第三百十五話 ウ・ソ
連続投稿2日目です。今回はホウリって何しているの?です
オダリムに来てから2週間、俺は必死に物資や人員をかき集めていた。
「魔法陣によるオダリムへ搬入した物資の一覧です」
「防衛線へ志願している冒険者の一覧だ」
「魔物の動きについてまとめました。目を通しておいてください」
「ありがとう。そこに置いておいてくれ」
様々な書類が机の上に積まれていく。フランが見たら卒倒しそうな量だ。
俺がいるのはオダリムの宿の一室。とはいっても、泊まることが目的ではなく、書類の確認が主な使用用途となっている。
魔法陣の物資の流れや、防衛戦へ参加を希望している冒険者の管理は政府がやっている。その情報を渡してもらって色んな調整をするのが俺の役目だ。
具体的には、どこの戦場に誰を配置するかとか、地域ごとに物資の過不足が無いように調整したりとかだな。
持ってきてもらった書類に目を通していると、書類を持って来た奴が1人部屋に残っていることに気が付く。
「あの、1つ伺って良いですか?」
「なんだ?」
物資のリストを持って来たキュラソが控えめに手を上げる。
「この量の書類を、1人で捌いているんですか?」
「ああ。確認するだけならそこまで時間はかからないしな」
「確認するだけって……」
キュラソが天井まで積み上がっている書類に目を向ける。
「確認するだけで何週間かかるんですか?」
「1時間で確認する。心配するな」
「はぁ?」
「そうだ、戻る時に外に置いてある書類を処分してくれないか?」
「あの廊下を塞いでいる奴ですか?」
「その通りだ。あと、1時間後にこの部屋に来て、この部屋の書類も処分してくれ。この手の書類は残っていると敵に渡る可能性がある」
「わ、分かりました。では、失礼します」
キュラソが部屋から出ていき、俺は書類の確認に戻る。
1時間後、予定通り全ての書類に目を通した俺は考えをまとめる。
「……想定通りだな」
物資の補給はできているが、徐々に不足が目立ってきている。やはり、魔法陣での物資は応急的な手段。通常の半分の物資しか確保できない。長く続けると市民の生活や戦闘に支障が出るだろう。
冒険者の質は問題無いか。バリスタも設置したし戦力的には問題無いだろう。
あとは魔物の問題だが、1つ気になることがある。
「確かめてみるか」
俺は部屋から出て宿の外に出る。
街の中の様子は魔物が襲撃する前と変わらない。
「この光景を守らないとな」
俺がオダリムの住人を避難させていないのは作戦の1つでもある。だが、大きな理由はこの日常を守るためだ。
避難生活は心身的な負担が大きい。可能な限り避難はさせたくないところだ。
「さて、あのあたりで良いか」
俺は適当な路地裏に入り込んで壁にもたれ掛かる。
「……魔物どもの動きが知りたい」
普通であれば聞き取れない程度の小声でつぶやく。瞬間、紙が落ちる音が足元から聞こえた。
足元に視線を向けると、二つに折られた真っ黒い紙が落ちていた。拾ってみると、俺が欲しかった魔物に関する情報が書かれていた。
「……なるほどな」
俺は小さめの火球を出して紙を燃やす。紙が完全に燃え尽きたのを確認して路地裏から出る。
「さて、まずは魔法陣からだな」
魔法陣がある建物に向かいつつ、街の様子を確認する。
「よおホウリ。どこに行くんだ?」
「魔物の撃退に関するあれやこれやで、色んな所を駆け回っているところだ」
「大変だねぇ。ちゃんと休んでいるかい?」
「まあな。体壊すようなヘマはしねぇよ」
「そうよね。頑張ってね」
「おう」
街の人達と話しながら早足で魔法陣がある建物まで進む。
街の人達との関係も重要だ。忙しくても可能な限り交流は深めておきたい。
そんなこんなで魔法陣がある建物、ギルド本部までたどり着く。ギルド本部は馬車の出入りが激しい。今はこのギルド本部が物資補給の生命線だし、当たり前ではあるか。
ギルド本部は政府が運営しているわけではない。だが、今回のような緊急事態の時は政府管理のもとで、魔法陣を使用することがある。
「お疲れ様です!」
「お疲れさん」
敬礼する憲兵に挨拶してギルド本部の中に入る。
いつもの会議室に入ると、渋い顔をしているギルド長がいた。
「おっす」
「ホウリか。よく来たな」
「で、呼び出した理由を聞かせてくれないか?」
俺がここに来たのはギルド長に呼ばれたからだ。まあ、理由はなんとなく分かるが。
「最近、認可していないアイテムがオダリムで流通している」
「俺でも把握している。不法なポーションとか武器とかだな」
魔物の襲撃があってから、その手の不法なアイテムがオダリムに少しずつ確認され始めた。この混乱に乗じて一稼ぎしようという輩なんだろう。
「荷物の検査は行っているが、何故か見つけることが出来ない」
「だから俺に見つけて欲しいって訳だな?」
「そういうことだ」
疲れた表情でギルド長が頷く。これは相当に参っているみたいだな。
「分かったよ。目星は付いているから手早く済ませよう」
「頼んだ」
「ギルド長は休んでいてくれ。あとは俺が何とかする」
「助かる」
ギルド長は安心したのか、机に突っ伏して眠り始めた。あの顔を見るに数日は寝ていないみたいだし、しばらくは休ませてやろう。
俺はギルド長の頼みを果たすために、魔法陣がある部屋まで向かう。
「時間が無いし、さっさと終わらせるか」
目星をつけた奴らはそろそろ来るはずだ。
そう思っていると、魔法陣の部屋までたどり着いた。魔法陣の部屋からは丁度、荷物を積んだ馬車が出てくるところだった。
「おいおい、検査はまだか?」
「もうしばらくお待ちください」
商人が欠伸をしながら憲兵と話している。あいつだな。
俺は顔に笑顔を張り付けながら商人の元へと向かう。
「時間が掛かっていてすみません。代わりに私が検査してもよろしいでしょうか?」
「お前も憲兵か?」
「私は憲兵ではないんですが、特別に検査を任されているんですよ」
「そうか。ま、早く検査できるならなんでも良いけどな」
「じゃあ失礼しますね」
俺はは馬車に掛かっている布を取り外す。馬車に乗っているのは食料品やHPポーションなどの物資だった。見た感じ普通の物資で違法性は確認できない。
「どうした?まだか?」
「もう少しだけお待ちを」
物は普通。なら、違法な物資は……
俺は馬車の床下の木に手を掛け、思いっきり剥がした。
「な!?何しやがる!?」
商人は悲痛な叫びをあげたが、俺は構わずに床下を剥がす。
すると、床下から瓶詰された青色の液体や紫色の短剣などが出て来た。
「違法ポーションのマルセルと呪いの装備か。これは言い逃れ出来ないよな?」
「え、いや、その……」
決定的な証拠を前に商人の目が泳ぐ。
「じ、実はこの馬車は借り物で。俺もこんなものがあるなんて知らなかったんだよ」
「この馬車、王都のサンフランで買っただろ?」
「な!?なぜそれを!?」
俺の言葉を聞いた商人の目が思いっきり見開かれる。
「なんで知っていると思う?」
「…………」
「お前が怪しいと踏んで調査してたからだよ。だから、床下にあるって知ってたんだよ」
嘘だけど。この形の馬車はサンフランにしか売っていない。それを、事前に調査していたように話しただけだ。
だが、嘘だとは気づかない商人は青い顔で震え始めた。
「こいつを連行してください。仲間もいるはずなので、尋問して吐かせてください」
「わ、分かりました」
荷台から降りながら、近くにいた憲兵に指示を出す。
これでオダリムへの違法な物資の流入は押えられるだろう。まあ、まだまだ悪徳商人はいるだろうから、油断は出来ないが。
そんな感じで俺はギルド本部を後にして、次の目的地へと向かうのだった。
こんな感じのことを毎日やってます。
次回は未定です。
そろそろ新しいアニメが始まりますね。色々と楽しみです。




