第二百七十六話 俺たちの戦いはここからだ!
今回はヤマタノオロチとの戦いの続きです。
足止めも出来て攻撃も通る。神級スキルを持っている人も3人いる。他の人も強い人達ばっかりだし、
連携も悪くない。
だから、楽勝だ。戦い始めた時はそう思った。
そうして戦闘開始から3時間経った今……
『ギシャアアア!』
ヤマタノオロチは全くもって元気だった。
「ぜぇ……ぜぇ……」
肩で息をしながら僕は矢筒に手を伸ばす。だが、手に矢の感触ば無く、矢筒の中が空になっていることに気が付く。
矢の管理すらできていない。弓矢使いとしてあってはならないことだ。
アイテムボックスに仕舞っていた予備の矢を取り出す。そして、距離を取って複製で矢を増やしていく。1本作るのに1分、まとまった数を複製するにはそれなりに時間がかかる。
「はぁ……はぁ……」
複製しながら、ミエルさんに視線を向ける。
前線で戦っているミエルさんも肩で息をしている。何度か他の人と交代しているとはいえ、ミエルさん以上の防御力を持つ人はいない。必然的にミエルさんの負担は大きくなっている。
ミエルさんは持久力もあるけど、ヤマタノオロチ相手に3時間も戦っていてはスタミナも尽きる。
『シャアアアアア!』
ヤマタノオロチがミエルさんに向かって噛みつこうと首を伸ばしてくる。しかも、首を6本も使っている。いくらミエルさんでも、まともに食らえばダメージは免れないだろう。
「ミエルさん!」
僕は反射的に矢筒に手を伸ばして、矢が無いことを思い出す。
今は僕に出来ることは何もない。使えそうな矢はトリシューラだけだけど、威力が高すぎてミエルさんまで巻き込んでしまう。
有効な劣化トリシューラは撃ち尽くした。複製には時間がかかる。
「……くっ!」
ミエルさんは盾を振って1つ目の首を防ぐ。次に大剣で2つ目と3つめの首を薙ぎ払う。
だけど、残りの首は防ぎきれず、ミエルさんへと向かう。瞬間、
「キュアレスト!」
クラフさんが敏捷性と攻撃力を大幅に上げるスキル、キュアレストを発動させる。
でも、ミエルさんの体勢は崩れている。いくら敏捷性を上げても躱しきれる状況じゃない。ここは防御力を上げた方が……
そこまで考えると、ヤマタノオロチが1つの影が飛び出してきた。目を凝らしてみると、剣を構えているケット先輩だった。
「おりゃあああ!」
いつもの数倍の速さでヤマタノオロチに接近するケット先輩。
「クレイスタッブ!」
ケット先輩の剣が光り、ミエルさんへ向かっている首を全部巻き込んで貫く。
攻撃が緩んだ隙にミエルさんが飛び退いてヤマタノオロチから距離をとる。ミエルさんが飛び退くと同時に他の人がヤマタノオロチの前に躍り出る。
「ナイスだ、ケット!」
「礼は良い。助け合うのは当然だろ?」
「そうだったな」
「だが、今のは運が良かっただけだ。首の位置がズレていたら、攻撃を防ぎきれなかったぞ」
「そうだな。こちらの消耗とくらべて相手はかなり余裕そうだ。このままだと犠牲者が出てしまう」
MPポーションを一気に飲み干してヤマタノオロチを睨むミエルさん。僕はそんなミエルさんの元に駆け出す。
「ミエルさん!大丈夫ですか!?」
「問題無い……と言いたい所だが、流石に限界だな」
顔や鎧には細かい傷がついていて、戦いが壮絶だったことを物語っている。
ヤマタノオロチはミエルさんへダメージが通るほどの攻撃を、MPの消費無しで繰りだしてくる。しかも、攻撃の速度も早くて捌くにはかなりの集中力がいる。そんなのを3時間も繰り返していては限界になるのも無理はない。
「すまない、私にもっと力があれば……」
「3時間もヤマタノオロチの攻撃をしのげれば十分よ」
クラフさんがミエルさんを回復させる。
「というか、交代アリとはいえヤマタノオロチをこのダメージで抑えるなんて。ミエルも結構な化け物ね?」
「そうなのか?」
「そうですよ。あの攻撃って見たところ、フランさんの20パーセントくらいの攻撃力はありますよ?それを3時間耐えるなんて、化け物って言っても差し支えないですよ」
「……そうか。私は知らない間に化け物に片足を突っ込んでいたのか」
ミエルさんが空を見上げて遠い目をする。しまった、フランさん以外の女性に化け物なんて言っちゃダメだ。ホウリさんに知られたら「デリカシーが無い」って叱られてしまう。
「あ、えっと、今の言葉の綾って奴で……」
「良いんだ、気にしていない。それよりも、今はこの状況の打開策だ。スミルの騎士団はいつ着くんだ?」
「そろそろ着くと思うわよ?」
「でも、スミルの騎士団の方々がやってきても打開できます?」
スミルの騎士団の方々は1時間くらいで壊滅寸前まで追い詰められた。代わりを任せても、また壊滅しそうだ。
「あ、今スミル騎士団が1時間で壊滅するんじゃないかって思ったわね?」
「そ、そんなこと……」
思考が読まれたと思った僕は視線を反らせる。
「その反応は図星ってところかしら。心外ね」
「すみません……」
「次は30分で壊滅するわ」
「もっと酷くなってた!?」
僕の謝罪を返して欲しい。
「あの、なんでさっきよりも壊滅する速度が早いんですか?」
「私も限界だからよ」
そう言って、クラフさんが膝を付いた。気が付かなかったけど、最初よりも顔色が悪くなっている。
「ど、どうしたんですか!?」
「クラフはスミル騎士団として戦ってから、そのまま戦闘している。支援役は常に周りを見ないといけないからな。精神的な消耗が誰よりも激しいんだ」
「そうでしたね。すみません、そこまで頭が回りませんでした」
「これは団長である私の判断よ。君に謝られる筋合いはないわ」
クラフさんが顔を上げて目つきを鋭くする。
そうか、クラフさんは団長として覚悟して戦っているんだ。そんな当たり前のことも分からなかった僕は自分が恥ずかしい。
「そんな訳だから、スミル騎士団で援護しつつ、一度街に戻ろうと思ってたの」
「そうするしかないか」
「ですが、ヤマタノオロチは敏捷性も高いですよ?援護があるとはいえ、無事に街まで撤退できますか?」
「そこは賭けね。正直、誰も欠けずに撤退できるとは思っていないわ」
クラフさんがしゃがみ込みながら答える。状況はかなり逼迫しているようだ。
「倒しきることは出来ないんですか?」
「普通のヤマタノオロチなら可能かもね。けど、あいつ相手には厳しいわね」
クラフさんがヤマタノオロチに視線を向ける。
ヤマタノオロチは数人に囲まれながら、8本の首を器用に操って戦っている。
あのヤマタノオロチが普通よりも賢いのは前に説明したとおりだ。雪を巻き上げて目くらましをしてきたり、首の攻撃に緩急をつけてきたりしてる。
普通に戦ってもバカみたいに強い相手なのに、知恵まであると手が付けられない。
「確かにあれを相手にして、倒しきれる気はしないな」
「もう仕方ないですね。王都に帰ってスターダストの皆に助けを求めたほうがいいのでは?」
「それもそうだな」
言葉は肯定的だが、表情が苦虫を嚙み潰したようだ。余程、スターダストの皆さんの力を借りることに抵抗があるみたいだ。
だが、自分の気持ちよりも街の安全が判断したのだろう。やっぱりミエルさんは団長に向いている人なんだ。
「じゃあ、僕らもスミル騎士団の皆さんが戻ってくるまで頑張らにといけませんね」
「そうだな。もうひと踏ん張りだ」
「……私は休んでいい?」
「問題無い。戦えるようになったら援護してくれ」
「ありがと」
しゃがみ込んでいるクラフさんを背に僕らは立ち上がる。
「矢の本数はどうだ?」
「5本できました。少しなら戦えます」
「上出来だ。いくぞ」
ミエルさんと頷きあって、ヤマタノオロチに向かって駆けだす。
僕らの戦いはここからだ!
……まだ終わらないからね?
前にも言いましたが、ヤマタノオロチとの戦いは書いていて本当に厳しいです。頑張ってるんですが、本当に書きにくいです。次回でケッチャコですが、もっと書きようがあったのではないかと今でも思います。もっと精進ですね。
次回はヤマタノオロチとケッチャコ付けます。撤退してホウリとかフランでドーンじゃ、味気ないですよね?
マッシュルのオープニングが頭から離れません。イヤーワームって奴らしいですね。




