第二百四十五話 お湯掛けるのが快感だぜ
連続投稿2日目です。
今回はフラン視点です。ホウリ視点でもあります。
聴取を終えて、わしはナモンを見下す。先ほどはヌカレへの愛をまくし立てていたが、今はわしから顔を背け、黙りこくっている。
こやつに動機は聞いた。あとは、個人的にl聞きたい事じゃな。
「なあ、一つ良いか?」
「…………」
「つま先から輪切りにしていくか」
「なんでもどうぞ!」
扱いやすくて助かるわい。
「さっきお主だけ意識を奪わなかった理由を言ったじゃろ?」
「動機を聞くため、でしょ?」
「それが大半なんじゃが、実はわしの我儘も入っておってのう」
「我儘?」
わしの言葉にナモンが首を傾げる。
「お主って演技の腕はかなりの物であろう?」
「ヌカレ様と演技するために、稽古したもの。当然よ」
「そのお主から見て、わしの演技はどうじゃった?」
「は?」
「聞こえておらぬのか?わしの演技はどうじゃった?」
ナモンが目をパチパチと瞬きさせる。
「どうした?答えるのがそんなに難しいか?」
「そうじゃないわ。どれだけ重要な質問がくるのかと思っていたから、拍子抜けしたのよ」
「なんじゃ、そんなことか」
脅し過ぎたのかと思ったわい。
「もうお主に聞くべきことは無い。じゃから、この質問に強制力はないし、答えんでも痛めつけることは無い。答えたくなければ答えんでも良いぞ」
「…………」
わしの言葉に、再びナモンが黙りこくる。それもそうか。ナモンにとってわしは一番憎いヌカレの相手役じゃ。簡単に答えてはくれんか。
そう思っていると、ナモンは顔を背けたまま話し始めた。
「……始めの時は、集中出来てないのが丸わかりだったわ」
「む?」
小さいながらも、確かにナモンは答えた。驚いていると、ナモンはわしへの評価を続ける。
「暗記した物をそのままやっているのがバレバレよ。他の観客には悟らせていなかったけど、私の目は誤魔化せられないわ」
「むぅ、言い返せんわい」
初めの頃はナモンたちを探すために、客席に気を配っていた。演技に身が入っていなかったのは事実じゃ。
「例え気になることがあっても、怪我をしていても、演技の質を落とす言い訳にはならないわ」
「そうじゃな」
もしも稽古にもっと時間が掛けられていたら、もっと前から演技を始めていれば。そうすれば、今回の劇も、もっとマシだったじゃろう。
今回の劇の出来が低い場合、それはわしの未熟さのせいじゃ。
「なかなか上手くいかないものじゃな」
「……けど、後半は良かったわ」
「へ?」
ナモンの言葉に、わしは思わず聞き返す。
「屋敷での一戦から、あんたの体から固さが消えたわ。その時のあんたは、完全に役と一体化していたわ」
「…………」
今度はわしがナモンから顔を背ける。今、ナモンの方を向けば、にやけ顔が見られてしまう。それでは、わしが積み上げて来た威厳が地に落ちてしまう。それだけは阻止せねばならん。
「あの演技を見れば、あんたがどれだけ努力したのか、手に取る様に分かるわ。その努力だけは認めてあげる」
「……ありがとう」
辛うじてお礼だけ口にする。どうしよう、嬉しすぎてニヤニヤが止まらん。
すると、ナモンから鋭い視線を感じた。
「調子に乗らないで。細かい所はまだまだよ」
「そうじゃな。わしも精進せねばならぬのう」
ナモンの言葉でわしの心は軽くなる。わしのやって来たことは全部無駄ではなかった。
これからも立ち止まらずに精進を続けていれば、もっと良い劇になっていくじゃろう。
そう思っていると、扉が開いて数人の憲兵が入って来た。
「こちらに爆破事件の犯人がいると通報を受けたんですが」
「この床に転がっている奴らがそうです」
「分かりました。ご協力、感謝いたします」
全員の身柄を憲兵たちが連れて行ってしまう。
「後は憲兵の仕事じゃな」
わしの聞きたい事も聞けたし、思い残すことは無い。
憲兵に連れていかれる最中、ナモンが立ち止まってわしらの方へと振り向く。
「……私ってこれからどうなるのかしら?」
「さあな。あとは弁護士に相談しろ」
「それもそうね」
「さっさと歩け」
憲兵に急かされるまま、ナモンは歩かされる。
「のう、少しだけ待ってくれんか?」
「なんですか?」
わしは声を掛けてナモンと憲兵を止める。
「ナモンや、お主は確かに悪人じゃ。少なくとも十数年は檻の中にいるじゃろう」
「なに?皮肉を言いたかったわけ?それとも哀れんでるの?」
「しかし、お主の見る目は的確じゃ。それはお主の努力の結晶であり、演劇への情熱の現れじゃ」
「…………」
「檻から戻ってきたら、またここを訪ねるがよい。その情熱があれば、一からやり直せるじゃろう」
「…………」
「もう行くぞ」
ナモンは無言のまま、連行されていった。わしの声が届いたのかは分からん。じゃが、あやつがどうなるのかは、あやつ次第じゃ。わしに出来ることはここまでじゃな。
憲兵が全員出ていった後に、クランチ監督が息を吐く。
「ふぅー、やっと終わりましたね」
「クランチ監督もお疲れさまでした」
「今回の件、皆さんにはお伝えしますか?」
「明日の朝にでも伝えますか」
「そうですね。では、私はこれで」
「俺も帰る。色々ありすぎて、精神が疲弊しすぎた」
「お疲れさん。ゆっくり休め」
「そうする」
クランチ監督とヌカレは疲弊した疲弊した顔で、物置部屋から出ていく。
薄暗い部屋の中で、わしとホウリは2人きりになる。
数分の沈黙の後、わしは口を開く。
「なあ、ナモンがどうなるのか、本当に分からぬのか?」
「想像は付くが確約はできない」
「それで良い。話せ」
「……恐らく、ナモンは死罪になる」
「どうにかならないのか?」
「良い弁護士がつけば、なんとかなるんじゃないか?」
「お主は───」
「俺はナモンを弁護しない。いくら金を積まれてもだ」
ホウリは冷たい視線でわしを見て来る。意思は強そうじゃ。説得は無意味そうじゃな
「わしに出来る事は?」
「無いな」
「そうハッキリ言ってくれた方が逆に助かるわい」
わしは長くて2年の命じゃし、もうナモンと会う事も無いじゃろう。
「……わしらも帰るか」
ひどく物寂しい思いを抱えながら、わしは物置部屋の扉に手をかける。
……ダメじゃな。こんな気持ちでは周りの人間を不安にさせてしまう。
「よし、さっさと帰って皆と飯にするぞ!」
気持ちを切り替えて、わしは笑顔でホウリの方へと向く。
「少し寄るところがある。悪いが先に帰っていてくれ」
「むぅ、今でないとダメか?」
「ダメだな」
「どのくらいで帰る?」
「1時間くらいだな」
「分かった。先に帰っておくとしよう」
不満に思いながらも、わしは物置部屋から出る。
こうして、わしの初公演は文字通り幕を閉じたのじゃった。
☆ ☆ ☆ ☆
「よお、遅かったな」
「これでも可能な限り飛ばして来たんですけどね?」
「検察官のラビ様は忙しそうだな」
「ホウリさんの指導のおかげで、検挙率も上がってきていますからね。毎日裁判ばかりで、一日に複数の案件をこなすことさえあります」
「ちゃんと休めてるか?」
「今日で10連勤目です。今もホウリさんに会うから時間が貰えただけです」
「お疲れさん。今日は奢ってやるから好きな物を頼め」
「ありがとうございます。では、このマロンパフェとコーヒーをお願いします」
「了解」
「お待たせしました。マロンパフェ10個とコーヒー2個です」
「……既に頼んでたんですか?」
「俺が食うために頼んだんだよ。1個食べて良いぞ」
「……ありがとうございます」
「で、俺に聞きたい事ってなんだ?」
「今朝、事故を装って建物が爆破された事件がありました」
「さっき犯人は引き渡したな」
「それは報告を受けてます。どうやら、劇場の方でも事件が起こったとか?」
「正しくは事件が起きる前に食い止めた、だけどな」
「それが出来れば理想的なんですけどね。まあ、聞きたい事は爆破事件の方なんですけど」
「何を聞きたいんだ?」
「あの爆破事件は確かにナモンが起こしたものです。憲兵での調査でもそう出ています」
「だろうな」
「ですが、この爆破事件は何者かによって細工されていたんです」
「具体的にどういう細工だ?」
「火薬の量が減らされていたんです」
「いったい誰が?」
「ホウリさんですよね?」
「へえ?なんでそう思った?」
「ホウリさんってこの事件が起こったから、劇場でも事件が起こると思ったんですよね?」
「ああ」
「事件が起こった時、ホウリさんって劇場にいましたよね?」
「……ああ」
「なんで事件の詳細が分かったんですか?」
「俺が色々と知っているのはいつもの事じゃねえか」
「ホウリさんが規格外ですが、あくまでも物理的に可能なことだけです。憲兵すら掴んでいなかった情報をどうやって知ったんですか?」
「企業秘密だ」
「じゃあ、私が説明しましょう。ホウリさんは爆薬を調整して、建物が崩壊しても死人が出ないようにした。だから、事前に事件の詳細を知っていた」
「筋は通っているっぽいな」
「事件を事前に把握してるのであれば、爆薬を取り除いた方が良いんじゃないんですか?」
「俺の仕業ってことで話を進めているみたいだが、決めつけるのは良くないぞ?」
「ホウリさん以外にそんな事をする人はいないと思いますけど?」
「俺を犯人にしたいんなら、証拠を持ってくるべきだな」
「……じゃあ、例えばの話で進めましょう」
「ほう、例え話か。良いだろう」
「ホウリさんが犯人だとして、なんで爆薬を完全に取り除かなかったんでしょうか?」
「俺があまり事件の解決に動きたくないのは知っているな?」
「ええ。サポートはするけど、あくまで当人に任せる。それがホウリさんのスタイルですよね」
「今回の事件は、劇団の行動が招いたことだ。俺が完全に解決しては、劇団のためにはならない」
「けど、ホウリさんも劇団の関係者ですよね?」
「そうだ。だからサポートはする。それ以上は劇団のためにならない」
「痛みを持って人は成長する、でしたっけ?」
「ああ。だから、フォガートの怪我をもって、劇団には学びを得てもらった」
「それって、劇団の皆さんには説明しましたか?」
「例え話を説明するのか?」
「ああ面倒ですね!仮にホウリさんが犯人だった場合、説明しますか!?」
「説明しないな。メリットが無い」
「ですが、フォガートさんが怪我したのはホウリさんの性でもありますよね?説明しないのは、筋が通らないんじゃないですか?」
「仮に俺が犯人なら証拠も残さない。だから、バレることもない。誰にも知られていないことに筋を通す必要があるのか?」
「……ホウリさんって偶に最低になりますよね」
「リアリストって言ってくれ。聞きたい事はこれだけか?」
「ええ。憲兵にはナモンが後から調整したのではと報告しておきます」
「それしかないだろうな」
「ホウリさんをブタ箱に叩き込めなくて残念です」
「俺って、ラビの師匠的な存在だよな?」
「弟子は師匠を超えるのが喜びなんですよ」
「なら、ラビは弟子の喜びを味わえそうにないな」
「いつか味わいますよ」
「楽しみにしておくよ。じゃあな。会計は済ませておくから、ゆっくりしておけ」
「ありがとうございます。では、また」
「またな」
という訳で決着です。演劇はフランが簡単にできないことの一つです。なので、フランに苦労させたいという理由で演劇をさせました。
次回は未定です。
ニコニコ動画で原石祭の動画を投稿しました。1年ぶりのゲームなので難しかったです。




