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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第三百九十四話 僕だ!

今回はフロランの話です。

 今日は1カ月ぶりにお父様と夕食を共にしていた。

 長テーブルの向こうに無表情のお父様が淡々とナイフとフォークを動かしている。薄暗い食堂には重々しい雰囲気が流れていて、食事が喉を通らない。けれど、気合で食べ物を喉の奥に押し込む。



「テストの結果を見た」



 唐突にお父様がそう言った。私はフォークを動かす手を止めて、正面にいるお父様を見る。



「全ての教科が満点で1位だったようだな」



 お父様の言葉に私は頷く。

 ホウリ先生の言いつけ通り、家庭教師のレッスンを受けている時間は模擬テストを解くようにした。何度も何度もテストを解くうちにケアレスミスは少なくなっていき、遂にはほとんど0に近くなっていた。

 今回のテストは運よくノーミスで解く事ができ、学年1位になることができた。



「分かってはいると思うが、ワーズ家には勝利以外は認められない。これからも鍛練を怠るんじゃないぞ」

「重々承知しております」



 私の言葉に満足したのか、お父様が再び食事に戻った。

 後ろのセムラのホッとした息が聞こえる。私の気持ちも少しだけ軽くなった。

 その後はお父様は何も言わずに食事を続けた。何も無い、それが私にとって何よりも心休まる出来事だった。



☆   ☆   ☆   ☆



「1位おめでとさん」

「いきなり何よ?」



 いつもの訓練前、ホウリ先生からそんな事を言われた。



「学年テストのことだ。満点取ったんだろ?」

「そうだけど、貴方からそんな事を言われるとは思ってなかったわ」

「一応先生だからな。生徒の努力が報われれば褒めるさ」

「意外ね。もっと出来るだろうとか、まだ頑張れとか言ってくるのと思ったわ」

「俺のことを何だと思ってるんだ?」

「鬼畜木刀つかい」

「悪口じゃねぇか」



 私の言葉にホウリ先生が頭を抱える。



「俺は頑張っている奴には優しいんだぞ?褒めもするし、場合によってはご褒美もあげる」

「なら私にもご褒美があるのかしら?」

「ご褒美が欲しいのか?」

「ただ言ってみただけよ。別に期待していないわ」



 変わっているけど、この人は先生。私を甘やかす存在じゃない。



「そんな事よりも早く今日の特訓をしましょう」



 私は刀を取り出して腰に刺す。今日こそはホウリ先生に勝つわ。



「さあ行くわよ……」



 背後にいるホウリ先生の方へと振り向く。すると、ホウリ先生が可愛くラッピングされた箱を差し出していた。



「何よそれは」

「俺からのご褒美だ」

「は?」



 本当にご褒美があると思っていなかった私は、目を点にしつつ箱を見つめる。



「どういう風の吹き回しかしら?」

「言っただろ?俺は頑張っている奴には優しいんだよ」

「私にはご褒美なんて必要ないわ」

「そう言うなって。必要なかったら捨てて良いから」



 ホウリ先生に押される形で箱を無理矢理おしつけられる。

 仕方なく受け取り包みを剥がすと、中から本が出て来た。



「『刀列伝・真剣抜刀』?」

「刀を使った戦闘記録を文字起こししたものだ」

「誰が書いたものよ」

「俺だ!」

「貴方が?」



 本をパラパラとめくって軽く読んでみる。戦闘記録って言うよりも小説って感じだけど、動きとか技とかは参考になりそうね。



「貴方って文才もあるのね」

「そうだな」



 当たり前のようにホウリ先生が言い放つ。なんだかムカつくわね。ホウリ先生にできないことは無いのかしら。

 本を読み進めていくと、少しだけ違和感を覚えた。書いてある内容がフィクションという感じがしない。まるで自分が見て来たことをそのまま文にしたようだ。



「もしかして、これって貴方の体験をそのまま書いているのかしら?」

「その通りだ」

「ふーん?こんなことを体験しているのね?どうりで強い筈だわ」

「それで?その本はどうするつもりだ?」

「読んであげるわ。読み終わるまで捨てるのは勘弁してあげる」

「ちなみに、その本は1冊限定だ。捨てたら替えは無いからそのつもりでな」

「無駄にレアなのね」



 手を叩いて壁際で待機していたセムラを呼ぶ。



「持っておきなさい」

「かしこまりました」



 本をセムラに渡して、再び壁際に追いやる。後で時間が出来たら読みましょう。



「さあ、今度こそ始めるわよ」

「やる気満々だな?」

「良いからさっさと構えなさい」

「へいへい」



☆   ☆   ☆   ☆



「くっ……」



 いつも通り、ホウリ先生に追い詰められる。

 打ち身、擦り傷、切り傷、全身にダメージを負いつつ、隙を作って最低限の回復をする。そんな事を毎日していたから、回避や防御、回復については上達した。

 けど、攻撃については一度もホウリ先生に命中していない。隙の多い居合は勿論、普通の斬撃も投石も、意表を突いたパンチとかも当たったことが無い。というか、カスリすらしないのは異常だと思う。



「守ってばかりじゃ勝てねぇぞ!?」

「攻められる状況じゃないのよ!」



 この人は分かってて言ってるわよね。

 ホウリ先生が投げつけて来た木刀を刀で弾く。しかし、木刀で視界が塞がれている一瞬の隙にホウリさんは姿を消した。



「いつものね」



 分かっていても防げるものじゃない。木刀を躱そうとしても視線は一瞬だけ遮られる。不意に飛んでくるから、ホウリ先生を追うのも無理だ。



「あの人って本当は幽霊なんじゃないかしら」



 周りを見渡してもホウリ先生は見つけられない。けど、少しでも警戒を緩めると、すぐさま鉄拳が飛んでくる。見つけられなくても警戒を緩める訳にはいかない。

 刀を中段で構えて周りの気配を探ってみる。と言っても、周りの細かい動きが分かる訳じゃない。なんとなく、周りに誰かいるのが分かる。その程度だ。

 どこから来ても叩き落とす、その覚悟で刀を持つ手に力を込める。



「……そこ!」



 背後に気配を感じて刀を振るう。すると、ホウリ先生が拳を振り上げている姿があった。

 刀はホウリ先生の腕よりも長い。これなら、ホウリ先生よりも私の攻撃が先に届く!



「貰った!」



 私の刀がホウリ先生の眼前に迫る。このまま行けば命中する。そう思った瞬間、ホウリ先生がほんの少し後ろに下がった。

 しまった、そう思った瞬間には私は刀を止めることが出来なかった。

 刀はホウリ先生の鼻先をギリギリで通り過ぎた。そして、私は刀を振り切っているため、大きな隙を晒してしまった。

 だが、ホウリ先生は素手だからリーチは無い。ホウリ先生が殴る前に下がればダメージを受けることはないだろう。

 そう思い、ホウリ先生が振り上げている右腕を見上げる。



「え?」



 そこにはさっき弾き飛ばした筈の新月が握られていた。



「なんで……」



 そんな事を呟いた瞬間、ホウリ先生が木刀を振り下ろしてきた。

 木刀が目の前に迫り、強い衝撃を感じた後、私は意識を失った。



☆   ☆   ☆   ☆



「どういうことかしら?」

「なんで新月を持っていたかって話か?」

「そうよ」

「秘密はコレだ」

「……ワイヤー?」

「俺の腕にはワイヤー発射装置が付けてある。このワイヤーを木刀の柄に結ぶことで、手から離れてもすぐに手元に戻せる」

「本当に小細工が好きなのね」

「相手に効果的であれば小細工じゃない」

「物は言いようね」

「だが、こういう敵は今後も出てくるぞ?ノエルがそうとは限らないけどな」

「……この戦い方を極めればノエル・カタラーナに勝てるかしら?」

「無理だな。君には素質が無い」

「バッサリと切り捨てるわね」

「曖昧に言って迷わせるよりも、直接現実を見せた方が良いだろ?君に迷う時間なんて無いだろ?」

「それもそうね」

「それにしても強くなったな。頑張って特訓した甲斐があったな」

「自分では分からないけど、私はどれくらい強くなったのかしら?」

「俺の特訓前を100としたら、130くらいだな」

「2週間でそれなら十分ね」

「ノエルに勝つならどれだけ特訓しても足りないぞ。気を引き締めていけ」

「分かってるわよ」

ホウリは甘くないですが、優しさはあります。


次回はギャグ回です。純度100%のギャグ回です。


毎日ジョジョが更新されます。見直すと忘れてることも多いですね。

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