第三百五話 俺の歌を聞け
連続投稿2日目です。デートの続きですよ。
ロワと人混みの中を歩いていると、特に人が集まっている所を見つけた。
「あれ何でしょうか?」
「気になるなら行ってみるか?」
「そうですね」
そんな訳で私達も人混みの場所まで向かってみる。
人混みの中心にはマイクを持った女性や楽器を準備している人達がいた。恐らく、演奏でもするのだろう。
「うーん?人がいっぱいで見えませんね?」
私は背が高いから見えるが、ロワは見えにくそうだ。しきりにぴょんぴょんと飛び跳ねて、人混みの中心んを見ようとしている。
「見えにくいなら、これを足場にすればいい」
私はシン・プロフェクションガードを地面から数十センチの場所に出現させる。
「え?これって?」
「このくらいの大きさであれば30分は余裕だ」
特訓の結果、私はシン・プロフェクションガードを長く維持できるようになった。
戦闘で使える程の大きさだと使える時間も短くなるが、足場程度の大きさなら、しばらく問題無いだろう。
「ありがとうございます」
ロワはシン・プロフェクションガードの上に登って人混みの中心に視線を向ける。
「路上ライブですかね?」
「みたいだな」
王都では珍しいものではないが、オダリムで見るのは初めてだ。見物していっても良いだろう。
待つこと数分、演奏が始まる様子は無い。
「まだでしょうか?」
「様子が変だ。何かあったのかもしれない」
見た感じだと、楽器の整備は終わって、マイクも使えそうだ。だが、演奏が始まる様子は無い。
「始まらないのなら、他に行くか?」
「そうですね。あと少しだけ待ってみて、始まらないようなら他に行きましょうか」
他の観客もそう思ったのか、ちらほらと解散していく。
その様子を見て焦った女は、マイクで観客に呼びかけ始めた。
「すみません、仲間が遅れています。もう少しだけお待ちください」
女性が頭を下げるが、観客は少しずつ減っていく。
「なんだか可哀そうですね」
そう言いながら、ロワが足場から降りる。遂にロワが足場を使わなくても、見られるくらいに人が減った。
「そんな……待ってよ……」
そう呟き女が力なく膝を付く。そして、1人の男が人混みから女の元へ駆けて来た。
「どうしたの?」
「実は……」
男は女に耳打ちで何かを伝える。瞬間、女の顔がみるみるうちに青くなっていった。
「何かあったんでしょうか?」
「みたいだな。どうする?」
「少し話を聞いてみましょうか」
「そうだな」
2人で人混みをかき分けて女の元へ向かう。
「あのー、どうかされました?」
ロワがかがんで女と視線を合わせようとする。しかし、女は放心しており何も答えない。その代わりに男がロワの質問に答えた。
「実はハープを担当する者が所用で来れなくなってしまったんです」
「もう……お終いだ……」
この世の終わりのような表情で女が呟く。
「ハープ無しで演奏できないのか?」
「俺達の演奏は誰一人欠けても完成しない。ハープ無しで演奏なんて出来ないんだよ」
「だったら、僕が演奏しましょうか?」
「は?」
ロワの言葉に男の目が見開かれる。
そして、女が勢いよくロワの手を握ってきた。
「本当ですか!?」
「ええ。少しくらいなら弾けますので」
「助かるわ!ハープはあれよ!調整は済んでいるから任せるわね!」
「引く曲は?」
「大地への讃美歌よ」
「分かりました」
そう言って、ロワはハープの傍の椅子に座る。私はロワの傍に行き、周りに聞こえない様に耳打ちをする。
「なあ、本当に大丈夫なのか?」
「ええ。大地への讃美歌なら僕で演奏ができます。見ててください」
ロワがハープの弦に触れながらニッコリと笑う。そんな顔を見てしまっては、もう何も言うことは無い。
「分かった。楽しみにしているぞ」
それだけ伝えて、私は人混みの中へと戻っていった。
演奏者たちはそれぞれの楽器を持ち準備を完了させる。
「お待たせしました。これから私たちの演奏を始めます」
女はマイクを持つと足を鳴らしてリズムを取る。
「3・2・1」
そこから演奏が始まった。
☆ ☆ ☆ ☆
「お願い!私達と演奏で世界を変えましょう!」
演奏後、ロワは女に手を握られながら迫っていた。
「えっと、その……」
「貴方の演奏は素晴らしかったわ!今まで聞いたことがないくらいよ!」
女は目を輝かせながらロワに迫る。ロワは距離を取ろうと後ろに下がるが、手を握られているから思うように動けていない。
女の言う通り、ロワのハープの演奏は最高だった。まるで、魂ごと震えるようだった。感動で涙が出るという経験は初めてだった。
あれならハープ奏者としても食べていける……いや、騎士団の何倍も稼げる筈だ。
「……けど、嫌だ」
私はロワと一緒に騎士団で戦っていきたい。だからこそ、私は女の手を掴んだ。
「ロワから離れて貰おうか」
「あの?私はこの人と話しているんですけど?」
私は無理やり女の手を引きはがす。
「ロワは騎士団だ。騎士団は芸能活動は禁止されている」
「そういう事です。すみませんが、お断りします」
ロワが申し訳なさそうに頭を下げる。すると、女は未練がましくロワに迫る。
「だったら、騎士団なんてやめてよ。こっちの方が稼げるわよ?」
「僕は皆を守るために騎士団に入りました。お給料も大事ですけど、それ以上に騎士団の仕事に誇りを持っています」
「……そっか」
女はロワから離れる。説得は無理だと悟ったのだろう。
「協力してくれてありがとね」
「いえ、これからも頑張ってくださいね」
ロワはいつもと変わらぬ笑顔で手を振り、女と別れた。
「ん~!偶にはこういうのも悪くないですね~」
「私はロワが騎士団をやめるんじゃないかって思ってヒヤヒヤしたぞ」
「それは無いですよ。騎士団は僕の天職ですし、ミエルさんもいますし」
「……え?」
ロワの言葉に一瞬だけ思考が止まる。
当のロワはというと、何も気にしていない様子で屋台の方を指さす。
「そろそろお昼ですね。ご飯にしませんか?」
「あ、ああ」
ロワのことだ、そこまで深く考えていない発言なんだろう。だが、それでも「私がいるから」という言葉に嬉しさを感じてしまう。
「ミエルさん?どうかしました?」
「い、いや、何でもないぞ」
ニヤついている顔を見せたくない私は、顔を背けつつ返事をする。
ロワは不思議そうにしていたが、そのまま屋台に視線を向けた。
「何食べます?」
「私は何でもいいぞ」
「僕はお肉が食べたいです。あ、ローストビーフ丼がありますよ」
ロワが笑顔で屋台の方へ歩みを進める。ローストビーフ丼の屋台には1mくらいの長い行列ができていた。
「結構、並んでますね。どうします?他の屋台に行きますか?」
「他の屋台も似たようなものだろう。ならば食べたい屋台に並んだ方が効率的だ」
「それもそうですね」
私たちは列の一番後ろに並ぶ。この調子でいけば、私たちの番までは30分くらいか。
「私達の番までに売り切れていなければいいが」
「そうですね。ミエルさんは何を頼みます?」
「ビーフカレーにする。ロワは?」
「僕はローストビーフ丼の大盛りにします。演奏してお腹空いちゃいました」
ロワがお腹をさすりながら、照れくさそうに笑う。
「そういえば、ロワってハープが弾けたんだな」
「前に言いませんでしたっけ?ほら、お金が無いときにノエルちゃんと大道芸をした時に弾いたんですよ」
「あの時は楽器を弾いたとしか聞いてないからな。他に弾ける楽器はあるのか?」
「弦楽器なら何でも弾けますよ。今度弾きましょうか?」
「良いのか?」
「勿論です。スターダストや騎士団の皆さんも呼びましょう」
「……ああ、そうだな」
個人的には私だけに聞かせて欲しいが、それは我儘だろう。
そんな感じで会話をしつつ、私たちは列に並ぶのだった。
お腹空いてるのを我慢しながら書きました。ローストビーフ丼食べたいです。
次回は続きです。多分、次回でデートは終わりだと思います。
ブルアカの3.5周年ガチャ引きました。180連でクロコとおじさん引けました。




