第二百七十九話 すべて壊すんだ
今回は前回の続きです。何があったんでしょうか?
一度家に戻り、ワープをするために騎士団まで来ると、伝えられたのは衝撃の真実だった。
「ワープが使えない?」
「はい。何故かスミルへの魔法陣だけ起動しないんです」
そう言いながら騎士団の緑色の作業服を技術者が首を傾げる。
「じゃが、騎士団の連中はワープ出来たんじゃろ?なんで今は出来んのじゃ?」
「それが良く分からないんですよ。こちらの魔法陣に不備はありませんし、MPも切れてません。問題無く動くはずです」
「となると、スミルの魔法陣に何かあった可能性が高いな」
魔法陣はフランが使っているワープクリスタルと違い、魔法陣どうしでしかワープが出来ない。だから、どちらかの魔法陣が壊れているとワープが出来ない。
だが、ワープクリスタルと比べて使うMPは9割も減る。しかも、魔法陣どうしでしかワープできない以上、犯罪の使用に使われるリスクも少ない。
そういう事情もあり、国で行うワープは魔法陣で行うことが多い。まあ、ワープクリスタルを使える程にMPを持っている化け物なんて、フランかノエルくらいだし比べるものでもないか。
「どうする?わしはスミルに行ったことが無いし、ワープクリスタルでのワープは出来んぞ?」
ワープクリスタルは行ったことがある所にしかワープできない。500年生きていても辺境の地までは行ったこと無いか。
「ワープ出来ないんだったら仕方がない。可能な場所までワープして、そこからは走るぞ」
俺は世界地図を取り出してフランと一緒に眺める。
「何処までなら行ったことある?」
「ここまでじゃな」
フランがコストルの村を指さす。ここら辺はレベルの高い魔物がひしめく魔境だ。どうせ『わしより強い奴に会いに行く』とか考えてたんだろう。
「コストルの村なら最短で3時間くらいで着くはずだ」
「長いが、一度たどり着ければ戻りはワープできる分、楽になるか」
「あの、なんの話をしているのでしょうか?」
「すまないが、急いでいるから説明は省かせてもらう。フラン」
「分かった」
フランがワープクリスタルを取り出し、俺の手を握る。瞬間、ワープクリスタルが青く輝き始めた。
「うわっ!?」
技術者が驚きの声と共に目を手で覆う。
こうして、俺達は光と共に王都を後にしたのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
視界が開けると、そこには白い雪原が広がっていた。王都よりも冷たい風が肌を撫でる。普通の人間だと、何も準備していないと活動するのは厳しそうだ。
「うおっ、寒い!?」
「北の土地だからな。これでも飲んでおけ」
震えるフランにポカポカ薬を差し出す。だが、フランは手を振って受け取ろうとしない。
「突然で面食らったが、寒さはスキルでどうとでもなる。ポカポカ薬はお主が飲んでくれ」
「俺も寒さには強いから不要だ。それよりも早くスミルの街に向かうぞ」
「そうじゃな。コネクト」
コネクトでMPが俺の中からあふれ出す。
「俺についてこい。最短の道は既に把握している」
「頼りにしておるぞ」
雷装で敏捷性を上げてフランと一緒に走り出す。
白い景色は後ろに流れていくのを見ながら、俺はフランと念話で会話する。
『スミルに着いたらまずは騎士団に向かう』
『魔法陣の確認じゃな?』
『ああ。使えるようにしないと、騎士団の移動が出来ないからな』
『その後に騎士団へ加勢するのか?』
『そうだな。フランの力で一瞬で終わらせて、さっさとオダリムに向かう』
『久しぶりの戦闘か。腕がなるわい』
『やりすぎるなよ?』
『善処しよう』
『確約してくれ』
ヤマタノオロチの被害よりも、フランの被害の方が心配になるな。
『しかし、音速で移動しているのに3時間もかかるとは。スミルの街はかなり遠いのう?』
『普通の奴は行かずに生涯を終えるな。鉱物とかの特産品目当てじゃないと行かない』
『何かお宝はあるかのう?』
『色んな伝説はあるが、冒険はまた今度な』
今はゴビゴビ遺跡の攻略をしているし、それが済んでからだな。
『そういえば、1つ聞きたいことがあるんじゃが』
『なんだ?』
『なぜブランを持っておる?』
そう、俺の手には魔剣であるブランが握られている。家に戻った時に持ってきていたのだ。
『スミルの騎士団がただのヤマタノオロチに苦戦する訳ないからな。ちょっとした保険だ』
『わしがおるなら、いらんのではないか?』
『ちょっと嫌な予感がしててな』
『お主が予感に頼るとなのう?意外じゃな?』
『こいうのって意外と当たるんだよ』
『どのくらい当たるんじゃ?』
『99.9%は当たる』
『ほぼ預言みたいなものじゃな』
そうだ、今のうちにブランに釘をさしておくか。
俺は走りながらブランを抜く。
〈ん……あれ?ここは?〉
『おはよう』
〈ホウリ?もしかして、俺様を使う気になったか?〉
『そのまさかだ』
〈待ってました!〉
ブランがウキウキとした声を上げる。
〈で、誰を切るんでゲスか?〉
俺の機嫌を損ねたくないのか、口調が三下に変わる。どれだけ切りたいんだろうか。
『ヤマタノオロチだ』
〈おお、強敵でゲスね。切りがいがあるでゲス〉
『ちなみに、スターダスト以外にも大勢の人間がいるから喋るなよ?』
〈喋るとどうなるんでゲスか?〉
『新月と耐久力テストをすることになる』
〈絶対に喋らないでゲス〉
そんな話をしつつ、途中で休憩を挟みながら雪原や山を走りスミルへ向かう。
3時間後、山の頂上に街の外壁が見えて来た。
『あれがスミルの街か?』
『ああ。そろそろコネクトを切ってくれ』
『うむ』
俺たちは雷装を解いて、街の門の前に立ち止まる。
「うわっ!?」
門番が目を見開いて声を上げる。俺達が急に現れたように見えたんだろう。
「王命で来ました。王都の騎士団は今どこですか?」
俺は冒険者カードを差し出しながら質問する。門番は冒険者カードを確かめながら質問に答える。
「王都の騎士団の皆さんはヤマタノオロチの討伐に向かいました。それとすれ違いでスミルの騎士団が帰って来ましたよ」
「スミルの騎士団は街の中に?」
「ええ。今は騎士団の舎内で物資を補給している筈です」
「ありがとうございます。もう街に入って良いですか?」
「ええ。今、門を開けますね」
重厚な扉が音を立てて開いていく。
「フラン、急ぐぞ」
「うむ。コネクト」
本日3度目のコネクトを受けて、雷装を発動する。そのまま、音を置き去りにして街の中へと走る。
『騎士団は何処じゃ?』
『すぐそこだ。雷装なら1分もかからない』
強い魔物が多く出現するから、騎士団も門の近くに配置されている。今はありがたい限りだ。
ものの1分で騎士団にたどり着き、中に入る。確か魔法陣がある建物は奥のほうだったか。
雷装をしたまま魔法陣がある建物の所まで駆け出す。すると、そこには瓦礫の山の前に大勢の騎士団が立っていた。
「すみません、どうかしましたか?」
「あれ?あなたは?」
「王命で来ました、キムラ・ホウリと言います。何があったんですか?」
「実は、ヤマタノオロチ討伐のために補給をしようと思ったら、既にこうなっていまして……」
「なるほど。憲兵には知らせましたか?」
「今向かっているそうです。しかし、誰がこんな真似を……」
騎士団の人が恨めしそうに瓦礫の山に視線を向ける。その様子を見たフランが俺に囁いてきた。
「のう、お主が調べれば速攻で犯人が分かるのではないか?」
「今は調べものをしている場合じゃない。憲兵に任せておくほうが良いだろうよ」
俺はフランに囁きで答える。
王都の騎士団が来た後に魔法陣が破壊されたか。明らかに誰かの意思を感じるな。
「今はヤマタノオロチを討伐するのが先だ。フラン、ヤマタノオロチの場所を探知してくれ」
「うむ」
フランが目を瞑り、数秒して眼を開ける。
「4体おるのう?騎士団はどっちに行ったんじゃ?」
「4体だと?」
4体出現したという報告は無かった。どういうことだ?
俺は騎士団の人に確かめてみる。
「あの、ヤマタノオロチは何体出ましたか?」
「1体です」
つまり、騎士団が把握していないヤマタノオロチが3体いる訳か。
「フラン、作戦変更だ。残りの3体を蹴散らしてくれ」
「騎士団が相手をしている奴はどうするんじゃ?」
「そっちは俺が何とかする。終わったら合流してくれ」
「じゃが、魔法陣は壊れておるんじゃろ?合流した後はどうするんじゃ?」
「ワープクリスタルでロワとミエルを連れて王都に戻る」
ワープクリスタルは最大で4人までしかワープが出来ない。なら、神級スキル持ちを最初に王都に移動させた方が良い。
「その後は、往復して他の奴らも王都に連れて来る。王都であればオダリムまでの魔法陣があるから、何とかなるはずだ」
「分かった」
「頼んだぞ」
そう言うと、フランは闇の中へと姿を消した。
その後、俺は騎士団の人に一緒にヤマタノオロチの元へと向かうことになった。
そんな訳でかなり急いでいます。ヤマタノオロチが4体なんてフランがいないとどうしようもないです。
次回は王都に戻った後の話です。
今回は長くすることを目標にしましたが、短くなってしまいました。切りが悪いからしょうがないね。次回は頑張ります。




