第二百八十五話 くぅ〜疲れましたw
連続投稿最終日です。これにて完結しません。
戦い始めてから12時間後、僕とミエルさんはヘトヘトになりながら宿に戻ってきました。
「た、ただいま戻りました……」
「おかえりなさい、ってお疲れだね?」
「12時間戦いっぱなしだったからな。しかも、昨日はヤマタノオロチを相手取って睡眠時間も少なかった。今すぐにでもベッドに倒れ込みたいところだ」
「僕も同感です」
戦闘開始してから6時間後、ホウリさんが連れて来た援軍で防衛はかなり楽になった。
魔物のレベルも上がっていたし、援軍が少しでも遅れていたら危なかっただろう。
「大変でしたね。ご飯はどうします?」
「いただきます。今日はエナジーバーしか食べてないので、お腹ペコペコなんですよ」
「私も同じだ」
「じゃあ、お席にご案内いたしますね」
ディーヌさんが微笑み、食堂の奥の席に僕等を案内する。深夜だという事もあり、宿の食堂は人が居なかった。まるで貸し切りみたいだ。
「これがメニュー。決まったら呼んでね」
「分かりました」
僕とミエルさんの前にメニューを置いて、ディーヌさんは厨房に引っ込んでいきました。
「「ふわぁぁぁぁ……」」
僕らは同時に欠伸をして、思わず顔を見合わせる。
「ぷっ、あはははは!」
「あははは!流石のミエルさんもお疲れですね」
「ロワだって、酷い顔をしているぞ?」
「そうですか?」
思わず顔に手をやると、ミエルさんが面白そうに笑う。
「それにしても、今回は本当に過酷な戦いですね」
「これが後1カ月は続くのだ。食べられるときにはしっかりと食べておかないとな」
「そうですね。ミエルさんは何を食べますか?」
「私はオーク肉のステーキにする。ロワは?」
「僕は生姜焼きにします。ポテトサラダはありますかね?」
「サイドメニューにあるぞ」
そんな感じで僕らはメニューを決めて、手を上げる。
「すみませーん!」
「はーい!」
僕が叫ぶと、ディーヌさんが厨房から伝票を持ってやって来た。
「ご注文は決まりましたか?」
「はい。ミエルさんはオーク肉のステーキで、僕は生姜焼きとポテトサラダをお願いします」
「かしこまりました。すぐにお持ちしますね」
ディーヌさんが伝票に注文を書き込んで、厨房に引っ込んでいった。
「ふわぁぁぁ、それにしても眠いですね」
大きく欠伸をして、あふれる涙を袖で拭く。
「私も今にも意識を手放してしまいそうだ」
「だったらお話しましょう。無言でいるよりはいくらかマシでしょう?」
「一理あるな。ならば、今日の戦闘の振り返りでもするか」
「ですね」
とはいえ、戦闘時間が長すぎて何処を振り返れば良いか分からない。
僕が迷っていると、ミエルさんが口を開いた。
「私が話しておきたいのは、メリゼの事だな」
「あれは驚きましたよね」
「まさかホウリの言っていた通りの展開になるとはな」
「ホウリ君が言っていたこと?」
僕達が話をしていると、いつの間にかディーヌさんがお盆に料理を乗せて持ってきていた。
「お待たせしました。オーク肉のステーキと生姜焼き、ポテトサラダです」
「ありがとうございます」
目の前に美味しそうな料理が並べられ、無意識にお腹が鳴る。
「いただきまーす」
「いただきます」
お箸を手に取って生姜焼きを摘まむ。生姜たっぷりのタレに大きめにカットされた豚肉。たまらず豚肉にかぶりつく。
「うーん、美味しいですね。味が濃くて疲れた体に染みわたっていきますね」
「確かに美味いな」
ミエルさんもステーキを物凄い勢いで平らげていく。次はステーキ食べようかな?
「そういえば、さっき言ってたホウリ君の言う通りってどういうこと?」
「実はですね、魔国の補佐であるメリゼさんを名乗る人が現れたんですよ」
「メリゼは人国に宣戦布告をした。人国と戦争をするために魔物の大群をけしかけたらしい」
「え!?じゃあ、魔国と戦争をすることに!?」
「結論から言うが、それは無い」
ミエルさんがものの数分でステーキを平らげて、ナプキンで口を拭く。
「どういうこと?」
「そこでさっきの『ホウリさんの言ったこと』が出てきます」
「ホウリ君の話?」
「戦闘が始まる前、ホウリさんから色んな状況に対する対策を聞いていたんです」
「その一つが敵の大将が出てくる、という状況だった」
ホウリさん曰く、敵の大将が出てくる場合、魔国の軍を名乗ってくる。だから、対象を見かけたら容赦なく最大火力を叩き込め、らしい。
「まさか、メリゼさんを名乗ると思ってませんでしたけどね」
「その言い方だと、メリゼって言う人は偽物なの?」
「はい」
「なんで偽物はメリゼって言う人を騙ったのかな?」
「ホウリは、敵の目的が人国と魔国の戦争と言っていたな」
「なんでそんな事を分かるの?」
「ホウリさんなので」
「そっか」
ディーヌさんが納得したように頷く。これで納得されるホウリさんって何なんだろう?
「そういえばさ、当のホウリ君はどこにいるの?フランちゃんもいないし」
「フランさんは魔国に行きました。ホウリさんは分かりません」
「物資とか人員とかを揃えるのに忙しいはずだ。オダリムと王都を行ったり来たりしていると思うぞ」
「そっか」
ディーヌさんが寂しそうに眼を伏せる。やっぱりホウリさんと何かあったのかな?
僕は食べ終わったお皿に箸を置く。すると、ミエルさんが意を決したように口を開いた。
「なあ、1つ気になっていたのだが」
「なあに?」
「もしかして、ホウリのことが好きなのか?」
「ぶふうううう!?」
不意の質問にディーヌさんが顔を真っ赤にして噴き出す。
「そそそそんなこと!」
「違うのか?」
「……ある」
ディーヌさんがお盆で真っ赤な顔を隠す。こんなに素直な人は周りいないから新鮮だ。
「告白はしないのか?」
「したけどフラれちゃった」
「こんなに可愛らしい子をフるなんて、見る目が無い奴だな」
「そうじゃないの。過酷な旅になるから、私は連れていけないって言われただけなの」
「確かに、戦闘が出来ない人を連れていける旅ではないですね」
領地を相手取ったり大量の魔物を相手にしたりは、戦闘が出来ない人には厳しい。ホウリさんはそこも考えたのだろう。
「だからね、私としてはちゃんとフッてくれて感謝してるの」
「告白した時は怖くなかったのか?」
「最初は怖くて告白できなかったけど、お友達に背中を押されたんだ」
「後悔は?」
「してないよ。思いを伝えられて良かったと思ってる」
あれ?なんだか話の方向性が変わってきているみたいな?
「ミエルちゃんは好きな人いないの?」
「え?そ、そんな奴は……」
「私は言ったんだよ?ミエルちゃんのことも聞きたいなぁ?」
「……名前は言えないが、カッコよくて、優しく、仲間重いで」
「それでそれで?」
顔を真っ赤にしているミエルさんの話を、楽しそうに促すディーヌさん。
「私が苦しい時に支えてくれた人で、デートとかもしているんだが、中々進展しなくてな……」
「へぇ?もしかしてホウリ君?」
「反吐が出るから、冗談でもやめてくれ」
「あはは、ごめんね?」
ミエルさんの鋭い視線をディーヌさんが笑って受け流す。ディーヌさんって思ったよりも精神が強い人なのかな?
「それで?その人のどこが一番好きなの?」
「その、カッコイイところとか、ちょっと抜けてて可愛いところとか」
ミエルさんがチラチラと僕を見ながら話を続ける。なんで僕を見るのだろうか?
あ、そうか。女性の恋バナに男性は邪魔なのか。だとしたら、ご飯も食べ終えたし、部屋に戻ろうかな?
そう思っていると、宿の扉についているベルが鳴った。扉に視線を向けると、ホウリさんが宿に入ってきていた。
「よお、お疲れさん」
「お疲れ様です」
「お疲れ。首尾はどうだ?」
「人員も物資のなんとかなりそうだ」
ホウリさんが僕の隣に座る。一日中駆けまわっている筈なのに、その顔に疲労の色は見えない。いったいどんなスタミナをしているのだろうか。
「よう、ディーヌ。遅くまで悪いな」
「慣れてるから別に良いよ。何か食べる?」
「パンケーキを作れるだけ作ってくれ」
「分かった、楽しみにしててね」
そう言って、ディーヌさんが今日一番の笑顔で厨房に向かった。
「じゃあ、戦ってた時の事を聞かせて貰おうか」
「分かりました。メリゼさんみたいな人がやって来たのは知ってますか?」
「知ってる。ロワとミエルが戦ってた場所に出現したらしいな?」
「ええ」
「そういえば、なんで偽物が出るって知ってたんですか?」
色んな事を予測していたとはいえ、偽物がやってくるなんて突拍子もない気がする。
「この襲撃の犯人は邪教徒だろ?奴らの目的は今の神の信者を奪うことだ。神のエネルギーは祈りの力だからな」
「そうですね」
「恐らく、魔国と人国で潰し合わせて、弱り切ったところに邪神の軍を投入。力の差を見せつけて、無理やり全ての人間の信仰を邪教に変えさせようとしてるんだろう」
「かなり力技だな?」
「だが厄介だ。不信感を植え付ければ、戦争になる可能性は飛躍的に上がるからな」
フランさんが必死に人国と魔国の中を取り持ったのに、それを無駄にするつもりですか。かなり腹が立ちますね?
「というか、事前に伝えていたとはいえメリゼが偽物だって良く分かったな?」
「だって、メリゼさんと違って表情が豊かだったんですもん」
メリゼさんはクールであまり表情を出さない人だ。あんなに叫んだりしているのは見たこと無い。
「トリシューラを射った時には何か使っていたか?」
「空間を歪めてトリシューラの軌道を反らせていました」
「メリゼなら体を霧にして躱すはず。偽物で確定だな」
「となると、偽物は浮遊スキルと空間操作スキルと、魔物コントールスキルがある訳か」
「いや、コントロールスキルは別の奴が持っている可能性がある」
「そっか、あの人がコントールしていない可能性もあるわけですね」
「ちなみに、魔物の動きで変わったところは無かったか?」
「地雷に怯んでなかったですね」
「なるほどな、感情まで操作できてる訳か」
「あと、魔物の連携が───」
こうしてホウリさんに思いつく限りの情報を伝えた後に、僕達は眠りにつきました。
ちなみに、ホウリさんはパンケーキを20枚平らげて夜の街に消えたみたいです。
説明に困ったら「ホウリだから」で済むと思ってます(暴論)
次回は決まってません。多分、ノエル話です。
ガッチャードにレジェンド出てきましたね。見ごたえあって面白かったです。




