第三百五十五話 エネルギー充填120%
今回は準備回です。
僕がMP発射装置でカスケットに狙いを付ける。
「これってどんな軌道で発射されますか?」
「亜光速で発射されるわ」
「あこうそく?」
「……光みたいな速度ってこと。レーザーみたいな感じって考えて」
なるほど、だったら弾道が落ちることは考えなくて良いかな。
「よし!いつでも撃てま……ん?」
撃とうとした瞬間、頭に1つの疑問が思い浮かぶ。
「確かMP発射装置って大量のMPが必要なんですよね?」
「そうね」
「そのMPってどこから調達するんですか?」
ホウリさんとノエルちゃんの疾風迅雷でもカスケットにダメージを与えられる様子は無い。倒すとなると大量のMPが必要になるだろう。
「今って防壁に結界装置を使ってますよね?この装置に割けるMPは有るんですか?」
「無いわよ?」
「無いんですか!?」
あっけらかんとした表情に思わず声を荒げてしまう。
「それじゃどうやってカスケットを倒すんですか!?」
「魔石のMPは回せないわ。だから、他の所からMPを確保するらしいわよ」
「他のところ?」
僕が首を傾げていると、街の中に声が響き渡った。
『街の住人に告ぐ。今から街が滅びる。皆の力が借りたいから近くの広場まで集合してくれ。繰り返す。街の住人に告ぐ───』
「これってミントさん?」
「そうね。こんなぶっきらぼうで要点だけを言うのはミント以外にいないわ」
だけど、皆を集めて何をするつもりなんだろうか?
「言ったでしょ?MPの確保するのよ」
「MPの確保……あ、他の人からMPを魔石に分けて貰うんですか」
確かにオダリムの人は多い。全員から少しだけMPを分けて貰えたら必要なMPを確保することが出来るだろう。けど、それには大きな問題がある。
「MPを込めるのはそれなりの技術がいります。普通の住人ではMPを魔石に込めることは出来ません」
「ミントが普通の人でもMPを提供できる装置を開発したわ。時間もかかるし、装置の数も多くないけど」
「流石はミントさんですね」
「本当だったら魔石以外のMPを確保するために、少しずつ用意してたんだけどね。こんなに早く必要になるとは思わなかったわ」
MPの確保が現実的に思えて来た。けど、問題はまだある。
「それってどれくらいの時間でMPが集まるんですか?」
「ミントの見立てだと、MPを1000集めるのに10分らしいわ」
「……時間が足りないですね」
「そうなの?」
僕は向こうに見えるカスケットを睨みつける。カスケットは疾風迅雷で好きに動けてはいない。拳を振り下ろそうとしたら、炎で軌道を逸らされ、手を上げてエネルギーを溜めようとしたら雷で上体を倒される・
けど、それは動きを封じているだけだ。ダメージにはなっていない。
疾風迅雷はミエルさんにもダメージを通せる。そんな疾風迅雷でもダメージが無いのを見るに、かなり威力を高くしないと倒せないだろう。
「MPはどれくらい必要なの?」
「僕には細かいことは分かりませんが、1万は必要だと思います」
「1万ね。60分はMPの確保にかかる計算ね」
「でも、それじゃ遅いんです」
「どうして?」
「あの雷は長く続かないんですよ」
疾風迅雷はノエルちゃんがホウリさんへMPを供給することで使えている。だけど、MPの供給は密着するほどに近くないと発動できない。だからこそ、ノエルちゃんはホウリさんに背負われて戦っている。
「けど、それがネックなんだよね」
「何がネックなの?」
「あ、いえ、なんでもないです……」
危ない危ない、声に出てたみたいだ。
ノエルちゃんは高速で移動するホウリお兄ちゃんにしがみついていないといけない。魔装を全力で使わないと振りほどかれるみたいだ。
今のノエルちゃんがどのくらい魔装を使えるのかは分からない。けど、1時間以上も使えるとは思えない。
「倒しきれるまでMPを集めきれるか……僕もMPを提供した方がいいですか?」
「ロワ君は狙いをつける必要があるでしょ?万全でいて欲しいわ」
「分かりました。このまま待機します」
僕は焦る気持ちを抑えて狙いを付ける。MPを急激に消費すると体力が大きく減る。疲れで狙いが付けられなくなることは無いけど、何があっても対応できるようにはしておきたい。
歯がゆいけど、僕はこのまま待機しておこう。
「今はどのくらいMPが集まっているんですか?」
「2000ね」
「まだまだ足りませんね」
1万でも足りるのかは分からない。けど、2000だとほぼ確実に足りないだろう。
「あの雷がどれだけ続くのかは分かりません。けど、このままのペースでは確実に間に合わないです」
カスケットは疾風迅雷でようやく抑えられている。疾風迅雷がなくなったら、カスケットはオダリムを攻撃し放題だ。
「……ピンチね」
「ですね」
どうにかしてMPをすぐに大量に用意しないと。
魔石を用意する?でも、オダリムのMPは全て結界に回されている。すぐに用意するのは無理だ。
人を集める?でも、普通の人を集めても効率が上がる訳じゃない。集めるなら冒険者の人だけど、1万も集まるかな?
そうだ!ノエルちゃんを呼べばMPの問題は全て解決……ダメだ、今はホウリさんとカスケットと戦っている。ここに呼ぶことはできない。
「ダメです、何も思いつきません」
「私もよ。というか、ここ出来るなんてタカが知れてるわ」
「じゃあどうしたら!?」
「信じるのよ」
背後からラミスさんの凛とした言葉が聞こえる。
「ミントもホウリ君もいる。なら、私たちは信じて待ちましょう」
「信じる……」
でも、ホウリさんはカスケットと戦っていて……いや、ホウリさんなら戦ってても何かしてくるかも?
確かに僕達が頭を悩ませるよりも、ミントさんやホウリさんに任せる方が良いだろう。
「分かりました。このまま待ちます」
僕は目を凝らしてカスケットに狙いを付ける。
「……そうは言っても気になりますね?」
「まだ発言から1分も経ってないわよ」
「そんなことを言われましても。気になるのは気になるんですよ」
信じ切るって難しいんだなぁ。
「分かったわよ。なら、見える形で成果が感じられたら、安心して任せられる?」
「え?それってどういう……」
僕が振り返ろうとすると、顔の横に何かが差し出された。
「これは……」
それは何かのメーターだった。気圧計みたいに針が数字を指すタイプのメーターだ。
今のメーターは3000を指している。
「もしかして、どれだけMPが溜まっているのかのメーターですか?」
「そうよ。よく見てみて」
メーターを凝視してみると、針が分かるほどに進んでいる。
「もう4100ですか。勢いが聞いてたよりも早いですね?」
「ミントとホウリ君がやってくれたのよ」
そっか。ミントさんがやってくれたんだ。もしかしたら、ホウリさんも何かをしたのかも?
「これなら信じて待てるかしら?」
「そうですね。ありがとうございます」
「メーターはこのままにする?」
「そうですね、お願いします」
僕はメーターを横目で見ながら、カスケットに狙いを付ける。
4200……4300……4400……この調子ならすぐにでもMPが1万までたまりそうだ。
「後はMPが溜まるまで雷が続くのかだけど……」
1秒が1分に感じられるほどの緊張感の中、メーターとカスケットを交互に見る。
4500……4600……4700……まだだ、まだ足りていない。もう少し、もう少し……
「……マズイですね」
カスケットを攻撃していた雷が止まった。それはホウリさんとノエルちゃんの疾風迅雷が切れたのを示していた。
僕は横目でメーターを見てみる。メーターは6000を指していた。
時間切れです。
次回はカスケットを撃ちます。
最近、1話が短い気がします。可能な限り長くできるように頑張ります。




