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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第二百四十三話 猫駆除だ!

諸事情により、土曜日更新です。日曜日の更新はありません。

そして謝っておきます。今回は短いです。

 薄暗い劇場の中で劇の上だけが明るく照らされている。光の中では選ばれた者たちが話し、踊り、歌っている。楽しそうで、悲しそうで、嬉しそう。そこには確かに他の者の人生があった。

 今の私は観客、光の当たる所へと向かう事は出来ない。

 本来ならあの光の中にいるのは、私の筈だった。だが、光の中心にいるのは名も知らない女だ。

 なぜだ?なぜあの女が光の中にいて、私が影にいるのだろうか?なんであんな奴が彼の傍にいるのだろうか?

 あの女の演技は拙い。初心者にしては良くやっていると思うが、あの人の横に立てる程ではない。しかも、別の事を考えて居るのか、演技に集中できていないみたいだ。

 他の人の目は騙せても、私の目を騙すことは出来ない。

 あの程度なら私が主役をやった方がマシだ。いや、私以上にこの役を演じられる者はいない筈だ。

 やはり、いくら見てもあの女が中心にいるのが納得できない。なぜ、脚本家や監督はあの女を主役にしたんだ?

 いくら理由を聞いても、私がいると他の皆の迷惑だからとしか言われなかった。



「なんでよ……、なんで私じゃないのよ……」



 他の客に聞こえないくらいの声で呟く。けど、いくら呟いても現状が変わる訳では無い。

 今を変えたいのであれば、行動を起こさなくては。

 私は念話を使って、皆と連絡を取る。



『首尾は?』

『上々です。すぐにでも始められますよ』

『私も問題ないです』

『俺もだ』

『分かったわ。タイミングは私が指示するから、待機するように』



 皆の返事を聞き、私は念話を終える。

 私の目的はただ一つ。この劇を滅茶苦茶に破壊することだ。

 出来れば観客に被害は出したくない。しかし、多少の犠牲はやむを得ないだろう。

 退屈な演劇を見ながら破壊のタイミングを見計らう。全員で一斉に魔道具であるフェルノを劇にぶちかます。そうすれば、劇はおろか、この劇場自体に大ダメージを与えられるだろう。

 強力な炎で劇場が焼かれていく様が目に浮かぶ。今から楽しみだ。

 一斉攻撃のタイミングは演者が全員現れた時。欲を言えば脚本家と監督も巻き込みたい所だったが、またの機会にしよう。

 忌々しい劇を眺めながら、機会を伺う。……ん?気のせいかな?

 違和感を覚えた私は注意深く主役の女を観察する。

 さっきまでは集中しきれておらず、酷い演技だったが、今はのびのびとしている。まるで、喉に刺さっていた骨が取れたときのような晴れやかさだ。

 女は表情が生き生きとして、動きも硬さが無くなっている。さっきとは別人のようだ。

 これなら劇の主役に相応しい……何を考えているんだ!あいつは倒すべき敵!余計なことを考えてはダメだ!

 頭を振って余計な雑念を振り払う。やると決めたからには一瞬でも躊躇ってはいけない。じゃないと、計画が失敗するかもしれない。

 深呼吸をして心を落ち着ける。冷静に物事を見極めるんだ。

 心を静めて再び劇に視線を向ける。今は主人公が無実の罪を着せられ、無罪を訴えている場面だ。

 主人公は良く言えば行動力があり、悪く言えば短絡的に行動に移すところがある。それを邪魔に思った黒幕の貴族が、主人公を排除しようとした訳だ。

 脚本は中々に面白い。主人公の成長がとても丁寧に描けている。

 気に食わない点があるとするならば、ヌカレが演じるクレレと主人公のやり取りが多いところか。

 相棒としての関係を意識しているのだろうが、多すぎる気がする。



「キャロン!」

「クレレ!」



 武装した兵士に取り押さえられている主人公の元へクレレが駆け寄る。



「おっと、大罪人に何か御用ですかな?」



 貴族がニヤニヤと笑いながらクレレに立ちはだかる。クレレは激高しながら貴族に掴みかかる。



「どういうつもりだ!なんでキャロンが捕まっている!?」

「可笑しなことを聞くものだ。罪を犯した者を捕まえるのは当たり前でしょう?」

「キャロンが罪を犯すはずないだろう!」

「ほう?公正な憲兵が証拠もなく罪人をかばうのですか?」

「それは……」



 貴族の言葉にクレレが押し黙る。彼の立場は憲兵長。軽々しくキャロンを庇えば立場が危うくなってしまう。怯むのも無理はないだろう。

 静かになったクレレを貴族は勝ち誇ったように見下す。



「あなたの出番はありません。帰って問題は無かったと伝えておきなさい」

「そうはいかないわ」



 捕らえられていたキャロンが叫ぶ。その顔にはゆるぎない自信が現れていた。

 そんなキャロンを貴族は鬱陶しそうに睨む。



「なんだ?まだ口を聞く元気があったのか?」

「元気いっぱいよ。なにせ、クレレが来てくれたからね」

「なんだと?」



 キャロンは兵士を押しのけると、アイテムボックスから紙の束を取り出した、



「この豚の不正の証拠よ。あんたがこれを持って帰れば大逆転よ」

「な!?いつの間に!?厳重に金庫に保管していた筈だぞ!?」

「そんなのぶっ壊したに決まってるでしょ」



 そう言って、舞台袖から壊れた金庫が引っ張り出されてくる。



「そんな常識外れな!」

「こいつを常識で図るなよ。計算が狂いまくるぜ?」



 いつの間にか、クレレがキャロンの持っていた書類を奪っていた。



「ふむふむ、これだけあれば十分だな」



 クレレが紙束の中身を確認し、満足そうに笑う。

 対照的に貴族の顔には焦りの色が見える。



「ま、まさか最初からそれが目当てでこの館に!?」

「私はそうよ。クレレが来ることは計算外だけど」

「お前が飛び出したって聞いて、嫌な予感がしたんだよ。これほど予感が外れて欲しいと願ったことはなかったぞ」



 2人は満足そうに笑いあったあと、同時に貴族に視線を向ける。



「これでお前も終わりだな」

「こうなったら……皆であの書類を奪い取れ!最悪殺しても構わん!」



 貴族の言葉に兵士が続々と舞台袖からやってくる。

 兵士に囲まれたキャロンとクレレと見て、貴族は再び勝ち誇る。



「こ、この数を相手にして、無事に帰れると思うなよ!」



 兵士たちがキャロンとクレレに一斉に武器を向ける。

 そんな状況で2人は背中合わせで余裕そうにしている。



「俺達は生きて帰れないらしいぞ?」

「私のあんたがいるなら負けは無いわ。違う?」

「同意見だ」



 キャロンは拳を、クレレはレイピアを構える。



「後ろは任せたぞ!」

「ああ!」



 そう言って2人は兵士たちへと突っ込んでいく。

 今、舞台にいるのは30人を超えている。公演中で最大の人数だ。今行動すれば、被害は一番大きくなるだろう。

 仕掛けるならここしかない、そう思った私は念話で皆に合図を送る。



『10カウントで行くわよ』

『待ってました』

『了解』

『オッケー』

『10……9……8……』



 カウントダウンを行いながら、周りに気付かれない様に「フェルノ」を取り出す。この魔道具は使い切りだが、レベル3相当の魔法を放つことが出来る。

 仲間の人数は8人。私を入れて9個のフェルノで舞台上を焼き尽くす。きっと、演者たちは灰も残らないだろう。

 それでいい。私にとって都合が悪いものは、この世から消さなくちゃ。私の未練も全部。



『……3……2……1!』



 カウントダウンが1になり、私たちは立ち上がって一斉にフェルノを放つ!…………ことができなかった。



「な!?えっ!?」



 体がまったく動かない。驚いた私は思いっきり藻掻こうとするが、指一本も動かせない。

 まるで、全身を強固な壁で押さえつけられているようだ。辛うじて出来る事は呼吸と眼球の移動だけ。それ以外の自由が一切奪われてしまった、そんな感覚だ。

 混乱している頭で、なんとか念話を発動する。



『誰か!無事な人はいないの!?』



 私は何度も語り掛けるが、一向に返事は帰ってこない。皆にも何かがあったに違いない。

 周りを見てみるが、他の観客たちに異常は見られない。皆、劇を食い入るように見ている。どうやら、私達だけが何かをされたみたいだ。

 私たちの目的がバレた?けど、怪しい行動は起こしていない。唯一の行動は念話だけど、傍から見るだけでは、その人が念話をしていることは分からない。

 というか、私たちがどうやって拘束されているのかが分からない。いったいどうやって……

 そこまで思考した瞬間、主役の女が私に視線を向け、ニヤリと笑いかけてきた。

 その笑みを見た瞬間、ゾクリを寒いものが背筋を通っていった。あの視線は肉食獣が獲物を捕えようとするときの目だ。

 私の命は無い、理屈ではなく直感で理解してしまった。

 抵抗する気力もなくなった私は、大人しく劇を見ることにした。

 その後、劇はキャロンとクレレが兵士たちを倒し、後からやって来た憲兵の仲間たちと共に貴族を追い詰めることができた。

 そして、追い詰められた貴族は錯乱し、屋敷の最上階から身を投げてしまい決着が付いた。

 悪人とはいえ、人の死を目の当たりにしたキャロンは、その死を胸に抱えて生きていくと決意する。

 悪徳貴族の不正の証拠を押さえたキャロンは、その功績をたたえられ、故郷から脱出することが出来た。

 最後は大嫌いな故郷を大好きな故郷に変えていくべく、決意を抱き劇は幕を閉じた。

 全体で見れば、かなり完成度が高い劇だったと思う。けど、最後の女の視線が脳裏にこびり付いて、素直に楽しむことが出来なかった。

 カーテンコールを見つつ、自分の今後を憂いていると、頭の中に声が響いてきた。これは念話?



『聞こえておるかー。まあ、聞こえんわけはないがのう』



 心なしか上機嫌な主役の女の声が脳に響く。恐怖に駆られながら、相手を刺激しないように返事をする。



『き、聞こえてます』

『そうか、それは良かった』



 舞台上では主役の女が笑顔で観客に手を振っている。声の機嫌も良かったし、もしかしたら助かるかも?



『閉演後に面を貸してもらおうか』



 ダメみたいだ。

あ、死んだな。


次回は閉演後の出来事です。この先生きのこることは出来るんでしょうか?


この1週間はとても眠かったです。なぜか午後になると覚醒しますけど。

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