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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第三百四十一話 暑くて干からびそう…

今回は砂漠での一幕です。タイトルに深い意味はありません。

「じゃあ、こいつは連れていくぜ」



 ホウリが白目を剥いて気絶したスパイを肩に抱える。



「ロワのことは任せたぞ」

「分かった」



 そう言うと、ホウリは宿から出ていった。これであちらに情報が漏れることは無くなった。ホウリ曰く、スパイを放置していたのはわざとらしいが、もう必要なくなったのかのう?



「さて、それではわしも行くとするか」

「フランも何処かに行くのか?」

「魔国にな。わしは魔王じゃし、自分の国のことを気にかけんとな」

「そう言えばそうだったな。フランは王という感じはしないからすっかり忘れていたぞ」

「じゃろ?」

「誇るようなことか?」



 わしが王っぽくないのはわざとじゃ。王と分かると色々と動きにくいからのう。



「まあ、魔国は戦闘国家じゃし、わしがおらんでも問題無いとは思うがのう」

「なら何故魔国に行くんだ?」

「ちょっと奴の特訓にな」

「奴?」



 わしは楽しさを隠さずに答える。



「千戦不敗じゃよ」



☆   ☆   ☆   ☆



 ここは魔国の砂漠のオアシス。砂ばかりのだだっ広い中で、オアシスにだけ水があり周りには低い草が生えている。

 日差しはかなり強く、暑いというよりも痛いという感想が出てくるじゃろう。

 そんなオアシスに生えているヤシの木に、そいつは倒れていた。



「おーい、生きておるかー?」

「……何とかな」



 そいつは起き上がると、両手に手斧を構えた。



「待たせたのう。続きを始めるぞ」

「……いつまで戦えばいいんだ?」

「お主が新しい力に目覚めるまでじゃ。分かったらさっさと構えるんじゃ、ロット」



 わしは目の前の男、ロットに向かって拳を突き出す。

 ロットは眉間の皺を濃くした後、手斧を投げつけて来た。轟音を上げつつ向かってくる手斧を回避して、ロットに向かって駆けだす。



「ぜやっ!」

「……ふん!」



 わしの拳をロットは手斧で迎え撃ってくる。拳と手斧が激突し火花が散ると、ロットの手斧が大きく弾かれる。



「わしに力で勝てると思ったか!」

「……むしろ、勝てるものがあれば教えて欲しいくらいだ」

「ごもっともじゃな」



 手斧を弾かれたロットは後ろにのけ反り、大きな隙をさらす。



「わしにその隙は致命的じゃぞ?」



 わしは拳を握って振り上げる。そして───



「見ておるぞ!」



 わしはしゃがんで、後ろから飛んできた手斧を回避する。



「……くっ」

「本来であれば隙を突かせんための攻撃なんじゃろうが、わしには通用せんよ」



 ロットはギリギリで手斧をキャッチして、二つの手斧を重ねる。これで防御しようという魂胆なんじゃろう。



「じゃが甘い!」



 わしは敢えて、手斧に向かって拳を放つ。拳と手斧が触れると同時に火花が散り、手斧は粉々に砕け散った。



「ぐはっ!?」



 もはや手斧の防御は意味を成しておらず、ロットの腹に拳がめり込む。

 ロットは口から血を吐きながらオアシスまで吹き飛んでいった。



「まだまだじゃな」



 オアシスがロットの血で染まっていくのを見ながら、わしは頭を悩ませるのじゃった。



☆   ☆   ☆   ☆



 オアシスが汚染されんようにロットを水ごと救出し、セイントヒールでダメージを回復させる。



「……げほっ!ごほっ!」

「気が付いたか?」



 ロットは目を覚ますと、すぐに起き上がった。



「……ここは?」

「砂漠じゃ。わしとの特訓中じゃよ」

「……そうだったな」



 事情を思い出したロットに、修復した手斧を投げる。



「直しておいたぞ」

「………………」



 ロットが無言で地面に刺さった手斧を拾いあげる。



「準備が完了したのなら、すぐに再開するぞ。わしも暇ではないのでな」

「……一つ聞いていいか?」

「なんじゃ?」

「……なんでこんなことしてるんだ?」

「ふむ?言って無かったかのう?」



 どうやら、説明するのを忘れておったみたいじゃ。

 ロットから見たら、急に砂漠に連れてこられて戦いっぱなしになっているということじゃ。状況を聞きたくもなるじゃろう。



「ならば休憩がてら説明するか。お主は神級スキルに先があることを知っておるか?」

「……初耳だな」

「そこから説明せんといけんのか」



 ホウリが説明しておいてくれれば楽じゃったのじゃが。



「神級スキルには先の能力がある。発現する条件は不明じゃが、最初は死にかけるような戦闘を複数回やることとホウリは言っておったな」

「……死にかける戦闘?」

「そうじゃ。唯一発現しているミエルは、騎士団の遠征で死にかけた時に使えるようになった

みたいじゃ」

「……他に発現した奴は?」

「いないのう。じゃから、条件も憶測でしかない」



 ロワを何度も殺しかけても能力は発現しなかった。死にかけるのが条件というのも怪しくなってきたわい。



「そして、検証を重ねるうちに、わしとホウリは別の可能性を考えた」

「……別の可能性?」

「死にかけるのが条件ではなく、強い気持ちがカギなのでは無いかと考えた訳じゃ」



 ミエルは発現してロワが発現しなかった。その理由が精神面であれば納得もいく。



「ミエルは死にかけながらも、皆を守るという強い覚悟があった。それが能力が発現した要因では無いかと考えておるんじゃ」

「……つまり、俺が強くなるには覚悟が必要だと?」

「あくまでもわしとホウリの推測じゃがな」



 じゃが、ホウリが長い時間かけて出した結論じゃ。大きく外れてはおらんじゃろう。



「そういう訳じゃから、お主は強い気持ちを持って死にかけて貰わんといけん」

「……死にかけるのは確定なのか?」

「勿論じゃ。楽して強くなれると思うなよ?」



 わしの言葉にロットが少しだけ後ろに下がったような気がした。死にかけると宣言されたら無理もないか。

 まあ、わしからは逃げられんがのう。仮に逃げられたとしても、砂漠のど真ん中じゃし干からびて死ぬだけじゃがな。



「……能力の発現まで何度死にかけるのだろうな」

「言っておくが、発現だけしても意味がないからな?自由に能力が使えるようになるまで、特訓は続けるぞ?」



 わしの言葉をきいても、ロットは顔色を変えなかった。じゃが、その額の汗は暑いのが原因じゃろうか?



「言っておくが拒否権は無いぞ?」

「……そのつもりはない。やるべきことなら、やるだけだ」

「その割には浮かない表情みたいじゃが?」

「……俺にできるのか不安でな」

「なんじゃ?お主も不安になる事があるのか?」



 クールに何でもこなすイメージがあったんじゃがな。意外じゃ。

 わしの言葉にロットは手斧を手に取りながら答える。



「……俺の戦う目的はオダリムを守る事ではない」

「ならば何故戦っておるんじゃ?」

「……フレズのためだ」



 フレズ、ロットの妹じゃな。



「別に妹の為に戦うなど、普通の事じゃろ。わしもノエルの為ならば、敵を根絶やしにする覚悟じゃ」

「……俺だって同じだ」



 ロットは持っている手斧を強く握り締めて俯く。



「……俺だってそうだ。フレズのためなら何だってする。だが……」



 ロットが手斧を持つ手がブルブルと震える。



「……皆の為では無く、肉親の為に戦っている俺に、力の発現など出来るのだろうか」

「出来るぞ」



 即答されたのが意外じゃったのか、ロットは目を見開いて顔を上げる。



「別に戦う理由など、誰の為でも良いわい。問題なのは、その者のためにどれだけのことが出来るのか、じゃろ?」

「………………」

「お主の思いは本物じゃ。じゃから、お主のその気持ちを強く持って────」



 わしは優しい気持ちを持ってロットに微笑みかける。



「──存分に死にかけるがよい」

「……台無しだ」



 ロットは天を仰ぐと、両手に持っていた手斧をアイテムボックスに仕舞う。そして、身の丈以上の大斧を取り出すと肩に担いだ。どうやら、本気になったみたいじゃな。



「……続きをするのだろう?」

「うむ。やっとやる気になったか」



 わしはニヤリと笑って立ち上がる。ロットも立ちあがって、大斧を担いで体勢を低くする。



「……行くぞ!」

「殺す気で来い!さもなくば、お主が死んでしまうぞ!」



 わしは迫ってくる大斧を拳で迎え撃つ。

 こうして、今日の特訓はロットが5回ほど死にかけて終わったのだった。

という訳で、ロットは特訓してます。何回、死にかけるんですかね?


次回は敵側の話の予定です。


戦隊レッドのアニメを見ました。面白かったんですが、考えていた設定に被っている部分があるので、ちょっと頭を抱えてます。

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