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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第三百七十四話 逆凪流納刀術

今回はフロラン回です。

 ホウリ先生が来た次の日、私は同じ時間に屋敷の中にある訓練場で爺やと共にホウリ先生を待っていた。

 居合は少しはできるけど、必殺技と呼べるほどの威力は無い。どんな技なのか少しだけ楽しみだ。



「そろそろ時間ね」

「先ほどホウリ様が屋敷に到着したと連絡がございました。まもなく来られるかと」



 爺やが懐中時計と見ながら教えてくれる。



「昨日の態度で少しムカついているから1秒でも遅れたら文句を言ってやろうかしら」



 そんなことを呟いていると、訓練場の扉が開きホウリ先生が入って来た。

 私は横目で爺やを見る。



「1秒の誤差も無く到着されてます」

「ちっ、残念ね」



 私たちの言葉が聞こえていないのか、ホウリ先生は昨日と同じ様子で手を上げる。



「よう、ちゃんと居るな。感心、感心」

「前置きは良いわ。私の武器を用意してくれたのでしょう?早く渡しなさい」

「その余裕の無さを問題視しているんだが、直ぐには治せないか」



 苛立っている私の内心を見透かしたのか、ホウリ先生がそんな事を言う。その言葉にさらなる苛立ちを考えていると。ホウリ先生がアイテムボックスを漁る。



「ほら」



 ホウリ先生が取り出した武器を放ってくる。咄嗟だったけど、私はなんとか武器をキャッチする。



「これは刀?」



 渡された刀は柄から鞘まで真っ白の刀だった。抜いてみると、刃まで真っ白だ。



「これだけ白い刀は珍しいわね」

「君の為に作った特殊な刀だ」

「というか、刃が丸くなっているのね」

「試合用だからな。刃が付いていると居合で相手を真っ二つにしてしまう」

「そんなに威力があるのね」



 私は刀を抜いて軽く振ってみる。その振り心地に私は思わず声が出てしまう。



「いつもの剣よりも手に馴染む?」



 柄の太さ、長さ、刃の大きさや重心、どれをとっても前の剣とは比べ物にならないほどにピッタリだ。



「なんでこんなに私にピッタリの刀を作れるのよ」

「俺はそいつを見ればどういう武器がピッタリなのか分かるからな」

「ホウリ先生が作ったの?」

「俺が設計して知り合いの鍛冶屋に作ってもらった」

「腕の良い鍛冶屋ね」



 見ただけで武器の品質は分かる。これだけ美しく力強さを感じられる武器は初めてみた。振ってみて作りもしっかりしているのが伝わってくる。

 けど、これだけ優れた武器を持っても、ノエル・カタラーナに勝てるビジョンが見えない。……ダメだ、気持ちで負けてしまっている。



「その弱気も改善しないとな」

「心を見透かすのは止めていただけますか?」

「それだけ不安そうな顔をしてれば誰でも分かる。戦闘中に内心を顔に出すのは不利になりやすいから気を付けてくれ」

「……分かりましたわ」



 ホウリ先生の言葉は正論だから頷いておく。しかし、私の中の不安は消えない。居合をものにすれば、この不安も消えるだろうか。



「まあ、精神の問題はこれから解決するとして、居合の話をしよう」

「待ってましたわ」



 精神がどうこうというのは、考えてて疲れる。今は新しい技の方に集中しよう。



「君に覚えてもらうのは2つ。抜刀術と納刀術だ」

「納刀術?」



 抜刀術は分かる。刀を抜くための技術だ。納刀術は名前から察するに納刀術って刀を鞘に納める技術だと思うけど、そんなのが役に立つのだろうか。



「ああ。今から教える抜刀術は『真鏡(まじき)流』、納刀術は『逆凪(さかなぎ)流』という。2つで1つの技術と思ってくれ」

「抜刀術は分かりますけど、納刀術って必要ですの?ただ刀を鞘に納めるだけでしょう?」

「ピンとこないなら試してみるか。その刀を鞘に戻してくれ」

「ええ」



 確かに刀を鞘に納めるのはコツがいる。けど、私は刀も扱えるから改めて教わる必要はない。まあ、この人は少しは見る目はあるみたいだけど、私の実力を計り切れていないみたいだ。

 そう思いながら私は鞘に刀を納めようとする。



「……あの」

「なんだ?」

「木刀が邪魔で刀を納められないんですけど?」

「そりゃあ、納められないように邪魔してるからな」

「は?」



 意味が分からない。なんで納めろって言って邪魔してくるのだろうか。

 私は木刀を振り払って刀を鞘に納めようとする。しかし、ホウリ先生は再び木刀で納刀の邪魔をしてくる。



「どうした?納刀しないのか?」

「くっ!」



 やっとホウリ先生の意図が分かった。どうも私の邪魔をしてバカにしたいみたいだ。



「この!」



 刀をホウリ先生に振るう。こうなったら、意地でも納刀してやる。

 ホウリ先生は刀を難なく受け止めて、蹴りを繰り出してくる。私は後ろに跳んでホウリ先生と距離を取る。

 この距離なら木刀は届かない。つまり、ホウリ先生は納刀を邪魔することができない。



「私の勝ちね!」



 私は鞘を手に取って、中に刀を納め……られなかった。



「え?」



 刀から鞘に何かが詰まっているのを感じ取る。鞘に視線を向けてみると、光り輝く玉が鞘に挟まっていた。



「なにこれ?」

「パチンコ玉だよ」

「な!?しまっ───」



 鞘に気を取られている間に、ホウリ先生が接近してきていた。そして、襟を取られると、地面に思いっきり叩きつけられた。



「うぐっ!」



 叩きつけられた衝撃で刀と鞘を手放してしまう。



「さて、どうする?」



 ホウリ先生に押さえつけられながら私は必死に頭を回す。けど、体格差が大きすぎてどうしようも無い。



「……参りました」



 私が負けを認めると、ホウリ先生が私の袖から手を離して解放した。



「どうだ?戦いながら納刀するのは難しいだろ?」



 私は無言で頷く事で肯定する。

 抜刀するには納刀しないといけない。だからこそ、戦いながら納刀する技術が必要な訳だ。



「居合は抜刀する前に相手に読まれやすい。だから、隙を作ってから使うのだが」

「その時に納刀するのに技術がいるという訳ね」



 言葉を引き継ぐとホウリ先生が頷く。



「そういうことだ。素早く納刀しないと隙が潰れるどころか、逆に相手に隙をさらしかねない。だからこそ、抜刀術と納刀術は2つで1つなんだ」

「身に染みて分かったわ」



 素早く、相手に邪魔されることなく納刀する技術か。これは教わって損はない。



「真鏡と逆凪。これを闘技大会までに覚えてもらう」

「分かったわ」

「立てるか?」

「ご心配なく」



 痛みに耐えて、私は立ち上がる。これくらい耐えないとノエル・カタラーナには勝てない。

 私は刀と鞘を取ってきて、詰まっていたパチンコ玉を取る。いつの間にパチンコ玉を撃ちこんでいたのかしら。後で教えてもらいましょう。

 納刀して刀を腰に刺す。



「それで肝心の抜刀術、真鏡を教えてくれるかしら?」

「了解。まずはその刀の特性について説明する」



 ホウリ先生は刀の鞘を指さす。



「その刀の大きな特徴は鞘にある」

「鞘?」



 鞘を見てみるけど、真っ白い以外に変わった所はない。刀を抜いて中を覗いてみるが、何も見えない。



「何が特別なの?」

「納刀して鞘を魔装すれば分かる。柄は天井に向けてくれ」

「?、分かったわ」



 言われた通り、柄を上に向けるように鞘を持つ。そして、鞘に魔装をした瞬間、



「どぅわっ!」



 入っていた刀が天井目掛けて飛んでいった。



「なにが起こったのよ!?」

「その鞘は魔装することで、中から押し出される力が発生する。それを利用して高速の抜刀を可能にしている」

「なんだかズルしている気分ね」

「自分に適した武器を使うのは当たり前のことだ。あと、扱うのにはそれなりの技術がいる。闘技大会まにものにしてくれ」



 確かに扱いにくい。普通の居合とは感覚が異なるだろう。



「試しに居合してみるか?」

「そうね」



 私は飛んでいった刀を拾って納刀する。

 そして、鞘を左手、柄を右手で握って脇の方で構える。そして、鞘に魔装をして一気に刀を抜き……



「うわっ!」



 鞘からの力が不均一に加わり、腕がブレて不格好な抜刀になってしまう。



「鞘への魔装が均一じゃないと、鞘からの力が均一にならない」

「なるほど」



 今のは魔装が均一じゃなかったから、均一じゃない力になってしまったのか。これじゃ普通に居合した方がマシか。



「その鞘を使いこなせるようになるのが最初の課題だ」

「分かったわ」



 この鞘を使いこなせれば、ノエル・カタラーナに通じるかもしれない。遂に見えた光に、私は興奮を隠せない。



「やる気が増したみたいだな。じゃあ、ついでにこれもプレゼントだ」



 そう言うと、ホウリ先生はアイテムボックスから銀色に輝く2mくらいの棒を取り出した。先が尖っているけど、武器って訳ではなさそうね。



「それは何かしら?」

「この棒はオリハルコンとホンマンという金属の合金で作った棒だ」

「世界一固い金属ね」

「そうだ。ちなみに、その刀はこの棒と同じ合金で出来ている」

「へぇ」



 高価な金属だって聞いたけど、贅沢に使っているわね。まさか、プレゼントって訳じゃないでしょうね。

 後から何か要求されたりしないかしら。お金ならまだいいけど、流通の権利とかを要求されたら面倒ね。



「心配しなくていい。刀と棒にかかった費用は君のお父さんに請求させてもらう。貸し借りは無しだ」

「なら安心ね。それで、その棒は何に使うのかしら?」



 そう聞くと、ホウリ先生は棒を地面に突き刺した。棒は50㎝くらい突き刺さり直立した。



「これは的だと思ってくれ。これを切れるようになるのが最終目標だと思ってくれ」

「切る?折るじゃなくて?」

「切るだ。切れない刀で切れるように、魔装できるようになってくれ」

「結構な無茶を言ってくれるわね?」



 魔装は普通に武器にMPを纏わせるものだ。切れない物を切れるようにするには、MPを刃のように纏わせないといけない。

 魔装するだけでも難しいが、切れるように魔装するのは更に難しい。普通なら10年くらいかかる技術だ。



「闘技大会まで半年しかないのよ?正気?」

「正気だ。それくらいのMPコントールができないと話にならない」



 ホウリ先生が当たり前のように言い放つ。どんな難しいことでもやるつもりだったけど、これは少し躊躇ってしまう。



「やめたいなら良いぞ」

「……やめる訳ないでしょ」



 これ以上ノエル・カタラーナに負けるわけにはいかない。血反吐を吐いてでも習得してやる。



「なら宿題だ。明日までに居合でこの棒に傷をつけてくれ」

「居合だけしか使っちゃダメなの?」

「ああ。まずは居合の感覚を掴んで欲しい」

「先生は何も教えてくれないの?」

「君はあれやこれや教えるよりも、試行錯誤させた方が上達するタイプだ。まずは自分で試してみて、詰まったら俺が指導する」



 指導する気が無いわけじゃないみたいね。確かに横から口出しされるのは好みじゃないから助かるわ。



「抜刀術が形になったら、納刀術を教える。納刀術が形になったら、抜刀術の威力と速さ、精度を上げる。その後は実践で抜刀術を組み込む訓練だ」

「やってやるわよ」



 私は棒の前に立って、居合の構えをとる。そして、目の前の棒をノエル・カタラーナと重ねて、鞘から刀を抜き去る。



「はっ!」



 刀が棒と激しく激突して火花が散る。



「どうかしら?」

「全然だな」



 ホウリ先生が刀と棒が接触した箇所を見る。けど、棒は切断どころか傷すらついてなかった。



「これを明日までに形にしてくれ」

「分かったわ」

「じゃ、俺は行く」

「ええ。ありがとうございました」

「おう」



 私がお辞儀すると、ホウリ先生は軽く手を振って去っていった。

 そこから、私は時間を忘れて居合の練習に没頭した。気絶するまでやって爺やに怒られたのは別の話。

武器が良いフロランと武器がショボいノエルは、ノエルの方が強いです。まあ、前提条件が違うのでなんとも言えないですけど。


次回は未定です。何も思いつかなかったら、今回の続きをやります。


ガヴの映画やりましたね。なんか、凄くエグイみたいですね。

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