第二百七十話 可笑しくって腹痛いわ~
連続投稿2日目です。ラビ回です。
今日は私、ラビの誕生日。少しだけ大人になる特別な日だ。
友達からプレゼントを貰ったり、ちょっと良いご飯を食べたりする特別な日。
そんな記念すべきに私は……
「ああああああああああああああああ!?」
検察室に響き渡るように叫んでいた。
「騒がしいわね?」
「どうしたラビュ?」
「ラビです。これを見てください」
私の叫びを聞いて、スイトさん、ビタルさん、クイーンさんがやってくる。
私は皆さんに机の上に置いてあるものを見せる。
「なんだこれ?」
それは包装が無残に破られ、開けられた箱だった。箱の中には梱包材の他に何も入っていない。
「開封済みの箱だな」
「友達に貰った誕生日プレゼントの財布ですよ」
「だけど、中身が無いわよね?」
「もしかして、盗まれたのか?」
スイトさんの言葉に私はゆっくりと頷く。
「資料を取りにいって、戻ってくると机の上に置いてあったんです」
「元々、何処に仕舞ってたの?」
「机の引き出しに入れてました。ちゃんとカギまで掛けてましたよ」
カギを見てもこじ開けられた様子や傷は無い。どうやって開けたんだろう?
「とにかく!これは窃盗事件です!」
「それは大変ね」
「大変だけで済ませられないですよ!絶対に犯人を見つけますからね!」
検察室で盗みを働くなんて、どれだけ図太い精神をしているのだろうか。必ず犯人を逮捕する!
「まずは証言からですね」
「証言って言ったってよ……」
スイトさんが検察室を見渡す。そこには忙しなく働いている皆の姿があった。
「今日は忙しいからな。周りの様子を見てる暇なんて無いと思うぞ?」
「確かにそうですね?」
私は抱えてる案件が無い。けど、他の皆は沢山案件を抱えてるみたいで、朝から忙しそうだ。
「一応、何人かに聞いてみても良いんじゃない?」
「そうだな」
私の席の周りで仕事をしていた何人かに聞いてみる。しかし、皆、自分の仕事が忙しくて何も見ていないらしい。
「手がかり無しか」
「というか、なんで皆さん落ち着いているんですか?職場で窃盗事件が起きてるんですよ?」
「俺達が捜査してるんだ。慌ててる暇があるんなら、自分の仕事を片付けたいって思ったんだろ」
「確かにそうですね」
私の他にも3人も捜査しているんだ。取り乱したりせずに、仕事をした方が良いと思うのは自然だ。
「証言が得られないんだったら、次は状況の整理だな」
「ラビュ、事件があった前後の出来事を教えてくれ」
「分かりましたが、私はラビです」
私は事件の前のことを思い出しながら説明する。
「出勤前に友達からプレゼントを貰って、出勤してから机に仕舞いました。その後はやる事も無かったので、自分の席で資料の整理をしてました」
「ラビュが仕事をしている時は、盗む暇は無かったのか」
「ラビュちゃんが席を立ったタイミングは無いの?」
「資料室に資料を取りに行った時はありましたね。あと、ラビです」
それ以外に席に立った記憶は無い。確実にその時に盗まれたのだろう。
「席を立った時間は?」
「2分くらいですね」
「短いな。カギを開けて盗むには、かなりの手際が要求されるな」
「それだけじゃないぞ」
私の足元から声がして、思わず下を見る。すると、ビタルさんが指紋を取る為のキットを持っていた。
「この机には指紋が全く付いていない。そして、カギにはピッキングの跡がある」
「それってどういうこと?」
「犯人は手袋をして、ピッキングをしていた」
「それは変だな」
「何が変なんですか?」
「いくら皆が忙しくても、手袋してピッキングしている奴なんて目立って仕方ないだろ」
ビタルさんの説明に、私は納得する。他人の机でそんな怪しい事をしていれば、目立って仕方ないだろう。
「変ですね?」
「手がかりを残さずに、短時間で仕事する。プロの犯行に間違いないな」
「どうする?ここから犯人を捜せる気がしないぜ?」
指紋も証言も無い。八方塞がりだ。
「いっそのこと、ここにいる全員の持ち物を調べます?」
「それは最終手段だな。すぐに対処を進める案件もあるし、極力だが仕事を止めたくない」
「でも、もう調べる手段が無いんですよね?」
「いや、1つだけあるぞ」
「本当ですか!?」
思わずビタルさんに迫る。ビタルさんは私の額を掴むと、無理やり押しのけて来る。
「隣の部屋にホウリが来ている。奴なら今の状況を話せば犯人が分かるかもしれない」
「なんでホウリさんが来てるんですか?」
「詳しいことは知らないが、憲兵に用があるって言ってたぞ」
「そうですか」
ホウリさんなら、どこに出現しようと不思議じゃないか。
でも、ホウリさんに相談すれば、犯人は分からなくても手掛かりくらいは分かるかもしれない。
「分かりました。私が聞いてみます」
「ホウリは食堂でパフェ食ってるだろうから、行ってみてくれ。俺達はもう少し調べてみる」
「お願いします」
私は検察室を出て、1階の食堂に向かってみる。
まだ、お昼前という事もあり、食堂には人が居ない。けど、1つのテーブルだけ大量の空のパフェが置かれており、その席に見知った顔が座っていた。ホウリさんだ。
「ホウリさん」
私が呼ぶとホウリさんが、手を上げて答えた。
「っよ、ラビ。どうした?」
「実は相談したい事がありまして……」
私はホウリさんの対面に座って、さっきの出来事を話す。
「……という事があったんですよ」
「成程、財布を盗んだ犯人を知りたい訳だな?」
「はい、何か分かったことはありませんか?」
「それだけだと、大したことは分からん」
「ですよね」
いくらホウリさんでもたったこれだけじゃ……
「説明できるのは犯人が誰かくらいだな」
「大した事ですよ!?というか!知りたいことドンピシャですよ!?」
「そうか?」
ホウリさんが加えていたスプーンをパフェの器に入れる。
「犯人なら説明できる。それで良いか?」
「良いですとも!というか、なんで今の話で犯人が分かるんですか?」
「順に説明する。まず、犯人の行動はどういう流れだと思う?」
「えーっと、まず、手袋を付けたままピッキングをしてプレゼントを取る。そして、包装紙を破って中の財布を盗って持ち去る、って感じでしょうか」
「それを2分で行うことは、俺でも無理だ」
「何故ですか?」
「包装紙だよ」
「包装紙?」
何か変なところがあったっけ?
「包装紙を破るときは音がするだろ?急いでいる時は特にだ」
「あ、確かに」
聞き込みをした時も何かを破る音が聞こえたという証言は無い。
「なら、どうやって包装紙を破いたんですか?」
「そこが違う。犯人は包装紙は破っていない」
「え?どういう事ですか?」
「破った紙と空箱を用意して、ラビの机に置いたんだよ」
「え!?」
ホウリさんが行ってることが本当なら、あの箱は私が持って来たものじゃないってことになる。
「確かに、それなら包装紙の問題は解決します。けど、何のためにそんな事を?」
「捜査のかく乱だよ。他の謎に目を向けさせにくくするためのな」
「他の謎?」
「カギだ」
「ピッキングですか?」
私の言葉にホウリさんは首を横に振る。
「そこが間違いなんだよ」
「え?」
「そもそも、カギはピッキングで開けられてない。普通にカギで開けて、財布を盗んだんだよ」
「いやいやいや!カギは私が持ってるんですよ!?」
「カギは一つだけじゃないだろ。紛失した時の為に予備があるはずだ」
「確かにありますけど、誰でも使えるわけじゃないですよ!?」
机を叩くと同時に、私の脳裏にとある光景がよみがえった。
「それに、ビタルさんだってピッキングの跡があるって言ってましたよ!?」
「本当か?」
「はい、この耳でしっかり聞きました」
「そうか。ビタルは指紋の検査器具でピッキングを見破ったんだな?」
「……あ」
確かにあの時のビタルさんは指紋検査器具しか持ってなかった。カギ穴にはピッキングの時につく傷とかは無かった。専用の器具を使わないと、ピッキングだと判断できない筈だ。
けど、ビタルさんはピッキングと断言した。つまりそれは……
「ビタルさんが犯人?」
検察長のビタルさんなら、予備の鍵も使える。不可解な部分はこれで解決する。
「まとめるぞ。ビタルは予備のカギを使い机を開ける。そして、箱ごと財布を盗った後に用意していた空箱を机の上に置く。これなら2分以内に目立たずに犯行が可能だ」
「……ビタルさんが犯人?」
信じられずに思わず頭を抱える。
「な、なんでそんな事を?」
「それは本人に聞くしかないだろうな」
「今すぐ検察室に行きましょう!」
「焦るなよ。急いては事を仕損じるだぜ?」
「……分かりました」
あまりにも衝撃的すぎて取り乱してしまった。そんな時こそ冷静にいかないと。
深呼吸をして落ち着きを取り戻す。そして、ホウリさんと一緒に検察室まで向かう。
「…………」
「大丈夫か?」
「大丈夫です。いざとなったら責任を持って、ボコボコにします」
「……程ほどにしろよ?」
意を決してドアノブを掴み捻る。
「ただいま戻りました」
勢いよく扉を開ける。瞬間、
(パンパンパン!)
「「「「おめでとー!」」」」
無数の破裂音と共に、紙吹雪が降り注ぐ。検察室の壁には「ハッピーバースデー ラビュ!」という文字が躍っている。
中央には大きな机があり、ごちそうやお酒が並んでいる。これじゃまるで……
「誕生日パーティー?」
「その通りだ」
私の呟きに、黒幕であるビタルさんが頷く。
「あの……これはいったい?」
「ラビは一杯食わされたんだよ」
私の疑問になぜかホウリさんが答える。
「どういう意味です?」
「まず、窃盗事件があっただろ?あれは嘘だ」
「え?嘘ってどういうことですか!?」
財布がなくなってた事が嘘?全く意味が分からない。
「つまりだな、財布の盗難は検察全員で仕組んだこと。それで、俺に相談という口実で検察室から遠ざけて、その隙にパーティーの準備をする、っていうのが事件の真相だ」
「はっはっは!流石はホウリ!俺たちの意図を良く察してくれたな」
ホウリさんの説明に、スイトさんが豪快に笑う。
「あれ?その言い方だとホウリさんには何も伝えていないって聞こえますよ?」
「そうだぞ?」
「そうなんですか!?じゃあ、なんで流暢に解説ができるんですか!?」
「最初に話を聞いた時に察したんだよ」
話を聞いたときに察した?つまり、話の中に可笑しなところがあったのだろうか?
私の疑問に気が付いたのか、ホウリさんが説明してくれる。
「可笑しい点は包装紙と証言だ」
「それのどこが可笑しいんですか?」
「包装紙のすり替えは、事前にどういう包装紙か知ってないと出来ないだろ?」
「……あれ?そういえば変ですね?」
「つまり、プレゼントを渡した人物、ラビの友人もグルだと仮定した」
確かに包装紙の種類はプレゼントする本人に聞くしかない。というか、友達もグルだったの!?
「次に証言。いくら忙しくて注目され難くても、周りに人が複数いる中で窃盗はしないだろ?証言が0なのも不自然だ」
「そこで検察の皆がグルだったと思ったわけですね?」
「そういうこと。後は今日がラビの誕生日だって事を含めれば、何が起こっているかは察しが付く」
あれだけの話を聞いて、そう結論付けたんだ。やっぱり、この人には敵いそうにない。
「さあさあ!ネタ晴らしはその辺にして、パーティーしましょ」
「良かったら、ホウリもどうだ?」
「折角の誕生日だしな。俺も参加しよう」
「そうこなくっちゃ。ほらほら、中に入りましょ」
クイーンさんに腕を引かれて、検察室の中に連れていかれる。
「改めて、おめでとうラビュ」
「おめでと、はいこれ」
クイーンさんに花束を渡されて私は思わず涙ぐむ。
「うわーん!」
「どうした!?どこか痛いのか!?」
思わず泣きだした私を見て、心配そうにするスイトさん。
「ぐすっ、ビタルさんが犯人じゃなくて良かった……」
「ああ、そうか。済まないな」
「いえ、良いんです。最終的に大丈夫だって分かったので」
涙を拭きながら私は笑顔を作る。ビックリはしたけど、今はとても嬉しい。
「あと、もう一つだけいいですか?」
「なんだ?」
私は笑顔のまま壁に書かれている文字を指さす。
「私の名前はラビです!」
ちょっとしたミステリーものを書きたいなって思った結果、今回の回が生まれました。
次回は未定です。連続投稿は毎回その日に話を作ることになると思います。
ちょっと胃腸の調子が悪いです。どうしましょ?




