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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第三百四話 素数を数えて落ち着くんだ

連続投稿1日目です。今日はロワとミエルのデートです。

 お祭り二日目、私は噴水の広場でロワを待っていた。



「……変じゃないかな?」



 手鏡で自身の姿を確認しながら呟く。今着ている服は紺色の半袖の服に黄色のスカート。昨日、フランとクラフに選んで貰った服だ。

 まあ、「水着で良くないか」とか「いっそ全裸で」とかふざけた案もあった訳だが、ことごとく却下した。

 身だしなみを確認しつつ、広場の時計を確認する。



「約束の時間まであと5分か」



 ソワソワとする気持ちを抑えつつロワを待つ。

 そもそも、何故同じ部屋に泊まっている私たちが待ち合わせをしているのか。その原因はロワにある。

 お祭り一日目をジルと楽しんだロワは、調子に乗って夜中まで酒を飲んだらしい。案の定、寝坊したロワは先ほど慌てて帰って来たのだった。



『20分で支度するので先に行っててください!』



 そう言われた私は広場で待っているという訳だ。

 まったく、3日前にお酒で失敗したのに懲りないのか。私に告白まがいの事をして置いて……



『大好きです』



 ロワの言葉を思い出した瞬間、私の顔が熱くなる。



「お、おちつけ。あれは誤解だったではないか」



 手で扇いで、何とか冷静さを取り戻そうとする。こんな状況を他の人に見られる訳にはいかない。早くいつも通りにならないと……



「ねぇ、お姉さん?」



 ダメだ、意識しないように考えると、余計に意識してしまう。



「おーい、聞いてる?」



 そうだ、確かこういう時は素数を数えて落ち着くのが良いのだったな。



「2、3、5、7、11、13、17、19、23……」

「あれ?こんなに露骨に無視されることある?おーい?」

「ん?」



 肩を叩かれた私は振り向く。すると、ピアスを開けた軽薄そうな男がいた。そこには焼けた肌を見せびらかせるように、胸元が大きく開いた服を着ている。



「何か用か?」

「やっとこっち向いてくれた。無視されてるのかと思ったよ」

「何の用かと聞いているんだ。用が無いなら失せてくれ」



 楽しみな気持ちに水を差されて、私は不機嫌に答える。

 そんな私の心情を知ってか知らずか、男はニヤニヤと私に迫ってくる。



「お姉さん一人?だったらさ、一緒にお祭り回らない?」



 どうやらナンパらしい。そういえば、前にも似たようなことがあったな。あの時は劇の稽古の帰りだったか。

 まったく、この手の奴は何処にでもいるのだな。



「悪いが先約が入っている。分かったらさっさと去れ」

「そんな連れないこと言わないでさ」



 男が私に手を伸ばしてくる。打ちのめしても良いが、周りに人が多すぎる。他の人に迷惑を掛けたくはないし、どうしたものか。

 そんな事を考えていると、後ろから伸びて来た手が、男の手を掴んだ。



「ミエルさんに何か用ですか?」



 その言葉と共に後ろからロワが現れた。



「な、なんだお前は!?」

「僕ですか?ミエルさんの彼氏ですよ?」



 ロワが目つきを鋭くしながら、手に力を込めていく。



「うぐっ!?」

「もう一度聞きますね。ミエルさんに何か用ですか?」



 有無を言わさない迫力に、男は後ずさりする。



「か、彼氏持ちかよ!そんなのこっちから願い下げだ!」



 男がロワの手を振り払って、そそくさと人混みに逃げていった。

 ロワはしばらく男が立ち去った方を睨んでいたが、直ぐにいつもの優しい眼差しに戻った。



「遅れてすみませんでした。大丈夫でしたか?」

「だ、大丈夫だ。問題無い」



 私は誤魔化すようにロワに背を向ける。そんな私を不審に思ったのか、ロワが回り込んできた。



「どうしました?まさか、あの人に何かされたんじゃ?」

「そんな事はないぞ!さあ!さっさとお祭りに行こうじゃないか!」

「あ!待ってくださいよ!」



 私はロワを置いてお祭り人混みに歩を進める。



「ミエルさん?何か変ですよ?」

「なんでもないと言っているだろう」



 ロワを無視して私は歩みを速める。

 だってしょうがないだろう。怒っていたロワにときめいてしまったなんて、言えるはずがないのだから。



☆   ☆   ☆   ☆



「あ、見てください。射的がありますよ」



 ロワが指さす方へ視線を向けると、射的の屋台があった。



「行ってみませんか?」

「面白そうだな。行ってみるか」



 屋台を覗いてみると、的になっているのは四角い板だった。あれが景品か?



「お、いらっしゃい」



 歯が欠けた鉢巻を巻いたおじさんがニコリと笑う。



「射的、やってかないかい?景品も豪華だよ~」



 コルクの銃を抱えておじさんがアピールしてくる。だが、何処を見ても豪華景品なんて見当たらない。



「景品が豪華?そんな風には見えないが?」

「ふっふっふ、甘いねお嬢ちゃん。こいつはな、射的とくじ引きを組み合わせたゲームなのさ」

「どういうことですか?」

「あの板には何等かが書いてあって、その上からシールが貼られている。板を落としたら、シールを剥がして何等か確認できるって寸法よ」

「へぇ、落とすまで景品が分からないんですね」



 中々面白そうな試みだが、普通のくじの方が期待値は高いのではないか?外してしまえば抽選すら行えないのだからな。



「どうだい?やっていかないかい?」

「景品は何が当たるのだ?」

「これさ」



 おじさんが景品の一覧が書かれた板を見せて来る。



特賞 ネズミーランド ペアチケット

1等  高級ホテル 宿泊券

2等  高級肉詰め合わせ

3等  美顔ローラー



 確かに良い物が多い。本当に当たりが入っていればの話だが。



「おー、良いですね。少し遊んでいきましょうか」



 ロワは本当に当たりが入っていると思っているみたいだ。まあ、入っていないと決まった訳じゃないし、遊んでもいいか。



「いくらだ?」

「1回500G。弾は3発ね」

「じゃあ、僕からいきますね」



 ロワがコルク銃を受け取る、先端にコルクを詰める。



「どれを狙いましょうか?」

「ロワが狙いやすいもので良いんじゃないか?」

「どれでも狙えるんですけど?」



 弓だけではなく銃にも精通しているのか。流石はロワだ。

 結局、ロワは右上の3つの板を立て続けに撃ち落とした。



「お、兄ちゃん良い腕してるね~?」



 おじさんが撃ち落とした板をロワに手渡してくれる。



「当たっているかな~?」



 ロワがワクワクしながら板のシールを剥がす。

 だが、無情にも全て板にはハズレと書かれていた。



「あーあ、ハズレちゃいました。ホウリさんに運を良くしてもらったんですけどね?」

「所詮は確立だろうからな。そういう事もあるだろう」

「お嬢さんはどうします?」

「私も1度だけやろう」



 500Gをおじさんに渡し、コルク銃と弾のコルクを受け取る。

 銃を扱うなんて初めてだ。上手く撃てるだろうか?



「もしかして、銃は撃ったこと無いんですか?」



 銃の扱いがおぼつかないのを見て、ロワが声を掛けてくれる。



「ああ。ノエルの銃を触らせて貰ったことはあるが、撃つのは初めてだ」

「良ければ僕が教えましょうか?」

「良いのか?」



 熟練者のロワに教えて貰えば心強い。



「それじゃ、脇を締めて構えてみてください。目は片目をつぶらずに、両目を開いたままにしてくださいね」



 そう言いつつ、ロワが私の手に手を添えて来る。



「ひゃい!?」

「どうしました?」



 ビックリして声を上げると、ロワが不思議そうな視線を向けてくる。



「あ、いや、なんでもない」

「そうですか、じゃあ続けますね」



 そう言って私の顔の横にロワが顔を持ってくる。



「にょわ!?」

「うわっ!ビックリした!」



 私の奇声にロワが大声を上げる。



「す、すまない、急に顔が来てビックリしてしまってな」

「そうでしたか。すみませんでした」

「私こそすまなかった。続けてくれ」

「分かりました。手に力は入れ過ぎずに、骨で支えるイメージで……」



 ロワが更に密着してきて、私に銃の扱いを教えてくれる。

 私は鼓動が早くなるのを感じながら、ロワの指導を受け続けた。

 クジは全部外れてしまったが、特賞よりも価値のある経験をしたのだった。

投稿ギリギリまで話が決まりませんでした。つまり、次の話も決まってないです。


次回は今回の続きです。デートって書くのが難しいですね。


ニコニコ復活ッ!

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