第二百八十二話 ひとりで10体ぐらい倒せれば いけるか?
また短くなりました。なんでですかね?
宿の部屋に入ると、ベッドが2つあるシンプルな部屋だった。ベッド以外には壁際に机と椅子しかない。
「よかった、ベッドは2つありますね」
「1つだったら、私が床で寝ることになっていただろうな」
「女性を床で寝かせる訳には行きませんよ。僕が床で寝ます」
「いやいや私が」
「いやいや僕が」
意味が無い譲り合いをしながら、僕らは着替えなどの戦闘とは関係ない荷物を置く。
「忘れ物は無いな?」
ミエルさんに言われて矢筒の中とか、弓の弦とかを確認する。
「忘れ物は無いですね」
「それなら先に降りていてくれ。私は鎧を着てから降りる」
「分かりました」
そういえば、あれだけガチガチの鎧を付けるのって大変そうだけど、どのくらいの時間がかかるんだろう?あとでミエルさんに聞いてみよう。
そう思いながら、階段を降りるとホウリさんの姿は無かった。不思議に思った僕はカウンターにいたディーヌさんに声を掛けてみる。
「あの、ホウリさん知りませんか?」
「ホウリ君なら他の人を集めるために出かけていったよ」
「そうでしたか」
困ったなぁ。ここから何処に行けばいいか全く分からない。
そう思っていると、ディーヌさんは紙切れを差し出してきた。
「これは?」
「ホウリ君がロワ君とミエルちゃんに渡してって。それに集合場所が書いてあるんだって」
「そうでしたか」
紙切れを見てみると、宿から近くの城門に行き方が書いてあった。
「ここに行けばいいんですね。他に何か聞いてますか?」
「他には特にないかな。あ、ロワ君の素顔は見ない様に言われたっけ」
「それは重要なことですね」
反射的に顔に付けている布が緩んでいないか確認する。もう、面倒事はゴメンだ。
「なんで見てはいけないかは聞きましたか?」
「聞いてないよ。けど、ホウリ君がやるなっていうなら、やっちゃダメなんでしょ?」
「ホウリさんを信用してるんですね」
「まあね」
ディーヌさんが優しそうに微笑む。その顔を見るだけでホウリさんへの信頼が感じられる。けど、信頼以外にも何かあるような?僕の気のせいかな?
気のせいだということにして、僕は話を続ける。
「そういえば、ホウリさんってこの街でどんな事をしたんですか?」
「私が聞いた話だと、去年のお祭りで違法なスイーツ店を摘発したらしいよ?なんでも、他のスイーツ店を妨害しようとしたらしいよ?」
「それはブチ切れそうですね」
僕は砂糖の流通を不正に操作した犯人の末路を思い出して身震いする。ホウリさんには敵対しないようにしよう。
「ねぇねぇ、王都ではホウリ君はどんな活躍したの?」
「闘技大会で優勝したり、領主の犯罪を暴いたりですかね」
「流石はホウリ君だね。スケールが違うや」
そういう風にディーヌさんと話していると、2階から鎧を着たミエルさんが降りて来た。
「準備できたぞ」
「分かりました。ディーヌさん、行ってきますね」
「いってらっしゃい。帰ってきたらホウリ君のこと聞かせてね」
「はい」
軽く手を振って、出口にいるミエルさんの元へと向かう。
「お待たせしました。ホウリさんから集合場所の指示を受けているので行きましょう」
「…………」
「ミエルさん?どうかしました?」
ミエルさんが僕をジト目で見て来る。何かやってしまったのだろうか。
「あの、何か気に障るようなことしましたか?」
ミエルさんは不機嫌そうな表情で外に出る。僕も慌ててミエルさんの跡に続いて宿を出る。
「ミエルさん?どうかしましたか?」
「……あの宿の娘と楽しそうに話していたな?」
「ホウリさんの事を色々と聞かれまして。王都での出来事を色々と話していたんです」
「本当にそれだけか?」
「はい」
「本当に?」
「勿論です」
黙々と歩いていたミエルさんが立ち止まって振り向く。
「なら良いのだ。さあ、集合場所に急ごう」
そう言うミエルさんの顔は打って変わって晴れやかな表情をしていた。
☆ ☆ ☆ ☆
僕らが集合場所であるオダリムの東門にたどり着くと、そこには多くの冒険者が集まっていた。
「多いですね。何人いるんでしょうか?」
「軽く100人はいるだろうな」
咄嗟に集めた人数にしては多い。しかも、戦士や魔法使いなど、幅広い職業の人が揃っている。
「どんな魔物が来ても対応できそうですね」
「だが、相手は数十万の大群だ。これだけの人数では太刀打ちできないだろう」
「今はこれで良いんだよ」
ミエルさんと話していると、後ろから声が聞こえた。振り向いてみると、ホウリさんが立っていた。
「ホウリさん?これで良いってどういうことですか?」
「冒険者は東西南北の4つの門に集めている。数にして約1000人ってところだ」
「東西南北から街を守る訳ですか」
「確かに街の周りで戦うには、それぞれの門に人員を集めた方がいいか」
ここにいる人だけじゃないと聞いて、僕は胸を撫でおろす。ん?あれ?
「1000人?ここには1000人くらいしかいませんよ?」
「もしかして、ここの門は人数が少なかったりします?」
「そうだ」
「なんでですか!?」
「貴様!私達を殺す気か!?」
たった数百人で魔物の大群を相手取るなんて自殺するようなものだ。ホウリさんは何を考えているのだろうか。
僕らに詰められたホウリさんは顔色を変えることなく、紙の束を取り出した。
「ここの人数が少ない理由はお前らがいるからだ」
「僕たちが?」
「神級スキルは使い方によっては100人分の戦力になれる。だから、ここには人員を少なめに配置している」
そう言ってホウリさんは紙を手渡してくる。受け取ると、そこには襲撃してくる魔物の種類が書かれていた。
「なんでこんな情報があるんだ?」
ミエルさんが首を傾げる。確かに襲撃の情報を得てから半日も立っていない。こんなに正確な情報をどうやって手に入れたのだろうか?
「優秀な諜報員が居てな。数時間で魔物の詳細を調べ切ってくれた」
「どんな人ですか?」
「今度紹介する。今は魔物どもの殲滅が先だ」
「それで、この紙に書かれているのが私たちの相手という訳か」
「その通りだ。他の奴らにも配ってくるから読んでおいてくれ」
そう言って、ホウリさんは他の冒険者に魔物の情報が書かれた紙を配りにいく。
「ホウリさん、どれだけ働いてるんですか?」
「物資と人員の調達、それに加えて魔物の情報も収集し、人員の配置も行う。大まかなところだとこんな感じか」
「何度目かの疑問なんですけど、ホウリさんって本当に人間なんですかね?」
「さあな」
実は妖怪でしたって言われてもビックリしない自信がある。
「はーい、ちゅうもーく!」
言われた通りに情報を読んでいると、ホウリさんの声が聞こえた。声の方に視線を向けると、台座に立ったホウリさんが拡声器を使っていた。
「これから、あなた方には迫りくる魔物と戦ってもらいます。時間は日付が変わるまで。必要な物があれば支給するから申し出るように」
「あのー、一つ良いですか?」
腰に剣を吊った女の人が手を上げる。
「なんだ?」
「報酬はいつ貰えるんでしょうか?」
「終わった後に渡す。基本金は100万G、討伐数が100を超えた場合は、報酬を上乗せする。ヒーラーとかの非戦闘員は別で評価基準を設けている」
「100万!?」
半日で100万G!?大変な戦闘になるとはいえ、破格な報酬だ。100万Gもあれば、買いたかった弓とか防具とかが買える。
僕は勢いよく手を上げる。
「ホウリさん!僕も100万G貰えるんですか!?」
「お前は騎士団の命令で来てるだろうが。報酬の対象外だ」
「ええー」
「文句言うな。他に質問がある奴はいるか?」
ホウリさんの問いかけに手を上げる人はいない。
「じゃあ、これから討伐時のフォーメーションについて説明する。これを守らないとオダリムの街は危ない。くれぐれも自分勝手には戦うなよ」
そう言ってホウリさんは討伐の説明を始めるのだった。
という訳で、そろそろ戦います。
次回は戦闘開始です。ミエルとロワの負担が凄い大きいです。
コナンの映画、面白いらしいですね。ただ、見ておいた方がいいものが多いとか?




