第二百五十五話 だから見ててください!
先に言いますが、今回はノエルが酷い目に合います。今後の展開のためだし仕方ないね。
ホウリお兄ちゃんが行った後、ノエルはリンお姉ちゃんと一緒に公園のベンチに座った。
「大丈夫?」
「リンお姉ちゃんがいるし大丈夫だよ」
ノエルが笑いかけると、リンお姉ちゃんが寂しそうな表情になる。
「ノエルちゃん、寂しいときは無理に笑わないでもいいんだよ?」
「…………」
ノエルは何も言えずに俯く。
「悲しい時は泣いて良いし、寂しいときは寂しいって言って良いんだよ」
「……ありがと、リンお姉ちゃん」
「どういたしまして。あ、そうだ」
リンお姉ちゃんが何かを思いついたように、ベンチから立つ。
「缶ジュース飲んだことないって言ってたよね?買ってきてあげよっか?」
「良いの?」
「勿論よ。ちょっと待っててね」
そう言って、リンお姉ちゃんは公園の出口へと駆けていった。リンお姉ちゃんの優しさに、少しだけ寂しさが和らぐ。
ノエルは青い空をボーっと見上げながら、リンお姉ちゃんを待つ。こっちの世界でも空は青いんだなぁ。
なんだか、涙が出てきそう。
「そこのお嬢さん?」
目に涙が溜まって来たところで、誰かに声をかけられた。
声の方を見てみると、白衣を着た男の人がダウジングロッドを持っていた。顔にはいくつもの皺が刻まれていて、多分50歳くらいだと思う。
「どうしたの?」
「いえね、一人でこんなところにお嬢さんが居てどうしたのかと思いまして」
「お姉ちゃんを待ってるの。おじちゃんは何しているの?」
「ちょっと探し物をしていてね」
「探し物?どんなの?」
男の人は嬉しそうにダウジングロッドを回しながら言う。
「体に高エネルギーを持つ人間だよ」
男の人が懐からスマートフォンみたいなものを取り出す。
嫌な予感がしたノエルは、ベンチから飛びのく。瞬間、地面から何かが這い出てきて、ベンチを握りつぶした。
「何コレ!?」
驚きながらも、ノエルは拳銃とナイフを取り出す。
「これを躱しますか!やはり只者では無いですね!」
芝生に着地して、這い出て来るものに向かって込めてある弾丸を全て発砲する。けど、弾丸は全て弾かれた。
「銃が効かないんだ……」
ホルスターに銃を仕舞ってナイフを構える。
這い出て来たものはボウルをひっくり返したような鈍色の胴体に目がついていた。横からは蛇みたいにつなぎ目が分からない腕、下からには頑丈そうな足が生えている。手はマジックハンドみたいで挟まれたら痛そうだ。
これって魔物?でも、この世界には魔物はいないって聞いてるし、違うのかも?だったら……。
「ロボット?」
「その通り!これは私が開発した滅茶苦茶強いロボット!これであなたを捕獲します!」
滅茶苦茶強いロボット、確かホウリお兄ちゃんが言ってた敵さんだっけ。
「ノエルを捕獲?なんでそんなことするの?」
「私は無限に使える程の高エネルギーを探していたんですよ!だからこそ!高エネルギーの反応を日夜探していたのです!」
「それでノエルが欲しいんだ」
元の世界と同じ理由だ。だったら、悪いことに使わられる可能性が高い。
「だったら捕まるわけにはいかないかな」
「逃がしませんよ!」
一目散に逃げようとした瞬間、ロボットの目が光り、ロボットとノエルだけを囲むように上下左右に半透明の壁が展開された。男の人は壁の外にいて、攻撃できそうにない。
安全な場所にいるからか、自慢げに男の人が説明する。
「この壁は高密度のエネルギーの集合体、簡単には破壊できませんよ?」
「ていやっ!」
試しに全力の魔装で壁を殴ってみる。ものすごい轟音をともに壁は揺らいだけど、破壊までには至らない。
「確かに固いね。けど、時間をかければ破壊できそう───」
「時間を与えると思いますか?」
ロボットがノエルにむかって手を振るう。思ったよりも早くて、ノエルは腕で防御し吹き飛ばされる。
「うわっ!」
壁に激突したけど、魔装のおかげでダメージはない。ノエルはすぐに体勢を立て直して、ナイフを構えなおす。
「ビックリしたぁ」
「頑丈ですね?先ほどのパンチも体格からは考えられないような威力でしたし、身体能力も上がっているのでしょうか?」
不味い、ノエルの手の内が読まれ始めている。ホウリお兄ちゃんに、手の内だけは読まれるなって言われてたのに。
「……まあ、倒せればいいか」
要はあのロボットを破壊すれば良い。だったら、早めに決めてしまおう。
「せいやぁぁぁぁ!」
ノエルはナイフに魔装して、ロボットに切りかかる。
ロボットは腕でナイフを受け止めようとするが、あっけなく切断された。
地面に転がるロボットの腕を男の人は興味深そうに眺める。
「ほう?武器も強化できるのですか」
その表情に焦りはない。まだ何か手があるって事?でも、ここは攻め切る!
「まだまだ!」
ナイフをロボットの胴体に突き立てようと、ナイフを振りおろそうとする。だけど……
「……え?」
ナイフを持っていた右手の手首から先が無くなっていた。呆然としていると、右手から燃えるような暑さと痛みが走った。
「うぐっ……」
「貴女の手を空間ごと切断しました。これならどれだけ強くなっても無意味です。これ以上痛い思いをしたくないなら大人しく───」
「セイントヒール!」
セイントヒールで右手を生やし、即座に魔装を使って殴り掛かる。
拳はロボットに命中し、体をへこませることに成功する。
セイントヒールを使ったばかりで上手く魔装できなかったけど、ダメージは入った。これなら、全力で攻撃出来れば勝てる!
「腕を生やした?再生能力ですか?四肢を切断し無力化しようと思ったのですが、面倒ですね」
「どっせぇぇぇい!」
再び殴ろうと拳を振りかぶる。瞬間、
「なら次の手です」
ロボットの体から紫色の煙が噴射された。ノエルは殴るのを止めて、咄嗟に後ろに跳ぶ。
「これは……毒?」
「その通りです。密閉されたこの空間では逃げ場は有りませんよ?」
空間切断に毒、本当に色んなことが出来るんだ。本当に凄いロボットだ。ミントお兄ちゃんの発明を超えるんじゃないだろうか?
……っと、今は感心している場合じゃないや。今は酸素玉を持ってないから、毒を吸わずに戦うのは難しい。だとしたら、セイントヒールを使いながら戦うしかないか。
「おや?毒も効きませんか。高濃度の麻痺毒なのですがね」
「やあ!」
ノエルは構わずにロボットに向かって駆けだす。
空間切断は脅威だけど、セイントヒールを掛け続けていれば、切断された瞬間に治せる。だったら攻めるのみ!
パンチでロボットに攻撃し、体をへこませていく。この調子でいけば勝てる!
「はあっ!」
「……なるほど」
ノエルが腕の付け根に向かってパンチを繰り出そうとする。だけど、その瞬間に体が一気に重くなった。
「うわっ!」
拳を振りかぶっていたノエルは急に重くなった体を支えきれずに、派手に転んでしまった。
「な、なにこれ……」
「ふむ、やはり毒の無効化中は身体能力が低下しますか。となると」
男の人がスマートフォンを操作すると、体がメキメキと悲鳴を上げるほどに重くなった。セイントヒールのおかげで痛くはないけど、指一本すら動かせない。
男の人が言うように、ノエルはまだ魔装とセイントヒールを上手く併用できない。セイントヒールを使いながらだと、魔装は全力の5分の1くらいしか使えない。ホウリお兄ちゃんには、その欠点を突かれていつも負けちゃうんだ。
必死に立とうとするけど、やっぱり体は動かない。
「うぐううう……!?」
「無力化完了ですね」
ロボットは残っている方の手でノエルを摘まみ上げる。ノエルはかなり重くなっている筈なのに、ロボットは軽々とノエルを持ち上げた。
「これで確保っと」
ロボットの上部が開き、ロボットの内部が現れる。そこは、ノエルがすっぽりと収まるくらいの空間があった。
「あとはロボットの内部を毒で満たし、拘束すれば確保完了。ああ、私の悲願がこれで果たされるわけですね」
獲物を見つめる狩人のような表情でノエルは見つめられる。その視線で、今まで感じたことないような冷たい感覚が体に走る。
戦おうという気が失せ、心の中が怖いって気持ちでいっぱいになる。
やだ、怖い、誰か助けて、そんなことばかりを考え、動かせない筈の体が震えてくる。
「う、うわああああん」
止まった筈の涙が再び溢れて来る。さっきの寂しさとは比べ物にならないほどに、黒い何かが胸でいっぱいになる。
「戦意喪失を確認。これで私の完勝ですね。では、人が来る前に退散するとしますか」
男の人が勝ち誇る表情をみながら、暗いロボットの中に入れられる。
もう駄目だ、そう思いながら一番頼りになる人の名前を口にする。
「助けてよぉ、ホウリお兄ちゃん……」
ノエルの呟きと共にロボットが閉まり、視界は真っ暗になった。
☆ ☆ ☆ ☆
『うーん?』
『気が付いたか?』
『あれ?ホウリお兄ちゃん?ここは?』
『家の庭だよ。ノエルはオレに負けて気絶したんだ』
『あーあ、また負けちゃったよ。ホウリお兄ちゃんってなんでそんなに強いの?』
『理由は単純、諦めないからだ』
『諦めない?』
『普通にノエルと戦ったら、俺は瞬殺されるだろう。けどな、諦めず考え続けて、自分が出来る手を打ち続ければ、案外勝てたりもする』
『そういう物かな?』
『そういうものだ。諦めっていうのは、場合によっては一つの手段になる。けどな、人生には絶対に諦めてはいけない時がある。そういう時は絶対にあきらめずに戦い続けろ』
『うーん?難しいね?』
『確かに絶望的な状況になった時、諦めてしまうかもしれない。そういう時は大切な人を思い出すんだ』
『大切な人?』
『そうだ。その人の元に絶対に帰る、って思えば体の中から力が湧いてくるんだぜ?』
『そっか。じゃあ、ノエルはスターダストの皆のことを思い出すね!』
『そうだな。ノエルはそれが一番いいな』
『よーし、ホウリお兄ちゃん!もう一回勝負だ!』
『オッケー。手加減は無しでいくぜ!』
☆ ☆ ☆ ☆
ホウリお兄ちゃん、フランお姉さん、ロワお兄ちゃん、ミエルお姉ちゃんの顔が頭の中に浮かんでくる。それに加え、マカダ君、サルミちゃん、コアコちゃん、パンプ君、ナマク先生の顔も頭に浮かんでくる。
それ以外にも、クラスの皆や家の周りで会う人たちの顔も思い出す。
そっか、ノエルの帰る場所ってこんなに多かったんだ。
ノエルは自然と笑みを浮かべる。それと同時に体の奥から力が溢れて来る。ホウリお兄ちゃんが言ってた通りだ。
よし!ここから脱出して元の世界に帰る!絶対に!
「とはいえ、まだ自由には動けないかな」
手を動かすことはできるけど、ロボットを壊すほどの力は出ない。何か脱出できる手は……あ。そうだ。
ノエルはとある手を思いつく。けど、これで良いのかな?でも、他に手は思いつかないし、時間が経つと手が動かなくなる可能性もある。よし!やろう!
ノエルは覚悟を決めて、アイテムボックスを出現させる。そして、お目当てのものを全部取り出す。そして、ある物……手りゅう弾のピンを一気に全部引き抜く。
服への魔装は難しいからいい。体への魔装とセイントヒールで耐える!
目を閉じ、体への魔装とセイントヒールに集中する。瞬間、鼓膜が破れるほどの轟音をともに手りゅう弾が破裂した。
体中が引き裂かれるような感覚を感じながら、ノエルは必死に耐える。そして、瞼の裏から光を感じ目を開けると、ロボットに大きな穴が開いていた。
「な、なにが起こった!?」
男の人の驚いている声を聞きながら、外へと這い出る。穴が大きくて良かった。
「よいしょっと」
外に出ると壁は消え去っていて、毒ガスも全て風に流されていた。これならセイントヒールしなくても良いかな。
外で改めて自分の体を確認してみると、やっぱり服がほとんど吹き飛んでいた。いつもは魔装で保護していたけど、今回ばかりはしょうがないね。
ロボットは青白い何かを発していて、もう動く気配は無い。この青白いのは電気かな?ミントお兄ちゃんの所でみたことあるかも。
「な、なにをした!?」
ロボットを観察していると、後ろから男のひとの驚いている声が聞こえた。
振り向いてみると、スマートフォンを放りだして尻餅をついていた。確かに、いきなり爆発したら驚くか。
「手りゅう弾を5個爆発させたんだよ。密閉されたところなら、こうすれば脱出できるかなって思って」
「い、いくら再生能力があるからって、近距離で爆発しただと!?下手をしたら死ぬんだぞ!?正気か!?」
「だって、それしか脱出方法が無かったんだもん。無事に脱出できたしね」
説明しながらノエルは男の人に近づく。男の人は腰が抜けて立てないのか、必死に後ずさりする。
「く、くるな!」
「やだ!」
男の人は必死の後ずさりの結果、公園の木が背中に当たった。
ノエルと距離が取れなくなり、男の人は震え始める。
「ひ、ひぃ……」
そんな男の人を前に、ノエルは言いたかったことを叫ぶ。
「そこに正座して!」
今回は意図的に流血描写とかを省いてます。なんでかっていうと、書いてて気分が悪くなるからです。
次回は男のその後です。ホウリも出ます。
最近リアル脱出ゲームしてないです。そろそろ欲が溜まってきました。どこかで発散したいです。




