第三十四話 ラブコメの波動を感じる
前半はミエル視点で書いてみました。ホウリと口調がかぶり気味ですが、頑張って分かるように書きたいです。
───文字───
基本的には日本で使われている文字と変わらない。名前はカタカナが使われることが多いが、漢字も使われている。しかし、漢字は日本で言うところのキラキラネームみたいな扱いのため、記入の際はカタカナで書くことがほとんど。学校があるため識字率は高め。─────Maoupediaより抜粋
☆ ☆ ☆ ☆
「確認しました。ダメルの街へようこそ!」
「ありがとう」
街の門番から身分証である騎士団のカードを受け取り、開け放たれた重厚な門をくぐる。
検問を通過すると街の姿が見えた。行き交う人は身なりが良い奴が多く、観光客用の店も高級志向な所が多い。私には無縁な場所だと思っていたが、人生分からないものだな。
一通り街の様子を観察した所で、先に街に入っていたロワを探す。だが、一向にロワの姿は見えない。不思議に思っているとどこからかロワの叫び声が聞こえてきた。
「ミエルさーん!」
「ロワ?」
声のする方に目を凝らして見ると、先に街に入っていたロワが何人かの女に絡まれているのが見えた。困ったように女どもと話をしているロワだったが、私を見つけると顔を明るくしながら手を振ってきた。
「どうした?」
ただ事ではない雰囲気を感じロワへと駆け寄る。すると、女どもは私に対して目を鋭くしながら声高に叫んだ。
「何よあんた!」
「私はロワのパーティ───」
「彼女です!この人は僕の彼女なんです!」
女どもを強引にかき分けながら、ロワが腕を絡ませてくる。同時に女どもの視線が鋭さを増した。
「あんた、本当にこの人の彼女なの?」
「い、いや……」
女どもの迫力にたじろぎ、否定の言葉が喉元まで出かかる。だが、
「ミエルさん……」
ロワのすがるような眼を見て、出かかった言葉をなんとか飲み込む。同時に街に入る前にホウリに言われた言葉を思い出した。
『ロワの動向には十分注意しておけ。最悪死人が出る」
聞いた時は大げさだと思っていたが、この光景を見てホウリの言葉が理解できた。女どものロワを見る目は普通じゃない。私がここで引いたらロワを巡る争いが起こり、何人かは死ぬかもしれない。
ロワのためにもこれ以上被害を出さないためにも、私は引くわけにはいかない!
ロワをかばうように私は前に出て宣言する。
「私はロワの彼女だ。それがどうした」
「あんたなんかより私の方がふさわしいわ!」
「何よ!私の方がふさわしいに決まっているわ!」
「あたしを差し置いて────」
「いいかげんにしろ!」
ギャイギャイとうるさい女どもを一喝する。
目を丸くしている女どもを前に私は話を続ける。
「私たちはこの街に用事があってきた。貴様等のくだらないお喋りに付き合っている暇は無い」
「何よ!あんたなんか────」
「どうしてもというのなら」
女どもの言葉を遮り、私は後ろの検問を指し示す。
「憲兵に任せてもいいが?」
「……チッ、行くわよ」
恨みがましい目をしながら女どもは去って行った。
私は胸をなでおろして、ロワへと向き直る。改めてロワを見てみると、初対面の時に着けていた布を着けていない事に気がついた。
「布はどうしたんだ?ホウリに着けるように言われていたはずだが?」
「風にとばされちゃって……。すぐに新しい布を着けます」
ロワは恥ずかしさで顔を赤くしながらアイテムボックスを漁る。その仕草に私の顔まで熱くなって行くのを感じる。さっきは必死だったから意識していなかったが、素顔のロワを直視するのはまだ難しい。
「ミエルさん?どうかしましたか?」
「な、何でもないぞ」
心配そうに見てくるロワに微笑みながら答える。今度はきちんと布で口元を隠している。
布を付けていれば普通に喋る事が出来るくらいには慣れる事が出来た。
小さく深呼吸して出来るだけ普通にロワと話す。
「ホウリの奴は何を買ってこいと言っていたんだ?」
「えーっと……」
ロワが買うものが書かれたメモを取り出して読み上げる。
「主に保存食と爆弾と魔法道具ですね」
「ふむ、ならば魔法屋が近いな」
「あ、だったら魔法屋の前に行きたいところがあるんですけど良いですか?」
「行きたいところ?」
「はい、冒険者ギルドに行きたいです」
「冒険者ギルド?」
「はい、戦闘の経験を積んでおきたいので」
「うーん」
この街の滞在期間は1週間、私たちは買い物さえすれば後は適当に過ごしていいと言われている。余裕があったら情報も集めるように言われているが、特に重要視はしていないみたいだ。
買い物だけなら1週間はかからないし大丈夫だろう。
私は頷いてロワの問いかけに答える。
「ああ、いいぞ」
「やったー、ありがとうございます」
無邪気に笑うロワに私も思わず笑顔になる。
こうして私たちは冒険者ギルドへと足を向けたのであった。
☆ ☆ ☆ ☆
「そろそろ俺たちも行くか」
「うむ」
「はーい」
ロワ達がダメルへ向ってから10分後、俺たちはロワ達が向かった門とは反対の門へと向かう。
門からは数メートルの列が伸びており、門番たちが必死に対応している様子がうかがえる。
列の最後尾に並びながら、二人と街の中での行動を質問する。
「二人に質問だ。街の中に入ってから先に何処へ向かうでしょうか」
「はい!」
「はいノエル」
「お洋服を買いに行く!」
「正解だ」
この街のカジノは金持ちや貴族とかが多い関係上、それなりのドレスコードが無いと入れない。旅で使っていて泥だらけの服なんて論外だ。だからこそ、まずは服屋で二人のドレスから買うことになる。
「ちなみに予算はどの程度じゃ?」
「カジノで使う分を除いて1000万G位だな」
「結構あるんじゃな。お主の服はあるんじゃったか?」
「ああ、オダリムに居る時にな。俺はそれを着るから二人は好きな服を買ってくれ」
オダリムを旅立つときのプレゼントにはかなり助けられてる。オダリムの皆には感謝だな。
「服を買ったらまずは国が管理しているカジノで一稼ぎだ。目標は3日で2000万G」
「うむ、了解じゃ」
「……かなりの無茶苦茶言っているだが、何もコメント無いのか?」
「いつものことじゃろ。そんなことよりこの列が中々進まん事の方が重要じゃ」
「……なんか俺に毒されてないか?」
「そう思うなら態度を改めるんじゃな」
表情一つ変えずに言いきるフラン。なんか嬉しいような悲しいような複雑な気分だ。
☆ ☆ ☆ ☆
「いらっしゃいませ、服飾店『ラルゴ』へようこそ」
「わあ、可愛い洋服がいっぱいだ!」
店に飾られているドレスを見てノエルが歓声を上げながら走り回る。
俺たちは宿で普段着に着替えて、目的である服飾店『ラルゴ』へと来ていた。
フランは走り回るノエルの腕を掴み止める。
「これ!店では走るでない!」
「ご、ごめんなさい」
ノエルは走るのを止めたが顔は落ち着きなく店の中を見ている。今まで外に出た事がなかったから物珍しいんだろう。
ノエルにつられてフランも店を見渡すが、その表情がどんどん曇っていく。
「なあ、これ本当に大丈夫なのか?」
「金か?さっきも言ったが心配はいらない。仮に足りなくなったとしても値切るから大丈夫だ」
「……まあ良いわい」
諦めたように答えるフラン。その目は既にドレスを見つめている。
大きな店だけあって沢山のドレスが飾ってあるな。飾り方も壁に飾ってあったり、マネキンに着せてあったり、モデルの人が着ながら見せているものもある。それに、値段が高いだけあって一つ一つの品質も高い。それが2階まで
これだけ種類があったらどれを選ぶか迷っちまうな。案の定、二人ともドレスを手に取っては戻しての繰り返しで一向に決まる様子が無い。
「うーむ、この赤のドレスも良いが、黒のワンピースのドレスもよいのう」
「流石に2つは無理だからな。1つに絞ってくれ」
「……分かっとるわい」
俺の言葉にフランのドレスを見つめる表情が更に険しくなる。
これ、放っておいたら2時間はこのままだな。
「そんなに迷うんだったら俺が選ぶか?」
「お主は分かっておらんのう、迷いながら選ぶのが楽しいのではないか」
「……分かった、出来るだけ早く決めるんだぞ」
「ノエル、行くぞ!」
「うん!」
嬉しさを隠しきれない様子で2階へと向かう2人。
……待つか。
───3時間後───
「うむ、決まったぞ!」
「ノエルも決まったー」
「……やっとか」
2階からの声に思わず声も漏らす。店に入ってから3時間、やっと決まったみたいだ。ベンチから立ち上がり、凝り固まった体を解すように伸びをする。
待っている間は1階のベンチでスクロール書いていたから暇では無かったけど、それでも3時間は長すぎる。
「待たせたのう」
「お待たせ―」
階段へ視線を移すと、ドレスを着た2人が降りてくるのが見えた。
フランは赤を基調としたふんわりとしたスカートのドレスだ。胸に付けている白色の花飾りが髪やドレスの赤をより鮮やかに見せている。肩を露出し髪を下ろしているためか普段よりも大人びて見える。
フランは上目使いで俺を見るといつもと比べ弱々しい声で質問してきた。
「そ、その……、似合っておるかのう?」
「ああ、いつもの印象は可愛いらしいって感じだが、今は綺麗って感じだな。胸元の花飾りがすごく似合っている」
「あ、ありがとう」
俺の言葉に胸をなでおろすフラン。
大方、自分の恰好に自身が無かったのだろう。心配しなくてもフランは見かけは良いとは思う。
「まあ、わしは可愛いからな。愚問じゃったな」
問題なのは中身のほうだ。こいつにあだ名をつけるなら外見詐欺だな。口に出すと、もれなく杖が飛んでくるから口には出せないが。
「ねーねー、ノエルは?」
ノエルがズボンの裾を引っ張りながら聞いてくる。
ノエルは鮮やかな青色のドレスを身につけていた。お腹の辺りには青いリボンが巻きつけられており、髪は小さなピンク色花の飾りで彩られている。ノエルの可愛らしさが全面に出ているな。
「ノエルも可愛いぞ。フランに選んでもらったのか?」
「うん!可愛いお洋服いっぱい着られて楽しかった!」
「しかし、ちと待たせ過ぎたみたいじゃな。1時間くらいか?」
「その3倍だ」
「……そうじゃったか?」
時間の感覚がおかしくなってやがる。
本気で驚いている様子のフランを見て、ため息を一つ吐いて後ろのレジを指差す。
「さっさと会計済ませてくる。時間に関しては……まあ、何とかなるだろう」
「うむ、申し訳ない……」
レジへと向かいながらこれからの予定を考える。予定より1時間は押しているな。昼食を歩き食いにして、下見の時間を少し削って……、何とかなりそうだな。
俺が考えている間に、フランとノエルは楽しそうにドレスの見せあいっこをしている。3時間も同じことをしていた筈なのによく飽きないな。
……違うな。フランは魔王で買い物とかも自由に出来なかっただろうし、ノエルは外出すら満足に出来なかったはずだ。この2人にとっては宝物みたいな時間だ。金はかかったが、2人の笑顔が見られただけでも十分に価値はある。
不思議だな、今から大金を払うって言うのに清々しい気分だ。
「あちらのお客様のお会計でよろしいでしょうか」
「はい」
店員がフランたちの方向を指し示し俺が頷こうとした瞬間、突然背中の毛が逆立った。
これは!何か決定的なことを見落としているサイン!
なんだ?何を見落としている?今この感覚が来たって事は遅くても5分前の事の筈。だが、この感覚だと命にかかわる程ではない。
5分前って言ったらフランとノエルのドレスを見ていただけ……ん?そう言えばあのドレスの布、かなりの高級品だったな。恐らく布だけで800万はくだらない、染色も鮮やかすぎる、小物も作りが細やかで────まさか!
「お会計は──」
俺は遠くに居るフランを睨みつける。俺の視線に気がついたフランは露骨に視線を背ける。
「2000万Gになります」
またか!似たような事が前にもあっただろ!
「お客様?どうかいたしましたか?」
「……あの、1つお話があるのですが」
30分ほどの説得の末、何とか1100万まで値引きしてもらった。
ちなみに、この後無茶苦茶説教した。
ミエルとロワの話はホウリ達の話が終わった後で。せわしないホウリ達とは別にのんびりとした時間が流れます。雰囲気的にはナメクジと新幹線の速さくらいの差があります。
次回からカジノです。次回は普通にギャンブル解説です。おかしくなるのは次次回からですね。
ゲームの中でギャンブルしましたが、一回で全部使い切ろうとして逆に当たりました。なんでや……。




