表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
329/460

第二百七十七話 俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

今回でヤマタノオロチ戦は終わりです。長かった……

 僕らが抑えるって言ったけど、気合だけじゃどうにもならない。

 ミエルさんが攻撃を防いでいる間に僕が後ろから攻撃する。けど、僕は劣化トリシューラが無いから決定打が無く、ミエルさんの動きも悪くなっている。

 時間を稼いだとしても、ほんのわずかだろう。



「はああああ!」



 ミエルさんが大剣をヤマタノオロチの顔面に叩きつける。けど、強固な鱗に弾かれてダメージには至らない。

 ミエルさんが大剣を振り切った隙を見逃さず、ヤマタノオロチが噛みついてくる。



「ミエルさん!」



 僕はなけなしのイクスアローをヤマタノオロチの口の中に向かって放つ。

 ヤマタノオロチの口内に吸い込まれたイクスアローは、閃光と共に爆ぜた。首の1つは黒い煙を吐きながら、力なく倒れる。

 だけど、他の首は押えられず、ミエルさんに噛みついてくる。



「くっ……」



 ミエルさんは盾で防ぐけど、3本は防ぎきれず肩や腰への嚙みつきを許してしまう。

 ミシミシと鎧が軋む音を聞きながら、ミエルさんはなんとか耐えている。けど、いくらミエルさんでもMPで防御力を強化しないと、耐えきれない筈だ。



「くそっ……」



 矢は尽きた。他に助けに入れそうな人もいない。このままじゃミエルさんが……

 そう思っていると、背後からは何かが滑り降りてくる音が聞こえた。振り向いてみると、スミル騎士団の皆さんがスキーでやってくるのが見えた。



「ミエルさん!スミル騎士団の方々が来ましたよ!」

「やっとか……ふん!」



 ミエルさんは最後の力を振り絞って大剣でヤマタノオロチの首を薙ぎ払う。

 そして、後ろに跳んで距離を取ったあと、こっちに駆け出してきた。けど、ヤマタノオロチもミエルさんを脅威と思ったのか、全力で追いかけて来る。

 不味い、今攻撃されたらいくらミエルさんでも致命傷になる。何か、何か打てる手は……そうだ!

 僕はトリシューラを取り出して、ヤマタノオロチに向かって引き絞る。



「ロワ!?」

「いいから走ってください!」



 驚愕するミエルさんに叫ぶ。確かに今トリシューラを使うとミエルさんを巻き込む。けど、僕の予想が正しければ、これでミエルさんを救えるはずだ。

 そう思っていると、案の定ヤマタノオロチは動きを止めて僕を注視してきた。

 このヤマタノオロチは頭が良い。だったら、さっき食らったトリシューラを警戒するのは当然だ。こうして、トリシューラをちらつかせれば不用意に近づくことはないと思ったけど、上手くいってよかった。

 でも、トリシューラは少しでもMPを込めてしまうと、直ぐに放たないと爆発してしまう。細心の注意を払わないとね。

 ミエルさんも僕の考えが分かったのか、全力で駆けてくる。そして、僕の元にミエルさんがたどり着くと同時に、スミル騎士団の方々もたどり着いた。



「お待たせしました」

「助かった。あと少し遅かったら危なかったぞ」

「来たみたいね。今の状況は……」



 休んでいたクラフさんもやって来て状況の説明を始める。僕は油断せずにトリシューラをヤマタノオロチに向ける。

 後はスミル騎士団の皆さんに援護してもらいつつ、王都に戻ってスターダストの皆さんに協力要請をするだけだ。長かったが、あともう少しでこの戦いも終わる。



「そういう訳だから、援護を頼めるかしら?」



 クラフさんの言葉にガントレットを付けた騎士が頭を掻く。



「実は魔法陣なんですが、何者かに破壊されたみたいでして」

「え!?」

「破壊!?」



 寝耳に水の事実に思わずトリシューラを放ちそうになる。必死にこらえて、話の続きを聞く。



「私達も他の街に要請を行おうと思ったのですが、魔法陣がある建物が破壊されてました」

「いったい誰がそんなことを!?」

「分かりません。今は憲兵が調査をしています」

「不味いな、王都に帰れないとなると、勝ち目がかなり低いぞ」



 僕らの行動は王都へ帰れる前提だった。けど、王都に帰れないんじゃ、もう打つ手が……。



「一気に絶望的になりましたね」

「せめて、ホウリがフランに連絡が取れれば変わるんだが……」

「その心配はしなくていいぞ」



 雰囲気がどんどんと悪くなっていく中、よく聞いている声が聞こえて来た。

 思わずヤマタノオロチから視線を外して振りむくと、マスクを付けたスミル騎士団の人が前に出て来た。

 その人がマスクを取ると、見知った顔だった。



「ホウリさん!?」

「なんでここにいるんだ!?」

「説明は後だ。まずはあいつを片付けるぞ」



 僕とミエルさんの驚愕の言葉を受け流し、ホウリさんが周りを見渡す。



「かなり酷い状況だな」

「その通りだが、この状況から勝てるのか?」

「ギリギリだが何とかなる。まずはケットを呼べ」

「ケットを?」

「早くしろ」

「分かった」



 ミエルさんがヤマタノオロチの周りで隙を伺っているケット先輩に向かって叫ぶ。



「おーい!ケット!こっちに来てくれ!」

「了解!」



 ケット先輩はすぐにこちらに向かって駆けてくる。



「どうした?」

「今からヤマタノオロチを討伐するための作戦を伝える。ちなみに、ミエル、シン・プロフェクションガードは何回使える?」

「あと1回なら使える」

「流石だな。クラフ、敏捷性を上げるスキルは使えるか?」

「使えるけど、30秒が限界よ」

「十分だ。ケット、刀を使ったことは?」

「それなりに」

「なら問題無いな」



 そう言ってホウリさんは一振りの刀を取り出した。鞘から柄まで真っ黒な刀。あれ?これって?



「魔剣・ブラン?」

「その通りだ」

「魔剣!?」



 刀を受け取ろうとしたケット先輩が、思わず手を引っ込めた。



「この魔剣は少しMPを込めるだけで、なんでも切り裂くことが出来る。これでヤマタノオロチの首を切り落とす」

「ちょっと待ってくれ!魔剣って、少なからずデメリットがあるって聞いたことがるぞ!?」

「使うと破壊衝動が増大される。だが、気力も切れかけてる今はメリットでしかないだろ?」

「それ以外は問題無いのか?」

「ああ。実験も済んでる」

「わかった、そこまで言うなら使おう」



 ケット先輩はブラン君を受け取る。そして、おっかなびっくりといった様子でブラン君を引き抜く。



「刀身まで真っ黒なんだな」

「ああ。で、具体的にどうするかだが……」



 ホウリさんがヤマタノオロチの倒し方を話し始める。皆は話を遮らずに真剣に聞く。



「……こんな感じだ。実行役はロワ、ミエル、ケット、クラフの4人。あとの連中は待機だ」

「あの、これって僕とケット先輩の役割が重要すぎないですか?」

「全員重要に決まってるだろうが。誰が失敗しても、倒せなくなるんだぞ?」

「それはそうですが……」

「やるしか選択肢が無いんだ。弱音を吐いている暇があるのか?」

「……そうですね。すみません、僕が甘かったです」



 騎士団の仕事は皆を守る事。なのに、僕が弱音を吐いている場合じゃない。



「何か質問はあるか?」



 ホウリさんの言葉に、質問は飛んでこない。



「よしいくぞ!狙うはあの蛇の首だ!」

「おう!」



 その言葉と同時に、ケット先輩が目を血走らせながら駆け出す。しっかりと、精神汚染が効いてるみたいだ。



「さあ来やがれ!」

『ギシャアアア!』



 挑発が効いているのか、ヤマタノオロチはケット先輩に向かって噛みついてくる。



「今だ!」

「ハイ・ウィスプ!」



 ホウリさんの号令で、クラフさんがケット先輩の敏捷性を上げる。

 上がった敏捷性でケット先輩は首を避けながら、ヤマタノオロチの背後に回る。



「背後ががら空きだぜ!」



 ヤマタノオロチが速さに対応しきれてない隙に、ケット先輩は大きく跳躍して背中に飛び乗る。



『ギシャアアア!?』



 驚いたヤマタノオロチは体を振ってケット先輩を落とそうとする。



「おっとっと」



 けど、ケット先輩は持ち前のバランス感覚で、振り落とされること無く首の付け根へと近づく。



「はっはっは!どうした!そんなもんじゃ、俺を落とせないぜ!」

『ギシャアアアアアア!』



 ヤマタノオロチは体の揺れを激しくするが、それでもケット先輩は落とせない。そうこうしている内にケット先輩の間合いに首の付け根が入る。



「まずは一本!」



 ケット先輩がブラン君を無造作に振るう。すると、今まで苦労したのが嘘のように首が簡単に切り落された。



『ギシャアアア!?』

「まだまだ行くぞ!」



 ヤマタノオロチに動揺が走り、揺れが収まる。そして、チャンスとばかりにケット先輩が2本目、3本目の首を切り落す。

 背中に乗って首を切り落すなんて、ケット先輩のバランス感覚とブラン君の切れ味があって初めてできる芸当だ。というか、これくらいしないと勝ち目がない。

 落とした首は合計3本。だけど、ヤマタノオロチには高い回復力がある。一気に首を切り落さないと、いつまでたっても終わらない。現に1本目の首は既に回復している。



「ヒャッハー!何度でも切り伏せてやるぜ!」



 ケット先輩の心は折れてないみたいで、繰り返し首を切り落している。けど、なんだか危ない感じになってないかな?まあ、本人が楽しそうだしいっか。



『ギシャアアア!』



 けど、ヤマタノオロチも落ち着きを取り戻したのか、背中のケット先輩に向かって全ての首で攻撃を繰り出してくる。

 ケット先輩は向かってきた首を切り落していくけど、ヤマタノオロチの方が手数は上だ。数で徐々に押されていく。しかも、噛みつきや薙ぎ払いなど、攻撃のパターンも多い。

 ブラン君がいるとはいえ、このままでは攻撃が捌ききれない。

 それはヤマタノオロチも分かっているのか、攻撃の手は緩められることはない。



『ギシャアアア!』



 ヤマタノオロチが心なしか楽しそうに攻撃を続ける。このままでは、ケット先輩はやられてしまうだろう。

 そう、本当に()()()()なら。



「……トリシューラ準備完了」



 僕はヤマタノオロチのすぐ横でMPを込めていたトリシューラを構える。今はケット先輩に意識が行っている。これなら、直ぐ近くまで近づいても気付かれない。

 あとはタイミングだけ。よーく狙って……



「そこだ!」



 僕は全ての首が一点に重なった瞬間、トリシューラを放つ。青い光となったトリシューラは、ヤマタノオロチを簡単に貫いていき、空に吸い込まれていった。

 首が全て無くなったヤマタノオロチは、力なく倒れ伏した。

 背中に乗っていたケット先輩は華麗に雪の上に着地した。



「た、倒した」



 光の粒になっていくヤマタノオロチを見ながら、僕は大の字で倒れる。

 ケット先輩は背中で注意を引いて、僕がトリシューラで仕留める。言うだけなら簡単だけど、一撃で仕留めないと僕に攻撃がきていただろう。

 ちなみに、ケット先輩はミエルさんのシン・プロフェクションガードで身を守っているから巻き込まれる心配はない。これもタイミングを合わせないと、ケット先輩が大変なことになるけど、ミエルさんなら出来ると信じてた。



「はぁ?もう終わりか?まだ切り足りねぇんだけどな?」



 そう言いながら、ケット先輩が僕に視線を向ける。



「……ケット先輩?」



 なんだか嫌な予感がする。そう思っていると、ケット先輩が舌なめずりしながら近づいてきた。



「あの、冗談ですよね?」



 僕の言葉を無視してケット先輩がブラン君を振り上げる。その瞬間、ケット先輩は白目を剥いて倒れた。



「戦闘で疲れたみたいだな?」



 そう言って、背後にいたホウリさんがケット先輩を受け止める。



「あの、ホウリさんが手刀で気絶させたんですよね?」

「まさか。そんなことしないさ」

「僕、はっきりと見てましたよ?言いくるめは無理ですからね?」



 ホウリさんがブラン君を回収して、鞘に仕舞う。



「そういう細かいことは置いといてだ」

「細かいですかね?」



 ホウリさんが銃を取り出して上に向かって発砲する。すると、赤い煙を上げながら登っていき、空で赤い花火が上がった。



「そういえば、なんでホウリさんがここにいるんですか?」

「まさか、魔法陣を壊したのはお前なのか?」



 いつの間にかやって来たミエルさんが、ホウリさんに鋭い視線を向ける。



「ミエルも来たか。呼ぼうと思っていたから丁度よかった」

「何がだ?」

「詳しくは後だ。まずは……」

「王都に帰るぞ」

「え?」



 いつの間にか居たフランさんに手首を掴まれる。

 ミエルさんもホウリさんに手首を掴まれていて、ホウリさんは開いた手でフランさんと手を繋いでいる。

 僕らは何もいうことが出来ず、フランさんとホウリさんが繋いでいる手から発される光に包まれる。

 そして、強烈な光に僕は思わず目を瞑ったのだった。

という訳で導入は終了です。そうです、ヤマタノオロチは導入に過ぎません。詳しくは茶番で説明すると思います。


次回は説明回です。なんでホウリとフランがいたのかを説明します。


なろうのUIが変わりましたね。違和感があるんですが、慣れていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ