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魔王から学ぶ魔王の倒しかた  作者: 唯野bitter
第2章
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第二百三十話 金取るってか!?

教えはどうなってんだよ!

 弓を買った僕は足取り重く会場を回る。懐は軽くなったのになんでだろうね。



「もっと考えて買えば良かったなぁ……」

「何か買いたかったら貸すぞ?」

「利子は?」

「1日で5」

「遠慮しておきます」



 闇金から借りた方がまだマシです。既に借りているので手遅れのような気もしますけど。



「ああ、周りの皆が楽しそうなのが、逆に羨ましいです」

「人の幸運を妬むようになったら、ヤバいメンタルだと思え」

「そんなこと言われても……」

「ロワお兄ちゃんお金欲しいの?ノエルがあげよっか?」

「流石にノエルちゃんに頼ったら終わりかな」



 子供にお金の無心をするまで落ちたくはない。



「というかさ、ノエルちゃんはどのくらい持ってるの?」

「お小遣い全部!皆にお土産買うんだ!」

「そっかー」



 こんな純粋な子からお金を貰うのは憚れるかな。

 少しだけ気持ちを持ち直した僕は少しだけ背筋を伸ばす。



「そういえば的当てってどこでやってるんでしたっけ?」

「会場の右にある多目的広場だな」

「的当てってどんな事するの?」

「的を徐々に遠くして外した人は脱落。最後まで残った人が勝ちっていうルールだね」

「分かり易くていいね」

「観客も多いしな。ユミリンピック程じゃないしても、注目度は高いぞ」



 皆が注目している中で弓を引くのは緊張する。けど、今まで数々の修羅場をくぐって来たんだし、観客が多いくらいならなんてことは無い。



「的当ては明日だし、エントリーだけは済ませておこうかな?」

「良いんじゃないか?」



 会場にあった地図を頼りに会場の外に出る。

 最長距離が1㎞にもなる程の大きな広場みたいだし、楽しみだなー。

 散財したことを忘れて僕は足取り軽く広場を探す。けど、それらしき受付は見当たらない。



「あれ?こっちじゃないのかな?」



 開催される広場の周辺を探してみるけど、それらしい受付は見当たらない。少し離れた場所も探してみるけど見当たらない。



「うーん?なんで無いんでしょうね?ホウリさんは何か知ってませんか?」

「受付の場所が変わったっていう情報は無いな」



 ホウリさんも不思議そうな顔をしています。ホウリさんでも知らない事があったなんてビックリです。



「少し調べて来る。1分待ってくれ」

「はーい」



 ホウリさんが駆け足で会場方面に向かう。そしてキッチリ1分後、ホウリさんは駆け足で戻って来た。



「どうでした?」

「どうやら開催する所が変わったらしい。それに伴って受付も変わったんだと」

「どこに移動したの?」

「あっちだ」



 どんどんと広場から離れていくのを不安に思いながら、ホウリさんの後に付いていく。

 会場横の物置と化しているところにそれはあった。



「ここだ」

「……冗談ですよね?」

「本当だ」



 目の前には『的当て受付』と雑な字で書かれた紙が貼りつけられている、簡易テーブルがあった。本来であればスタッフの人しか来ないような場所なのだろう。周りに他の人は見えない。

 普通に探そうにも死角になっているから、ここに受付がある事を知らないとたどり着くのは難しいだろう。

 受付の人は本を読んでいてこちらに気付いていない。



「ホウリさんが調べた情報が間違っているとは思わないですけど、すんなりは受け入れられないですね」

「だが事実だ。受付するならしてこいよ」

「わかりました」



 半信半疑で受付へと向かう。受付の人は僕に気が付いたのか本から顔を上げた。

 そして少しだけ目を見開いた後、本をアイテムボックスへしまった。



「あの、ここって的当ての受付ですか?」

「そうです。参加希望ですか?」

「はい」

「わかりました。ここに氏名と弓に関する経歴を書いてください」



 申込書に言われた通りの事を書く。そういえば、僕って弓の経歴って無いな?とりあえず、特になしって書いておこう。



「書きました」

「では、参加料として10万Gをお願いします」

「10万G!?」



 高額な参加費に思わず声を上げてしまう。



「去年までは無料で参加できましたよね!?なんでお金がかかるんですか!?」

「今回から規定が変わったんです」

「変わったって……仮に参加料がかかるとしても、10万Gは高くないですか!?」

「私はバイトなので詳しいことは分からないです」



 表情を変えずに受付の人が答える。これは抗議しても無駄な気がする。

 ホウリさんから借りたお金のあまりがあるけど、全く足りない。残念だけど今回は諦めるしかないかな。



「すみません、申し込みの取り消しって出来ますか?」

「出来ますよ」

「じゃあ取り消しでお願いします」

「わかりました」



 受付の人は申込書に赤線を引いて脇にある箱の中に入れた。よく見ると、箱の中には何枚もの申込書が入っていた。僕みたいな人って他にもいるんだ。

 受付の人は本を取り出すと、再び読み始めた。悲しい気持ちを抱えながらホウリさんとノエルちゃんんの元へと向かう。



「聞いてくださいよー、実は」

「全部聞こえてたよ」

「ノエルも聞こえました!」



 流石はホウリさんとノエルちゃんだ。

 ホウリさんが眉間に皺をよせながら考え始める。



「明らかに参加させる気が無い金額だな」

「そうですね」

「10万Gあったらハンバーグどのくらい食べられる?」

「ファミレスだったら200個は食えるな」

「大金だ!」



 両手を大きく上げて大げさに驚くノエルちゃん。僕も子供のころ、矢が何個買えるかで物の値段を認識してたっけ。懐かしいなあ。



「今年は諦めるので、また来年エントリーします」

「……いや、ロワには今回エントリーして優勝してもらう」



 考えが纏まったのか、ホウリさんが僕を真っすぐ見つめてきました。



「え?でもお金が……」

「参加費は俺が出す。なんなら手間賃として更に10万Gを出してもいい」

「そこまでしてもらうのは悪いですよ」

「これは俺の為でもあるから気にするな」



 ホウリさんからの圧が凄い。何を考えているのか分からないけど、まあ良いか。



「わかりました。そこまで言うのなら出ます」

「それでこそロワだ。この金でさっさとエントリーしてこい」



 ホウリさんから金貨を10枚受け取り、再び受付へと向かう。

 受付の人は僕を見ると首を傾げた。



「まだ御用ですか?」

「参加料ができたので、エントリーします」

「わかりました。さきほどの申込書は破棄いたしましたので、もう一度記載してください」



 渡された申込書にさっきと同じことを書く。



「書きました」



 申込書を受け取った受付の人は、さっきとは別の箱に入れた。箱の中には僕の以外に紙は入っていなかった。



「では参加料をお願いします」

「はい」



 僕は10万Gを渡す。受付の人は金貨の枚数を確認し、アイテムボックスから取り出した袋に仕舞う。



「これでエントリーは完了しました。明日はこの参加証を持ってここまで来てください」

「わかりました」



 1番と書かれた参加証を受け取る。やっぱり僕が一番乗りなんだ。

 受付の人に頭を下げて2人の元へと戻る。



「無事にエントリーできたな」

「はい。ありがとうございました」

「気にするな。俺も伊達や酔狂で金を貸した訳じゃない」

「え?どういうことですか?」

「それは今夜話す。とりあえず、今日はこれで豪遊してくれ」



 そう言われホウリさんから10万Gを受け取る。さっきのバイト代って本気だったんだ。



「俺はこれから調べものをしてくる。2人は好きにしてくれ」

「薄々察してましたけど、なにか裏があるんですか?」

「ああ。何があるかはこれから調べるが、俺の予想が正しければ、かなりの大物だ」

「そうですか。僕とノエルちゃんで何か手伝えることはありますか?」

「無い。強いて言えば必ず優勝しろ」

「分かりました」



 それだけ言うと、ホウリさんは人混みの中に戻っていきました。



「ノエルちゃん、どこか行きたいところはある?」

「もう展示会はいいの?」

「粗方見たから大丈夫」

「じゃあね、宿屋さんの近くにあった雑貨屋さんに行きたい!」

「いいね、行こうか」



☆   ☆   ☆   ☆




 夕方まで遊んだ僕たちは、宿へと戻って来た。

 宿の扉を開け、食堂に入ると人がチラホラと座っていた。もうすぐ夜ご飯の時間だし、ここからこんでくるだろう。

 僕らは店の一番奥の席に座る。



「楽しかったー!」

「そうだね」



 あの後、僕らは当てもなく散歩をすることにした。ノエルちゃんが行きたかった雑貨屋さん、水族館、ゲームセンターなど気になるお店がいっぱいだったから飽きることはなかった。



「水族館凄かったね!色んなお魚がいっぱいいた!」

「暑い所から寒い所まで、色んなところに住んでいる魚を集めたって書いてたね。やっぱりこの街の技術は凄いね」

「写真もいっぱい撮っちゃった」



 ノエルちゃんが撮った写真を広げる。僕やノエルちゃんが魚と一緒に写っている。フランさんに見えたら狂喜乱舞しそうだ。



「そのカメラも雑貨屋さんで買ったんだよね」

「撮ったらすぐに現像されるなんて便利だよね。もうフィルム無くなっちゃったよ」



 フィルムも特別な物を使う必要があるから、結構高いんだよね。



「あーあ、ホウリお兄ちゃんも一緒だったら楽しかっただろうなー」

「そうだね。今は何処にいるのかな?」

「俺を呼んだか?」



 驚いて振り向くと、ホウリさんが立っていた。



「ホウリさん、帰ってたんですね」

「ああ。大体は調べ終わったぞ」



 ノエルちゃんの隣にホウリさんは座る。



「何があったんですか?」

『まずは話を暗号で行う。他の人達に聞かれたくない』

『おっけー』

『分かりました』



 スターダストにはもしもの時の為の暗号がある。これを使えば他の人には分からないようにやり取りが出来る。



『まず、的当ては博覧会の運営がレクリエーションとしてやっている』

『運営が変わった訳じゃないんですね』

『だが、いきなり参加費と取ったり、受付を分かりにくい場所に配置した』

『本当に参加させる気があるんですかね?』

『まさにそこだ』



 ホウリさんがビシッと指を向けて来る。



『的当てに参加者がいてほしくない。運営はそう考えている』

『え?なんでですか?』

『的当てに参加させたくないんなら、そもそも的当て大会を開かなければ良いんじゃない?』



 ノエルちゃんの言う通りだ。的当てを中止すればいい。けど、一応受付はあったって事は中止にはなっていない。どういう事だろう?



『その答えは置いておこう。今は運営が大会を開きたくないってことだけ覚えておけ』

『分かりました』

『でもさ、ロワお兄ちゃんは参加したんだよね?どうなるの?』

『参加費を取っておいて参加させないことは無いだろう。だから普通通りに的当ては開催されるはずだ』

『僕はどうすれば?』

『普通に優勝してくれ。それだけでいい』

『普通に優勝って無茶を言いますね?』



 毎年、大会にはかなりの猛者が参加する。僕でも優勝できるかは分からない。



『安心しろ。参加費が高すぎることと受付が見つけにくいことで、参加する奴はかなり少なくなっている。それに、ロワは優勝する以外の選択肢はない』

『え?』



 どういうことだろうか?訳が分からずにいると、ホウリさんがニッコリと笑った。

 その顔を見て僕の背筋に寒いものが走る。ホウリさんがこんな顔で笑う時、良くないことが起こる。今までの経験で知っている。



『あ、あの……どういう意味ですか?』

『話は変わるがバイト代として渡した10万Gはどうした?』

『カメラ買ったり、水族館にいったりしたよね』

『もうほとんど無くなっちゃいましたね』

『俺の依頼内容を覚えているか?』



 そう聞かれて、僕は博覧会での会話を思い出す。



≪……いや、ロワには今回エントリーして優勝してもらう≫



 それに対して僕はなんて答えたっけ?



≪わかりました。そこまで言うのなら出ます≫



 了承しているっと。なるほどなるほど。



『ちなみに、優勝出来ない場合は?』

『参加費も含めて渡したお金は全て貸したことになる』

『……利子は?』

『1日で5』

『パーセントですよね?』

『割だが?』



 1日で5割ずつ利子が付く。悪徳なんてものじゃない。



『冗談ですよね?』

『本気だが?』



 ホウリさんが変わらぬ笑顔で言い放つ。これは本気の顔だ。



『安心しろ。相手が何をするかさえ分かっていれば、ロワなら優勝できる』

『何をするか?』

『運営はとにかく優勝者を出したくないんだよ。サクラを参加させてそいつを優勝させる魂胆だ』

『妨害がくると?』



 優勝者を出したくないから妨害する。妨害の種類にもよるけど、普通にしたらほぼ勝てないんだろう。



『相手の妨害を打ち破って優勝する。ワクワクしないか?』

『……まあ、そうですね』



 どうせ僕には選択肢は無い。諦めて優勝を目指すことにしよう。

技術力が高いってどう表現すればいいんですか?


次回は大会です。相手はズルをしてきます。


1カ月くらい離れていたブルアカを再開しました。水着シロコきました。石は少なくなりましたけど満足です。

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