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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第1章
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第二十八話 黄金の鉄の塊で出来きているナイトが皮装備のジョブに遅れを取るはずはない

あけましておめでとうございます(2月)

───騎士───

騎士とは防御力と魔防御が高い職業である。攻撃力は低くないが、魔法力と敏捷性は低めである。取得出来るスキルは防御力を上げるスキルや受けるダメージを減らすスキルなどがあり、前衛に立つ職業と言えるだろう。





☆   ☆   ☆   ☆





「おーい、ホウリさーん」

「先に食べとるぞー」



 村の小さな飯屋に入ると、既に俺以外の全員が飯を食っていた。フランとロワが大きく手を振るのを発見して、俺もフランの隣の席に座る。

 だが、ノエルはロワに寄りかかりながら小さく寝息をたてていた。



「ノエルはどうした?」

「疲れて寝てしまったようです」

「そうか。なら今のうちに話を進めておこう」



 俺は店員が置いてくれたおしぼりで手を拭きながら軽く注文をして、皆の話を聞く。



「首尾はどうだ?」

「では、僕から話します」



 口をナプキンで拭きながらロワが背筋を伸ばす。



「残念ながら『ミエル・クラン』という方の情報は何も分かりませんでした。ただ、フランさんから聞いた『ベリーちゃん』という方の情報はいくつか得られました」

「ほう?」



 フランが興味深そうに料理を口に運びながらロワの方に視線を向ける。



「それで、どんな内容じゃ?」

「はい、『ベリーちゃん』さんは村の皆さんからの人気があるようです。ただ、家からは偶に爆発音が聞こえてくるそうです」

「爆発?何か危険な物でも作っているのか?」

「それは分かりませんでした。後は、『ベリーちゃん』さんは魔法使いであると多くの人達が言ってましたよ」

「『ベリーちゃん』が魔法を使ったのを見た奴はいるのか?」

「数人の方が見ているようです。炎の魔法だったみたいです」



 炎魔法か。『ベリーちゃん』が騎士である『ミエル・クラン』との関係は………

 俺が思考を巡らせていると、フランが横から口を挟んできた。

 


「ふむ、そうなると別人である可能性も出てきたのう。それで、他に情報はあるのか?」

「いえ、僕が得られた情報はこれだけです。すみません」

「謝るな。ノエルの面倒を見ながら不審者紛いの格好で聞こ込みしたんだ。むしろ、俺の想定以上の情報を持ってきてくれたことは誇るべきだと思うぞ?」

「ありがとうございま……ん?」



 満面の笑みでお礼を言おうとしたロワは言い終える前に首を傾げた。ちなみに、褒めているつもりではある。



「フランはどうだった?」

「わしの情報もロワと被っておる所が多くあるが、1つだけ被っておらん情報がある」

「なんだ?」

「たまに『ベリーちゃん』の家に猫耳族が出入りしているらしい。今も数日前から猫耳族が居付いておるようじゃ」

「猫耳族が?」



 簡単に言えば、猫耳族とは5感と身体能力が良い魔族だ。外見の特徴としては猫の耳と尻尾がある事だ。



「まあ、友人かなにかじゃろ。あまり役に立つ情報ではない───ってホウリ、何悪い顔しとるんじゃ。何か企んでおる事が丸わかりじゃぞ?」

「いや、何も企んでないぞ?」

「その顔で言われても説得力ないですよ」



 ロワが苦笑しながらツッコミを入れる。



「で、最後はお主の情報を聞かせてくれるか?」

「わかった……と言いたいところだが、お前らが集めた情報以外に新しい情報はないな」

「む、そうか。では、これからどうする?」

「本来なら2〜3日は情報集めをする予定だったが、お前らのお陰で思ったより情報が集まった。明日『ベリーちゃん』の家に突撃する」



 俺の言葉にフランとロワは大きく頷く。



「分かりました。いつ頃向かうのでしょうか?」

「それだがな、ロワにはやって欲しい任務がある」

「なんですか?」

「この地図に書いてある場所で買い物をしてきて欲しい」

「?、分かりました」



 首を捻っているロワに村の地図を渡す。フランも覗き込むように地図を見てくる。



「む?随分と多いのう。ざっと10軒はあるかのう?」

「……これ、1人で周るんですか?」

「今日は閉まっているから明日行ってくれ。大変だろうがロワにしか頼めないんだ、頼む」

「……わかりました」



 ロワは渡されたメモを大事そうに仕舞う。



「フランにはこの後手伝って欲しい事がある」

「なんじゃ?」

「後で話す」

「何か分からんが了解じゃ」

「明日が勝負だ。気合入れていくぞ!」

「はい!」

「うむ!」




☆   ☆   ☆   ☆




 次の日の朝、俺とフランとノエルの3人で『ベリーちゃん』の家に向かっていた。ロワは俺の頼み通り村中の店で買い物をしている。恐らく2〜3時間はかかるな。

 いつも通り、3人で手を繋いで歩いていると、ノエルが質問をしてきた。



「ホウリお兄ちゃん、これからどこに行くの?」

「これから、キレイなお姉さんの所に『一緒に旅をして下さい』ってお願いしにいく」

「そうなんだ!」



 旅をする仲間が増えるのが嬉しいのか、歩く速度が早くなるノエル。手を繋いでいる俺達は引っ張られる様に道を進んで行った。

 ノエルを宥め歩く速度を戻して『ベリーちゃん』の家まで後5分と言うところで、フランが思い出したように話しかけてきた。



「そういえばホウリ、ロワに沢山の買い物を頼んでいたが何か意味があるのか?」

「ああ、あれは策の一部だ。読みが外れる可能性も高いが当たれば決定打になる」

「よく分からんがスカウトに必要なんじゃな」

「ああ、そうだ。だが、情勢が悪くなったら一旦引き下がる事もあるのは頭に入れておいてくれ」

「分かった」



 話をしていると調べておいた『ベリーちゃん』の家が見えてきた。

 『ベリーちゃん』の家は木製の小さな家だった。長方形の箱に屋根がついているシンプルな家で壁には2つの窓が付いている。ドアにはいちごのレリーフが付いており、可愛らしい文字で『ベリー・ドーナ』と書いてある。

 隣には耕されている途中の広場があり、農作業の道具が置いてあるであろう物置も見える。



「なんというか、普通じゃな」

「そりゃそうだ」



 こんな田舎で豪華な屋敷とかがあったら浮きまくるわ。

 間違っていないことを確認し、俺は扉をノックする。乾いた木が響く音を鳴らすと中から走ってくる音が徐々に大きくなってきた。



「はーい、どちら様でしょうか?」



 扉が開くと中から作業着を着た女性が出てきた。太陽の光で輝いているブロンドの長髪に顔立ち。スタイルも胸が大きく、ウエストは締まっているモデル体型だ。確かにこれはモテるだろうな。



「どちら様ですか?」

「私はホウリと申します」

「ホウリさん、何かご用かしら?」

「大した用では無いではないですよ」



 俺はニコリと笑うと言葉を続ける。



「俺たちのパーティーに入ってください」

「断る!」



 言うやいなや、『ベリーちゃん』は勢いよく扉を閉めにかかる。俺は扉の間に足を差し込んで完全に閉まるのを阻止する。



「逃さねぇぞ。とりあえずは話を聞いてくれるまでは───って痛てぇ!挟まってる!足挟まってるから!ちょっとは力緩めるとかしねぇのか!」

「うるさい!お前の足が千切れようがこの扉は絶対に閉める!」

「お願い!本当に止めて!ミエルさん!」



 名前を呼ばれた瞬間、扉を閉まる力が一瞬弱まる。その瞬間を見逃さず新月を使い扉をこじ開ける。



「くっ!貴様何者だ!」

「キムラ・ホウリ、冒険者だ」

「フラン・アロスじゃ。ホウリと同じパーティーに属しておる」

「ノエル・アロスです。フランお姉ちゃんの妹でーす」



 『ベリーちゃん』は眼光を鋭くさせ、警戒心を高くする。

 俺は足の痛みを我慢しつつ、ニヤリと笑う。



「とりあえず、中で話さないか?ここでする話じゃないのはお前もわかるだろ?」

「……断るといったら?」



 俺はニコリと微笑むだけで何も答えない。『ベリーちゃん』は舌打ちをすると、顎で中に入る様に促す。



「お邪魔します」



 家の中は意外と物が置かれていない様子だな。リビングにはテーブルに椅子しかない。花瓶とかのインテリアが置かれていてもいい気がするけどな。

 そんなシンプルなリビングの椅子には腰掛けている紫髪のネコ耳の女の子が眠たそうにアクビをしていた。

 


「うニャ?お客さんかニャ?」

「違う、借金取りみたいなものだ」

「言い方ひどくね?」



 『ニャはは』と笑いながらネコ耳の女の子は席から立つ。



「私の名前は『ラッカ・オレオ』。よろしくニャ」

「俺はホウリ。こっちはフランとノエル」

「よろしくじゃ」

「よろしくおねがしいます」

「挨拶はどうでも良い。さっさと要件を話して帰れ」



 面白そうに見ているラッカとは対象的にこちらを睨みつけている『ベリーちゃん』。

 挨拶も済んだし本題に入るか。



「さっきも言ったが、ミエルに俺達のパーティーに入って欲しい」

「まず、その『ミエル』って誰だ。私は『ベリー・ドーナ』だ」

「悪いが俺達には時間が無い。説明はさっさとするぞ」



 俺を不快そうに見ている『ベリーちゃん』に対し俺は話を続ける。



「『ベリーちゃん』、あんたは時々村の外に出掛けるらしいな。どこに行ってるんだ?」

「お前に教える必要は無い」

「じゃあ、俺が答えてやる。これを見てみろ」



 そう言って俺は1つの紙をテーブルの上に置く。全員がその紙に注目したのを確認して説明を始める。



「これはとある街で開催されたパーティーの参加者名簿だ」

「あ、『ベリー・ドーナ』って書いてある!」

「ああ、そうだ───」

「つまり、私がこのパーティーに行ったと?」



 紙を睨みつけながら吐き捨てるように『ベリーちゃん』は言う。



「私はパーティーなんかに行った事は無い。同姓同名の人違いだ」

「話は最後まで聞け。問題なのはこっちの紙だ」



 俺はもう一つの紙を取り出してテーブルの上に置く。



「これはなんじゃ?」

「これはパーティーが開かれた街の検問の記録だ」

「な!?」



 俺の言葉に『ベリーちゃん』の顔色が青く変わる。

 


「知っての通り街に入るには検問で身分証明を出さなくちゃいけない。だが、この記録には『ベリー・ドーナ』という人間が街に入ったという記録は一切無い」

「ということは、この『ベリー・ドーナ』は偽名ということか」

「……私は───」

「『私はその街に行っていない。偽名だとしても別の人物』か?甘ぇよ」



 俺は紙の束を取り出し前後に振ってみせる。



「全ての街の検問記録だ。その街と同じくお前の名前は無い。これがどういう意味かわかるな?」

「…………」



 『ベリーちゃん』は青い顔のまま俯いて動かない。横でニコニコと笑っているラッカとは対象的だ。

 ちなみに、検問の記録は全て嘘だったりする。街の重要な情報を簡単に手に入れられる訳ないだろ。だが、話のインパクトと畳み掛けるように話す事で相手に考えるスキを与えないようにする。



「で、もう一つ面白い事が分かってな。『ベリー・ドーナ』が現れる時にはとある人物が街に入っていた」

「まさか、『ミエル・クラン』か?」

「ああ」



 俺の言葉でどんどんと顔が青くなる『ベリーちゃん』。隣のラッカは変わらずニコニコの笑顔だが、目が段々と細くなっているのが分かる。

 そういう微妙な空気を知ってか知らずか、フランが俺に質問してくる。



「む?では、なぜこやつはこんなに正体を隠しておるのじゃ?」

「それはな───」

「そこまでニャ」



 説明の途中でラッカが軽い口調で話に割り込んでくる。その顔は笑顔のままだが、目は一切笑っていなかった。



「ホウリ君の調査力はわかったニャ。確かにこの娘は『ミエル・クラン』、君達が探している人物だニャ」

「やっぱりそうか」

「それは認めるニャ。だけど、それ以上は言っちゃ駄目ニャ」



 目を鋭くしながら俺を睨みつけてくるラッカ。



「それ以上言うつもりなら、君の喉元をえぐり出さないといけなくなるニャ」



 脅しではない事は殺気で分かる。下手な事を言えば本当に殺されるな。このまま行くのはマズい。少しフォローを入れよう。

 


「断っておくが、俺はその目的を変には思わない。俺の仲間達もバカにする奴は1人もいない。むしろ、それを応援しに来たと言ってもいい」

「応援?」

「条件付きだがな」



 目を元のネコ目に戻したラッカは俯いていたミエル』に視線を向ける。

 俯きながら滝のような汗を流していたミエルは大きく息を吐き、真っ直ぐと俺を見据えた。



「……お前らの仲間はまだいるのか?」

「弓使いが1人いる」

「今お前らを始末してもその仲間が噂を広めるかもしれない。ここはお前達の『条件』とやらを聞かせてもらおう」

「そのためにはお前の秘密を話さなくてはならないがいいか?」

「……構わない」


 

 強い覚悟に満ちた目をしながら答えるミエル。騎士に見合った強い精神力をもっているな。

 俺が関心していると、横からフランが急かしてきた。



「して、『ミエル』が隠しておる秘密とは何なのじゃ?」

「婚活」

「…………は?」

「だから、婚活」

「……トンカツ?」

「婚活だ!」



 口をあんぐりと開けながら呆然としているフランの袖をノエルが引っ張る。



「ねーねー、婚活ってなぁに?」

「婚活とはな、お嫁さんになるために頑張る事じゃ」

「へー、ミエルお姉ちゃんはお嫁さんになるんだ!」



 ノエルの無垢な視線を受けながら、思いっきり顔を反らすミエル。こりゃ上手くいってないな。



「というか、ミエルはなぜそれを隠したんじゃ?別に普通の事じゃろ?」

「ミエルは団長なのに休職中だからニャ。それを快く思ってない人達に色々と言われたりしたんだニャ」

「今は特に気にしてない。ただ、定期的に『いつ戻るんだ?』とうるさいから身を隠してはいる」

「騎士団抜けて婚活してるのに全く進展ないなんてみっともないしな」

「そ、そんなことないぞ!私は炊事、洗濯、裁縫とどれをとっても完璧で───」

「これを見てみろ」



 ミエルの言葉を遮り、俺はテーブルに何かの破片を5つ並べる。

 


「これは全てここに落ちていた破片だが、それぞれ材質が違う。この事実とリビングに小物が全くない事を紐付ければもうわかるだろ?」

「……まさか、掃除しようとして全て割ってしまったのか?」

「恐らくな」



 ミエルをチラリと見るとアワアワと手を動かしながら反論してきた。



「そ、それはラッカが落とした物で……」

「ニャ!?私のせいかニャ!?」



 イタズラがバレたときの子供かこいつは。

 俺は往生際の悪さに頭を痛めながら、ラッカに質問する。



「ラッカ、この家のキッチンはどこだ?」

「ニャ?キッチンならあの扉だニャ」

「な!?」



 俺の言葉にミエルの表情に焦りが現れる。俺はラッカが指し示した扉に向って進もうとする。すると、俺の前にミエルが立ち塞がった。



「や、やめろ!人の家を無断でうろつくのは失礼だぞ!」

「……フラン」

「了解じゃ」



 俺の合図でフランはミエルに杖を向ける。すると、ミエルの動きが完璧に止まる。



「か、体が動かない!?」

「それじゃ、お邪魔しまーす」

「あ!こら!」



 俺は扉を押し開けてキッチンを覗いてみる。



「……爆撃でもあったのか?」

「……少なくともキッチンには見えねぇな」



 扉の先には所々に爆発でもあったかのような黒い焦げがあった。壁にかけてあるフライパン等の調理器具はベコベコに変形していて調理に使えそうにない。



「何があったらこんなになるんじゃ」

「料理してたら爆発したんだろ。良くある事だ」

「良くはないじゃろ。わしでも流石に爆発は起こさぬぞ」

「そういえばフランは料理とかするのか?」

「うーん、そうじゃな……」



 フランは唸りながら席につく。



「家事全般はあまり得意とは言えぬのう。特に掃除は苦手じゃな」

「そうか、でも安心してくれ。この本があればどんなに家事が苦手でも大丈夫だ!」

「『職業別でわかる家事──騎士編──』じゃと?」

「なに!?」



 フランの言葉でミエルの顔が真剣になる。

 俺が手渡した本をパラパラとめくるフラン。



「なになに、『掃除道具がを使っていると花瓶などを引っ掛けた事はありませんか?』」

「うんうん!」



 フランの言葉を聞いたミエルが顔が取そうな勢いで首を立てに降る。

 フランは続けて本を読み進める。



「『それは掃除道具の間合いを分かっていないからです。そんな時は掃除道具を武器と思えば解決!』じゃと?」

「なるほど!武器を扱うように気をつけたらいいのか!」



 食い入るように聞いていたミエルが突如として叫びだす。



「その本!その本売ってくれ!」

「えー、どうしよっかなー。この本俺の手作りだから売るとかはなー」

「で、ではどうすれば……」

「じゃあ……」



 元気がなくなるミエルに俺は用意してきた言葉を投げる。



「勝負しよう」

ホウリ&フラン『計画通り』

遅れてすみません。最近は忙しいので次も遅れるかもしれません。


たーらこ たーらこ たっぷりたーらこ

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