第三百七十六話 ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!
連続投稿1日目です。連休早くないですか?
とある日の昼、俺とフランとノエルは家の庭で特訓していた。
「今日の特訓は何するの?」
「今日は感覚を鍛えるぞ」
「はーい」
良く分かっていないような笑顔でノエルが手を上げる。それを見ていたフランが口を挟んでくる。
「具体的に何をするつもりじゃ?」
「視覚以外の感覚を鍛えて貰う」
「気配を察知する能力のこと?ノエル割と出来るよ?」
ノエルが不思議そうに首を傾げる。確かにノエルには気配を探る方法は教えてある。既にある程度の気配は探れるようになっているから、改まって教えられることに違和感があるんだろう。
「そっちも重要だが、今回は別だ」
「別の能力?」
「視覚以外の五感を鍛えて貰う」
「聴覚とか触覚とかか?」
「その通りだ」
「良く聞けばいいんだね」
ノエルが目を閉じて耳を澄ませる。
「聴覚以外にも、触覚とか嗅覚も鍛えて貰う」
「気配を探るのじゃダメなの?」
「気配は生き物の動きしか探れない。持っている武器とか、ロボットとかの無機物の動くは把握できない。五感をフルに活用できれば、生き物以外の動きも把握できる」
「把握する必要あるか?もっと魔装とかを鍛えた方が良いのではないか?」
「偶には別の特訓でも良いだろ?」
「適当すぎんか?」
「まいにち似たような訓練だと飽きるだろ。それに、これは必要なことでもあるんだぞ?」
「そうなのか?いまいち分からん」
フランが首を捻る。フランは力押しをしたがる傾向にあるからな。こういうチマチマした技術はピンとこないんだろう。
「人間は8割の情報を視覚から得ているという」
「らしいのう」
「ここで問題。相手の戦力を削ぐにはどうすれば良いと思う?」
「相手の首を切り落す」
「戦力を削ぐどころか殺してんじゃねえか」
「視界を奪う?」
「流石はノエル。正解だ」
手軽な物でいうと、閃光手りゅう弾が簡単に視界を奪える。すると、相手は何処から攻撃が来るのか分からずに、精神的にも動揺しやすく隙も出来やすい。
「視界を奪うスキルもあるし、対策するに越したことはない」
ノエルはフランを倒すために強くなりたいと思っているが、フランを倒した後のことも考えなくてはならない。そうなると、戦闘訓練以外にも、どんな状況でも全力を出し切れるような訓練もしておきたい。
「視覚以外の五感を鍛えると言ったな?味覚も鍛えるのか?」
「優先度は低いが、鍛えるに越したことはない」
「何故じゃ?」
「毒を盛られた時に気付きやすくなる」
「セイントヒールがあるなら毒なんて怖くないじゃろ」
「大っぴらにセイントヒールが使えないこともあるだろ?ま、美味いものがより美味くなるし、損はない無いんじゃないか?」
「ハンバーグがより美味しくなるってこと!?」
「そうだ」
「やる気出て来た!」
ノエルが鼻息を荒くして拳を固める。
「やる気が出たところ悪いが、今回は味覚は鍛えないぞ」
「そうなの?」
「今は戦闘に関する訓練だからな。聴覚、触覚、嗅覚を鍛える」
「嗅覚も必要なのか?」
「火薬の匂いがしたら警戒するだろ?」
「それもそうか」
「ねぇねぇ、ノエルは何すれば良いの?」
「前置きが長くなったな」
俺はフェイスタオルをノエルに渡す。
「これで目隠しして、フランが作った泥人形と戦ってもらう。魔装も全力で使ってくれ。魔装の訓練も同時に行う」
「はーい」
ノエルが素直にフェイスタオルで目を覆う。
「見えてないな?」
「うん」
「それじゃ準備する。準備ができても合図しないから気を抜くなよ」
「了解であります!」
ノエルが勢いよく啓礼する。やる気は十分、あとはどれだけ集中力が持つかだな。
「フラン、邪魔にならないように端っこに行くぞ」
「うむ」
静かにノエルから離れて家の壁にもたれ掛かる。
「適当に泥人形を作ってノエルを攻撃してくれ」
「ステータスはどうする?」
「いつもと同じで良い」
「うむ」
フランがノエルの方に向かって手を伸ばす。すると、地面が盛り上がってきて人の形を取り始める。そして、160㎝くらいの大きさになると地面から足が離れて動き始めた。
そんな泥人形が3体、ノエルの周りを取り囲んだ。
メリットは簡単に生み出せるうえ、倒されても復活させることが出来ること。デメリットはMPの消耗が激しいことだが、フランには関係ないな。
そんな便利なスキルだけあって、普段も大人数との戦闘訓練に使っている。フランがいないと使えないのが玉に瑕だけどな。
「お主もスパルタじゃのう」
「何がだ?」
「視界を奪っているのに、いつも通りの強さの泥人形を相手取らせるところがじゃ」
フランが手を突き出したまま不満気に口を尖らせる。
「普通なら少しは手加減するじゃろ。いつもと同じ強さじゃと、すぐにやられるのではないか?」
「かもな」
「おい」
フランの目が鋭くなっていく。可愛い妹分が雑に扱われていると思ったんだろう。
「別に考え無しでやっている訳じゃないぞ?」
「本当か?」
「お前の俺に対する評価はどうなってんだ?」
「詐欺師、卑怯者、裏ボス、好きな物を選ぶと良いぞ」
「さんざんだな」
大きく外れていないから反論しずらいところだ。というか、裏ボスってなんなんだ。
天を仰ぐと、フランの鋭い視線が徐々に和らいで軽く笑った。
「冗談はこれくらいにして、お主がノエルの事を大事に思っているのは知っておる。じゃが、少しくらいは手加減しても良いのではないか?」
「ノエルには早急に強くなって貰わないといけないからな」
泥人形の拳がノエルに迫る。ノエルは迫る拳にギリギリで反応し、ナイフで拳を受ける。だが、背後から迫っていた泥人形には気付かずに腕を取られた。
「気になっておったんじゃが、なんでノエルを早急に強くしようとしておるんじゃ?」
「言って無かったか?フランを倒すためだ」
「それにしては早急すぎると思うがな?わしはすぐに死ぬ訳ではないぞ?」
「もう一つ理由がある」
「なんじゃ?」
「ノエルが1人になった時に強くなれる指針を作るためだ」
「ノエルが1人に?」
俺達はずっとこの世界にいる訳じゃない。最終決戦で俺とフランのどちらが勝っても、俺達はこの世界からいなくなる。
だからこそ、直接指導できる今のうちに、どうすれば強くなれるのかを教えておきたい。何をすれば
良いかが分かっていれば俺達がいなくなっても強くなることが出来る。
指導できる時間は約2年、短すぎるわけじゃないが長くも無い。早急過ぎるように見えるかもしれないが、これでもギリギリだ。
「そういう訳で、ノエルには様々な特訓を覚えてもらう必要がある。早急に見えるかもしれないが、必要な事なんだ」
「そんな……」
フランが絶望した表情で震える。そんなに驚かせるようなこと言ったか?
「ノエルと別れるじゃと!?そんなの許されるか!」
「そっちかよ。さては話を聞いてなかったな?」
「失敬な、ちゃんと聞いておったぞ」
「どこまで聞いてた?」
「『俺達は』までじゃな」
「ほとんど聞いてねぇじゃねえか」
「ショック過ぎてのう」
どれだけノエルと離れたくないんだ。死ぬときにノエルも道連れにするんじゃないか?
とはいえ、これだけ動揺しても泥人形が動きを止めていないのは流石といったところか。
「……どうにかノエルと一緒に生きていく方法は無いものか」
「なんかヤバそうな手段に手を出しそうだな」
「悪魔と契約……いや、黒魔術か?」
「全てを投げ出しそうな手段だな?」
「生贄は3人まで用意できるから……」
「俺とロワとミエルを勘定に入れてる?」
「銀の閃光と劇団の皆には悪いが我慢してもらって……」
「生贄は俺とナップとヌカレだったか」
「はっはっは、冗談じゃよ、冗談」
「目が笑ってないんだが?」
本当にやりかねないな。警戒しておくか。
そんな話をしている中、当のノエルは一生懸命に戦っている。泥人形に後ろから拘束されていたノエルは、魔装を使って思いっきり振り払う。
振り払われた泥人形は、余りの力に腕が吹き飛ぶ。しかし、直ぐに腕が生えてきてノエルに殴り掛かって来た。
ノエルは額で拳を受けると、大きく後ろによろめく。攻撃を受けるタイミングが分からないと、踏ん張る事もできないから、体勢を崩しやすい。そして、体勢が崩れると次の攻撃も受けやすくなる。
そう思っていると、案の定、別の泥人形からの拳を背中で受けてしまった。
「厳しそうじゃな」
「始めはあんなものだ」
あの状態からどれだけ強くなれるかだ。ノエルは才能があるから更に強くなるだろうな。
「適当なところで切り上げるたほうが良いかものう。いつもよりも集中力を使っておる」
「かもな」
「ところで、ノエルにはどこまで出来るようになって欲しいんじゃ?」
「目をつぶっても変わらずに戦えるくらいにはなってもらいたい」
「中々にハードルが高いのう。しかも、魔装とかの特訓もしながらじゃろ?大変じゃな」
「俺は出来る事しか求めない。これもノエルが出来ると思っているからやらせてる」
泥人形の拳が再びノエルの背中に迫る。瞬間、ノエルは即座に振り向いて拳を紙一重で躱す。
「お?」
その様子をみてフランが目を見開く。
攻撃を躱したノエルは拳を泥人形に向かって放つ。しかし、拳は泥人形の顔に掠り、ダメージを与えられなかった。
「おしいのう」
「あれなら成長も早そうだな」
「思いっきり顔を殴られておるが?」
「……まあ、そんな時もあるさ」
何はともあれ、これからのノエルの成長が楽しみだな。
という訳でノエルの特訓でした。こんな変な特訓もいっぱいしてます。
次回はフロランの特訓です。居合はできたんでしょうか?
ゼッツ楽しみ!けど、ガヴ終わっちゃうんですよね……。




