第三百四十五話 目標をセンターに入れてスイッチ
連続投稿1日目です。今回はロワ視点です。
魔物の襲撃が始まった夜、僕はひたすら魔物に弓を引いていた。
最初は危機感を持っていたけど、今は無心だ。ただひたすらに弓を引く。強そうな魔物を見つけたら優先して攻撃する。以上だ。
なにせ数が多い。下手に考えるよりもひたすらに弓を引いていた方が役に立つし楽だ。
「おーい、交代の時間だよー」
「オッケー」
傍のバリスタ係の人が他の人と交代していく。バリスタ係の人は交代の回数が多い。MPの消費や回復を繰り返すと体力の消費が激しいから仕方ない。
だからこそ、MPを消費せずに攻撃ができる弓使いの僕が酷使されているんだけどね。
「……はぁ」
何度目か分からないため息を吐きながら、下にいるゴブリンの頭を貫く。
壁に近い魔物から適当に倒しているけど、これで良いのかな。まあ、考えて攻撃したら疲れるからやらないけど。
そこまで考えた僕は考えるのをやめて矢を放つのに戻った。
今の時間が夜の0時。僕の交代まではあと数時間。
☆ ☆ ☆ ☆
「………………」
無言で弓を引き続け、魔物を何匹倒したか分からなくなってきた頃、肩を優しく叩かれた。
振り向いてみると、紙コップを持ったミエルさんがいた。
「お疲れ様。少し休憩しないか?」
「良いんですか?」
ホウリさんからは休まず働けという鬼のような指令が来ている。少しとはいえ休んでも良いのだろうか。
「心配しなくても良い。ホウリには許可を取っている」
「それなら安心ですね」
ミエルさんから紙コップを受け取る。コップの中には黄色くトロミのある液体が入っていた。香りから判断するにコーンスープかな。
僕は壁の上から足を出すようにして座る。
「隣、失礼するぞ」
「どうぞどうぞ」
ミエルさんは同じ紙コップを持って僕の隣に座った。
「この戦いはいつ終わるんですかね?」
壁の下で武器を振り回している魔物の群れを見て僕は呟く。
「ホウリ曰く、今の魔物の多さは相手の全力らしい。だから、そう長くは続かないだろう」
「ですが、壁は3日しか持たないんですよね?街を守り切れるんでしょうか?」
「不安は持つな。今は街を守ることだけを考えるんだ」
「そうは言われましても……」
考えない方が良いことは分かっているけど、どうしても考えてしまう。だからこそ、弓を引いている時には無心になっているんだけど。
「それにこちらにはホウリがいる。失敗したら奴がなんとかしてくれるだろう」
「それもそうですね。あー、安心した」
「……励ましておいて言うのもなんだが、安心しすぎではないか?」
紙コップのコーンスープを啜って、そのぬくもりを感じる。
「ふぅ、冷えた体に染みますね」
暖かくなったとはいえ、夜はまだ冷える。カイロとかポカポカ薬で暖を取っているけど、流石に長時間の戦闘は厳しい。
「ミエルさんはどうでした?大変でした?」
「長時間の戦闘は慣れているから大丈夫だ。むしろ、激しく動くことが無いから、いつもよりも楽なくらいだ」
「ミエルさんは本当に凄いですね」
僕も戦闘に慣れて来たと思っていたけど、ミエルさんやホウリさんを見るとまだまだと思う。
「……もっと頑張らないとなぁ」
「ロワは頑張っていると思うぞ?」
「そう言ってくれるのは嬉しいのですが、まだまだですよ。なにせ、最終目標はフランさんですから」
「そういえばそうだな」
ホウリさんはフランさんを倒すために旅をしている。
お二人はどちらも大切な仲間だ。けど、僕達はホウリさんに協力することに決めた。
「今のままではホウリさんの足手まといになるかもしれません。もっともっと強くならないと」
「それを言うなら私も強くならないとな。フランを相手にするなら、どれだけ強くなっても足りない」
「ですが、どうすれば強くなれるのでしょうか?」
「手っ取り早いのはスキルを覚えることじゃないか?」
確かに強力なスキルを覚えることは強くなる近道だと言えるだろう。
「ですが、すぐに強力なスキルを覚えることができるのでしょうか?」
「私達は戦い詰めだっただろう?レベルも相当上がった筈だ」
「そういえばそうでしたね」
レベルが上がれば神殿でスキルが覚えられる。覚えられるスキルは運だけど、上手くいけば強力なスキルを手に入れられるかもしれない。
「時間があれば神殿に行こうかな?」
「そう言うと思って、明日コレトがここに来ることになっている」
「え?そうなんですか?」
随分と準備が良い気がする。コレトさんって神殿長だよね?簡単に時間が取れる人なんだろうか?
「それってホウリさんが手配してたりします?」
「勘が良いな。その通りだ」
「ですよね。ホウリさんってコレトさんと知り合いですし」
この前は王都にコレトさんを呼んでたし、ホウリさんとコレトさんはかなり仲が良いんだろう。
「ちなみに、私は既に新しいスキルを取得している」
「そうなんですか?」
「ああ。ロワが乗っ取られている時、ホウリの指示で神殿に行っていたんだ」
「何を取ったんですか?」
「クレセントサークルだ」
「なるほど」
クレセントサークルね。なるほど、なるほど。
「どんなスキルか分かっているのか?」
「分かってますよ。空を飛ぶスキルですよね?」
「攻撃スキルだ」
ミエルさんの目線が鋭くなる。マズイ、知ったかぶりをしたのがバレた。
「クレセントサークルは大剣で周囲を薙ぎ払うスキルだ。これを使えば囲まれても敵を一掃できる」
「今の状況にピッタリですね。もしかして、ロットさんの殲滅力に影響されましたか?」
「そんなことは……少しだけしかない」
ミエルさんは口を尖らせてソッポを向く。普段の凛々しいミエルさんからは想像できない表情だ。なんだか珍しいものを見た気がする。
「別に影響されても良いと思いますよ?あの戦いぶりは憧れますよね」
「やはり、ロワも敵をなぎ倒していくような戦い方が良いのか?」
「それも良いですが、ミエルさんのような全ての攻撃を防ぐような、どっしりとした戦い方も好きですよ?」
「……そうか」
そう言うと、ミエルさんは再びソッポを向いた。しまった、また何か怒らせるようなことを言ってしまったみたいだ。
「すみません、失礼なことを言ってしまいましたか?」
「そ、そうではない。気にしないでくれ」
ミエルさんはそれだけ言うと、また黙ってしまった。僕も話しにくくなってしまい、微妙な雰囲気が流れる。
することもないので、冷めきってしまったスープを口に含みながら、草原に視線を向ける。
相変わらず魔物が絶え間なく押し寄せてきている。一番多いのはゴブリンかな。考えなしに突進して、壁に付いたら棍棒を振るっていう行動。知能の低い最下級の魔物って感じだ。
でも、これだけの数がいたらゴブリンでも脅威になる。数っていうのはそれだけ脅威だ。
「……あれ?」
そんな事を考えていると、とあるゴブリンに目が留まった。
「ミエルさん、少し良いですか?」
「なんだ?」
僕の口調でただ事ではないと察したのか、だんまりだったミエルさんがこちらを向く。
僕はミエルの肩に密着して、とあるゴブリンを指さす。
「あのゴブリンを見てください。一匹だけ変じゃないですか?」
「どれだ?」
「あれですよ」
更に密着して、必死にゴブリンを指さす。ん?ミエルさんの鼓動がかなり早いような?気のせいかな?
「わ、私には分からないな。どう変なのだ?」
「普通のゴブリンはひたすら壁に突進してきます。けど、あのゴブリンは突進しているフリをしていますが、まったく近づいてきません」
「それは変だな?」
そのゴブリンは棍棒を振り上げたり叫んだりはしているけど、近づいてくる様子が無い。近づくとやられるのが分かっているから?
「ああ、あれか」
ミエルさんは僕の指の先を凝視して、ようやくゴブリンを見つけた。
「変ですよね?」
「確かに、ああいう行動をするゴブリンは見たことが無い。何かあるかもしれないな」
「どうしましょう?」
「とりあえず射ってみるか?」
「ですね」
僕はスープを飲み干して、紙コップをアイテムボックスに仕舞う。そして、弓を手に取って矢を番えて引き絞る。
ギリギリと弓が軋む音を聞きながら、慎重にゴブリンに向けて矢を放った。
このゴブリン、何か変?栗原ぁぁぁぁぁぁぁ!
次回は今回の続きです。あのゴブリンは何なんですかね?
最近、ガチャの調子が良いです。揺れ戻しが怖すぎるんですけど?




