床した僕は2階の客室からリビングへと降りていきます。
リビングではテーブルの上に朝食を並べているタードさんが居ました。タードさんは僕に気が付くとニコリと微笑みます。
「おはようロワ君。昨日はよく眠れたかしら?」
「おはようございます。お陰さまでぐっすり眠れました」
「それは良かったわ」
僕とタードさんが話していると、クリムさんとフランさん、ノエルちゃんもリビングに入ってきました。
「おはよー」
「おはようロワ君」
「おはようじゃ……ふわぁ」
「おはようございます。ホウリさんはまだですか?」
僕の質問にフランさんが眠そうに目を擦りながら答えます。
「夕飯の後に出ていったきりじゃ。そろそろ帰ってくると念話で連絡があったから心配はいらんじゃろう」
「ミエルさんは?いつもなら日が昇る前には起きてきますよね?」
「ミエルはこの家で寝るとほぼ確実に寝坊するんだ」
「へぇー、意外ですね」
ミエルさんはしっかりしたイメージがあるので寝坊するとは思いませんでした。余程この家が落ち着くんでしょう。
クリムさんは何か考えるような表情になった後に少し微笑みました。
「そうだロワ君、ミエルを起こしてきてくれないかい?」
「良いですけど、僕でいいんですか?クリムさんの方がいいのでは?」
すると、クリムさんは僕の肩を掴んで真っすぐと僕の目を見つめて言いました。
「君じゃなきゃダメなんだ」
「分かりました。行ってきます」
クリムさんに言われるがまま僕はミエルの部屋がある2階に上がります。
「えっと、ミエルさんの部屋は……ここか」
ドアに『ミエル』と可愛らしい字で書いてある部屋の前に立ちます。そして、ノックしてミエルさんを呼びます。
「ミエルさーん、朝ですよー」
僕は呼び掛けてみますがミエルさんからの返事はありません。
「ミエルさーん、今日はおじいさんの家に行くから早く起きないとダメですよー」
再び呼び掛けてみますがノエルさんからの返事はありません。まだ寝ているようですね。これは直接起こした方がよいでしょう。
「ミエルさーん、入りますよー」
扉を開けてミエルさんの部屋に入ります。部屋の中には意外にも可愛らしいクマのぬいぐるみやキャラクターが描かれたポスターが飾られていました。他にも家族の写真などが目に着きます。そして、部屋の中にあるベッドには深く毛布を被ったミエルさんが寝息をたてていました。
気持ちよさそうに寝ている所を起こすのは申し訳ないですが、ここは心を鬼にしましょう。
僕はミエルさんを揺さぶって起こします。
「ミエルさん、朝ですよ。起きてください」
「むにゃむにゃ、このケーキ美味しい」
ダメです、ミエルさんは寝言を言って起きる気配はありません。今度はもっと強く揺さぶってみますか。
「ミエルさん!起きてください!」
「うーん?」
再度揺さぶってみると、ミエルさんは目を開けました。やっと起きたようです。
ミエルさんが上体を起こすと被っていた毛布がズレ落ちてミエルさんの恰好があらわになります。
「おはようございます、ミエル……さん?」
ミエルさんの恰好はなんと下着でした。予想外の光景に僕は固まってしまいます。
「あれぇ?パパ?」
ミエルさんは僕をクリムさんと間違えているみたいです。現状を理解した僕は意識を取り戻すとすぐに頭を下げます。
「ごごごごめんなさい!クリムさんにミエルさんを起こすように頼まれて────」
「パパ~、おはよう」
僕が言い訳をしていると、寝ぼけているミエルさんが僕に抱き着いてきました。柔らかな感触が胸元に当たっています。
マズイです!なにかこう、色々とマズイ気がします!
僕はミエルさんの肩を掴むと急いで引きはがしにかかります。
「しっかりしてください!僕はロワです!」
「ロワぁ?…………ろ……わ?」
ミエルさんは僕を認識すると顔が真っ赤になり、毛布で体を隠し僕から距離をとりました。ミエルさんから解放された僕は反射的にミエルさんに背を向けます。
「ロワ!?なぜ私の部屋にいる!?」
「クリムさんにミエルさんを起こすように言われまして。着替えが済みましたらリビングに来てくださいね。それじゃ!」
「あ、ちょっと!」
言い終えた僕は逃げるようにミエルさんの部屋から出ていきました。
☆ ☆ ☆ ☆
「ただいまー……って何かあったのか?」
僕たちが食卓に着いたところでホウリさんが帰ってきました。ミエルさんは僕から顔を背けて食事をしています。ホウリさんは何かを察したのか呆れた様子で僕の隣の席に座ります。そんなホウリさんにクリムさんが心配そうに話します。
「ホウリ君、どこにいっていたんだい?夜に出ていったきり戻ってこなかったみたいだけど……」
「色々と用がありまして。いつもの事なので心配しないでください。それより何かあったんですか?」
「それが……」
ホウリさんに事の顛末を伝えます。ホウリさんに説明しながらミエルさんの様子を確認しますが、やはり僕に視線を合わせてくれません。余程怒っているようです。
話を聞き終えるとホウリさんはパンをちぎりながら話します。
「大体わかった。クリムさんは分かっててロワに起こさせたんですね?」
「あれは事故だよ。私だってこんな事になるならロワ君に頼まなかったよ」
「事故なら仕方ないですね。間違いは誰にでもあります」
「……話を聞く限り事故の線は皆無なんだがな」
「何か言いました?」
「何でもねぇよ」
ホウリさんの言い方に含みがある気がしますが気のせいでしょうか?
「とにかく、解決方法は話し合いしかない。自分が悪いと思うなら謝っとけ。それに……」
「それに?」
「本当は怒ってないとしてもそれを伝えないと勘違いされたままだしな?」
「へ?どういう意味です?」
「今の言葉はお主に向けたものではない。じゃから気にせんでよいじゃろう」
「は、はぁ」
僕への言葉でないのなら誰への言葉でしょう?気になりますが僕が気にする事ではないのなら考えるのは止めましょう。
「そんな事よりも今日はミエルの実家に行くんだろ?時間大丈夫なのか?」
「時間が無い訳ではないが余裕があるわけでも無いのう。そろそろ準備したほうがよいじゃろう」
「そういえば、最初はどちらの実家から行くんですか?」
僕の質問にミエルさんは僕と目を合わせずに答えます。
「バーリングおじいちゃんの家」
☆ ☆ ☆ ☆
「ミエルお姉ちゃん、まだ着かないの?」
「もう少しだから頑張って歩こう」
ノエルちゃんをミエルさんが励まします。
僕たちは住宅エリアの郊外に位置する林の中を歩いていました。
王都の中には住宅エリアや商業エリアなどといった主要なエリア以外にも他の街にはないエリアがいくつかあります。一つが木々がたくさん生えているフォレストエリアです。王都が出来た際には既にあったようで王都で働きたいが自然の中で暮らしたいという人の為に作ったとか。人が住む以外にも用途があるようです。
そんな林の中は光を遮る程の木々が生えていて足元がかなり悪いです。また時々動物の鳴き声も聞こえ、ここが王都の中であると忘れてしまいそうです。この林の中にミエルさんの祖父であるバーリング・ラメルさんが住んでいるみたいですが、家を出てから2時間程歩いていますが一向に着く気配はありません。
「まーだー?」
「もうすぐ着くからな」
30分前と同じ事を言いながらミエルさんは歩みを進めます。旅に慣れたつもりでしたが足場が悪いのも相まってかなり疲れました。皆の口数が大分減ってきた時、ようやく民家らしき建物が見えました。
「見えてきたぞ。あれがバーリングおじいちゃんの工房兼家だ」
「やっとついたー」
ノエルちゃんの言葉に心で全面的に同意します。これでようやく休憩が出来ます。
家はお世辞にも奇麗とは言えませんでした。僕が使っていた道場のように全体的にボロボロで廃墟と言っても違和感がありません。屋根も所々が新しい所を見るに壊れた所を直しながら住んでいるんでしょう。
ミエルさんは扉の前に立つとノックもせずに扉を開けます。
「勝手に入って大丈夫なのか?」
「バーリングおじいちゃんはそこは気にしないから問題ない」
「鍵も掛けておらんとは不用心じゃな」
「バーリングおじいちゃん曰く、『この家に盗みに入るよりも街で働いたほうが効率的』らしい」
「確かにそうかもしれません」
正直、お金がありそうには見えませんし、片道2時間掛けてここに来るよりは働いた方が効率がよいでしょう。
ミエルさんの後に続いて僕たちは家の中に入ります。家の中もあまり奇麗ではなく床には所々に穴が開いていますし壁にもシミが付いています。そんな家の中をミエルさんは気にしない様子で進んでいきます。
「この時間ならバーリングおじいちゃんは工房にいる筈だ」
「確か陶芸の職人じゃったか?」
「そうだ。私が工房まで案内しよう」
そう言うとミエルさんは台所へ入っていきました。
「ミエルさん?そこは台所ですよね?」
「利便性を重視して工房は台所と隣接している。ここから行った方が早い」
普通は工房と家は離れた所に建設すると思いましたが違ったようです。職人は奥が深いです。
かまどや水瓶がおかれた台所に入るとミエルさんの言う通り奥に扉がありました。ミエルさんは扉の前に立つとドアノブに手を掛けて一気に扉を開きます。
工房には昨日見たバーリングさんと若い女性の方がろくろを使って器の形を作っていました。
「バーリングおじいちゃーん!」
ミエルさんは大声でバーリングさんを呼びますが集中してるのか一向に気が付く様子はありません。しかし、女性の方が気が付いたのかろくろを止めて僕らの方へと駆けてきました。
「ミエルさん、お待ちしてました」
「お疲れラザン。バーリングおじいちゃんは……しばらく離せそうにないな」
「そうですね。一段落ついたらつれていくから居間で待っててくれる?」
「分かった」
そう言うとラザンさんは器の形を作る作業に戻りました。
「今のはどなたですか?」
「バーリングおじいちゃんの弟子であるラザンだ。最も、バーリングおじいちゃんは弟子と認めてないから雑用としか考えてないがな」
「それはかわいそうじゃな」
確かに頑張っても認めてもらえないのはかわいそうです。
居間には畳にちゃぶ台があるだけのシンプルな部屋でした。僕たちはラザンさんに言われた通り居間でバーリングさんを待ちます。
「………………」
「………………」
いつもであれば何かしらの会話があるのですが、今朝の出来事の事もあり何となく会話しにくい雰囲気があります。
そんな中で沈黙に耐えきれなかったのかフランさんが口を開きました。
「あーえっと、ミエルは祖父の事を名前で呼ぶんじゃな」
「これは癖だな。すこし面倒ごとになったことがあってな」
「面倒ごととな?」
「ああ、バーリングおじいちゃんとエンゼおじいちゃんが一緒にいるときに『おじいちゃん』とよんでしまった時があってな。そしたら二人が『呼ばれたのは自分だ』って喧嘩してしまって。それ以来、おじいちゃん達は名前で呼ぶことにしている」
「どれだけ仲が悪いんですか……」
「凄く悪いな」
ミエルさんの言葉が途切れ、再び居間に沈黙が流れます。どう考えても相当怒っていますよね?また謝ったほうがいいんでしょうか?それとも僕だけ出ていったほうが?どうしましょう……。
僕が頭を悩ませているとミエルさんがおもむろに口を開きました。
「ロワ」
「な、なんでしょう!」
「構えなくていい。ただ、一つ言っておきたい事があってな」
「は、はい」
なんでしょう?絶交でしょうか?そうなったらショックで立ち直れないかもしれません。
ドキドキしながらミエルさんの次の言葉を待ちます。
「今朝の事だが、別に私は怒っていない」
「そ、そうなんですか?」
「そうだ。これまでの態度は……その、怒りよりも恥ずかしさの方が強くて……その……」
つっかえながらですがミエルさんが言葉を選びながら話しているのが分かります。僕は急かさずにミエルさんの言葉を待ちます。
「だから、私も悪かったからロワも普段通りに接して欲しいと──────」
「待たせたなミエル!おじいちゃんだぞ!」
ミエルさんの言葉の途中でバーリングさんが勢いよく扉を開けて現れました。
「バーリングおじいちゃん、なんてタイミングで来たんだ……」
「あ?どういう意味だ?」
「なんでもない」
「そうかそうか、がっはっはっは!」
バーリングさんは頭を抱えているミエルさんの事は気にせず、ミエルさんの正面に座ります。その後、ラザンさんがお茶が乗ったお盆を持って居間に入ってきました。
「粗茶ですが」
「ありがとうございます」
バーリングさんは置かれたお茶を一口飲んで話を切り出しました。
「おかえりミエル、さっそく本題に入りたいところだが……」
バーリングさんは僕たちを嘗め回すように見てきます。
「こいつらは何なんだ?」
「この人たちは私のパーティーメンバーだ」
「お前冒険者になったのか?」
バーリングさんが目を丸くして驚きます。確かに騎士団から冒険者になったと聞いたら驚きますよね。
「はぁー、冒険者になるぐらいなら俺の跡を継いでほしいものだ……」
「話ってその事か?バーリングおじいちゃんには悪いけど私の答えは変わらない」
「しかしな、お前には才能がある。10年もすれば俺と同じ器が作れるようになるぞ?」
「ラザンがいるじゃないか。彼女に継がせてはダメなのか?」
「ダメだ。俺はミエルに継いで欲しい」
「いつもそればっかりだな。私の答えは変わらない」
「しかしな」
バーリングさんはミエルさんに継いで欲しいみたいですが、ミエルさんは継ぎたくない。二人が話すたびにさっきよりも空気が悪くなっていきます。どうしたらいいのでしょうか?
二人の会話が堂々巡りになりそうになったとき、今まで喋っていなかったホウリさんが突然話し始めました。
「この湯呑ってバーリングさんが作ったんですか?」
「ん?そうだが?」
「なるほど、道理で出来がいい訳ですね。土が違うんですか?」
「お、分かるのか?」
「ええ、良質な土でなければこの色は出ませんからね」
ホウリさんの言葉でバーリングさんの意識がミエルさんから離れました。ミエルさんに視線を向けると安心した様子で小さく息を吐いていました。僕も張り詰めていた気を緩めるように深呼吸をします。ああいう空気になるとこっちまで緊張してしまいます。僕たちの緊張をしってか知らずか……ホウリさんの事ですから知っているでしょうが、二人は陶芸の話に花を咲かせています。
「こういうのはどうですか、焼く温度をほんの少し上げるんです。そうしたら感触がよくなって使いやすくなると思いますよ」
「なるほどな。今度試してみるか。お前さん話が分かるな」
「バーリングさんが一流の職人だからですよ」
ホウリさんのおかげで空気が和やかになりました。流石ホウリさんです。
笑顔で話していたバーリングさんは何かを決心したのか、姿勢を正しました。
「お前はホウリっていったか?」
「はい」
「どうだ?ミエルと結婚して俺の跡を継がないか?」
「ブウゥー」
バーリングさんの言葉にミエルさんが飲んでいたお茶を吹き出します。
そんなミエルさんとは対照的にホウリさんは笑顔で落ち着いて答えます。
「すみません、俺はフランと結婚してまして。ミエルと結婚は出来ないんですよ」
「…………は?」
ホウリさんの言葉にフランさんが口をぽかんと開けて呆けています。口からは直前に含んでいたお茶が流れ出しています。しかし、フランさんは顔を引きつらせてはいますが何もいう事は無く、再びお茶を飲み始めます。
「そうか、それは残念だな」
「俺はミエルと結婚しなくても継いでいいですよ?」
「いや、俺の跡は家の者に継がせる。それは絶対だ」
「なるほど、そうでしたか」
ホウリさんは笑顔で話しています。僕にはよくわかりませんが、ホウリさんが何も言わないのなら問題ないのでしょう。
その後もホウリさんとバーリングさんとホウリさんは十数分間、陶芸の話で盛り上がっていました。
しかし、唐突にミエルさんが時計を取り出して話に割り込んできました。
「バーリングおじいちゃん、時間だからそろそろ行かないと」
「そうなのか?」
「はい、すみません。近いうちにまた来るので今日はお暇します」
「そうか、名残り惜しいが仕方ないな。そうだ」
バーリングさんは居間を出ていくといくつかの木の箱を持ってきました。
「俺が作った湯呑だ。持っていきなさい」
「ありがとうございます」
僕らは箱を受け取ってバーリングさんの家から帰路につきました。
☆ ☆ ☆ ☆
「すまないホウリ、助かった」
「気にするな。あれ以上は話してて無駄と判断しただけだ」
「じゃがな、結婚の件はなんじゃ。いきなり言うから驚きすぎて死ぬかと思ったぞ」
「ホウリお兄ちゃんとフランお姉ちゃん結婚してるの?」
「あれは方便だ。付き合ってるって言ったら別れるように言ってくると思ったからな」
「確かにバーリングおじいちゃんなら言いかねないな」
「……まあよい。して、こんな長い道を歩いて行ったんじゃ。何か使えそうな情報はあったんじゃろうな?」
「もちろん、手札が一つ増えたぜ」
「なにか企んでおるようじゃな。そういえば、ロワが喋っておらんのう」
「はぁはぁ、長距離を歩いてよく喋れますね……」
「慣れろ。ところで、この後はクラン家に行くのか?」
「その前に家によろう」
「なぜじゃ?」
「ドレスアップしないとエンゼおじいちゃんの家で浮いちゃうから」
「なるほどのう」
「それは構わないが、あの状態のロワを連れていくのか?」
「ぜぇぜぇ、皆さん、待ってください」
「……なんとかなるだろう」
次週は4連休という事で4日連続投稿したいと思います。なぜ、宣言したかというと逃げ場をなくすためです。
次回はクラン家に行きます。流れとしては今回と同じです。
小説のサブタイトルはネットミームや名言などからつけていますが、仮面ライダーのネタはどうするかどうするか悩んでます。ヒーローの小説の案があるのでその時に使おうと考えてますが我慢できなくなったら使いますかね。




