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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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外伝 クリスマス中止のお知らせ

クリスマスってパーティーしたり、デートしたりってだけじゃないですよね。そんな回です。

 いつものカフェでラッカと対面する。ラッカはというと、いつも以上に渋い顔で窓の外を眺めている。



「では、第何回かも忘れたが、恋愛相談会を始めるぞ」

「それじゃ、お開きニャ」

「待て待て」



 腕を掴んでラッカが立ち上がるのを阻止する。ラッカは本当に嫌そうに眉を顰める。



「なんニャ?まだ何かあるニャ?」

「終わるどころか始まってすらいないだろう!?」

「話す価値すらないニャ。どうせ、『クリスマスにロワと過ごしたいがどうすれば良い?』とか聞いてくるニャ」

「そんなことは……」

「なら、今日の相談を聞かせて貰おうかニャ?」

「クリスマスの────」

「帰るニャ」

「待って!」



 出口へと向かおうとするラッカの腰に必死にしがみ付く。



「頼む!ラッカしか相談できる奴がいないんだ!」

「魔王様とかホウリ君に頼めばいいニャ。少なくともラッカよりは頼れる筈ニャ」

「2人とも忙しいのだ!あとは役に立たない騎士団の連中しかいない!」

「自分の部下に対して酷い言いようニャ」



 ラッカは諦めたように席に戻る。良かった、ラッカに帰られたら八方塞がりになるところだった。



「で?ロワ君をデートに誘う方法の相談で良いのかニャ?」

「あ、ああ」



 ストレートに言われると照れるな。



「今更この程度で顔を赤らめないでほしいニャ」

「わ、分かった。……それで、どうやってロワを誘えば良いと思う?」

「寝室に誘い込んで、裸で押し倒せばいいニャ」

「破廉恥なのはダメに決まっているだろう!?」

「じゃあデートに誘わなきゃいいニャ」

「極端すぎないか!?」



 ラッカの表情に覇気を感じられない。流石に頼りすぎたか?



「いつもすまないな。これからは相談する頻度を減らすとする」

「別に相談の頻度が多くて怒ってる訳じゃないニャ」

「そうなのか?」



 てっきり、呼び出されすぎて怒らせたのかと思ってた。どうやら杞憂だったようだ。



「どれだけアドバイスしても少しも進展しないことに呆れているだけニャ」

「誠に申し訳ございません」



 テーブルに額を擦りつけて、ラッカに深々と頭を下げる。



「あれだけアドバイスして、なんで全部無駄に出来るのニャ?」

「申し開きもございません」



 顔を上げずとも、ラッカの鋭い視線が後頭部に突き刺さっているのが分かる。私は何も言えずに頭を下げ続ける。



「うっとおしいから顔を上げるニャ」

「ああ」



 顔を上げて気だるそうなラッカを視界に収める。

 猫族は、こんなにやる気が無いラッカを見るのは初めてだ。目の下に隈も見えるし、もしかしたら夜の潜入の帰りなのかもしれないな。



「そんな訳で、今回は失敗続きのミエルでも失敗しないプランがあるニャ」

「本当か!?」



 ラッカの言葉に勢いよく立ちあがり、思わず椅子を倒してしまう。もの凄い音とともに、周りの視線が付き刺さる。

 顔が熱くなり、椅子を起こして座りなおす。



「ちょっとは落ち付くニャ」

「す、すまない。それで、私にピッタリなプランとはなんだ?」

「プランを立てないことニャ」

「は?」



 予期せぬ言葉に、思わず間の抜けた声を出してしまう。



「いや意味が分からん。プランがあるんじゃないのか?」

「どうせ何かしらのプランを立てても、グダグダになって終わるニャ。そして、ロワ君に『大丈夫ですよミエルさん』って言われて、何の進展も無く終わる。いつもの流れニャ」

「言いすぎだぞ。終いには泣くぞ?」

「大の大人がこれくらいで泣かないで欲しいニャ」



 目に溜まった涙をハンカチで拭いていると、ラッカが話を続ける。



「下手にプランを立てると失敗する確率が高いなら、立てなきゃいい。簡単な話ニャ」

「それは丸投げというのだ」

「話はここからニャ。ふにゃ~」



 ラッカが大きく欠伸をして、手で顔を洗う。私は聞き逃さまいと身を乗り出す。



「プランを立てるならロワ君と一緒に立てるニャ」

「ロワと一緒に?」



 いまいちピンとこない。こういうのはサプライズで、全て一人で考えた方が良いのではないだろうか?



「ミエルは旅行に行ったことあるニャ?」

「人並にはあるぞ」

「旅行の予定を立てるのは楽しいと思わないかニャ?」

「確かにそうだな」



 ガイドブックを買って、限られた時間の中でどう行動するか考える。あーでもない、こーでもないと考える。それも旅行の醍醐味だ。



「デートにもそのワクワクを加えるニャ」

「なるほど!一緒にデートプランを考える事で、準備の楽しさも加える訳か!」



 一人で計画し失敗したら、もう片方が気を使ってしまう。

 だが、2人で計画すれば失敗しても気を使わなくて済む。むしろいい思い出になるだろう。



「どちらに転んでも楽しめる。ラッカは天才か?」

「そんなお世辞はいらないから、早く帰らせほしいニャ」



 お世辞のつもりはないのだが、ラッカが冷たい。よほど眠いのだろう。



「ありがとう。もう大丈夫だ」

「じゃあ帰るニャ」

「ああ。会計は私が持とう」

「それじゃあニャ」



 ふらふらとした足取りで店を出ていくラッカ。

 親友に感謝の念を送りつつ、私も会計を済ませて店を出る。休日ということもあり、人の通りも多い。



「ロワは今どこにいるだろうか?」



 人混みの流れに従いつつ道を進む。休日のロワは冒険者ギルドに行って、戦闘の訓練をしているか、家で魔語の勉強をしている。私が家に出た時は自室にいたみたいだし、家に帰ってみよう。

 そう思い、人混みに沿って家まで帰る。

 何事も無く家に到着すると、丁度ロワが家から出て来た。



「あ、ミエルさん」



 ロワが私に気付き手を振ってくる。私も手を振り返して玄関へと向かう。



「おかえりなさい」

「ただいま。今から出かけるのか?」

「ええ。魔語の勉強をしていたんですが、気分転換に散歩をしようと思いまして」

「そうだったのか。それは丁度良かった」

「何かあったんですか?」



 私はクリスマスに何処か行こうと誘ってみると、ロワが笑顔になった。



「良いですね!皆も誘いましょう!」

「あ、えっと……」



 しまった!皆を誘おうと言われた時のことを考えてなかった!



「ほ、他の皆はちょうど予定があるみたいでな……」

「え?本当ですか、ホウリさん?」

「え?」



 振り向くと、そこにはホウリが立っていた。



「ほ、ホウリ!?いつからそこに!?」

「今帰ってきたところだ。何を話してたんだ?」

「ミエルさんにクリスマスに出かけないか誘われてたんです。ホウリさん達は予定があると聞いたのですが、本当ですか?」

「ああ、俺とフランは出かける予定があるし、ノエルは友達とクリスマスパーティーだ」



 ホウリの言葉に私は胸を撫でおろす。これで「そんな事は無い」と言われれば、ロワに不審がられるところだった。



「話はもういいか?悪いが少し急いでるんだ」

「あ、すみません。もう大丈夫です」



 ホウリは早足で家に入ろうとする。すると、私の耳元でロワに聞こえないように囁いた。



「フランには俺から話しておく。次回からは先に俺達に話してくれ」

「!?」



 反応する間も無くホウリは家に入っていった。どうやら、お見通しだったらしい。



「そういう事なら仕方ないですね。2人でお出かけしましょうか」

「そうだな。ロワはどこか行きたい所はないか?」

「僕は鍛冶屋に行きたいです。新しい弓が無いか見たいので」

「それは良いな。私は鎧を新調したい」

「じゃあ、僕の部屋でどこに行くか話しましょうか」

「ああ」



 こうして私は夕方までロワとクリスマスに出かける場所を話し合ったのだった。

 クリスマスが楽しみだ。



☆   ☆   ☆   ☆




「ジングルベ~ル、ジングルベ~ル、鈴が鳴る~……」

「そんな憂鬱そうなジングルベルは聞いたことないわよ」

「この書類の山を前にしては、仕方がないだろう?」



 楽しみにしていたクリスマス当日、急に仕事が発生し書類の山と格闘することになった。

 団長室にはケットとリンがソファーでくつろいでいる



「なんで今日なんだ……。仕事量が倍になっても良いから、明日に回せないのか?」

「回せば良いだろ?」

「回せないからボヤいているのだ」

「ふーん、団長様も大変だな?」

「誰のせいだと思っているのだ」



 この書類の大半はケットが破壊した設備や、他の部署への迷惑をかけたりした物の始末書だ。隠ぺいしたものが年末になって発覚したのだ。

 本人にも書かせたが、私も団長として始末書を書かないといけない。なんでこんな奴の後始末を私がしないといけないのだ。

 書類にハンコを押している私を見ながら、ケットが大きく欠伸をする。



「まあ、俺みたいな奴がいるのが運の尽きだな」

「貴様ぁ、次の給与査定を楽しみにしておけよ?」

「悪かったよ。次からは気を付ける」

「そう言って気を付けたことなんて無いだろうが」

「なんでこんな奴をクビにしないの?」

「俺は強いからな」



 ムカつく言い方だが、ケットをクビにしない理由の大半が強さだ。近距離戦で相手の攻撃を躱しつつ、高威力の攻撃を繰り出せるのはケットしかいない。ロワのトリシューラであれば、それ以上の威力で攻撃が行えるが、何度も使える手ではない。

 そんな訳で、ケットをクビにする訳には行かないのだ。まあ、悪い奴では無いし友人だという事もあるがな。



「それはともかく、給与の方は3割ほど減らしておくからな」

「は?冗談じゃないのか?」

「被害が出ているのだぞ。冗談な訳あるか」



 決してクリスマスに仕事を作った腹いせという訳では無い。



「というか、手伝わないのなら帰れ。貴様らにくれてやる時間などない」

「そうか、じゃあ行こうぜリン」

「頑張ってねミエル」



 そう言ってリンとケットは団長室から出ていった。

 ロワと約束の時間まであと1時間。遅くなるかもしれないとは伝えているとはいえ、早めに終わらせないと。



「この量だと2時間はかかるだろうな。どうしたものか」



 そう言ってはみたものの、手を動かす以外に解決策は無い。諦めて書類の処理を再開する。

 数十分の間、書類を処理していると団長室の扉がノックされた。



「どうぞ」



 書類から目を離さずに答えると、扉の開く音が聞こえた。



「悪いが今は手が離せない。何か用があるのなら、このまま聞かせて貰う」

「相変わらず大変そうだね」



 聞こえた声に思わず視線を上げる。そこには休職中に魔物対策部署の指揮を執ってくれていた、シェル・カステラが立っていた。

 やせた中年の男性という印象だが、立ち振る舞いからかなりの戦闘力があると感じられる。



「シェルさん、どうしたんですか?」

「ミエル君が書類にヒイヒイ言っているって聞いてね。調子を確認しにきたんだ」

「ヒイヒイって……」



 もう少し言い方を考えてくれないものか。



「見たところ、聞いていたよりも大変そうだね?」

「ですね」



 シェルさんが私の脇にある書類を見て、可哀そうな物を見る目で私に視線を向ける。



「私が手伝おうか?」

「良いんですか?」

「勿論条件付きだけどね」



 それもそうか。だが、多少の条件を飲んでも、手伝ってもらう方がいいのではないか?このままだと後1時間以上はかかるし、話くらいは聞いてもいいだろう。



「条件ってなんですか?」

「そんなに難しいことじゃないよ。私とデートしてもらうだけ」

「ぶふっ!」



 思いもしない条件に私は噴き出す。



「じょ、冗談を言わないでくださいよ!」

「冗談じゃないよ。独り身だとクリスマスに予定が無いのは寂しくてね。どうだい?」

「……すみません。先約があるのでお断りします」



 ロワと会うために、他の男とデートするのは本末転倒だ。シェルさんには悪いが断るしかない。



「へぇ、もしかして先約ってロワ君?」

「な!?なんで分かるんですか!?」

「そんな顔してたしね。恋する乙女って感じだよね」

「そんなに分かりやすいですかね……?」



 周りから分かりやすいと言われているが、ここまでとは。こうなると、騎士団中に私の思いが広まるのも時間の問題かもしれない。



「そっか、それは残念」



 茶化すように右手を振るうシェルさん。けど、その目には少しの哀愁が感じられた。……気がする。

 シェルさんは気丈な人だし、私の勘違いか?



「なら頑張ってね」

「他の条件なら飲めるので、少し手伝ってくれませんか?」

「それはダメ。自分の仕事は自分でしようね」

「……そうですね」



 考えてみると、休職中の仕事は全てシェルさんがやってくれてた。 これ以上甘えるのも申し訳ない。



「では、私はこれで」

「ええ。また今度」



 こうして、私は孤独に書類と格闘する道を選んだのだった。



☆   ☆   ☆   ☆



「ロワー!」

「あ、ミエルさん。お仕事はもう終わったんですか?」

「なんとかな。遅くなって悪かった」

「別にいいですよ。騎士団の団長さんですもんね」

「お詫びに何か奢らせてくれ」

「ええ?悪いですよ」

「そう言わずにな。私からのクリスマスプレゼントみたいなものだ」

「うーん、何も思いつきませんね?むしろ、僕からも何かクリスマスプレゼントを買いたいくらいですよ」

「それは申し訳ない気がするな」

「お互い様ですよ。こうなったら、お互いでクリスマスプレゼントを選びませんか?」

「それは楽しそうだな」

「じゃあ行きましょうか」

「そうだな」

メリークリスマス。来年はホウリとフランとラビの話の予定です。


気付いたんですけど、クリスマス中にチキンとか買わないで、クリスマス後の割引品を買った方が良いのでは?

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