第三百七十九話 おまえはッ、わたしを本気で怒らせたッ!!
今回は前回の続きです。
その後もわしはノエルと共にスイーツバイキングを楽しんだ。
「見て見て!ナッツのあんみつだって!」
「珍しいのう」
ノエルからスイーツが入ったカップを受取る。カップの中にはアーモンドやクルミとあんこ、黒蜜が入っておる。
「果物とか入っておるのが普通じゃが、文字通りナッツが入っておるのう」
「うーん、甘くて香ばしくて美味しい~」
ノエルの言う通り、香ばしいナッツとあんこの甘みがマッチしておる。ナッツの種類も豊富じゃし、触感も豊かで食べて楽しい。
「よくもこんなにスイーツの種類が思いつくものじゃな」
「ティムおじちゃんって凄いんだね」
「ティム1人で作っておる訳ではないみたいじゃがな」
確か娘がおるんじゃったか。わしは会ったこと無いが、ホウリならあった事あるじゃろうか。こんなスイーツを作れる奴に興味がわいてきたわい。
「じゃが、甘い物を食べ過ぎて、少し飽きてきたのう」
「口直し用のポテトチップスが有るみたいだよ?」
「そうなのか?」
ノエルが示す方を見ると、籠に入っている山盛りのポテトチップスがあった。口直しまで考えられておるとはのう。ホウリの入れ知恵かのう?
「甘いの食べるとしょっぱいのも食べたくなるよね」
「じゃな」
ポテトチップスを1枚とって口の中に入れる。口が欲していたしょっぱさが広がり、甘さを和らげてくれる。
「うむ美味いのう」
「おいしー。スイーツ以外も美味しいんだね」
ノエルと共にポテトチップスを食っておると、後ろから肩を叩かれる。
振り向くと、ロワとミエルが立っておった。
「お主らも来ておったのか?」
「ええ。リビングに招待状があったので、仕事が終わってから来てみたんです」
「ロワは分かるんじゃが、ミエルはこんなパーティーに来る暇があるのか?」
ミエルはオダリムの件で忙しさが極まっていると聞いている。家に帰ってくるのも日を跨いでからが多くなっておるし、パーティーに参加する暇なんて無いと思うがのう。
「それが騎士団に行くと、今日やるはずだった仕事が終わっていたんだ」
「誰かが手伝ってくれたってこと?」
「ですが、騎士団長の仕事が出来る人って限られますよね?」
[騎士団の中で心当たりがある人物に聞いてみたが、知らないと言っていた]
「じゃあ、騎士団以外の人物で騎士団長の仕事が出来る人がいるって訳ですね」
「はっはっは、そんな奴いる訳が無いだろう?」
「あはは、ですよねー」
「じゃよなー」
「そうだよねー」
皆で朗らかに笑いあって優しい気持ちになる。じゃが、わしらの頭にはとあるパーティーのリーダーが浮んでおった。
ホウリの奴、騎士団にも直接的に干渉してきたか。スイーツにそこまでの熱意があるとはのう。そういえば、スイーツ店のオープンに間に合うようにゴーレム対峙のRTAをする奴じゃったな。これくらいはするか。
「で、ホウリの手回しによってこのパーティーに参加しておる訳か」
「私としては助かるが、ホウリに騎士団の中枢を握られている気がして不気味なんだ」
「それは分かる」
「というか、ホウリさんの手が伸びていない機関ってあるんですか?」
「無いじゃろうな」
どんな小さな機関にもホウリの手が加わっておるじゃろうな。ホウリにはそれくらいの説得力がある。
「ホウリさんも善意でやっているでしょうし、ここはパーティーを楽しみましょう」
「そうだな。あいつはスイーツに関しては何も企まない男だ」
「変な信頼があるのう」
ホウリにとっては本望かもしれんがのう。
「折角の機会じゃ、お主らも何も考えずに美味そうなものを片っ端から食って──」
「もしかして、フランか?」
ロワとミエルと話していると、再び背後から話しかけられた。
振り向いてみると、背後には劇団の仲間であるヌカレが立っておった。
「お主も来ておったのか」
「おう。なんでも、迷惑かけたお詫びだって脚本家から招待されてな」
「色んな奴を呼んだんじゃな」
「というか、そいつら誰だ?」
「そういえば、お主とは面識は無かったのう?」
確かに直接合わせたことは無かったか?ちょうどいいから紹介しておくとしよう。
「こやつの名はヌカレ。わしが出ている劇の相手役じゃ」
「知ってますよ。前に劇を見に行った時に見ました」
「そうだな」
「よろしくお願いします」
三者三様の反応じゃ。そういえば、こやつらは劇を見に来ておったのう。ヌカレを知っておっても無理は無いか。
「察するに、そいつらはフランのパーティーメンバーか?」
「そういうことじゃ」
今度はヌカレに3人を紹介する。
「この3人はわしとホウリのパーティーメンバーじゃ」
「ミエル・クラン。騎士団の団長をやっている」
「ロワ・タタンです。騎士団でミエルさんの部下をやってます」
「ノエル・カタラーナです!」
「嬢ちゃんのことは知っているぞ。フランからよく話を聞いている」
「そうなの?」
ノエルが可愛らしく小首をかしげながら、わしを見て来る。
「休憩になると嬢ちゃんの写真を見せてきてな。昨日はこんなことをしたとか、あんな場所に出かけたとか、うるさいくらいに話してくるから嫌でも知ってるんだよ」
「ふーん?」
ノエルが何かを訴えかけてくるように、上目遣いで見て来る。わしは背中に冷たいものを感じながらも、ノエルから目を離すことができない。
「フランお姉ちゃん?」
「な、なんじゃ?」
ノエルがわしの腰に手を回して、逃げられないように抱き着いてくる。
「ノエルの写真、勝手に見せたの?」
「あの……その……」
「いっぱい見せたの?」
「えっと……」
ノエルの海のように深い青色の瞳がわしを射抜く。いつも表情豊かなノエルが、今は表情を消している。
わしが答えずにいると、ノエルはヌカレの方に向いた。
「写真ってどういうの見たの?」
「寝顔とか水着とか、チャイナ服とかだな。色んな服着せてるなって思ったよ」
「ふーん?毎日見せて貰ったの?」
「劇や稽古がある日は毎日だな」
「ふーん?」
ノエルが再びわしを見上げて来る。いつもなら抱き着かれて嬉しいんじゃが、今は寒気しか感じない。
「フランお姉ちゃん」
「な、なんじゃ?」
「ノエル、他の人に写真を見せて欲しくないって言ったよね?」
「そ、そうじゃったかのう……」
ノエルに詰められて、わしは自分でもまばたきが多くなっているのが分かる。
この目はダメルの街で憲兵長に写真の見せ合いをしてたのがバレたとき以来じゃ。
「なんで見せたの?」
「その……ノエルの可愛さを皆に広めたくてのう……」
「ノエルが嫌だって言ってるのに?」
「そう……じゃな……」
わしの頭の中のホウリが『自業自得だバカ』となじってくる。分かっておるが、酒やたばこと同じように簡単に止められるものではない。
言葉に詰まっておると、ノエルが不意にわしから離れた。そして、ロワとミエルの手を取る。
「じゃあ、行こっか」
「ノエル!?」
「あっちに美味しそうなスイーツがあったよ。行ってみよ」
「え?良いの?」
ロワが困惑しながらわしを見て来る。じゃが、ノエルはわしの方を一切見ずに笑顔で口を開いた。
「うん、今はロワお兄ちゃんとミエルお姉ちゃんと一緒にいたいの」
「待って!謝るから待って!」
「ほら、行こ?早くしないとスイーツ無くなっちゃうかもよ?」
「そうじゃ!ノエルの好きな物なんでも買う!いくらでも買う!じゃから待ってくれ!」
「ノエルまだまだ食べるよー」
わしの言葉を完全に無視して、ノエルは歩みを進める。ミエルはわしとノエルを交互に見ると、ため息を吐いた。
「はぁ、こうなったノエルは止められないな。面倒は私達が見るから、今回は諦めてくれ」
「そんなぁぁぁぁ!嫌じゃああああ!」
去っていくノエルに手を伸ばしながら叫ぶ。しかし、ノエルは決して振り返ること無く店の奥へと向かうのじゃった。
自業自得ですね。
次回は今回の続きです。書いておきたいことがまだ書けていないので。
鬼滅の刃の謎解きの第二弾をやりました。今回は簡単でした。改めて思ったんですけど、第一弾の難易度がえぐかった気がします。




