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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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外伝 ホウリの冒険2

次はフランの劇だと言ったな?あれは嘘だ。

という訳で、久しぶりのホウリの冒険です。前の話は5年前らしいですよ。

 とある日、俺は親父に海の崖に追い詰められていた。

 刑事の格好をしている親父が拡声器でオレに叫びかける。



「犯人に告ぐ、無駄な抵抗は止めなさい」

「うるせえよ!何年も前も同じことしただろうが!」



 前に大荒れの海にコインだけ持たされて叩き落とされたことを思い出す。渡されたコインの効果でワープしてこと無きを得たが、その後も10回は死にかけた。今までの旅で一番ヤバかった出来事だ。

 この前は嵐の中で追い詰められていたけど、今回は柔らかな日差しが降りそそぐ穏やかな日だ。この海なら叩き落とされて溺れることはないだろう。



「そんな悠長なことを思ってていいのか?」

「口に出してないのに、なんで分かるんだよ」

「ホウリにも出来るようになるさ」



 こんな人間離れしたことが出来るとは思えないけどな。というか、思っていることが分かるんなら、話さなくても良いんじゃないか?



「話すという過程が重要なんだよ。横着するな」

「へいへい。で、今回は何をするんだ?」



 そう言うと、親父は何かを弾いてよこした。反射的にキャッチすると、見覚えのあるコインだと分かった。

 食人族に襲われたり、殺人犯扱いされた嫌な思い出が蘇ってくる。俺は思わず眉を顰める。



「どこかにコインか。このコインは嫌な思い出しかないな」

「はっはっは!場所も同じだしな!」

「笑うんじゃねえ!こっちは死にかけてんだぞ!」

「いつもの事じゃねえか」

「いつもの事なのが異常なんだよ!」

「あっはっは!」

「だから笑うな!」



 この笑顔を見ているだけで殺意が湧いてくるから不思議だ。



「で?またこのコインを使ってワープすれば良いのか?」

「ちっちっち、考えが甘いな」



 人指し指を振ってバカにしたように笑う親父。イラッとする感情を押えて、俺は話の続きを促す。



「今度は何をやらせる気だ?」

「それはどこかにコインを改造した『いつかにコイン』」

「いつかにコイン?」



 聞いたことが無い名前だが、嫌な予感はヒシヒシと伝わってくる。



「どこかにコインは位置のワープだった。だが、いつかにコインは時間のワープだ」

「過去や未来に行けるってことか?」

「そうとも言えるし、そうではないとも言える」

「どういう事だ?」

「話は変わるが、パラレルワールドって知ってるか?」

「ああ」



 自分が選択した行動次第で未来は分岐していく。その分岐した世界の事をパラレルワールドという。



「それがどうした?」

「いつかにコインはそのパラレルワールドに行くことが出来る」

「は?」

「つまり、過去や未来の『もしかしたらの世界』に行けるってことだ」

「面白そうだな」



 もしもの世界か。俺が大金持ちになっていたり、カッコよく戦っていたりしている世界もあるんだろうか?

 だが、戦闘の途中だったりすると、即座に対応しないと死ぬかもしれない。中々難しそうだ。



「好きな世界にいけるのか?」

「いーや?完全にランダム」

「どうすれば帰れるんだ?」

「1時間経てば自動で戻れる」

「ちなみに、怪我とかしたらどうなる?」

「そのままだ。もし死んだら終わり」

「了解」



 つまり、このコインを使って1時間耐えれば良いってことだな。シンプルで分かりやすい。



「じゃあ行ってくる」

「ん?おおそうか」



 ん?なんか親父の言い方に違和感があるような?まあ良いか。

 どこかにコインはどこかに行きたいという強い気持ちが、起動の鍵だったな。同じ要領でやってみるか。

 コインを握りしめて強く祈る。

 ここではない何処かへ!

 すると、コインが強く輝き始めた。



「言い忘れてたけど、使ったら3つの世界に行かないと帰ってこれないからな」

「は?」



 なんで重要なことを先に言わねぇんだ!そう抗議する暇もなく、俺の視界は白くなり意識を失った。



☆   ☆   ☆   ☆



「さてと、ホウリはどんな子供じゃったのかのう」



 その言葉と共に俺の意識がハッキリとしていく。

 俺の顔を赤髪のツインテールをした子が覗き込んでいる。周りを見てみるが普通の家の中に見える。

 次に自分の体に異常が無いか確認する。視界の高さは変わっていない。体中を触ってみたりして確認するが、年齢は変わっていないみたいだ。

 家の中には俺と同じくらいの子がおままごとをしていたり、何かを必死にメモしたり、こちらを心配そうに見ている。

 さて、ここから1時間経たないと次にいけない。見たところ危険性はなさそうだが、油断は禁物だ。



「むう、面白みがないのう?」



 女の子がつまらなさそうに呟く。俺に何かを期待している?けど、何を期待しているんだ?

 女の子はまだ俺を見ている。敵意は無さそうだし質問してみるか。



「……ここは?」

「お主の家じゃよ。お主はこの発明品で若返ったんじゃ」



 女の子は円柱状の機械を持っている。あれで俺を若返らせた?

 てっきりそう遠くない過去か未来だと思った。だが、若返っているなら、かなり未来の出来ごとか?

 悩んでいても仕方がない。何か手掛かりになるようなものを探してみよう。俺ならどこかにメモとかを残している筈だ。

 懐を確認してみると、手帳があった。表紙には星とハートと『缶』という文字が書いてある。この暗号は俺が作ったもので間違いないな。意味は『現状の説明』か。丁度知りたい事だな。

 開いてみると、色々な記号や様々な国の文字が書かれていた。女の子が後ろから覗いてくるが、訳が分からないのか首をかしげている。

 女の子を無視して暗号の解読を進める。女の子の名前は「フラン・アロス」。最強の魔王で倒すことは考えない方が良い……ここは異世界で地球とは別の物理法則がある……今は俺がいつかにコインを使ってから体感時間で1000年後、実際の時間で10年後……。

 色々な情報を確認し、最後のページを読み込む。



≪俺が若返っていて、目の前に赤毛のツインテールがいるなら、そいつが元凶だ。泣きわめいて周りの子を暴走させてやれ≫



 全部読み終わった俺は手帳を懐に仕舞う。この女の子……フランが原因か。

 俺が大きく息を吐くと、フランが興味深そうに聞いてきた。



「何が書いてあったんじゃ?ホウリお姉ちゃんに教えてみい」



 しゃがんで視線を合わせてきているフランを冷静に見てみる。

 よく考えると、周りに子供が多いのってフランの性じゃないか?態度を見ている限り、俺を若返らせたのも面白がっての可能性が高い。少し痛い目に合ってもらうか。場所は……あの辺りでいいな。

 俺は大きく息を吸って───



「うわあああああん!」



 大声で泣き始めた。フランが予想外の事態に唖然としていると、俺はミエルとロワとノエルの元へと走る。



「うわあああん!」

「え?どうしたの?」



 3人は突然の出来事に固まる。

 すると、俺が走った拍子にノエルの手に持っていた絵本の角が、ミエルの眉間に直撃した。

 眉間を赤くしたミエルは目に涙を溜めると大きな声で泣き出した。




「うえええええん!」

「ミエルちゃん大丈夫?」



 ロワがミエルを心配して立ち上がると、足元に転がっておった折り紙を踏みつける。そのまま滑ったロワは後頭部を思いっきりテーブルの角へぶつけた。



「うわああああん!」



 案の上、あまりの痛さからロワも泣きじゃくる。

 部屋の中に泣き声が響く中、必死にメモを取っていたミントが苛立ったように叫ぶ。



「しずかにしろ!大切な研究のとちゅうだ!」

「うわああああああん!」



 そんなミントに俺は泣きながら突撃する。そして、俺の手がぶつかってミントが持っていたペンが唇に直撃する。



「……うわああああん!」



 流石のミントも痛かったのか、他の子と同様に泣きじゃくる。

 こうして、子供4人が泣き声のカルテットを奏でる地獄絵図が完成した。そんな地獄絵図の中でフランがオロオロする。



「……フランお姉ちゃん、これどうする?」

「……なんとかしよう」



 それから1時間、俺は泣きじゃくることでフランを困らせ続けた。

 ただ、悪くないであろうノエルも困らせたのは心苦しかった。



☆   ☆   ☆   ☆



 1時間が経過し、再び意識が別のパラレルワールドへ飛ぶ。さて、次の世界は……



「何ボーっとしてるんだ!死にたいのか!」



 銃弾と砲弾が飛び交う戦場だった。俺は近くにある塹壕に飛び込んで状況を確認する。

 周りを見てみると、塹壕に身を隠しながら銃撃戦をしていた。



「くそっ!どうなってるんだ!」



 俺は周りの人間と同じくヘルメットに防弾チョッキ、マシンガンと言った戦う恰好をしている。

 なぜ戦場にいるんだ?いや、それを考えても仕方ない。俺が人を殺せない以上、ここにいるのは迷惑の筈だ。なんとかしてここを脱出しないと。



「どうしたホウリ?」



 俺が考えこんでいると、さっき怒鳴っていた男が心配そうに聞いてきた。丁度いい、少しでも情報を聞き出そう。



「悪い。少しボーっとしてしまった」

「しっかりしろよ。戦場でそんな調子だとすぐに死ぬぜ?」

「だがよ、なんで俺はこんなところにいるんだ?」

「おいおい。戦闘は国民の義務だぞ?俺達が戦わないで、誰が宇宙人から皆を守るんだよ?」

「宇宙人?」



 俺は塹壕から顔を出して、敵を見てみる。そこには面長で触手をウネウネさせた緑色の生物がいた。あれが宇宙人か。

 宇宙人に弾丸を10発ほど浴びせると、やっと体が動かなくなった。10発で倒せる生物か。

 数も多いしかなりの強敵だな。



「人じゃないなら何とかなるか?」

「なんのことだ?」

「こっちの話だ」



 俺は銃を構えて、宇宙人に向かって撃ちこむ。

 弾丸が胸元を貫くと、宇宙人はそのまま地面に倒れ伏した。



「おお、凄いな」

「あの生物はコアを撃ちぬくと殺せる。だから、コアを的確に撃ちぬけば弾薬の節約になる」

「それは凄いな!コアの場所はどうやって把握するんだ?」

「なんとなくの雰囲気だ」

「使えない情報じゃねえか」



 そんなこんなで1時間、戦闘を行った。

 この調子であと1回。頑張って生き残ろう。



☆   ☆   ☆   ☆



「ぜぇはぁ……ぜぇはぁ……」

「おかえり。どうだった?」



 やっとの思いで戻ってくると、親父が暇そうに欠伸をしながら待っていた。

 俺はそんな親父を睨みつける。



「どうだったじゃねえよ」

「不機嫌だな?」

「コインの説明がまったく違ってたんだから当たり前だろうが」

「別に嘘は教えてないぞ?ちゃんとパラレルワールドに言っただろ?」

「そこに嘘はなかった」



 問題なのはそれ以外だ。



「親父、パラレルワールドには何回行く必要があるって言った?」

「3回って言ったな」

「嘘つけ!軽く100回は他の世界に行ったぞ!」

「そうだったのか?」

「白々しいんだよ!親父が間違える訳ないだろ!」

「俺を買いかぶりすぎだ」

「未来を100%予測できるやつが言うセリフじゃない!」



 半分の棒読みで話す親父。

 俺は親父に殴り掛かるが、あっさりと躱された。



「血気さかんだね~」

「うるせえよ!どこかにコインの数十倍は難しかったぞ!」

「俺の性じゃないし」

「親父がやれって言ったんだろうが!」

「は?俺はやれって一言も言ってないぜ?」

「何言ってんだ、そんな訳……」



 俺は親父とのやり取りを思い出してみる。確かに使えとは言われてないような?



「分かったみたいだな」

「けど、俺が使うようにわざと誘導しただろ?」

「それはそうだ」

「この野郎!」



 ナイフで切り掛かると親父に刃を摘ままれて防御される。



「攻撃にキレがあるな。これくらい元気なら大丈夫だな」

「元凶が良く言うセリフじゃねえな?」

「じゃあ次に行くぞ。ついてこい」

「へいへい」



 俺は諦めて親父の後を追う。こうして俺の旅は続くのだった。

という訳でコインシリーズでした。こんな感じでホウリは判断力を身に着けています。ホウリのような判断力が欲しい方はお試しください。


次回こそはフランの劇の予定です。


始めて牛丼に卵を入れてみました。私には合わなかったです。

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